近年、放課後等デイサービス(障害や発達に特性のある子どもを
対象に療育を行う)や児童発達支援では、「健康・生活」
「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」
人間関係・社会性」の発達5領域に基づいた支援が
求められている。
一方、保護者から提供される心理検査の結果は、WISCや
田中ビネーなどの知能検査であることが多い。
しかし、その結果票には例えばWISCなら「FSIQ」「処理速度」
「ワーキングメモリ」などの専門用語が並び、現場の支援者に
とっては必ずしも分かりやすいものではない。
「この結果から、この子にどのような支援をすればよいのか。」
その問いに明確に答えられる検査報告書は、決して多くない。
つまり、知能検査の結果と実際の支援との間には、まだ大きなギャップが
存在しているのである。
もちろん、WISCは認知特性を詳細に分析できる優れた知能検査であり、
その価値は揺るがない。しかし、医療や療育という視点で考えた場合、
田中ビネー知能検査には異なる強みがある。
第一に、幼児から成人まで同一検査体系で評価できるため、発達の経過を
継続して追いやすいことである。
第二に、精神年齢(MA)という指標が得られることである。保護者や多職種に
発達水準を説明する際、「○歳程度の理解力」という表現は、IQだけでは
伝わりにくい発達像を理解してもらう助けとなることがある。
しかし、この精神年齢も万能ではない。IQと同様に、精神年齢も「もろ刃の剣」である。
例えば、「精神年齢5歳」と示されたとしても、その子どものすべての能力が
5歳児と同じという意味ではない。
認知能力には偏りがあり、社会性、適応行動、コミュニケーション、
生活能力などは精神年齢だけでは十分に表現できない。
したがって、精神年齢は発達を理解するための一つの重要な指標ではあるが、
それだけで子どもの全体像を判断してはならない。
ここで私が提案したいのは、田中ビネー知能検査Ⅵを発達5領域と結び付ける
という新たな視点である。
例えば、ビネーⅥの各課題や認知プロフィールを、発達5領域との関連から
読み解き、「認知・行動」ではどのような配慮が必要か、
「言語・コミュニケーション」ではどのような支援が有効か、
といった具体的な支援へ橋渡しできないだろうか?ということである。
もちろん、田中ビネーだけで発達5領域すべてを評価することはできない。
健康・生活や人間関係・社会性などは、適応行動評価や日常場面での
観察、多職種からの情報を統合して判断する必要がある。
それでも、知能検査の結果を「支援の言葉」に翻訳することができれば、
放課後等デイサービスや児童発達支援の職員、保育士、教員にとって、
その結果ははるかに活用しやすいものになるはずである。
私は、ビネー知能検査の未来は、単に新しい課題を追加した
「田中ビネーⅦ」を開発することだけではないと考えている。
むしろ現在の田中ビネーⅥを基盤に、発達5領域との関連や具体的な支援方法を
詳しく示す「療育活用ガイド」を整備することにも、大きな意義があるのでは
ないだろうか。単なる事例分析等ではなく発達5領域との関連書である。
その成果が積み重なれば、将来のビネーⅦでは、
「知能を測る検査」から「支援へつなげる検査」へと、さらに進化する可能性がある。
知能検査の役割は、「測る(Assessment)」ことだけでは終わらない。
これからは、「支援へつなげる(Support)」ことまで含めて、その真価が
問われる時代になる。
田中、鈴木の2つのビネー知能検査には、その未来を切り拓く可能性が、まだ十分に
残されていると私は考えている。