実は「8時間睡眠」でも足りない!? 日本の子どもを蝕む“睡眠不足”の深刻すぎる代償「自殺リスクが約3倍に…」
塾、部活、スマホ、宿題――。気づけば日本の子どもたちの睡眠時間は年々短くなっています。しかし、その代償は私たちが想像する以上に深刻かもしれません。実は日本の子どもたちの睡眠時間は世界でも極めて短く、中高生の多くが“慢性的な睡眠不足”状態にあることが判明しています。 【日本の子ども95%が睡眠不足という衝撃】我が子を「19時消灯」で激変させた元教員が痛感したこと そこで、東京医科大学睡眠学講座客員教授の医師・志村哲祥さんが、「早起きは健康に良い」という私たちの常識に科学的な疑問を投げかけ、子どもたちの睡眠不足が学力やメンタル、不調にまで影響を及ぼす実態を解説した書籍『寝た子は起こすな 「早起き神話」の深刻な現実』(NHK出版)から一部抜粋してご紹介。 今回は、その睡眠不足が子どもの「うつ」や「自殺リスク」に直結しているという、目を背けられない日本のシビアな現状に迫ります。 統計開始以来、過去最多を記録してしまった小中高生の自殺者数。この危機を脱するために、本当に必要な睡眠時間は何時間なのか? 詳しく解説します。
日本の子どもの睡眠時間は自殺危険ライン!?
中学生の睡眠時間は6〜7時間台、高校生の睡眠時間は6時間台であり、いずれも8時間を下回っています。この睡眠不足の深刻さを示す研究をご紹介しましょう。 中国において、平均年齢14.6歳の青少年1362名を対象としたアンケート調査が実施されました。この調査により、夜間の睡眠時間が8時間未満の青少年は、8時間以上睡眠をとる青少年と比較して、自殺未遂のリスクが2.9倍に上昇することが明らかになりました。この研究結果は、睡眠時間の不足と自殺行動との間に強い関連があることを示唆しています。 さらに、アメリカのバージニア州で2万7939人の学生を対象にした調査では、睡眠時間が短くなるほど絶望感、自殺念慮(ねんりょ)(自殺について考えること)、自殺未遂、薬物使用のすべてのリスクが増加することが確認されました。これらの研究結果は、青少年の自殺予防において睡眠不足への介入が有効な手段となりうることを示しています。 睡眠時間と自殺の関係性について言及することは、一見唐突に思われる方もいるかもしれません。しかし、後述するように、睡眠の問題はメンタルヘルスに強い影響を与え、不安やうつ、絶望感、そして希死念慮の原因となることが明らかになっています。子どもの自殺の増加は日本社会が直面する重要な課題の一つであり、両者の関連性を決して無視することはできません。 厚生労働省が警察庁の自殺統計に基づいてまとめた2025年の自殺者数(暫定値)によると、小中高生の自殺者数は532人に達しました。これは統計が開始された1980年以降、過去最多です。 さらに、世界と比較しても日本の子どもの自殺率は高い状況にあります。厚生労働省「令和7年版自殺対策白書」によると、G7の7カ国において、10代の死因の第1位が「自殺」なのは日本のみであり、かつ、このなかでは最も高い自殺率です。日本人の子どもは、先進国のなかで最も自殺しているのです。 子どもの自殺は複数の要因が絡み合って起きると考えられますが、10代という若さで自ら命を絶つ子どもが増加しているというのは由々しき事態です。8時間以上寝ることでそのリスクが軽減できるとすれば、根本的な原因への対処とは別に、即座に実行可能な予防的アプローチの一つとなりうるでしょう。 では、子どもに必要な睡眠時間は何時間でしょうか。 必要な睡眠時間は年齢によって変わります。睡眠時間は加齢にしたがって減少するもので、個人差はあるものの平均的には、0~12カ月の乳児には12〜16時間の睡眠が必要で、1~2歳で11~14時間、3~5歳で10~13時間へと変化していきます(いずれも昼寝を含む)。学齢期では心身の成長のために、小学生は平均で10時間、中高生でも9時間程度の睡眠時間が必要です。したがって、一般的に十分な睡眠時間とみなされがちな「8時間睡眠」は、未成年の子どもにとっては明らかに不足しています。 睡眠不足が子どもの心や命にまで影響を及ぼすのであれば、「十分な睡眠を確保すること」が何より重要になります。しかし、睡眠時間を増やそうとしても、すべての子どもが同じように早寝早起きできるわけではありません。でも、朝起きられないのは怠けでも甘えでもないのです。 次回は、日本人の約3割が該当する「夜型」のメカニズムと、「早起き神話」が子どもを苦しめてしまう理由を、最新の研究をもとに解説します。
〈著者プロフィール〉志村 哲祥
医師。東京医科大学睡眠学講座客員教授。順天堂大学附属順天堂医院、医療法人寿鶴会、東京医科大学精神医学分野客員准教授(睡眠健康研究ユニットリーダー)、スタンフォード大学精神・行動科学分野客員研究員を経て現職。神経研究所客員研究員、国立精神・神経医療研究センター客員研究員、米国国立睡眠財団Sleep Health編集委員、株式会社こどもみらいR&D統括医、睡眠リズム障害患者会(R&S)理事なども務める。著書に『子どもの睡眠ガイドブック──眠りの発達と睡眠障害の理解』(分担執筆、朝倉書店)などがある。