羽生結弦さん「震災との付き合い方、うまくなった」 取り残した自分
東日本大震災から15年。フォークデュオ「ゆず」がNHK仙台放送局の依頼から制作した震災伝承ソングに合わせ、プロフィギュアスケーターの羽生結弦さんがオリジナルのアイススケートを披露した。仙台市出身で被災者の羽生さんが、震災から15年の思いを語った。
つらい記憶、押し付けたくない。けれど…
◆震災から15年が経ちました
15年という月日が経っても、一生忘れることはないと思います。いろんな方々が震災を経験した。関東で強い揺れを感じた方々もいらっしゃる。揺れを感じなかったとしても、すごくショッキングな映像があり、様々な形での傷が残っているんだろうと思います。
15年前を大人として、また記憶のある子どもとして、経験した人間としては一生残るかもしれないですが、この15年間に生まれて育った人々につらい記憶を絶対押し付けたくはない。けれど、「こんなことがあったんだよ」ということは届けていきたい。届けなきゃいけない義務があるのかな、ということは使命感として持っています。震災の記憶がない世代にも、ゆずさんの曲だからこそ届く思いもあると思う。
実際に震災を経験して傷を抱えている方や、まだまだ苦しいよという方もきっといると思う。そんな人々の痛みに寄り添いながら、少しでも未来が明るくなるようにという祈りを込めてつくりました。
◆(テレビ放送用の収録で)1度目と2度目で少し振りが違っていた
自分で振り付けをさせていただいたので、楽曲を聴いて体が動くままにみたいなことは正直ありました。
フィギュアスケートの演技ってすごく一期一会なところがあって、その時々で乗せられる感情、呼吸、スピード感、回転の速さが本当に一度として同じものがないので、その中で変わってしまったのかなと思います。ただ、音と歌詞と思いを大事にして表現しました。
◆競技でのスピード感ある滑りと違い、ゆったりした滑りが印象的
すごく丁寧に氷を感じるということをしていました。僕自身、震災を氷の上で経験しました。
歌詞の最初の方に、「海」の言葉が出てくるパートで、(低い姿勢で滑る)ハイドロブレーディングをします。この曲に自分が振り付けをしたリンクが、被災したリンクでした。「こんなに静かな氷だけど、あの時はリンクがすごく波打ってて、本当に異常だったな」と思い出したことも含めて、丁寧に氷を感じながら全部滑っていきたいという気持ちでした。
歌で「会いたい」「会えない」というパートは、実際に言葉にしたいけれど言葉にしたらこぼれちゃいそうで、「会えない」と現実に引き戻されてしまうみたいなことを考えながら滑りました。そこにダッシュみたいに走り出すわけではなく、一歩ずつ歩んで、未来に向かって丁寧に進んでいくんだということは、振り付けとスケートで表現しようと思っていたことです。
震災で「ふたをしてきた自分みたいなもの」
◆中盤ででんぐりがえりしてひざを抱えるような動きが。ショーや競技とは違う動きだが、どんな表現なのか
自分にとってはそこが過去から現在のパートに変わるところだと思っています。そんな意味で、ずっとひざを抱えながら、曲の展開が変わっていく時に時間が過ぎ去り、ふと目を覚ましたら現在の状況が自分の周りにある。失われたものと進んでいるものが実際目の前にあるという感情から、振り付けを考えました。
◆歌で特に心に刺さる部分は
実際にゆずさんが被災された方々に聞いたお話が歌詞になっているんですよね。ここまでストレートな歌詞ってなかったなと思っていて。
ある意味、自分も素直に本当に失われてしまったものをすごく想像しながら滑りました。
◆「幾重」というタイトルにどんなイメージがありますか
北川悠仁さんと原摩利彦さんが作曲した結果として、本当に何層にも重ねられた楽器と声が幾重にも重なっているところが、いろんな人の人生の重なりを表現しているんだなとすごく感じています。
