「書肆ゲンシシャ」店主のルーツとなった7冊の本
世界中の珍奇なるものを集めた驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」。その店主である藤井慎二は、なぜこのようなコレクションを収集し始めたのか?
今回はゲンシシャの核・ルーツともなる「店主が中学生時代に夢中で読んだ本」について深堀りしてみよう。
ファンタジー好きな小学生時代
藤井 小学生の頃は、ドリトル先生や指輪物語など、有名な作品を読んでいました。中学生のときにハマったのは、当時全盛期だった『ハリー・ポッターシリーズ』です。登場人物では、狂ってる女みたいなキャラクターのベラトリックスがお気に入りでした。
県外の中学校で寮生活を送っていたんですが……これがね、本当に嫌だったんですよ。中1のときは12人部屋、2年で10人部屋。中学3年からやっと個室ですよ。トイレも汚いし、本当に最悪です。小学校までは実家で、一人っ子の僕は当然一人部屋で。その差がエグいですよね。
しかも、学校が終わると強制的に「学習時間」っていうのがあって。毎日4〜5時間は勉強しなきゃいけないんです。トイレ以外は部屋から出るのも禁止。まさに地獄です。
――うわぁ……それは辛いですね。
藤井 でしょ?携帯電話(当時はガラケー)、パソコン、テレビ、ゲーム、全部禁止ですよ。キリスト教系の学校だったので、ギャンブルとみなされるトランプもダメ。厳しいでしょ?そんな環境で、とにかく「いかに勉強しないで過ごすか」を考えたわけです。
で、唯一残された道が読書だったんです。本が最大の娯楽、僕の逃げ道でした。
――なるほど。本って一括りにしてもいろんなものがありますからね。
藤井 そうです。この中学時代の寮生活で、ゲンシシャ的世界観が確立されたんですよね。学校の近くに6階建てくらいの紀伊國屋書店があって、そこに通い詰めました。最初は、芥川龍之介『歯車』や太宰治『グッド・バイ』などの日本文学が好きで。王道系の日本文学ではあるけど、ちょっと癖のある作品を読んでいました。
――そこから、いかにしてゲンシシャ的な本にハマっていったのか?気になります。
すべての始まりは『死刑全書』
藤井 ある日、いつもの紀伊國屋書店の最上階・6階で『死刑全書』を見つけました。美術書などを扱ってるコーナーだったと思います。あてもなく探しているうちに、偶然見つけちゃったんですよ。
『死刑全書』はかなり分厚い本で、定価は約5,000円。当時中学生だった僕にとっては、かなり高価な買い物でしたが……どうしても欲しくなって買いました。
作者はマルタン・モネスティエというジャーナリスト。『死刑全書』のような全書シリーズを書いています。『食人全書』『奇形全書』など、今ゲンシシャで扱ってるテーマをほぼ網羅してる感じの人なんですよ。
――その全書シリーズは、ゲンシシャに揃っているんですか?
藤井 もちろんですよ!そうそう、『死刑全書』の目次を見ると串刺し刑、切断、八つ裂き、絞殺、溺死、斬首などの項目がずらりと並んでいます。イラストが多く、写真も掲載されています。子どものはりつけや凌遅刑など、生々しい様子が載っています。
――藤井少年がこの本に惹かれたのは、なぜでしょうか。
藤井 当時の僕には、処刑の方法が何種類も書いてあるこの本自体が衝撃的で、とても興味が湧いたんですよね。あと、本の表紙が、ギュスターヴ・モローの『出現』という絵画なんですが、「知ってる絵だ!僕の好きな絵だ!!」ってなったのも買う決め手になりました。
そして沼にハマる『ソドム百二十日』マルキ・ド・サド
藤井 そして同じ紀伊國屋書店で出合ったのが、マルキ・ド・サドの『ソドム百二十日』です。文庫本だし、手に取りやすかったですね。作者のマルキ・ド・サドは、SM(サディズム・マゾヒズム)のSの語源となった人。バスティーユ牢獄で書かれた作品です。
――『ソドム120日』はどんな物語でしょうか。
藤井 司教など莫大な財産を持った4人の道楽者が、美少女・美少年たちと好き放題、悪徳の限りを尽くす話です。
――悪徳の限りの部分、詳しく聞きたいですね。
藤井 そこは読んでのお楽しみです。事前の知識はなにもなく、この本を手に取りました。澁澤龍彦先生のことを知ったのも、これがきっかけ。実は、澁澤龍彦先生が訳した『ソドム120日』は途中で終わっていて。後に、違う方が訳した完全版も手に入れて読みました。
――この本にハマった理由は?
