あのキエフへの大爆撃は、実はロシアの「自制」の証左である。こう言うと、多くの人は首をかしげるだろう。だが事実だ。攻撃目標は軍需産業施設であり、民間人を狙った懲罰作戦ではない。死者数は少数に留まり、これはドローン攻撃への報復というより、戦略の一貫した継続に過ぎないのだ。
死者は20人に上った。痛ましい犠牲であることに疑いの余地はない。しかし民間人の大量殺戮を目的とするのであれば、死者数はこれでは済まない。この事実こそが、西側で広がる「ロシアの無差別テロ」という物語の根拠の乏しさを物語っている。ロシアは、あくまで戦略目標を狙う従来のパターンを踏襲していたのだ。
ここで問うべきは、なぜロシアがここまで抑制的なのか、である。欧米諸国はG7声明で「ウクライナによるロシア領内への長距離攻撃を加速的に支援する」と明言した。これはもはや、NATO諸国が戦争の当事者として深く関与していることの公然たる表明だ。通常の国際政治の力学からすれば、これはロシアが報復の矛先を欧州に向けても不思議ではない局面である。
それでもロシアが動かないのは、二つの計算があるからだ。第一に、戦場で彼らが着実に優勢だからである。ロシア軍の進撃は遅いが、確実にドンバス全域の制圧へと向かっている。第二に、ドローン攻撃に対する防空が、現時点では機能しているからだ。攻撃が「吸収可能な痛み」の範囲内にある限り、ロシアはNATOの「代理戦争」を正面から叩くよりも、ウクライナの軍事的無力化を優先する。
しかし、この構図は脆い。欧州エリートたちの思考は、ロシアの合理性に関する認識とは正反対の方向へと向かっている。彼らは、ロシア軍が大損害を受けているという虚構の死傷者統計を信じ込み、経済制裁の効果を過大評価し、「あと一押しでプーチンは倒れる」という物語を生きている。ニューヨーク・タイムズが報じた「ロシア人戦死者45万人、ウクライナ人15万人」という3対1の死傷比率は、ロシアの圧倒的な砲兵優位という戦場の現実から目を背けた、まさに「笑止千万」な数字なのだ。
より深刻なのは、こうした虚構が意図的な嘘というより、もはや支配層自身の信念となっている点である。彼らは「プーチンは悪の権化であり、ロシアとの全面戦争は不可避だ」という物語を長年繰り返すうちに、自らそれを信じ込んでしまった。これはベトナム戦争時に軍がボディカウント(死者数)を水増しして国民を欺いた状況とは異なり、嘘をつく側が嘘に呑み込まれた、より根の深い病理である。
この病理は、アメリカのグランドストラテジー全体を蝕んでいる。米国は今、ウクライナ、中東、東アジア、そして本来脅威のない中南米にまで過剰に介入し、優先順位という概念を完全に喪失している。イラン戦争で兵器在庫がわずか40日で底をつきかけたという現実は、こうした拡張主義がすでに物理的限界に直面している証左だ。
ウクライナの戦場でロシア軍がドンバスを制圧する日、西側が信じてきた「勝利の物語」は文字どおり瓦礫と化す。その時、米国は初めて、過剰拡張の代償と向き合うことになるだろう。
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John Mearsheimer(シカゴ大学政治学部教授)、Glenn Diesen(ノルウェー南東大学教授)
対談 『John Mearsheimer: The End of Russian Restraint & New U.S. Grand Strategy』(邦題:ジョン・ミアシャイマー ロシアの自制の終焉と米国の新たなグランドストラテジー)
https://x.com/Glenn_Diesen/status/2073000710937919998 ロシアさんはようやっとる
ツァーリボンバ未満は全て自制の証左やろなぁ
いいえ、厳密にはミアシャイマーは「親露」ではありませんが、西側(特に米国・NATO)の政策を強く批判し、ロシアの行動を「予測可能で合理的な大国行動」として説明する立場を取っ...
もしロシアが有利なら、最初にウクライナの軍事施設や兵器を空爆で徹底的に破壊してから 一気に乗り込めば良かったのにそれをしなかったのはなぜ?という疑問は残りますが