「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。

 注目を集めながらも理解しにくい「発達障害」の世界を、できるかぎり平易に、かつ正しく紹介していきたい。そんな思いから、医師など専門家への取材から見えてくる「外側の視点」と、発達障害を持ちながら生きる当事者に取材する「内側の視点」という2つの視点を設定する。

 これまで「外側の視点」を持つ、医師2人へのインタビューお届けしてきた(前回はこちら)。

 今回は「内側の視点」。学習障害(LD*1)、注意欠如・多動症(ADHD*2)、アスペルガー症候群(*3)という3つの発達障害の診断を受けている漫画家の沖田×華(おきたばっか)さんに、インタビューした。「自分がほかの子どもと違う」という違和感がどのように生まれ、何に困難を感じ、どう克服してきたのか。親や教師など、周囲の人たちにどう接してもらいたかったのか。率直に忌憚(きたん)なく話していただいた。

*1.限局性学習症/限局性学習障害(学習障害)、LD (Specific Learning Disorder)
*2.注意欠如・多動症、ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
*3.アスペルガー症候群(Asperger syndrome)知的障害や言語発達の遅れが少ない自閉性障害の一つ。現在は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders)の障害群に含まれた概念となっている。

ご自身が小さいころを振り返って、最初に「自分はほかの人と違うかも」と、違和感を覚えたのはいつごろ、どんなきっかけからでしたか?

沖田×華氏(以下、沖田):あり得ないぐらいの忘れ物の多さ、ですかね。小学校1年、2年……。特に3年生からひどくなりました。担任の先生が変わって、その先生が嫌いで、そのことに気を取られてしまったんですね。宿題ももちろん忘れるんですが、ランドセルもしょっちゅう忘れていました。冬、ジャンパーを着ると、ランドセルを背負ったと勘違いしてしまうんです。

ああ、ジャンパーを着る動きって、ランドセルを背負うのに似ているから。

怒られている意味が分からない

沖田:そうそう。そのまま出かけてしまうことがよくあって。それで「どうして忘れてきたんだ」と先生に言われても、その質問に答えられないんですよ。「いや、忘れたから、忘れました」と答えて怒られるんです。

 「結局のところ、何をどう言ったら、先生は許してくれるのかな?」ということを、毎日考えていたような気がします。忘れ物をしないためにはどうすればいいのかというのは、私のほうが聞きたいぐらいでした。

 ただ私にとっては、先生の与える罰が罰にならなかったんです。「廊下に立ってなさい!」と言われたら、「わーい」と喜んで、そのままグラウンドに出て行ったり、「教室から出て行きなさい!」と言われたら、「ラッキー!」と思って、家に帰って漫画を読んだりしていました。遠足も途中でいなくなって怒られました。帰り道、自分の家の前をたまたま通ったので、そのまま家に戻っただけなんですけど。何で帰ったらダメなのかが分からなかったんですね。

 学校のルールと違う自分のルールがあって、どうしてもマイルールを変えられない。どれだけ怒られても、マイルールに則(のっと)った行動しかできないんです。

<span class="fontBold">沖田×華(おきた ばっか)</span><br />1979年、富山県生まれ。小中学生のころに、学習障害(LD*1)、注意欠如・多動症(ADHD*2)、アスペルガー症候群(*3)と診断される。高校の衛生看護科を卒業後、看護学校に進み、正看護師として勤務。名古屋で風俗嬢として働いた後上京し、『漫画アクション』(双葉社)の新人賞に応募、選外奨励賞を獲得し2005年デビュー。『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社)など著書多数。『透明なゆりかご ー 産婦人科医院 看護師見習い日記』(講談社)にて、2018年「第42回講談社漫画賞(少女部門)」受賞。本作はNHK でドラマ化され、「第73回文化庁芸術祭テレビ・ドラマ部門」にて大賞を受賞。ペンネームの由来は「起きたばっかり」(写真:栗原克己)
沖田×華(おきた ばっか)
1979年、富山県生まれ。小中学生のころに、学習障害(LD*1)、注意欠如・多動症(ADHD*2)、アスペルガー症候群(*3)と診断される。高校の衛生看護科を卒業後、看護学校に進み、正看護師として勤務。名古屋で風俗嬢として働いた後上京し、『漫画アクション』(双葉社)の新人賞に応募、選外奨励賞を獲得し2005年デビュー。『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社)など著書多数。『透明なゆりかご ー 産婦人科医院 看護師見習い日記』(講談社)にて、2018年「第42回講談社漫画賞(少女部門)」受賞。本作はNHK でドラマ化され、「第73回文化庁芸術祭テレビ・ドラマ部門」にて大賞を受賞。ペンネームの由来は「起きたばっかり」(写真:栗原克己)

宿題をお金で解決して怒られる

宿題はどうでしたか?

