Side あなたの下の名前
シーン………
いつもなら「あなたの下の名前、靴は揃えて」「手洗いうがいを先に」
って声が飛んでくるのに、今日はなぜか静かだった
仁人は一体どうしたんだろう?
そう思いながらリビングに行くと、ソファーの上にこんもり布団の山ができていた
ひょこっと出てきた彼の顔はりんごみたいに真っ赤だった
髪はボサボサだし目はとろんとしてる
普段のアイドル姿とは大違いだった
離れようとしたら私の手首を仁人の手が掴んだ
…え、何この破壊力……!?
普段は全然甘えてこないのに、今日は別人みたい
大急ぎでタオルを冷やしてお粥を作って戻ると、仁人は普段私が使ってるクッションをぎゅっと抱きしめて待っていた
嘘おっしゃい。私の手首を掴んだ力、結構強かったじゃん。
でも、期待に満ちた目で口を開けて待ってる彼の顔があまり
にも可愛すぎて、もう降参するしかない
仁人はふにゃふにゃと眉を下げて微笑むと、私のお腹辺りに顔を埋めた
ずっとそんなこと思ってたんだ
普段そんなこと言わないのに、今日だけはいつになく素直
私は彼の頭をそっと撫でた
そのまま安心したのか、仁人は私の腰をぎゅっと抱きしめたまま眠ってしまった
すぅ、すぅ、とリズムよく寝息が聞こえてくる
私は、熱が下がった後に彼がこれを思い出して、顔を真っ赤にするのを想像して少しだけ意地悪く笑った
そうつぶやくと、彼から「あなたの下の名前…大好き……」と小さく寝言が聞こえた気がした
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!