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君が笑うなら、この道を/Novel by ちよ

君が笑うなら、この道を

1,637 character(s)3 mins

るるかさんがファントム入るきっかけのようなお話
初めてお店に行ったやつ
一度くれあさんと対面してて欲しい

22話も良かったですね……
来週どうなっちゃうの……

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 パティスリーチュチュの店内は、いつも通り甘い香りに包まれている。

 帆羽くれあは、カウンターの向こうで青い三つ編みを揺らしながら、お客の注文を待っていた。蝶の髪飾りが午後の光を柔らかく反射する。
 彼女はパティシエとしてこの店で様々なお菓子を作っている。でも、いつからここにいるのか、そもそもどうしてこの店にいるのか。その答えは自分でもわからない。
 時折、胸の奥にぽっかりと空いた「何か」を感じる。思い出そうとしても思い出せない何か。

 ねえ、あなたは知ってる?

 朧げな記憶の中の誰かにそっと問いかけても、返事はいつもなかった。

 そのとき、思考を遮るように来客を知らせる音が鳴る。
「いらっしゃいませ。今日はどんな——」
 言葉が止まった。
 カウンターの向こうに立っていたのは、銀色のような色素の薄い髪に黒いリボンを結んだ少女だった。紫の狐のようなぬいぐるみを大事そうに抱えている。口数は少なそうな子だ。
 初めてみるお客さんのはずなのに、なぜか目が離せない。
 少女はショーケースをろくに見ることもなく、静かな声で注文した。
「……アイスを。バニラと、ブルーベリーのやつ」
 その声に、くれあは自然と微笑んだ。
「かしこまりました。すぐお持ちしますので、お好きな席へどうぞ」
 少女——森亜るるかは、わずかに目を細めた。


「お待たせいたしました」
 声とともにアイスがテーブルに置かれる。
「こちらも、よかったら」
 コーヒーを差し出すと、るるかは一瞬、懐かしそうな表情を浮かべた。以前、眠い目をこすりながら調査資料を読んでいた頃、よくこうして淹れてくれていたのを思い出す。
「ありがとう」
 るるかは小さく呟き、コーヒーを口につけた。苦いけれど、この味は嫌いじゃない。むしろ、胸の奥がじんわりと温かくなる。
 
 アイスを一口。バニラの上品な香りが鼻を抜け、冷たくて優しい甘さが口にいっぱいに広がる。口直しにコーヒーを飲むと、甘さを上書きするような苦味が広がった。
 昔と変わらないバランス。昔と変わらない、彼女の味。
 苦いものが苦手なるるかでも、これは格別だった。

 余韻に浸るように、今度はブルーベリーの部分を丁寧に味わう。

「あの、」
 くれあは思わず、声をかけていた。
「なに?」
 るるかは目を丸くする。ぶっきらぼうな返事だった。
「あ……すみません。あんまり美味しそうに食べてくれるから、つい」
「お仕事、」
 最初に感じたように、口数は少ないのかもしれないが、表情はとても豊かだとくれあは思う。
「楽しい?」
「ええ。あなたのように美味しい、って私の作ったものを喜んでくれる人がいる。私はたくさんの人のきらめきを知って、いつか自分のケーキを作りたいの」
 るるかは静かに耳を傾けながら、スプーンを動かす指を止めた。
 昔も、こんなふうに話していたっけ。夜遅くまで一緒に考えて、疲れた顔をしていたくれあがふと笑うと胸が温かくなったことを思い出す。

 人のきらめきとは、楽しい気持ち、嬉しい気持ち、幸せな気持ちだけではなくて、寂しいだとか、悲しいだとか。一人で抱えきれない気持ちを癒してあげたい。
 キラキラと目を輝かせて夢を語る少女の姿が鮮明に浮かんだ。

「……そっか」
 目が合うと、るるかは小さく笑う。温かい眼差しがなぜかくれあにはくすぐったかった。
 叶うといいね、と背中を押してくれているみたいで。

「ごちそうさま」
 いつの間に食べ終えていたるるかは席を立つ。テーブルの上に置かれていたぬいぐるみを抱き上げた。心なしか、来たときよりも強く。抱きしめるように。

「ありがとう。ぜひまた来てくださいね」
 立ち去る背にくれあは声をかけた。これは接客、とは違う。自分の意思で、また彼女に来て欲しい。会いたいと思った。
「……またね」
 くれあ。
 振り向くことのない少女から、小さく私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

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