沖田:宿題を忘れると、昔の先生、手が出るんですよ。そこで「殴られないためには、どうしたらいいんだろう?」と考えたら、「頭のいい子に、何かをあげて写してもらおう」という結論になっちゃったんです。「50円あげるから答えを書いて」って。等価交換っていうのか、「お金を出せば、何かを返してもらえる」ということだけは分かっていたので。家が中華料理店だったので、残り物のチャーハンを持って行ったこともあります。

学校で問題になりませんでしたか?

沖田:なりましたよ。チャーハン事件は、本当にめちゃくちゃ怒られて。でもそのときは、「どうしてこんなに怒られるんだろう? 家の物を持って行ってあげただけなのに」と思ったんですよね。自分が何で悪いのか、ということの自覚がまったくできなかったんです。

忘れ物と宿題以外に、小学校生活で困ったことはありますか?

沖田:私、小学校3年生のときに「かん黙」になったことがあって。

まったくしゃべれない、ということですね。

沖田:しゃべれなくなると、動きも止まるんです。立ったまま地蔵のように固まっている感じです。それで3時間、授業が止まったり。

3時間、立ったままで。

沖田:先生は私に、「宿題を忘れてごめんなさい」と言わせたかったんですね。でも、私にはそんな先生の意図がまったく分からなかった。「どうしてだろう?」と思いながらぼーっと立っていました。1時間が過ぎて、キンコンカンコンってチャイムが鳴って、休み時間が終わって、次の時間に入って。「連帯責任」ということで、他の生徒も私がしゃべるまで席から動いてはダメ、休み時間でも外に出たらダメとなるんですよ。

教室全体が、シーンとしたまま3時間ですか。

沖田:でも、ここが私の悪いクセというか、「これ、一生は続かないな」と思ったんです。さすがに給食の時間になったら先生もやめるだろうから、それまで待っていようって。最終的には、びんたを食らって、先生とクラスメイトに「宿題を忘れてきて、迷惑かけてごめんなさい」と言わされました。これが、お決まりのパターンでしたね。

え、そんなことが頻繁にあったんですか?

沖田:だって、「何で宿題忘れてきたの?」という質問に答えられないんですよ。「あー、忘れました」と答えると、また「何で?」と。繰り返し尋ねられても、それ以上答えることがないので黙って固まっちゃう。よくありましたね。

 ただ、給食になると楽しくなって、「わー、カレーだ!」とか言いながら、がつがつ食べているものだから、みんなぽかーんとしていました。「さっきまで3時間も授業止めていたやつが、何でおかわりとか、牛乳早飲みとかできるんだ?」って、きっと思っていたはずです。すごく変な生き物を見るような、そういう感じはありましたね。

<!--bpexclude:start-->沖田さんの漫画『こりずに毎日やらかしてます。発達障害漫画家の日常』(ぶんか社)より<!--bpexclude:end-->
沖田さんの漫画『こりずに毎日やらかしてます。発達障害漫画家の日常』(ぶんか社)より
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人間の子どもに化けた「タヌキの子」

「発達障害とは何か」ということを沖田さん自身の体験からできるかぎり簡単な言葉で表現するとしたら、どういう表現になりますか?

沖田:小学生のころは、自分は「タヌキの子みたい」と感じていました。「タヌキが人間の子どもに化けて、一生懸命、人間のルールを覚えようとしている」という感じです。真似はできるのですが、人間のルールを根本的に理解していないので、的外れなことになっちゃって、外から見るとすごく目立っていたみたいですね。

 先生の指示は、ほとんど理解できませんでした。怒られていることは分かるんですけど、何について怒られてるのかがさっぱり分からない。それで、頭の中がフリーズしてしまうんですね。だから、いつもぼーっとしているように見えたようです。私としては、皆と同じように頑張ってやろうとしているのですが、10分の1もできていない。そんな状態が発達障害だと思います。

「周りと同じになりたい」という思いは、強かったんですね。

沖田:人間の子どもに憧れて化けてみたけど、尻尾も出ているし耳も生えている、みたいな感じですね。いじめられて「あっち行け」と言われても、人間になりたいからついていく。とにかく「日本人の子ども」になりたいと思っていました。日本の子どもになじみたかった。

