妻の愚痴が止まらない夜
妻は帰宅するたび、会社の上司の話ばかりしていた。食卓につくなり、ため息から始まるのが決まりだった。
「上司にまた私だけ怒鳴られた」
聞けば、提出物の書式が違うだの、返事の声が小さいだの、理由は毎回どうでもいいことらしい。
それでも同僚の前で長々と説教されるのだという。
そのうち「今日は一日中無視された」「わざと聞こえるように陰口を言われた」と、内容もどんどん深刻になっていった。
正直、最初のうちは聞き流していた。
相槌を打つだけで、妻のストレスが少しでも晴れるならと思っていたからだ。
「毎日よくこれだけ言うことがあるな」そう思ってしまう自分もいた。
妻には働き続けてほしい。
だからこそうまく受け止めたいのに、聞いているこちらまで気が滅入ってくるのが本音だった。
だが、妻の顔色は日に日に悪くなっていった。
夜中に何度も目を覚まし、朝は食欲もない。
とうとう「もう会社に行きたくない」とこぼす日が来た。
「記録しろ」の一言
聞き流している場合ではないと思った。
私は箸を置いて、妻の目をまっすぐ見て言った。
「その暴言、日付ごと全部記録しろ」
妻はきょとんとしていた。だから続けた。いつ、どこで、何を言われたか。
できるなら声も残しておけ。愚痴で消耗するより、証拠を積み上げるほうがずっと効くと。
妻はその日から、手帳とスマートフォンのメモに、上司の言葉を淡々と書きためていった。
理不尽なことを言われるたび、その場でこっそり録音もしていたらしい。
「今日は三回。もう慣れてきたかも」
笑いながらそう言えるようになったころには、数か月分のやりとりが積み上がっていた。表情も、少しずつ以前の妻に戻ってきた。
積み上げた証拠が動かした
妻は集めた記録を持って、人事の担当者と面談した。
日付と発言がびっしり並んだ手帳と、録音の数々を前に、担当者の表情がみるみる変わったという。
後日、上司は呼び出された。最初は「指導の一環だ」と言い張ったらしい。
だが、記録された自分の言葉をひとつずつ読み上げられると、顔色が変わり、途中から言葉に詰まっていった。
「そんなつもりは…」とつぶやいたきり、あとはうつむくしかなかったそうだ。
ほどなくして、その上司は別の部署へ異動になった。
それを機に、妻の同僚も「実は私もずっと我慢してた」と次々に打ち明け、職場の空気は一変したらしい。
廊下ですれ違っても、あの上司はもう妻と目を合わせず、小さく会釈して足早に去っていくのだという。
今の妻は、朝もちゃんと食べる。「あのとき記録しろって言ってくれて助かった」と、久しぶりに晴れやかな顔で笑ってくれた。
※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。