私がアメリカの政策エリートたちと話すとき、彼らは口を揃えてこう言う。「ヨーロッパはもう終わった」と。それはトランプ政権だけの乱暴な言葉ではなく、党派を超えて共有されつつある冷徹な認識だ。何しろアメリカ自体が衰退する帝国であり、自国の凋落を遅らせることに精一杯なのだ。そこに欧州の居場所はない。
では欧州はなぜ、この現実から目を背け、ウクライナ戦争にのめり込むのか。私はこの問いを、階級分析のレンズを通して見ている。
欧州の指導者たちは、失った植民地帝国の再来を夢見ており、その唯一の出口がロシアの解体だと信じているのだ。この構図はすでに1990年代、ズビグネフ・ブレジンスキーが描いていた。ロシアを破壊し複数の小国に分割せよ、という大戦略である。
欧州資本主義は、16世紀から20世紀にかけて海外植民地に寄生することで成長してきた。しかし二度の世界大戦で相互に破壊し合い、帝国は崩壊した。冷戦期はアメリカの軍事の傘のもとで社会保障を充実させる「甘い取引」に与ったが、それも終わった。いまや米国は欧州を「自立せよ」と突き放し、自国の関心は中国とイランに向かっている。
この絶望的な状況で、欧州の指導者たちが縋るのが「ロシアを砕き、その資源と領域を分割する」という幻想だ。
ウクライナへの巨額支援も、NATOの東方拡大も、すべてはこの失われた帝国を取り戻すための賭けである。だからこそ、ロシアへの罵倒はヒステリックなまでに過熱し、プーチン大統領よりもエスカレーションを先鋭化させているのは明らかに欧州側なのだ。
しかし、その試みはすでに破綻しつつある。戦場ではロシア軍がドンバスの都市を次々に制圧し、ウクライナは疲弊している。経済に目を向ければ、さらに残酷な現実が浮かぶ。
ドイツの自動車産業は象徴的だ。100年前から欧州経済を牽引してきたフォルクスワーゲンが、10万人規模のレイオフを発表した。パリのタクシー運転手は、もはやプジョーではなく中国のBYDを選ぶ。安くて良いからだ。脱工業化の波は欧州を、チーズとワインを売るだけの観光地へと変えつつある。
これが、欧州の「選択」の結末である。欧州連合は米国からの高価な液化天然ガスを購入し、トランプ政権との貿易交渉では8000億ユーロ規模の「貢ぎ物」を取り付けた。まさに属国への転落だ。
この落差を、私は軍事予算の数字で痛感する。欧州はいま8000億ユーロの軍事投資を10年計画で掲げているが、アメリカの国防費はすでに年間9000億ドルに達し、2027年には1.5兆ドルへ跳ね上がる見通しだ。欧州が全力で走っても、米国の背中すら見えない。しかもその軍備の大半は米国製兵器の購入に消える。これでは単なる「武器の消費者」として、ますます従属を深めるだけである。
欧州のエリートたちは、内心ではこの構造を理解している。だからこそ必死なのだ。ロシアに勝利しなければ、自らの存在意義がなくなる。しかしロシアの背後には中国が控え、中国の製造力は欧州全体を凌駕する。ウクライナ戦争がこのまま欧州の敗北に終われば、東欧諸国は同盟相手を見直し始めるだろう。すでに中東の産油国がそうしているように。
それでも欧州は、自らの社会モデルを問い直すことを拒んでいる。企業は利潤最大化に走り、賃金を絞る。国民は分裂し、極右と左派が台頭する。私が提案したいのは、もっと根源的な問いだ。企業を民主的に運営し、利潤ではなく賃金を最大化する社会へと舵を切ってはどうか。マルクスが喝破したこの洞察は、いまこそ出口のない資本主義からの脱出路として検討されるべきだ。
欧州が本当に「ロシアの脅威」から脱したいのなら、まずは自分たちの資本の論理そのものを見つめ直さねばならない。対等な隣国としてロシアと共存する道を閉ざしたとき、欧州は自らの未来をも閉ざしたのである。
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Richard Wolff(マサチューセッツ大学アマースト校名誉教授、経済学者)、Glenn Diesen(政治学者)
対談『Richard Wolff: Europe Does Not Matter for a Declining United States』(リチャード・ウルフ:欧州は衰退する米国にとって重要ではない)
Richard Wolff: Europe Does Not Matter for a Declining United States
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