宮本礼子・長谷川佑子「日本とこんなに違うスウェーデンの高齢者医療・介護」
医療・健康・介護のコラム
枯れるように最期を迎えるスウェーデン人 水分・栄養補給で溺れる日本人 穏やかに亡くなるために必要な医療とは?
日本も60年ぐらい前は自宅で穏やかに
(宮本礼子 内科医)我が国も60年ぐらい前までは、高齢者は自宅で穏やかに亡くなっていました。生まれることと死ぬことは自然なことなので、寿命に 抗 わず、余計な医療を行わなければ、穏やかに死んでいくことができます。
私の患者さんで、経管栄養や点滴をしないで、食べるだけ飲めるだけで眠るように亡くなった方を紹介します。
眠るように亡くなったアルツハイマー病の90代女性
亡くなる4か月前から食欲がなくなり、食べる量が減りました。息子さんに人工栄養(点滴、 鼻腔 や胃ろうからの経管栄養)を望むかどうかを聞いたところ、「自分はいつまでも生きていてほしいけれど、母は延命されることを望まないので、延命はあきらめます」と言いました。そのため、食べるだけ飲めるだけとしました。
亡くなる1か月前から食事は数口になり、2週間前には少量のお茶だけになりました。4日前には「食事はいりません、温かいお茶が飲みたいです」と言い、2日前は「ごめんね、お茶はほしくないのよ」とお茶も飲まなくなりました。
前日は「ありがとう。そばにいる? いてくださいね」と言い、当日は家族がまもなく来ることを伝えると、うっすら目を開けて「あ~、そうかい」と言い、8時間後に眠るように亡くなりました。
延命されている期間が長いと、昏睡状態になります。一方、食べるだけ、飲めるだけの自然な死では、別れを言える人がいます。90代のあるアルツハイマー病の女性は、お嫁さんに初めて「ありがとう。世話になった」と言って亡くなりました。
人は全く飲食をしなくなると、2週間以内に亡くなります。そのため、極端にやせることもなく、自然な姿で亡くなります。看護師はご遺体が美しいと言います。余計な点滴や経管栄養をしないので肺炎などを起こさず、熱も出ず、痰も出ません。
眠るような死を見て、家族も「自分もこのように…」
眠るように亡くなった人の姿を見ると、これが本来の死の姿であることに気づきます。
ある家族は、「自分も将来、このように亡くなりたい」「こんなに安らかに死なせていただき、何とお礼を言えばよいのかわかりません」と言いました。
ある看護師は「今まで、通常の量の点滴をして亡くなった患者さんは、皆苦しそうだったけれど、食べるだけ飲めるだけで点滴を行わない患者さんは、どの人も死に向かって穏やかになっていった。こんなに穏やかな死は見たことがない」と驚いていました。
また、別の看護師も「私は若いころ、病院という所は何か治療をしなければいけない所だと思っていた。だから何もしない患者がいると、どうして退院しないのだろうと納得がいかなかった。しかし今は、治療をしないで穏やかに看取ってあげるのも私たちの仕事だと思えるようになった」と言いました。
「おなかがすいたり、のどが渇いたりして、苦しまないだろうか」と心配する家族がいます。しかし、亡くなる人には栄養も水分も必要ないので、おなかもすかず、のども渇かないのです。
終末期の患者にとり、脱水や低栄養はむしろ良いことです。なぜかというと、脱水や低栄養になると、脳内麻薬であるβエンドルフィンや血中のケトン体が増加します。血中のケトン体は、栄養源として自分自身の脂肪が使われることで増加します。そのため意識が 朦朧 として気分が良くなるのです。終末期に点滴や経管栄養を行うと、このような恩恵が受けられません。枯れるように死んでいけば、楽に死ねるように私たちは創られているのです。
日本も介護施設での看取りが増加
20年ほど前にスウェーデンに行った時、高齢者は延命されないで穏やかに亡くなっていることを知り、心底驚きました。その当時の日本では、延命は当たり前で、穏やかに最期を迎えている人はいなかったからです。
しかし、この20年で日本もスウェーデンのように、介護施設で延命されずに、安らかに看取られる高齢者が増えてきました。その数は12%(※)とまだ少ないですが、20年前は極めてまれだったことを思うと、隔世の感があります。高齢化が進み、延命を望まない人が増え、訪問診療医が自宅や介護施設で、延命せずに看取ってくれるようになったからだと思います。
人はいつか必ず死にます。その時、穏やかに亡くなっていきたいものです。
(※)全死亡者に対する割合のため、高齢者に限ればさらに多くなると思われる
(終わり)
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