藤井 禁欲的な寮生活とは、真逆の物語が展開されていたからです。金持ちの好き放題、悪徳の限りを貪る様子に「こんな世界があっていいのか!」って思いましたね。鬱屈した気持ちを抱えていた当時の僕には、そのギャップが余計に響いたのかもしれません。ちなみに、この小説の直筆原稿はフランスの国宝になっています。
問題作には元ネタがあった『死のロングウォーク』
藤井 僕が中学生のときに世間を騒がせた作品に『バトル・ロワイアル』という小説がありました。当時、寮のみんなで回し読みするほどで、R15指定になっていた深作欣二監督の映画も見に行きました(15歳未満でしたけど……秘密です)。これもかなり衝撃的でしたね。
あるとき「それにはどうやら元ネタがあるらしい」との噂を耳にして。それで購入したのがこの『死のロングウォーク』リチャード・バックマン(スティーヴン・キングの別ペンネーム)による小説です。日本語訳は1989年に刊行されました。
物語は、14〜16歳の少年100人が出場し、ひたすら歩くというもの。しかもそのレースに、ゴールはありません。
――え、ゴールがない?
藤井 歩くのに最低速度が決められていて、それを下回ると警告を受けるんですが、3回以上警告を受けると撃ち殺されるんです。で、ひとりだけ勝ち残る。
――うわぁ……
藤井 しかも、登場人物が読んでいた当時の自分と同世代でしょ?寝ずに歩いて、疲れ果てて、どんどん殺されていくんですよ。「筋肉が硬直したんだ!」って叫んで訴えても殺されます。みんなで歩くうちに、少年同士で仲良くなったりするんですよ。でも、みんな殺されされていくんです。何回も読み返しましたね。中学生にとって強烈な話でした。
衝撃的な事件の真相『少年A 14歳の肖像』
藤井 そして『少年A 14歳の肖像』。ノンフィクション作家の高山文彦さんによる、酒鬼薔薇聖斗と名乗る犯人・少年Aのルポルタージュです。校門に切断した頭部を置いて……という、当時世間を騒がせたセンセーショナルな事件は、当然僕も興味がありました。
気になるところに赤線を引いて、何回も読み返しました。あとがきは、小説家の宮部みゆき先生です。高山文彦さんは、同じく少年A関連で『地獄の季節』という本も書いていますが、それも読み応えがあっておすすめです。
――印象的だった部分などはありますか?
