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体外受精、AIが成功後押し 19年悩んだカップルも妊娠

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体外受精は、時間がかかり、不確実で、多くの人が精神的な負担を感じている。しかも高額な費用がかかるわりに、望んでいた結果が得られるとは限らない。

それでも、米国では新生児の約2%が体外で受精させる技術によって生まれており、今ではごく一般的な治療法になっている(編注:日本産科婦人科学会によると、日本で2023年に体外受精で生まれた子どもは8万5048人。新生児の約12%、およそ9人に1人にあたる)。また、約40年前に初めてこの技術が登場してから、これまでに世界で1000万人の体外受精児が誕生している。

そして今、人工知能(AI)によって体外受精の新しい時代が幕を開けようとしている。健康な精子を特定し、胚(受精後まもない段階)の状態を評価し、その成長を追跡する技術の開発など、最近のAIの進歩は、体外受精をより受けやすくし、成功率を高めることを目的としている。生殖医療の専門家らに最新技術について話を聞いた。

健康な精子をAIが検出

米コロンビア大学不妊治療センターでは、あるAIが支援した体外受精による子どもが初めて誕生した。患者のカップルは19年間不妊に悩み、体外受精に挑戦し続け不成功に終わっていたが、体外受精に成功しやすい精子をAIの助けを借りて選別する実験的なシステムのおかげで、ついに妊娠に至った。

同センター長のゼブ・ウィリアムズ氏によると、導入したSTAR(Sperm Tracking and Recovery:精子追跡・回収)システムは、人間の目では見つけられない健康な(生きていて運動し、構造的にしっかりしている)精子を、AIが見つけて選別してくれるという。選ばれた精子はロボットによってわずか1000分の数秒で取り出され、遠心分離機などの精子を傷つける恐れのある工程が必要ない。

これまでは、人間がサンプルを顕微鏡で見ながら精子を選別していたが、それには何時間もかかり、最終的に成果をあげられないことすらあった。「経験を積んだ技術者が2日間探し続けて、1個も精子を見つけられなかったことがありました。その後サンプルをSTARにかけてみたら、1時間で44個の精子が見つかりました」と氏は話す。

人間とは違い、AIは数百万枚もの画像を、疲れることなく分析し、人間の目が見逃すような微妙なパターンを検出する。

「重度の男性不妊の場合、精子の数が少なすぎて、熟練の胚培養士であっても全く見つけられないことがあります。人間の能力を超えた領域ですが、私たちが開発した特殊なマイクロ流体チップ(精子の画像を撮り、選別するために使われる)と特注のスーパーコンピューター、高速画像処理などのSTARシステムを使えば十分に実現可能です。その後を人間が引き継いで、標準的な体外受精の処置を施します」とウィリアムズ氏は言う。

「まだ初期段階ですが、非常に期待が持てそうです」。それまで精子が全く見つからなかった多くの男性のサンプルから、STARは精子を見つけ出し、受精を成功させている。

妊娠に成功しそうな胚を予測

精子と卵子が結合してできた受精卵は、培養器のなかに5日間入れ、胚盤胞と呼ばれる状態まで成長させる。これを、内部の細胞(内細胞塊)とそれを包む外側の細胞(栄養膜細胞)の質によって評価する。それぞれの細胞がA、B、Cの順にグレードを付けられた後、両方のアルファベットを組み合わせる。例えば、AAと評価された胚盤胞は、内部・外部ともに良好という意味だ。BCは、内部細胞の質が中程度、外部細胞の質が低いという意味になる。

胚培養士は、胚盤胞のタイムラプス動画や一枚一枚の画像を分析し、さらに実際の胚盤胞を顕微鏡で観察してグレードを付ける。この作業は主観的で時間がかかり、1978年に最初の体外受精児が誕生してからほとんど変わっていない。

しかし、AIがこれに変革をもたらす可能性がある。2024年8月9日付で学術誌「Nature Medicine」に掲載された臨床試験では、11万5000個以上の胚のデータで訓練されたAIシステムが、胚の評価に関して人間にほぼ匹敵する能力を持っていることが示された。

評価を終えた胚盤胞は、正常かどうかを確かめるための遺伝子検査が行われることがある。通常は胚培養士が手作業で一つひとつの胚を検査し、染色体の数が正しいかどうかを確認するが、ここでもAIが役に立つことがある。

米ワイル・コーネル医科大学院の発生学准教授であるニキーツァ・ザニノビッチ氏らの研究チームは、胚が持つ染色体の数が正しいかどうかをAIのアルゴリズムが70%の確率で正確に判断できるという論文を23年1月に医学誌「The Lancet」に発表した。これは、統計的に有意な数字だ。従来の方法を使うと、理想的な環境であれば約90%の正解率を誇るが、正常な細胞とそうでない細胞が混在している場合など、困難なケースではその確率が下がる。

研究者たちは、正常な胚とそうでない胚の両方の画像を読み込ませてAIシステムを訓練した。するとAIは、元のデータセットに含まれていない胚の画像を見たときにも正常かどうかを予測できるようになった。胚そのものではなく画像を評価するため、繊細な胚を傷つけるリスクが少ない。

今後は、アルゴリズムにさらなる段階を加え、もっと早く、例えば健康でない卵子細胞を特定したり、妊娠を成功させるために卵子を何個凍結すべきかを予測したりできるようにしたいと、ザニノビッチ氏は言う。

