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【米国最新情報:108】最高裁の反トランスジェンダー判決(2):エバンジェリカルが主張する宗教的理由

ジャーナリスト
エバンジェリカルがトランスジェンダーに反対する根拠は『聖書』にある。『聖書』は神は「男」と「女」の2つの性を創ったと書かれている。写真:ロイター/アフロ

3回連載の2回目

【目 次】(総字数:約3000字)

■神は「男」と「女」という2つの性を創った/■最初のトランスジェンダーの政治問題/■常に政権発足直後にトランスジェンダー政策が変更/■トランスジェンダーとスポーツ裁判の経緯/

■神は「男」と「女」という2つの性を創った

 少し「DEI問題」の説明が長くなったが、本題の「なぜ保守派はトランスジェンダーを否定するのか」という問題に入る。保守派というよりは、トランプ大統領の最大の支持基盤である保守派のキリスト教徒エバンジェリカル(福音派)と言ったほうが正確である。

 エバンジェリカルは、『聖書』の文章は神の言葉であり、『聖書』の教えに従って正しく生きることが、審判の日に天国に行く条件であると“本気”で考えている。『聖書』には「神は人をご自身のかたちに創造された。男と女に創造された」と書かれている。要するに神は最初にアダムを造り、そしてイブを作ったのである。もっと具体的に言えば、アダムの「あばら骨」から作られたのである(蛇足だが、エバンジェリカルの「男性優位社会」や「家父長制」の考え方も、ここから出てきている)。

 エバンジェリカルは、「生物学的な性別」は神の創造の一部で、変えることのできないものだと考えている。この世には「男」と「女」という2つの性しかないと主張する(これを英語で「binary」という)。エバンジェリカルは、自分の内面的なジェンダー意識(gender identity)より、生物学的な性別が優先されるべきだと考える。

 そこには「男性にも、女性にも属さない第3の性(nonbinary)」は存在しえない。多くのエバンジェリカルの神学者は「自分の内面的な感覚が自己の本質を決める」というリベラル派の考え方を受け入れていない。彼らは、人間の性的なアイデンティティは、あくまで生物学的な現実と神との関係に基づくべきだと主張している。

 これだけなら一種の神学論争である。だが、トランスジェンダー問題が政治問題として出てくる。トランスジェンダーの女子スポーツへの参加、トランスジェンダーの女子刑務所への収容問題、トランスジェンダーの女性シェルターの使用問題、トランスジェンダーの女子更衣室や女子トイレの使用問題である。さらに未成年の思春期抑制剤(puberty blockers)の使用、性ホルモン治療、性別適合医療といった問題も浮上してきた。エバンジェリアカルや保守派のカトリックは、性別移行に反対し、生物学的性別に基づく法律を支持している。トランプ政権は、パスポートや運転免許証での「nonbinary」な表記を禁止し、男性か女性かを明記するように命じている。

 こうして「トランスジェンダー問題」が保守派とリベラル派の大きな対立点となった。「文化戦争」の最大の焦点となった。

■最初のトランスジェンダー政治問題

 最初の争点は、トイレや更衣室の使用問題であった。リベラル派を代表するオバマ大統領は、トランスジェンダー問題を「差別問題」と考えた。2016年に教育省は、公立学校に対して、連邦資金を受け取る条件として、トランスジェンダー生徒に対し、自認する性別に一致したトイレ・や衣室の使用を認めるように通達を出した。要するにトランスジェンダーは、女子トイレや更衣室を利用できるようになったのである。

 教育省が出したガイダンスには、①学校は「生物学的性別」に基づいて施設を制限してはならない。②トランスジェンダー生徒は性自認に一致する施設を使える、③他の生徒が使うのと同じ条件で使用を認める必要がある、④プライバシー確保のための個室トイレは設置できるが、強制はしないと規定されている。

 だが、2017年のトランプ政権の発足直後、教育省はオバマ政権のガイダンスを覆す通達を公立学校に出した。連邦政府は、トランスジェンダーのトイレ利用の統一ルールを設けず各州・各学区の判断に委ねる方針を示した(筆者の記事参照)。

 だが再び政権が交代した。2021年に発足したバイデン政権は、トランプ政権のトランスジェンダー政策を否定し、教育省は性的指向・性自認(gender identity)を公民権法上の「性差別」に含め、トイレや更衣室でのトランスジェンダー排除は原則禁止した。この方針を巡って保守的な南部の州で訴訟が起こされた。

 さらに政権交代とともに政策は変わる。第2次トランプ政権は、政権発足直後の2025年1月20日に「ジェンダー・イデオロギー過激主義から女性を守り、連邦政府における生物学的真実を回復する」と題する大統領令を出した。その内容は、性別は「男性・女性の2つのみ」、性別は「変更不能な生物学的事実」、「性自認(gender identity)」は連邦法の基準ではないという、エバンジェリカルの主張を全面的に受け入れたものである。