僕の中での「幾重」の解釈は、1人の人生の中で15年という月日が幾重にも重なって地層みたいになっているということ。そしていろんな方々の15年が地層として重なっている。この二つの意味があると思っています。
僕はその両方を表現できる人間だなって思っています。自分自身が仙台で被災をして、いろんな傷を抱えて生きてきたからこそ、重ねてきた15年間を表現できると思った。いろんな方にお話を聞いたりお会いしたりする機会をいただけたからこそ、いろんな方の15年も知っている。どっちも大切にしながら表現したいなというのは、振り付けの時も今日滑るときも思っていました。
◆15年経って震災への向き合い方で変わったことは
付き合い方はうまくなったなとは思います。
15年は人間が節目に感じやすい5の倍数の年月ですが、コロッと変わるかと言われたらそんなことはなくて。毎日の積み重ねの中でちょっとずつ変化することだと思うし、行ったり来たりする時もある。
そんな中で自分の傷への向き合い方、被災された方のつらい記憶や痛みに寄り添うことの距離感、見つめ合い方みたいなものが少しずつ上手になってきたなという感じはしますね。
ただ(傷を)えぐるだけ、悲しむだけ、寄り添おうと頑張るだけじゃなくて、そこに対してちゃんと手を差し伸べられるようにちょっとずつなってきたと思います。
傷ついた方に対して手を差し伸べたい、祈りたいということもあるんですけど、自分自身が取り残してきた過去の自分、ふたをしてきた自分みたいなものもある。そういうことにも「大丈夫だよ」と言ってあげられるように変化してきたと思っています。
「幾重」という楽曲にそうしていただけたというのもある。この楽曲と演技を見た時に、「ちょっとでも前に向こう」「傷を抱きしめながら未来に向かって」と思っていただくためには、自分自身がそうならなきゃいけない。すごくいい機会をいただいたなと思います。
◆震災を知らない世代が増えてくる。伝承への思いは
つらい記憶や思いは正直、僕らだけが持っていればいいと思っていて、それを無理やり提示することが伝承ではないと思います。だけど、「こういうことがあったから命を守る行動を学んだんだよ」ということは伝えていくべき、残っていくべきだと僕は思います。
記録としていろんな災害があったことは残すべきですが、本当に知らない世代にちゃんと残ってほしいのは僕らが学んだことだけだと思います。それさえちゃんと残っていれば、生きていけると思うんですね。3・11があったから、こうやって逃げることができたとか、防潮堤や水門ができたとか。
景色は変わってしまったかもしれないけれど、いろんなものが守られているんだということだけは伝わっていけばいいなって、僕は漠然と考えています。
羽生結弦さんの演技の放送予定
羽生さんが伝承ソング「幾重」に合わせて演技した模様は、NHK「てれまさ」(宮城県のみ)で6月11日、12日の午後6時10分から、「午後LIVE ニュースーン」(全国)で24日午後3時10分から放送される。また、いずれも「NHK ONE」の見逃し配信で視聴できる。
「デジタル版を試してみたい!」
というお客様にまずは1カ月間無料体験
関連ニュース
注目ニュースが1分でわかる
ニュースの要点へトップニュース
トップページへ戻るピックアップ
風の谷のナウシカは、生成AIを30年前に予見? ぞっとした展開
伝統と進化と 鼓動し続ける街、ロサンゼルス
&TRAVEL米陸軍士官学校を見学 未来のリーダーを育てる
&w10人に2人は「右派市民」 1万人調査で見えた特徴と分断回避の道 基層にあった右派的な意識が表面化
Re:Ron江戸博がリニューアル! 見どころを写真と動画で
&wフォークシンガー小室等さんの日常 認知症と向き合い、ライブで歌う
レクサスの新型「ES」 現代的なフルモデルチェンジ
&M石岡瑛子のデザインに今も揺さぶられるのはなぜか
アエラスタイルマガジンお肉がなくてもご飯が進むナスの絶品レシピ
&Mソレントで出会った“本物”のリモンチェッロ
&TRAVEL