評価や遺伝子検査を行った後も、例えば子宮内膜の厚さを測ったり、胚移植後の子宮の状態(受容能力)を評価したりする際に、AIの助けを借りられるようになるかもしれない。「着床前遺伝学的検査を通過した場合でも、流産の確率は10〜15%あります。胚だけの問題ではなく、母体の全体的な健康が関わっているのかもしれません」

もう一つ、AIで乗り越えられるかもしれない課題は、胚の取り違えに関するものだ。従来の方法では、胚に間違ったラベルを付けてしまい、別の患者に移植される事態がないとは言えない。直径わずか0.1〜0.15ミリの胚はあまりに小さく、極めてまれだが実際に取り違えが起こったことがある。

「AIシステムは、胚の発達を最初からずっと追跡し、あらゆる段階において胚の識別情報が正しいことを確認して、一つひとつの胚に正確なラベルがつけられ、正しい患者に移植されるよう設計されています」と、米マサチューセッツ総合病院不妊治療センター発生学部門のディレクターであるチャールズ・ボーマン氏は言う。

米ニューヨーク市に拠点を置く体外受精のスタートアップ企業コンシーバブル・ライフ・サイエンシズでは、産婦人科医で生殖内分泌学者のアレハンドロ・チャベス・バディオラ氏が、AIの指示で動くロボットアームを使って、200以上ある体外受精の工程を自動化させている。精子、卵子、胚の追跡や移動、「最適な」精子の特定、さらに精子を注射針に入れて、卵子を固定し、両者を合わせて胚にするところまで、卵子を傷つけることなくロボットシステムが全てこなす。

24年には、コンシーバブル社のこの独自技術による初の体外受精児が誕生した。チャベス・バディオラ氏によると、その後同じようにして17人が誕生している。

アルゴリズムにすべてを任せてはいけない

しかし、AIそのものにも、生殖医療技術にAIを適用することにも限界があり、慎重な意見もある。

まず、米国で行われている体外受精の研究の多くが、政府の監督を受けていない。米食品医薬品局(FDA)が規制するのは、従来の体外受精で用いられる一部の医療機器や遺伝子検査所など一部分だけだ。米国生殖補助医療学会(SART)は、加盟する医療機関の成功率を公表し、倫理ガイドラインを守っているかどうかを確認しているものの、SARTに加盟するかどうかはクリニックの自由だ。おまけに、米疾病対策センター(CDC)は25年に体外受精の監督チームを解散した。

AI支援の体外受精に関しても、現在行われている実験の多くが連邦政府の規制を受けていない。胚を評価するAIシステムだけは、FDAによって医療機器とみなされ、承認を義務付けている。いくつかの新しい生殖補助医療を受けたいと思ったら、ボーマン氏やザニノビッチ氏らが実施するような臨床試験に参加するくらいしか方法がない。

ほかにも、データプライバシー、アルゴリズムの偏り、公平性など、数多くの倫理的な問題があると、専門家は指摘する。

25年に医学誌「Journal of Gynecology Obstetrics and Human Reproduction」に発表された論文は、多くのAIアルゴリズムが透明性に欠けるため、医師にも患者にも解釈が難しく、ブラックボックスのようになっていると指摘する。そのため、胚培養士が考えもしないような「非論理的な」判断をAIが下すことがあると、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの内分泌学准教授のアリ・アッバラ氏は言う。

例えば、多くの正常な胚が、偶然にもすべて研究室の同じ培養器に入れられていたとすると、AIモデルは、特定の培養器に入れられた胚であれば正常である可能性が高いと誤解してしまうかもしれない。あるいは、明るさを判断材料として使いはじめ、画像がわずかに暗いというだけでその胚を誤って異常と判断してしまうかもしれない。ほかにも、AIシステムはしばしば機密情報を含む大規模なデータセットによって訓練されているため、データの漏洩や不正利用のリスクもあると、論文は指摘する。

新しいテクノロジーが成熟する前に実際に使用されることは、生殖内分泌学や不妊治療の分野ではよくあることだと、米ジョージア州アトランタにあるシェイディ・グローブ不妊治療クリニックの医師で生殖内分泌学者のビクトリア・S・ジアン氏は言う。遺伝子検査の一種である着床前多遺伝子検査(PGT-P)もその例だ。この検査では、ダウン症候群、鎌状赤血球症、糖尿病、心臓病、知能など、遺伝子や染色体の異常が関わるあらゆるリスクを調べる。

「PGT-Pは、胎盤になる細胞層から細胞を数個採取して、数千の遺伝子について解析します」。しかし、それは予測ではなく確率にすぎず、正確性は保証されていない。「天気予報のようなものだと私は考えています。降水確率が30%だからと言って、必ず雨が降るとは限りません。心臓病になる確率が5%だからと言って、絶対にかからないとは言えません」

ところがPGT-P検査は、その正確性を示す研究が十分ではないにもかかわらず、赤ちゃんの健康や特別な遺伝的傾向を保証するものであるかのようにして、体外受精を受ける患者に売り込まれることが多い。

AIに関しても同じことが言える。専門家は、成功を強く約束するような言葉には気を付けるよう患者たちに警告している。将来に楽観的な見通しを立てている研究者たちも、AIは医療の良きパートナーとなりうるものの、単独で医療を提供できるわけではないと警告する。

「AIは、助言や洞察を提供してくれますが、医療の責任と患者の自主性は決してアルゴリズムに任せてはいけません」と、ボーマン氏は言う。ウィリアムズ氏も同意する。「AIは医師の判断を支援するのであって、それに取って代わるものではありません。どんなに素晴らしいイノベーションでも、責任ある使用、透明性、そして臨床における監視が不可欠です」

文=Caitlin Carlson/訳=荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年2月19日公開)

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