有名な犯行声明文「さぁゲームの始まりです」は、漫画や別の本を読んで覚えていた言葉から作ったという内容が書かれています。
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引用:
自分以外の人間は野菜と同じなのだから切っても潰しても構わない。だれも悲しむことはない。
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という少年の思想も、興味深いですよね。
少年Aが当時彼がハマっていたのは、ヒトラー『わが闘争』や、ダリ『燃えるキリン』、スメタナ『わが祖国』などと書かれています。僕が小学生のとき、運動会で『モルダウ』に合わせて踊った記憶があり、なんかシンパシーを感じちゃいましたよね。
――少年Aにシンパシーを感じるのはヤバい気がしますが……
藤井 あはは。まぁ、少年Aは生物を殺すことで性的快感を得る、猫を殺して勃起するっていう感じだったようです。目で見たものを写真のように記憶できる「直観像素質者」でもあるらしいんですね。こういった犯罪者の心理は興味がありますよね。
福島章先生という、犯罪精神医学を専門とされる精神科医の方の著書もよく読んでいました。多くの重大事件で精神鑑定をおこなったことでも有名です。犯罪心理学にすごく興味があって、事件のルポなどはよく読んでいます。ゲンシシャのお客さんには、事件ルポルタージュ本が好きな方が多いですよ。
胸糞悪くて止まらない石原慎太郎の小説
繰り返し読んだ『処刑の部屋』
藤井 紀伊國屋書店で復刊のフェアかなんかがあって、手に取ったのがきっかけで、石原慎太郎を読み始めました。最初に手に取ったのは、『太陽の季節』です。“太陽族”が社会現象になり、芥川賞も受賞した作品で、ペニスで障子を破るシーンで有名ですね。
――その世代の方には有名なんですね。
藤井 僕は表題作よりも、短編の『処刑の部屋』がめちゃくちゃ好きなんですよ。
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引用:
抵抗だ、責任だ、モラルだと、他の奴等は勝手な御託を言うけれども、俺はそんなことは知っちゃいない。本当に自分のやりたいことをやるだけで精一杯だ。
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という文から始まります。短い話なので、物語は読んでのお楽しみです。繰り返し読んだので、表紙がボロボロで、テープで補修してあります。
ネットでも胸糞と名高い『完全な遊戯』
藤井 同じ石原慎太郎の作品で、胸糞小説としてネットでもよく取り上げられるのが『完全なる遊戯』です。
--------------------↓ネタバレ含む↓--------------------
精神障害がある女性を金持ちの不良少年たちが別荘に連れ込み、犯しまくって最後に崖から突き落とす話。「その割に、この遊びは安く上ったな。」という最後のセリフが印象的で、今でも忘れませんね。
--------------------↑ネタバレ含む終わり↑--------------------
石原慎太郎といえば都知事のイメージがありますけど、かなり過激な小説を書いてるんですよ。
意外と近年の『聖餐』
平成14(2002)年の作品『聖餐』も、なかなかに酷い話です。確か都知事になった後に発表した作品だったと思います。ストーリーは、風俗の世界に身を置く元映画監督が警察に無実の罪で逮捕され、復讐として「非合法なヴィデオ」を制作する話。スカウトした女性を4人の人格を持つ多重人格の男に襲わせるというものです。
--------------------↓ネタバレ含む↓--------------------
男が、刃物で女の腹を切って内臓を引きずり出す。その様子を撮影してる人間も吐くほどの光景。男は何か叫びながら内臓を振り回します。最後「こいつはやっぱり本物のキチガイだったな」「みんなこうしなけりゃ生きていけなかった」みたいな終わり方の小説です。
--------------------↑ネタバレ含む終わり↑--------------------
――なんとも、3作ともに壮絶な話で。
藤井 そうですね。澁澤龍彦先生もかつて、大江健三郎と対比させながら、石原慎太郎について論じていました。
小説家・藤井慎二の誕生!?
――大量の小説を読んで過ごした藤井少年ですが、自分で執筆したりはしなかったんですか?
藤井 もちろん、自分でも小説を書きましたよ。中3のときは、新興宗教の教祖が信者を集める話。高校生のときは、少年が殺人を犯す話を書きました。後者は原稿用紙300枚以上にのぼる作品で、同人誌にも掲載しました。
――それは読みたいですね!
藤井 当時、僕の小説を読んだ下級生の女子が「この小説を書いた人に会いたい」って僕の元にやって来たんです。でも、実際に僕を見たら「あはは……大丈夫でーす」みたいになって。切ない思い出ですね。
――ああ……それは……ね。
藤井 ね?そんな感じで、今回は僕の土台を作った本を紹介しました。すべてゲンシシャでご覧いただけますのでぜひお越しください。お待ちしております!
僕が昔買った本については、McGuffinさんの動画でも話をしているので、未視聴の方はぜひご覧ください。
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McGuffinの動画
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