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「過剰報道で私は怪物になった」「ノルウェー全土の憎悪の対象だ」王太子妃の長男主張に潜む危うさ

北欧ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会会員|写真家
ノルウェーの王室関係者が事件を度々起こし、その裁判が公開されるという異例の事態。裁判の初日には世界中から報道陣が集まった。写真:ロイター/アフロ

国際的な注目を集め続けた、ノルウェー王太子妃の長男マリウス・ボルグ・ホイビー被告の裁判は、7週間にわたる審理を経て、3月19日に終了した。

ホイビー被告は、メッテ=マリット王太子妃がホーコン王太子と結婚する前に、別の男性との間で生まれた第一子だ。現在の国王とは血縁関係はなく、義父であるホーコン王太子は将来の国王となる立場にある。

ホイビー被告は公式な王室メンバーではなく、王位継承権も持たない。しかし国際メディアでは「ボーナスプリンス」と呼ばれ、公務には就かないが、事実上「ロイヤルファミリーの一員」として扱われてきた。

この曖昧な立場ゆえに、「彼はどこまでメディア批判の対象となるべき存在なのか」という問いは、ノルウェー社会で長く議論されてきた。

「私はモンスターだ」と語った被告

裁判終盤、ホイビー被告は証言台で、自身の人生がいかにメディア報道によって破壊されてきたかを訴えた。

幼少期からカメラとマイクに追われ続けてきたとしても、それが暴力や犯罪に至る理由にはならない。

それでも被告と弁護団は、裁判期間中に繰り返しメディア報道の影響に言及している。

実際、弁護団は「異常な報道圧」を理由に、量刑の軽減を主張している。

被告の主張には一定の共感を示す声もある。長年ノルウェーの報道環境を見てきた人々にとって、そのストレスは想像に難くないからだ。

証言の中で特に注目されたのは、次の言葉だ。

「私はモンスターだ」

「これまでのメディアの圧力は、人間としての私を消し去ってしまった」

「私はもはやマリウスではない、モンスターだ。私はノルウェー全土の憎悪の対象だ」

証言台で震えながら発した言葉は、ノルウェーで大きく報道された。

メディアと警察によって失われたとされる人生

ホイビー被告は、人間としての尊厳やプライバシーが完全に消失したと主張した。

家族との私信までが公にさらされる状況の中、友人関係を含む社会的ネットワークのほとんどを失い、深刻な孤独と対人恐怖、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいるという。

自分に関するあらゆる情報を追わずにはいられない強迫観念や、警察の来訪を恐れるあまり車の音だけでパニックに陥るほどの被害妄想を抱えていることも明かした。

また、メディア報道だけでなく、SNSアカウントや電話の押収が社会的な孤立を助長したと、警察の捜査も強く批判した。

検察官「モンスターなどいない」

ここまで読むと、ホイビー被告に多少の同情を抱くかもしれない。

だが、性的暴行や脅迫を受けた人たちを弁護するヘンリクスボー検察官は、後日、証言台でこう語った。

「マリウス・ボルグ・ホイビーはモンスターではない。私たちの中にモンスターなどいない。私たちは皆、善と悪を併せ持つ人間だ」

だからこそ、彼が「誰(王太子妃の息子)であるか」で裁かれるのではなく、彼が「何をしたか」で裁かれるべきだと、検察官はリマインドした。

警察、交通規則、制限速度、接近禁止命令などに対し、ルールを守る姿勢が欠如しており、「自分にだけはルールが適用されない」と考えている節があること。

相手が眠っている間に性的行為に及んだり、無断で動画を撮影したりするなど、一方的な性的行動に走る傾向があること。

嫉妬深く、特に薬物やアルコールの影響下で自制心を失うなど、怒りの制御不能の傾向があること。

これまで裁判で提示された証拠を基に、ホイビー被告の行動パターンを振り返り、被告は「モンスター」ではなく、「私たち全員に適用される規範や規則に対する尊重が欠けた、ひとりの男性」だと、検察官は改めて強調した。

報道と犯罪を結びつけた問題

ホイビー被告が子どもの頃からさらされてきた報道圧は、確かに重要な議論テーマである。

そしてここは、報道の自由度ランキング1位のノルウェーだ。平等や透明性が大切にされる北欧だ。最も高い権力、影響力、特権性を持ち、国民の税金で生活するという恵まれた立場にある王室は、批判的ジャーナリズムとは切っても切れない関係にある。

だが被告と弁護団は、この問題を減刑理由や、被告の問題行動に結びつけた。

本来は別の問題である境界線はあやふやとなり、ホイビー被告の行動要因はノルウェーの報道機関にあると、ホイビー側の主張が社会に広く知られるようになった。

「どんな状況でも暴力は許されない」という本来揺らぐはずのない基準が、わずかに、でも明らかに揺れた。

裁判期間中には、被害者支援の専門家たちがSNSなどで、「それは性的暴行や暴力を正当化する理由にはならない」と繰り返し注意喚起する事態となった。

メディアにまるでモンスターかのようにされたという被告の一言は、ある程度の感情を誘う。

だからこそ、裁判の終盤に、女性たちを弁護する検察官が、「彼は過剰な報道が生んだモンスターではない」「単にルールを守れないひとりの人間だ」と指摘したことには、強い意味がある。

参照

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ありがとうございます。
北欧ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会会員|写真家

北欧モデルを日本で活かすための「ノルディック・ダイアローグ・セッション」や視察同行サービス提供中。あぶみあさき。オスロ在18年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。北欧・日本プロジェクト推進コンサルタント。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等)’22年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者(9言語目:ノルウェー北極大学「北サーミ語」受講中)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』

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