 この大統領令によって、トイレや更衣室の使用は男女別のトイレにすること、性自認による使用は禁止する、連邦政府機関は性別区分を生物学的性別で施設を運用するとしている。

■常に政権発足直後にトランスジェンダー政策が変更

 いずれも政権発足直後にトランスジェンダーに関する政策が変更されている。これは、この問題がアメリカでは非常に重要な意味を持つからである。

 トランプ政権の反トランスジェンダー政策は軍にも及んだ。上記の大統領令で「個人の性別と一致しないジェンダー・アイデンティティを受け入れることは、兵士に求められる名誉、誠実さ、規律ある生活への献身と相容れない。これは私生活においても同様である」として、トランスジェンダーの軍での服務を禁止している。ヘグセス国防長官は、トランスジェンダーの軍人を「知らずで、不誠実で、規律を欠き、軍務に値しない人間」という発言を行っている。

 この問題は裁判で争われた。2025年12月9日に、連邦控訴裁判所の判事2人は、トランスジェンダーの軍人をアメリカ軍のすべての部門から排除するという大統領の方針を支持する判断を下した。反対意見を述べた判事は、この方針を「不必要にトランスジェンダーに対して侮辱的」であり、「すべてのトランスジェンダーのアメリカ人に対して公然と敵意を示すもの」だと批判した。現在、この係争は最高裁に上告され、最高裁は政策の適用を一時的に差し止めており、最終判断を下していない。

■トランプ政権、トランスジェンダー問題で大学に圧力を掛ける

 さらに深刻な対立を招いたのがトランスジェンダーの女子スポーツへの参加問題である。オバマ政権は「包括性(inclusion)」の立場から、トランスジェンダーのトイレと更衣室使用と同時に女子スポーツへの参加を認めた。だが、保守的な州はオバマ政権の方針は違憲であると訴えた。その後、第1次トランプ政権の方針変更で訴訟は収まった。

 第2次トランプ政権の教育省は、ペンシルバニア大学をトランスジェンダーの選手の女子競技への参加と女性専用施設の利用を認めたとして調査を始めた。2025年4月に「教育における性差別禁止法」に違反するという判断を下し、同大学に方針変更を要求した。もし要求に従わなければ連邦資金の凍結などの制裁を課すと、同大学に圧力を掛けた。最終的に2025年7月に大学は圧力に屈服し、女子スポーツを出生時女性に限定する方針を採用し、トランス女性の女子競技参加を制限することに同意した。

■トランスジェンダーのスポーツ問題で2つの訴訟

 州政府の対応として、2020年3月にアイダホ州は全米で初めてトランスジェンダーが女子の学校スポーツチームで競技することを禁止する法律(Fairness in Women's Sports Act)を制定した。これに対して、憲法修正第14条の「平等保護条項」に反するとして、トランスジェンダーの選手が訴訟を起こした。

 また2021年にウェストバージニア州が、女子スポーツを生物学的女性に限定するとする「Save Women's Sports Act」を制定した。これもトランスジェンダーの選手が連邦裁に提訴した。連邦地方裁は、同法が違法であるという判決を下したが、被告の州政府は連邦控訴裁に控訴した。同訴訟は、高校で砲丸投げと円盤投げに参加しているトランスジェンダーの生徒と母が原告である。その人物は、州の大会で優勝している。

 最高裁は2025年7月3日にアイダホ州事件とウェストバージニア州事件の2つの訴訟を併せて審理することを決定、2026年4月に口頭弁論が開かれた。その判決が6月30日に下された。

 なお、ウェストバージニア州法は、性別は「出生時の生殖生物学および遺伝学のみに基づいて決定される」と定めている。そのため、「女性」とは、「出生時に女性という生物学的性別と判断された者」であると規定している。アイダホ州法(2020年制定)も同様に、「女性・女子・少女のために指定されたスポーツは、男性の性別を持つ学生に開放されるべきではない」と定めている。

連載(3)へのリンク:【目次】■最高裁の判決の内容/■雇用とスポーツでの扱いは異なる/■トランプ大統領、保守派の“大勝利”と宣言/■相次ぐ最高裁の反トランスジェンダー判決/■日米のLGBTQ人口比率は類似

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ありがとうございます。
ジャーナリスト

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。アメリカの政治、経済、文化問題について執筆。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。ハーバード大学ケネディ政治大学院研究員、ハワイの東西センター・ジェファーソン・フェロー、ワシントン大学(セントルイス)客員教授。東洋英和女学院大教授、同副学長を経て現職。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。アメリカ政治思想、日米経済論、マクロ経済、金融論を担当。著書に『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など。contact:nakaoka@pep.ne.jp

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