 ですから「どうやったらみんなと仲良くできるんだろう?」と、いつも考えていました。ただ、どうやって友達をつくったらいいのかも分からなくて。そんなふうに悩んでいたときに、テレビで『サザエさん』を見ていたら、「友達を家に呼んでお菓子を出す」というシーンがあったんです。「ああ、こうすればいいんだ」と思って。それで、同級生を家に呼んで「はい」って、お菓子を出しました。でも、それしかしないので、同級生はつまらなくなって帰っちゃう。おかしいな、どうしたらいいんだろうと。「何を一緒にしたら友達なのか」という「友達の定義」が分からなかったんです。

そういうことって、周りも教えないですもんね。

沖田:自然にできるようになるんですよね、きっと。

小学生のころを振り返って「自分のことをタヌキの子みたいと感じていた。人間の子どもに憧れて化けてみたけど、尻尾も出ているし耳も生えている、みたいな感じ」と振り返る(写真:栗原克己)
小学生のころを振り返って「自分のことをタヌキの子みたいと感じていた。人間の子どもに憧れて化けてみたけど、尻尾も出ているし耳も生えている、みたいな感じ」と振り返る(写真:栗原克己)

「ノートを取れない理由」が伝わらない

振り返って、小学生のときに「先生がこうしてくれたらよかったのに」と思うことはありますか?

沖田:言うことを聞かせようと、思わないでほしかったですね。その子にはその子のペースのようなものがあって、同調圧力で「みんなに倣え」みたいなのは難しい。みんなと一緒に教室にいるのがきつくて、図書室や保健室のような「ちょっと落ち着いた場所」に「リヤカーで運んで置いていってほしい」と思っていました。

構われるよりは、放っておかれたほうがいい感じでしょうか?

沖田:そうです、そうです。構われてる理由が分からないので。ちょっとクールダウンしたいときは、よく自主的に図書室に行っていたんですけど、傍からは、どう見ても遊んでいるようにしか見えないんですよね。そのころは先生たちに発達障害に関する知識もありませんでしたし。

 だからどの先生が見ても、私は「ただ怠けているだけの生徒」なんですね。授業ではぼーっとしてるし、ノートも取らないし、話も聞いてないし、頭も悪い。そのくせ、口答えばっかりする。「何でノートを取らないんだ!」と言われて、「いや、鳥の声がうるさいんです」とか言って。でも、本当にうるさかったんです。

実際にそう聞こえるってことですよね。聴覚過敏もあったんですね。

沖田:そうなんです。「2階の生徒の声がうるさいです」とか言って。集中できない理由はたくさん言うことができるんですけど、先生はそういうことを求めていないじゃないですか。

そっか、そうですよね。先生から「ノートが取れない理由」を問われたときに、沖田さんはちゃんと「理由」を答えているのに、先生には口答えに聞こえてしまうんですね。

沖田:「そんなことを気にするからダメなんだ。ちゃんと目の前のことに集中しろ!」と言われるんですけど、私、シャープペンの芯や鉛筆が紙にこすれる音ですら気になって仕方がなくて。みんな、こんなやかましいなかでどうして真面目に勉強できるんだろうって。

小さいころは、みんな自分と同じだと思っているものですよね、きっと。

沖田:だから、こんなうるさいなかで集中できる周りの子たちが、信じられませんでした。

そんなクラスメイトたちのことを、どんなふうに見ていましたか?

「普通の子ども」とは「ロボット」である

沖田:私以外の子どもたちはみんな、ロボットっぽいなって。先生の言われたことが的確にできるから。「この子たちは優秀なロボットだから先生の言う通りにできるけど、私は人間だからしょうがないんだ」と思うようになりました。

小学校生活のなかで、自分と周りの子たちの捉え方が、「自分=タヌキの子:周り=人間の子」から、「自分=人間:周り=ロボット」に変わっていったということですね。

沖田:「人間だから、ミスもするよね」って。あとは、血液型のせいにしていましたね。私、B型なんですけど、「B型は、いい加減で楽天的」ということを耳にしてから、「そうか、これは血液型のせいか」と考えるようになったんです。血だから、仕方ないって。そんなふうに、学生時代は乗り切れたんですよね。本当の地獄を見たのは社会に出てからで。このころは、先生や親から手を出されて、鼻血なんか何回も出していましたけど、まだ余裕があった感じです。

最初に診断がついたのは、いつですか?

