【ビットトレント】 これまでの記事を読むにあたって
ここ一年、「トレント問題」を追っています
以下の「トレント問題」の記事を書いたところ、多数のインプレッションをいただいたため、ここで少し経緯をお伝えしたいと思います。
2025年の7月末に、知人の女性(しげ美さん/仮名)が、とつぜん「トレント問題」というものに巻き込まれてしまいました。なぜ私が関与することになったかというと、数年前に、しげ美さんのご先祖さまの墓じまいの事務手続きを手伝ったご縁からでした。
ある日、しげ美さんから「相続関係の書類が東京の法律事務所から届いたみたいなので、ちょっと内容を確認してほしい」と連絡がありました。封筒を開けてみると、著作権侵害行為に関する書類でした。青天の霹靂とはまさにこのことだと思います。
助けてあげるしかないよねえ😟🤝💦
これからの人生、仕事とも社会とも、しかるべき距離をとって、ひたすら岩波文庫を読みながら静かに暮らしていきたい。そう思っていた矢先のことでした。しかしながら、しげ美さんに送りつけられてくる手紙には、「民事」や「刑事」といった、ふつうの人であれば気が動転してしまう言葉が散りばめられていました。本人には全く身に覚えがないこととはいえ、民事訴訟や刑事告訴の可能性をちらつかされながら、この先、何年にもわたって高額な示談金を繰り返し請求され続ける生活など、女性ひとりで抱え込むには、あまりにもつらく、過酷です。これは私が助けてあげるしかないと思いました。きっと、しげ美さんのご先祖さまが私を選んだのでしょう。
これは社会問題です
しげ美さんにとって、この問題は「独り身の女性が金銭の要求を伴う性被害に遭っている」と解釈できる一定の余地があります。また、権利者側による開示情報の利用方法や『警告書』(および『示談の連絡文』)の送付経緯などをふまえると、権利者側の一連の対応が不法行為(民法709条)に該当するかどうかについて、裁判所の判断を求めるに足る法的論点が存在するものと考えています。
法律実務の最前線から見えるもの
一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC) が刊行するこの論文誌では、「トレント問題」の構造や、裁判のいわゆる「裏舞台」について、非常に優れた解説を行っています。
掲載されたそれぞれの論文には、公益に対して相当な価値があるものと思われます。有料のため直接の引用は控えますが、個人的には特に「長瀬論文」と「丸橋論文」が参考になりました。
・長瀬論文では回線契約者が誰かを特定することと、その人物が実際の侵害主体であることは別問題であるという点を、裁判例の分析を通じて丁寧に論証しています(pp.2-3,第3節の2 権利侵害者の特定に関する主張立証について)。
・ 丸橋論文ではさらに踏み込み、権利者側の示談戦術そのものを正面から批判しています。権利者側は示談で儲かる(超過利潤)ため、裁判所とISPが疲弊するほどの開示請求を行っているものと推察しています。また、権利者側から請求される示談金は、裁判で認められる損害賠償額を超えていることや、具体的にファイル共有ソフトの利用実態がないと否認する意見が多数あることなども、丸橋論文では指摘しています(p.39,第1節 はじめに)。
これらの論文は、しげ美さんのケースが構造的な問題の典型例であることを、研究者が独立した立場で裏付けてくれるものです。また、「谷川論文」では、損害額の算定には困難な問題があるという趣旨の記述がありました(p.15)。今後は、これまでの裁判例で示されている、損害額の計算式に構造的な誤りがないか、つまり場合によっては、実態と大幅に乖離した損害額が機械的に認められる欠陥はないのかを検証する論考なども、ぜひ読みたいところです。新しい論文に期待しています。
おわりに
過去のふたつの記事の背景には、こうした経緯がありました。「トレント問題」を扱う時は、どうしても深刻にならざるを得ませんが、リラックスした文章も書いていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
参考資料
長瀬貴志「ファイル共有ソフト(BitTorrent)による著作権侵害に関する近時の裁判例について-知財高裁令和4年4月20日判決 及び令和6年6月26日判決を中心に-」SOFTIC Law Review Volume 2, Number 2(2025)1頁以下
丸橋透「P2Pファイル共有者の発信者情報開示請求と検知システムの信頼性-AV権利者の示談戦術による裁判所とISPの疲弊を解消するために-」SOFTIC Law Review Volume 2, Number 2(2025)39頁以下


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