1章 意外と馴染めそうではある。 ⑤
「クラスに馴染めてそうでよかった」
「なんとかな。……最近の子は違う世代に対しての壁が薄い気がするんだが、そのお陰もある」
「今の子はそうだね。誰でも使えるSNSも凄く普通になったし、絡みはなくても違う世代の意見とか話とか目にする機会も増えてるし」
「なるほどな」
「うん。で、そのせいなのか、意外と難しい言葉を知ってたり、人を煽ったり馬鹿にする時も単調じゃなくて表現が豊かだったりもするね」
「今の子は賢いんだな。俺たちの時は悪口なんて、ばか、あほ、まぬけ、くらいしかなかったもんな」
「そんなことはないと思うけど……まぁ今はSNSの種類も増えたし、追いかけるのも凄く大変。通知がくると前の投稿が消えちゃうのとか、よくわからないのもある」
「夕真は今でも最新のを追うのか?」
「好きで見てるわけじゃなくて、生徒が変なことに巻き込まれないようにっていうのもあるし、それと………………虐めに使ってないかの確認とかね」
SNSの虐め使用の有無、という部分を言い辛そうに夕真はゴニョっと最後に持ってきた。その理由を兼重はすぐに察した。
夕真は中学時代に虐められていた。塞ぎ込んで不登校になってしまっていた。それを助けたのが他らぬ兼重であった。
十年以上の時を経て風化はしても、痛みは無くなっても痕は残る。そういうものであると夕真の表情が語っている。
昔のことだからと軽く扱ってはいけない、と兼重はなるべく言葉を選んだ。それは兼重にとって歯を磨く生活習慣のように当然のことでもあったし、苦ではないのだ。
ただ、学の無さがゆえに、些かの誤解を与えてしまう言い方をしてしまう時もある。まぁ夕真は兼重の性格を理解してくれているので、特にそこが問題になることはなかった。
「夕真は可愛いし生徒から『綺麗な先生がいる。好き』とか、そういう風な投稿をされている時がありそうだな。発見した時に恥ずかしく感じるんじゃないか?」
「どうだろうねぇ。というか、この歳になっても『可愛い』って言ってくれるんだ? 気を使ってくれてるの?」
夕真の指摘通りに兼重は気は使っていた。ただ、全て嘘なわけではないし、夕真のことを純粋に可愛いと思っているのも事実でもあった。
当時に夕真が当時に虐められてしまったのも、事の発端を辿れば、まさにその可愛い容姿と雰囲気の二つにあった。
父親が外国人で、生まれつき髪色も薄くて、中学時代からすっきりとした綺麗な女の子が夕真だった。性格や雰囲気も大人しくて内向的で、アニメとか漫画が好きであって、そうしたギャップが異性を惹きつけやすかった。
それは、同性から面白くないと思われる程だったのだ。虐めっ子の女の子は、男の子の視線がいつも夕真に向かっているのが気に入らなかったと後に吐露していた。
「嘘は言って機嫌を取るなんてしないぞ俺は。言った方が良いだろうな、と思う本音だけを選んで言葉にしている。昔の俺を知っているだろう?」
「そうね。はいはい。別に深い意味はなく言ってるだけね。ぬいぐるみを見て可愛いと思うのとかと同じ感情のやつね。それはわかってるけど……」
「?」
「同じクラスの女の子に私と話してるみたいな感じで会話したら駄目だよ? 変なこと言って惚れさせちゃったら歳の差的に問題になるからね?」
「問題を起こしたくはない。変なことも言わない」
「本当に?」
「本当だ。大体にして女子高生は俺のようなおじさんを相手にしない」
「年上だから相手にされないっていうのは、それは男性の感覚だね。男性は女性のことを異性として見る場合に、同じくらいか年下じゃないと嫌だみたいな人が多いから女性も自分と同じだと思ってるんだろうけど、それはちょっと違うね。女の子はむしろ年上の方が良いってなる子も結構いるよ~」
「おじさんはおじさん構文とか言われて、若い女から馬鹿にされてる気がするが」
「おじさん構文が苦手な子が多いのは、無理に若い子に寄り添おうとしてる姿が嫌というか……それが幼く見えるからというか……年上に求めるものって、動じないような部分とか引っ張ってくれるような感じとかなワケで、そういう求めているプラスの要素がゼロってなると普通に嫌じゃない?」
「わかるような、わからないような」
「とにかく、女子高生狙いで入ったんじゃないって私は知ってるけど、途中から気が変わったとか状況が変わったとか、そういうので女子高生と付き合うのも青春とか勉強に含めるとかは駄目だよ? 兼くんは同年代の女性と一緒になるのがいいの」
「俺は年下と恋愛がどうこうとかは考えていない」
「うんうん……それじゃあ兼くんがクラスに良い影響を与えてくれることだけを信じて、見守りましょうかね私は」
「夕真が見守ってくれているなら、俺も安心できる。ありがとう。優しいな」
監視がある、という普通の男性であれば嫌がりそうなことであっても、兼重は無垢な笑顔を見せて受け入れた。下心なく青春と勉学を真に求めての入学だからこそ、それを支えてくれる厚意を嬉しく感じたのだ。
ただ、なぜだか夕真は困ったような表情である。
――その感じでクラスの女の子とも会話してるかも、って思うと兼くんのこと信じきれなくなってきた。
なにやら夕真がぶつぶつ呟いているのが聞こえたが、人が何かを考えている時に邪魔をするものではないと思った兼重はスルーすることにした。
それから。
雰囲気的に、言葉で了解を取るわけでもなかったが、兼重は夕真を家まで送り届けることにした。
二人の世間話は道中も止まることなく続いた。
「それにしても、社会人入試が面接だけだったのは俺も驚いたな。勉強は念の為に決めた段階で少しずつ中学の復習も始めていたのだがな」
「学力試験を受けないのは、中学出てすぐにストレートで入ってくる年齢の子でも学校推薦とか自主推薦とかあるし……おかしいことではないよ?」
「それはそうだろうが、そういう話ではなくてだな、大人だから弾かれるのではないかという心配はあったからな」
「社会人入試を形だけ設けてるとか思ってたの? そんなことないよ。昨今は少子化っていうのもあって、生徒数確保の目的もあるの。大人であっても学習意欲があって入学の条件に合うのであれば入れるよ」
「条件?」
「願書に付帯してた注意書きの書類に書いてたハズだよ? うーんとね……例えば既に卒業した学科への再入学はできないのね。一回普通科を卒業してもう一回普通科に入る、とかはできないの。兼くんはそもそも高校を出てないから、どこの高校のどこの学科であっても入っていい状態だから何も問題はないけどね」
そんな風に、色々と話をした。他にも、部活動等は年齢的に大会に出れなかったりもするし、そういう諦めないといけない部分もある、といった現実的な話もあった。
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