沖田:小学校4年生のときにLDだと言われました。でも、「LDって何? 学習障害って何? それ頭が悪いってこと?」と。親もそんな認識でした。確かに、成績にものすごく凹凸はあったんです。まあ、得意なものがあるといっても70点ぐらいなんですけど。そのときはまだ、文字の読み書きや計算能力に問題があるというふうには考えてなくて、頭が悪いから「覚えられない」んだと思っていました。

LDと言われても、それがどういうものかという認識はなかった、ということですね。30年以上も前の話ですから、当時、そんなに情報があったわけではないですよね。

沖田:そうなんです。私、富山県出身なんですけど、発達障害を扱う施設は、一番近くても福井県にしかなかったんです。少なくとも私の小学校の中では、女子で発達障害の子は1人もいなかった。頭の悪い子といったら不良っぽい子で、私のように真面目なのに頭が悪い子はいない。どうもわざとやってる感じではなさそうだけど、なぜだろうと。

周りも理由が分からない。

「怠けている?」それとも「耳が聞こえない?」

沖田:理由が分からないので、「怠けてる、だらしない」というのが、最初の評価になるんですが、そのうち「もしかしたら耳の聞こえ方がよくないんじゃないか」という話が出てきて、何度も何度も聴力の検査をさせられました。

「耳の聞こえが悪いから指示が伝わらないんじゃないか」ということですね。でも、聴力が悪いっていう結果は出ないわけですよね。

沖田:出ないんです。結局、「わざと聞かないんだね」という結論になる。

そうか。そうなっちゃうんですね。

沖田:私としたら「えーっ」て感じです。でも、そうなっちゃうんですよね。

「今日はうまくいかなかったね」と言ってほしい

ご両親や家族に「こうしてほしかった」と思うことはありますか?

沖田:諦めてほしかったです。苦手なことを何時間やっても何日やっても、成果につながらないということを、分かってほしかった。

 私、4歳ぐらいのときは天才って言われていたんですよ。小学校に入る前に「檸檬」とか「醤油」とか、難しい漢字を読むことができたんです。九九もできていたんですね。でも丸暗記で理屈が分かっていなかったので、小1のテストではいきなり0点。母はすごくショックだったようです。

天才の時期があったから、お母さんも諦めきれなかったのかもしれませんね。

沖田:あと、これは学校の先生もなんですけど、「今日はうまくいかなかったね」って言ってほしかったです。

「今日はうまくいかなかったね」ですか?

沖田:「ダメ」っていう言葉を「うまくいかなかった」って言ってほしかった。毎日できないことだらけですけど、たまに「できる日」があるんです。でも、誰にも評価してもらえない。私にとっては、「今日は何も忘れ物しなかった」というのが、すごい「奇跡の日」なんですけど、周りのみんなにとってはそれが当たり前なので。

すごく頑張った「奇跡の日」でも、誰にも褒めてもらえないと。

沖田:すると、すごくやる気がなくなっちゃうんですよね。これだけ頑張っても褒めてもらえないんだったら、いつもの自分でもいいじゃん、みたいな感じに。

そうか。そうですよね。それが何年間も続けば、諦めたくもなりますね。そんなところから、「二次障害(*4)」が生まれてしまうんですね。

*4.二次障害 最初のADHDやASD、LDから派生して生じる、うつ病、不安障害、ひきこもりなどの障害。

「壺を買わないだけ、ましだと思ってよ」

沖田:すごく努力していることが全然成果につながらず、評価もされないので、「どれだけ頑張ったらいいのか」ということが、小学生のころはまったく分からなかったんです。

 ただ、うちの母親もすごくかわいそうだったと思います。私を含めて3人子どもがいるんですけど、弟の1人も発達障害なんです。母もそうなんじゃないかと思うところがあります。母は子育てで苦しんでいましたが、話を聞いてくれる人が誰もいなかった。父親でさえ、「母親なんだから、おまえが何とかせえ」って感じで。ママ友だって、理解できないじゃないですか。

 そんなときに、占い師だけは話を聞いてくれたらしいんです。だから、いまだに占い師のところに通っています。大人になってから「もう占いはいい加減にして!」って怒ったら、発端は私のことだったと。それはかなりショックでした。ただ母親自身は結構ポジティブな人なので、「壺(つぼ)を買わないだけ、ましだと思ってよ」なんて言っています(次回に続く)。

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自閉スペクトラム症(アスペルガー症候群)・ADHD(注意欠如・多動症)・LD(学習障害)という3つの発達障害を持つ作者が、日常生活での自身の「やらかし体験」をセキララに描く、大人気シリーズ。第7弾は、『わいわい毎日やらかしてます。発達障害漫画家の日々』(ぶんか社)です!

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