備蓄枯渇まで数日 米が隠す石油危機の正体
米国の戦略石油備蓄から、ディーゼルや航空燃料の原料となる油が、早ければ来週にも枯渇する。トランプ大統領がイランとの「屈辱的な覚書」に署名した真の理由は、この差し迫った危機にあった。元CIA情報分析官として、私はその内幕を追ってきた。
事の発端は2月28日、ペルシャ湾での戦闘開始によって重質原油の供給が断たれたことだ。トランプは後に「あと4週間分の石油しかなかった」と語ったが、彼が言及したのは、ありふれた石油全般ではない。高硫黄油、いわゆる「サワー原油」である。
ここに、市場も専門家の多くも見落としてきた核心がある。問題は石油不足一般ではなく、ディーゼルと航空燃料の原料不足なのだ。米国の製油所の大半は、この重質油を処理するために設計されており、軽質のシェールオイルで代用できない。ちょうど、コーヒーメーカーが違えば淹れ方も異なるように、製油所は重質油向けに最適化されている。戦闘が始まって約40日後、最後のタンカーが目的地に着くと、世界からは航空・輸送用の燃料供給能力が実に20%も消失した。
米国はその穴を埋めるため、戦略石油備蓄を1日あたり140万バレルずつ取り崩し始めた。当時の試算では、この取り崩しは120日間しか持たない。その期限が、来たる7月11日に迫っている。つまり、備蓄に頼った「見せかけの正常化」は、あと数日で終わる。
私たちはここで、よく使われる「石油不足」という言葉の定義を問い直さねばならない。問題は、軽質油を含めた原油全体の総量ではない。輸送と軍事行動の両方を支える「中間留分」と呼ばれる重質油の欠乏が、いま世界経済の足をすくおうとしている。しかも市場は、この違いをまだ価格に織り込んでいない。
その危機感こそが、イランとの覚書を急がせた。ところが、署名後に明らかになったのは、米国が条項の文言すら守る気がないという現実だ。例えば覚書の第5項は、ホルムズ海峡の安全な通航について「イラン・イスラム共和国のみが取り決めを行う」と明記している。米国の役割は一切書かれていない。それにもかかわらず、イランが通航許可の手続きを求めた船を止めると、米軍はそれを口実に攻撃を加えた。これは明白な違反だった。
だが、もっと静かで決定的な変化が起きている。米軍はすでに手を引いているのだ。英国に展開していたB-52爆撃機や、ヨルダンに駐機していたF-15戦闘機は撤収した。24時間態勢で中東を監視していた緊急対応チーム(CAT)も、いまや月曜から金曜の平日勤務に縮小された。バーレーンの第5艦隊司令部は機能を失い、カタールの巨大レーダー基地も閉鎖された。空母「ボクサー」の到着を今になって大々的に報じる広報作戦は、むしろ撤退の事実を覆い隠す煙幕にしか見えない。
イランは覚書に基づき、現在も日量160万バレルの石油を、しかもプレミアム価格でアジア向けに売り続けている。米国に届く油は、ごくわずかだ。仮にいまタンカーが出航しても、到着までには42日かかる。備蓄の枯渇に間に合わない。
結局のところ、この覚書は停戦協定などではなく、燃料切れを先延ばしにするための降伏文書だった。戦場も製油所も、勝敗を決するのは結局、重質原油が握っている。来週、戦略備蓄が底をついたとき、その事実は誰の目にも明らかになるだろう。
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Larry Johnson(元CIA情報分析官、元米国務省対テロ対策室)、Glenn Diesen(司会)
対談 “Larry Johnson: Bait & Switch - U.S. Efforts to Renegotiate the MoU with Iran”(『ラリー・ジョンソン:おとり商法──米国によるイランとの覚書再交渉の試み』)
Larry Johnson: Bait & Switch - U.S. Efforts to Renegotiate the MoU with Iran
m.youtube.com/watch?v=4CT5xc…