現状認識は左右で一致

──「資本主義はもう限界だ」という認識では右派も左派も実は一致していながら、そこからその課題をどう解決するかという道筋に大きな違いがあるということですね。

斎藤:リベラルの人たちは資本主義というものに対し、再分配や技術の規制などを行えばまだ「より良い未来」を切り拓く道はある、といった進歩的な世界観にいまだにとらわれていると感じます。グローバリゼーションの名残をまだ捨てきれていないんです。

 たしかに多様性、ジェンダーや人権への理解が世界中に広がり、ビジネスチャンスも広がるなど、グローバリゼーションにはいい面もあった。一方でアメリカが本来持っているコミュニティーや理念、宗教などをしっかり取り戻さなければといった世界観も出てきて、いまは時代として右派が勢いを持つ状況になっていますよね。いまはMAGA派的なもの、マスク的なもの、福音派的なものなどがごちゃまぜになり、一応「トランプ的なもの」としてまとまっていますが、今後もずっと一致団結できるかというと、それほど安定したものにならないと思います。

 そこに左派的な考え方──テック領主たちによる「テクノ封建制」みたいになるのは危ないよねとか、人権を守らなきゃいけないよねといったものが支持を集める余地はあるし、実際にニューヨーク市長のゾーラン・マムダニ*11など左派の首長も出てきているので、力を持っていく可能性はあると思います。

池上:産業の空洞化でラストベルト*12が生まれたりといったことに対して、トランプは高関税政策などで「ある種の解決策」を見せ、労働者の心をつかんだ。マスクなどによるテック企業は「何とかアメリカを再び強くしてくれるんじゃないか」という幻想を振りまいた。だけど結果的には、いわゆる「テクノ封建制」のような状態で、一握りのテックが全体を支配するような構造になってきている。結局、自分の首を絞めるようなことを労働者たちはやっているんですよね。

 でもそこに対する有効な対抗策を、民主党も生み出せていない。かつ、マムダニが出てきたとき「資本主義が大事だ」と考える民主党の主流派は危機意識を持ち、応援しなかったでしょう。一方でいまニューヨーク以外でも民主社会主義者の候補が勝ったりもしている。

斎藤:アメリカでは民主社会主義という言葉が広がりを見せていて、ロサンゼルスでも民主社会主義者のニティア・ラマン*13が現職を破る可能性がありそうです。「資本主義に対抗する何か」という意味での社会主義が政治的な一つの力になる程度には、アメリカで出てきています。

(編集部・小柳暁子、小長光哲郎、古寺雄大)

*1 パランティア・テクノロジーズ 2003年にピーター・ティール、アレクサンダー・C・カープらによって設立されたデータ解析会社。CIAやFBIなど米国の政府機関と深い関係を築き、イラン攻撃や移民政策にAI技術を提供している

*2 ピーター・ティール Peter Thiel/1967年、西ドイツ(現ドイツ)・フランクフルト生まれ。起業家、投資家。PayPal、OpenAI、パランティア共同創業者。共著に『ゼロ・トゥ・ワン』ほか(写真左)

写真・図版(3枚目)| 「チャッピー」と呼んでいる場合ではない 「次に狙われるのは日本」池上彰と斎藤幸平が語る資本主義の限界と民主主義の未来

*3 ペイパル・マフィア 米オンライン決済サービスPayPalの創業者や元従業員を指す。ティールの他、イーロン・マスク、リード・ホフマン(リンクトイン共同創業者)ら

*4 イーロン・マスク Elon Musk/1971年、南アフリカ生まれ。実業家。電気自動車のテスラや宇宙開発のスペースXのほか、AI企業やSNS事業にも進出。第2次トランプ政権では特別政府職員を務めた

*5 カーティス・ヤーヴィン Curtis Yarvin/1973年、米国生まれ。ブロガー、実業家。2007年に「メンシウス・モールドバグ」のペンネームでブログを開始。「暗黒啓蒙」や「新反動主義」を代表する論客であり「テック右派の教祖」

写真:David Merfield/Wikimedia Commons
写真:David Merfield/Wikimedia Commons

*6 ニック・ランド Nick Land/1962年、イギリス生まれ。バタイユ、ドゥルーズ=ガタリの研究を経て、90年代中頃に「サイバネティック文化研究ユニット」を設立。「新反動主義」に理論的フレームを提供し、オルタナ右翼に思想的インスピレーションを与えたといわれる。著書に『暗黒の啓蒙書』(五井健太郎訳、序文・木澤佐登志、2020年、講談社。原著は「The Dark Enlightenment」2012年)

*7 暗黒啓蒙 Dark Enlightenment/既存の民主主義に異を唱え、テクノ・リバタリアン的な「君主」に権力を集中させ、効率的に国家を運営すべきといった、近代の啓蒙主義を批判する考え方

*8 アレクサンダー・C・カープ Alexander Caedmon Karp/1967年、アメリカ生まれ。パランティアの共同創業者兼CEO。政府機関や軍向けの高度なデータ解析事業を拡大してきた。AIや国家安全保障をめぐる発言でも注目を集めている

写真:World Economic Forum/Photoshot/アフロ提供
写真:World Economic Forum/Photoshot/アフロ提供

*9 デヴィッド・グレーバー David Graeber/1961年、アメリカ生まれ。文化人類学者。『ブルシット・ジョブ』で知られる。現代資本主義や官僚制を鋭く批判し、世界的な反緊縮運動やオキュパイ運動にも影響を与えた。2020年没

写真:Alamy/アフロ
写真:Alamy/アフロ

*10 ディープステート 選挙で選出された政治家ではない官僚などとエリート層が結託して国家の政策や意思決定を操っているとする「闇の国家としての官僚機構」を指す

*11 ゾーラン・マムダニ Zohran Mamdani/1991年、ウガンダ生まれ。ニューヨーク市長。民主主義を通じて社会主義の実現を目指す「民主社会主義」を掲げる若手政治家として支持を広げている

写真:ロイター/アフロ
写真:ロイター/アフロ

*12 ラストベルト 「錆びた工業地帯」。米国の東部や中西部の、かつて製造業で栄えたがその後衰退した地域

*13 ニティア・ラマン Nithya Raman/1981年、インド生まれ。ロサンゼルス市議会議員。「第2のマムダニ」とも呼ばれ、ロサンゼルス市長選では11月の決選投票へ進むことが確実視されている

写真:ロイター/アフロ
写真:ロイター/アフロ

AERA 2026年7月6日号より抜粋

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