ハロー効果と公開査読〜なぜ大御所の論文ほど不正が見逃されるのか
2026年6月、Nature誌に一通の投書が載った。タイトルは「ハロー効果——学術界の階層構造が査読制度を弱体化させ、不正行為を助長する仕組み」。著者はワン・ウェンフェン。近年相次ぐデータ不正を暴いたのが、大学の研究室でも倫理委員会でもなく、ネット上のデータを丹念に洗い出した独立した「市民探偵」たちだった、という指摘から始まる。
投書の核心はこうだ。従来の査読は、著名な研究者はルールを守るはずだという信頼に依存した、脆い社会的契約にすぎない。査読者はベテランの過去の業績を信頼するあまり、大御所の論文ほど注意深く精査しない。この「ハロー効果」が、本来なら弾かれるはずの改ざんデータをすり抜けさせる温床になる、と。
この指摘は、私自身の経験とも重なる。私はあちこちの大学で、研究公正をテーマにした講演会を行なっている。だが、若手教員向けが多く、いちばん来てほしい教授レベルのひとたちは、まず来ない。
教授はその権威ゆえに、周囲があまり手を出せない存在になる。「あの先生に限って」という空気が、チェックの網を緩める。ハロー効果は、遠い海外の話ではないのだ。
投書は解決策として、「クラウドソーシング」による検証を制度化し、公開による精査を査読の標準に組み込むべきだと提案する。私もこの方向に賛同する。実際、プレプリントサーバーの多くは、すでに原則として公開査読の場になっている。
では、公開査読は本当に不正の抑止力になるのか。その利点と欠点、そして実現を阻む壁を、順に解きほぐしていきたい。
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インディ病理医・科学ジャーナリスト榎木英介の”機微”だんご
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