この作品は豊子を演じた乙羽の遺作になった。彼女は末期の肝臓がんで余命宣言を受けていたが、共演者もスタッフも知らなかった。
51年に新藤の監督デビュー作『愛妻物語』に主演した彼女は、最後まで新藤作品のヒロインとして輝き続けたのだ。
実は公開前、新藤監督にロングインタビューをさせてもらった。乙羽との出会いから94年12月22日の逝去まで、淡々とした話しぶりがより哀しかった。
妻であり、女優であり、共に闘う同志だった夫婦の生きようは駆け出しだった私にはただただすごかった。
まだ“終活”という言葉がなかった時代に、作品と私生活の両方で人生の終わりに向き合った新藤と乙羽に敬意を感じる秀作である。 (おかむら良)
■午後の遺言状 1995年公開。新藤兼人監督。第38回ブルーリボン賞と第19回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した。乙羽信子の遺作であり、杉村春子の最後の映画主演作でもある。