藪蛇
同棲前提成人済み🐯くんと高専術師ifの🌻さんの
二人のお話。とある理由から🌻さんがダイエットしようと
する話。⚠︎ 肉体関係を匂わせる描写があります。
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藪蛇
とある日の夕飯。日車と向かい合って、食事を囲む虎杖は切り出す。
「……なあ、俺の作る具材ってやっぱデカい?」
今日のメインは肉じゃが。味も悪くなく、
人参や、さやいんげんは野菜の味と絡めて肉の旨みを弥増す一品となっていた。ただ、毎回、完食していく日車の頬の膨らみをみて、少々、食べ辛さを虎杖を察した。
「いや、……そうだな、多少」
「う……今日作ったじゃがいも食べ辛かった?」
日車は、片手に顎を当てて考え込む仕草をしてから、二の句を継いだ。
「確かに、具材は、少し大きいかもしれないが、これはこれで食べ応えがあっていい。何より」
君が作ったとわかるから、このままがいい。
それを聞いて、虎杖は、ぱっと喜色に表情を滲ませた。
「へへ、そっか」
そんな穏やかな午後を迎えた数日後、異変が起こる。
「虎杖、俺はダイエットしようと思う」
「は?」
食卓で向かい合って、目線は合わないものの日車の突拍子のない発言に虎杖は、困惑する。思考の回転力が良すぎるあまり、時折、日車は、一から十の過程をすっ飛ばし、最短の最善である一のポイントから十のポイントにいきなり自論を着地させてしまう。
それ故に、周りからは誤解されるような奇行に映る行動や言動も、本人に聞けば、ちゃんと筋が通るものだと言う事が虎杖の経験から、理解できる。だが、虎杖と二人で過ごすときには、大概、愛おしい空回りをしている事に終わっている事が多かった。天才と称される日車は、こと虎杖のこととなると、惚れた弱みで奇行に走りがちな性質である。
「うーん……一応、理由聞いてもいい?」
虎杖が思うに、痩躯ではある日車の体格に、そこまで今すぐ痩せる程の深刻さを見出せずにいた。健康診断だって、特に異常は見つからず、むしろ虎杖と暮らし始めてからの日車は、健康に向かっていた。顔色が良くなり、日車の寝顔から、虎杖は、隈がほのかに薄くなるのが嬉しくて、薄い瞼を撫でる朝に喜びを覚える程だ。
日車は、おずおずと言いにくそうにしている。
「久々に、その、体重計に乗ったんだ」
「……そしたら?」
「前より、ウエイトが……増していて、驚愕した」
俯いて、片手で顔を覆う日車の言葉を待つ。
「まさか君の作るご飯が美味しいせいでこうなるとは……迂闊だった」
「うん。……うん?でも、それってさ」
俗に言う幸せ太りというやつなんじゃないかと虎杖は、思ったがあえて口を噤んだ。目の前の恋人の可愛い憂いが、己で生み出したものである事に少し、優越感を持ち始めた。
「いや〜……でも、日車、仕事で毎日動いてるし、そのままでもいいんじゃない?」
くつくつ喉を鳴らして笑う虎杖を、不誠実だと思ったのか、少し恨めしそうにする日車は、おもむろに席を立とうする。
「君は、中年の脂肪がいかに落ちにくいかわかってない。今から、少し走ってくる」
「ちょい待って! ごめんって待って日車」
この恋人なら、綿密に計画を練ってプランニングした上でこれをやる気だったのだろうと虎杖は思った。引き止めるためにも、日車の手首をテーブル越しに掴む。
「じゃあ、ちょっと確認させて」
「……?何を?」
要領を得てない恋人の背に机を迂回して回る。
「ちょっと触診」
バックハグのかたちで、日車の腰に手を回す。ぎょっとした日車が、虎杖を静止しようとする。
「っ……おい、虎杖……」
「ん、ちょっと動かんで」
はあ……という日車のため息が背中越しに虎杖に伝わる。こうなると聞かない事を日車は、知っていたし、膂力で彼に敵わない事も然り。
諦めてされるがままに虎杖に身を任せている。
腰の厚みも変わらず、やはり特に変わったところを見出せずにいる。
「やっぱ、そんな変わらんよ?」
いつもと変わらない恋人の体に安堵している。
虎杖が日車の腰から、下腹部に手つきをスライドさせたときだった。
「ぅあッ」
びくりと体を震わせた日車に虎杖は、何事かと目を瞬く。
一瞬、沈黙が部屋一体に立ち込める。この出来事にお互い思いあたる節しかない。
昨夜の営みとそっくりそのままの体制だった。
「……」
「……」
お互いが切り出せない気まずさを掬い取ったのは、虎杖が先だった。今でないと日車に聞き出せることができないと思ったからだ。
「——日車さ」
背中越しに尋ねながら、虎杖は、日車の腰を撫でる。密着感が、昨夜の盛り上がりを思い起こさせた。手つきが真昼のじゃれあいから、夜の手つきに変わる。
「他にも痩せたい理由あるんじゃないの」
わざとらしく日車の耳元で囁く、その間も虎杖は、日車の臍から下の位置を優しく懐柔する。
「ねえ」
じわじわと日車の首元が赤らんでいる。表情が見れないことを残念に虎杖は思うが、この絶景は何度見ても良いものだとも得心していた。
もう、あと一押しだと、虎杖は、日車のシャツの襟元に、キスを落とす。襟首から、赤い印を見つけて気分が良くなる。昨夜の己がつけた所有欲の象徴を今日も上書きできるのだから。
「言わないとわからないよ、日車」
日車が、羞恥に耐えかねて掠れた声を出す。
「……君に、抱かれるのに、みっともない体でいる、のが嫌だから……」
「よくできました!」
ぎゅうと、力をこめて日車にハグをする。
ぐ、と短い呻き声を上げて日車は抗議する。
「……君はたまに、ものすごく意地悪だ」
拗ねている恋人を虎杖は、宥める。
「ごめんごめん、こうでもしないと日車は、言わないじゃん」
それに、と付け加える
「日車は、悪い子の俺も好きでしょ」
そうでなければ、二回り下の男によがったりはしない。
「……君は」
呆れたような声が返ってくるが、決して見限らない信頼が声から伝わる。少々、臍を曲げている事も。
「だからさ、日車」
回した腕に力を込める。先ほどよりきつく。
耳元で囁く。ぴくりと逐一、身体を強張らせる日車の反応が可愛げを感じさせた。
「俺は、今のままの日車が好きだけど、運動したいなら手伝うよ?」
どうする?と片方の手で、日車の顎をくいっとこちらに向けさせる。もう唇が触れるまで、あと数cmといったところで寸止めする。
「……あ」
言葉が声にならない日車は、虎杖への期待に自身の肌を赤く高潮させた。こちらにそのままでは辛いでしょ?
と言わんばかりの虎杖にまなじりは、心の底から恐ろしく、日車をぞくぞくさせた。先ほどから、彼に触れられた箇所が熱を持って酷く切ない。寝室がリビングからそう遠くない事が、日車にとって運の尽きだった。