名作『許されざる者』(1992)は何度
観ても名作中の名作で、物語だけで
なく作り込みが実に細かい。
俳優たちの演技も素晴らしい。
本作の中で一番好きなシーンは、高
慢な英国人ガンマンのイングリッシュ
ボブ(リチャード・ハリス)の登場シー
ンだ。
顔をカウボーイに切り付けられた娼
婦たちの依頼で殺し屋として街に列
車でやってくる。アメリカ人を「植
民地の人間で女王への敬意さえない」
として見下し切っているガンマン。
だが、ボブは圧倒的な暴力と独裁で
街の平和を維持する元アウトローの
保安官リトル・ビル(ジーン・ハック
マン)に一方的な制裁を受けて半殺し
にされてしまう。保安官助手たちで
取り囲んでボブを武装解除したのち
の壮絶なリンチで。
そのボブが街に来る途中の列車で
英国人に対して反感を持つアメリ
カ人と銃の腕比べをする。
走行する列車から鳥を放ち、それ
をそれぞれが交代で撃ち落とす。
ボブの圧勝だった。
私はこのシーンが本作の中では一
番好きだ。
悪徳保安官の圧政の伏線になって
いるからだ。
挑戦して崩そうとしても崩せない
暴力の壁は、やがて、やはり娼婦
に雇われた元ならず者のウィリア
ム・マニー(クリント・イーストウ
ッド)がそれを上回る暴力で突き崩
す。
だが、マニーも最初は悪徳保安官
リトル・ビルにイングリッシュ・
ボブと同じように痛めつけた。
そのマニーを介抱してくれたのは
顔を傷つけられた優しい娼婦だっ
た。
ここにも、劇中では明かされない
マニーと亡き妻の物語を説明する
伏線が流れている。夫と二人の幼
い子を残して病没した妻は、生前
どんな人であったのかの。
なぜ、マニーが極悪非道な無法者
からごく普通の家庭を持つ男にな
れたのかは最後のナレーションで
語られるが、その真相は語られな
い。
しかし、物語全編を俯瞰すれば
それは見えてくる。
何によって人は動かされるのか、
その衝動と動機は何によって裁か
れるのかを描いているのが本作
『許されざる者』だ。
『許されざる者』は単純な物語で
はなく、多くの伏線が映像描写の
中で敷かれている。
テーマは「人の心」の作品だ。
何を以て何が「許されざる」事で
あるのか、という人に対する問い
かけ。
イングリッシュ・ボブの列車から
の射撃シーンのリチャード・ハリ
スの演技には細かい表現がある。
実はボブもまた「許されざる者」
の一人で、人を背後から撃ち殺し
たりして虚飾の名声を得ていた。
そして、列車からの射撃後にコル
トの弾丸を交換するシーンでは微
細に手が震えているのだ。演技が
とても細かい。
私は好きなシーンだ。
数多くの名演技をフィルムに刻んだ
リチャード・ハリスだが、私が傑出
した名演と思えるのは『ワイルド・
ギース』(1978)で英国人傭兵のレイ
ファー・ヤンダース中佐を演じた時
のハリスだ。
もう、最高。
映画『ワイルド・ギース』はヤンダ
ース中佐と寄宿学校に通ういたいけ
な小学生の息子の関係と彼らの行く
末が物語の核心部分を占める。
ヤンダースはフランス人の妻に裏切
られ、傭兵としても依頼者に裏切ら
れる。傭兵部隊全員死亡ほぼ確定の
窮地に立たされた。依頼者の独裁国
家体制側との裏取引により黒人民主
化人士の政治家救出作戦は打ち切ら
れて帰還用航空機が途中で引き返し、
傭兵部隊全員はアフリカ某国に置き
去りにされて輸送機は飛び去ったか
らだ。作戦成功後にそれだった。こ
の時点で50名の傭兵の死亡者はゼロ
だったが、やがてソ連に支援された
圧倒的数の敵兵にどんどん英国人傭
兵たちは殺されて行く。
そしてレイファーも最後の最後で死
亡する。蜜に群がる蟻のような敵兵
に取り囲まれて、取り残されて虐殺
される事を避けるためにレイファー
自身が親友であり隊長のアレン・フ
ォークナー大佐に「私を撃ち殺せ」
と叫んで。
裏切りへの報復は、半年後に英国に
命からがら密かに生還したアレンが
依頼者の富豪の貴族に対してきっち
りと落とし前をつけた。傭兵の遺族
たちへの損害補償金もしこたま現金
で取り上げた上に富豪を邸宅で射殺
した。
だが、富豪の命一つでは裏切りの代
償としては到底まかなえない。
あまりにも理不尽で大きな犠牲を払
わされた裏切りだったからだ。
人間の裏切りが生産するのは負の連
鎖と人間の不幸のみ。
だが、人間は人間をいつまでも何度
も裏切り続け、神をも裏切る事を今
も続けている。
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