第301話 星に・・・
今日は、宇垣のおじさんが仕事で東京に泊まらないといけないらしく、愛さんとうちで食事をして、家まで送ることにした。
「寒くなってきましたね」
「そうだね。俺たちが出会った時は、まだまだ暑かったのに」
季節は完全に変わっていた。お互いに厚着をしながら、身体を密着させて腕を組む。あの日の絶望を忘れたかのように、幸せの時間を過ごしていると思う。
「新作も売り上げがいいらしいですね」
「おかげさまで」
「私は何もしていませんよ」
「そんなことないよ。いろいろサポートしてくれているじゃないか」
俺が執筆で忙しい時は、愛さんは優しく見守ってくれるし、一緒にいるときはおにぎりなど夜食を作ってくれたりもしている。
「少しでもお役に立てているなら嬉しいです」
俺としては、一緒に作品を作ってもらっているような気がしているんだけどな。前にそれを伝えたときは、彼女は顔を真っ赤にして慌てていたので、今日は言わないでおこう。でも、その代わりに、愛さんの耳元で「いつもありがとう」とささやいた。彼女は、奇襲だったからか、それに敏感に反応していた。その反応がとてもかわいらしくて、また忘れたころにしてみようと思う。
「そういえば、今夜は流星群が見られるらしいですね」
愛さんは感慨深そうに空を見上げる。
「らしいね。夜のニュースでやっていた」
俺もつられて夜空を見上げるが、やはりビルが邪魔でうまく見ることができない。あきらめて、愛さんの表情を横から盗み見る。空ではなく、その先にあるものを見つめているような気がする。もしかすると、家族で天体観測をしたような大事な思い出があるのかもしれない。愛さんの腕を組む力が少しだけ増した。
ふとした瞬間に家族のことを思い出すのだろう。俺だって父さんのことをたまに思い出すから気持ちがよくわかる。そういう時に一人でいたくないだろうなと思ってしまった。
宇垣のおじさんは和解してから、家族の時間を長く過ごそうとしているのがよくわかっている。でも、こういうときだってある。
なら、俺は……
「ねぇ、流星群を一緒に見ない?」
俺はそう言ってしまう。たしか、彼女のマンションは高層階にあるから、夜空もここより見やすいだろう。もちろん、お互いの家族に許可をもらわなくてはいけないが……
たぶん、大丈夫だろうという確信があった。
「いい、んですか?」
愛さんは、少しだけ泣きそうだった。
「うん。せっかくなら一緒に見たいし。今回の流星群って次に見ることができるのは数百年後って言ってたし。一緒に見られるのは、一生に一度しかないから、さ」
俺は建前のような言い訳をしながら誘う。愛さんはそのことに気づいているのだろう。わかりやすく顔に出ていたとわかって、慌てて顔を下に向けて、恥ずかしそうに笑った。
「いいんですか?」
俺は「もちろん」と答えて、すぐに母さんに電話する。
彼女はなるべく聞こえないように、俺に向かって小言でつぶやいていた。
「そうやっていつも優しくしてくれるのずるいなぁ」
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