交渉術入門以前
僕はこれまで、いろいろな交渉ごとをやってきました。事業の取引先との条件交渉、採用、報酬の話、契約の更新、トラブルの後始末。自分が圧倒的に優位な立場の交渉もあれば、どう見てもこちらが不利な交渉もありました。
優位な交渉も不利な交渉も両方くぐってきて、思うことがあります。交渉のテクニックを学ぼうとする人は多いですが、テクニックを覚える前にやることがある、ということです。
やるべきなのは、そもそも交渉しないで勝てる盤面なのかを見極めることです。
交渉が上手い人と下手な人の差は、話し方のうまさではありません。盤面をしっかりと見ているかどうかです。盤面を見れば、頑張って交渉する必要がそもそもなかったりといったことがあります。交渉術を磨く前に、交渉しなくて済む盤面を見抜く。盤面を見抜く力こそ、入門以前の話です。
まず、自分のゴールを決める
盤面を見る話に入る前に、もっと手前にやることがあります。自分が何を得たいのかを、はっきりさせることです。
当たり前に聞こえますが、交渉でつまずく人の多くは、ゴールが曖昧なまま話し始めています。とにかく良い条件を引き出したい、損をしたくない、という漠然とした気持ちで臨む。すると、相手のペースに巻き込まれて、気づいたら本来欲しかったものとは別の話で消耗しています。
先に決めておくのは、次の3つです。
絶対に取りたいもの(取れないなら交渉する意味がない、という一線)
取れたら嬉しいもの(譲ってもいいが、できれば欲しいもの)
譲ってもいいもの(相手に渡しても痛くないカード)
3つを分けておくと、交渉の途中で迷わなくなります。相手が何かを要求してきたとき、それが「譲ってもいいもの」なら気前よく渡せます。「絶対に取りたいもの」に手をかけてきたら、そこは譲らない。判断の基準が自分の中にあると、相手の話術に流されません。
ゴールが曖昧な人は、譲ってはいけないところで譲り、譲っていいところで粘ります。だから消耗するわりに、得るものが少ないのです。
自分が持っている手札を確認する
ゴールと並んで確認しておきたいのが、自分の手札です。
交渉は、何かと何かの交換です。相手に動いてほしいなら、相手にとってのメリットを差し出せると強い。だから、自分が相手に対して何を出せるのかを、事前に棚卸ししておきます。
手札はお金や条件だけではありません。相手が欲しがっている情報、こちらが持っている人脈や選択肢、相手にとっての面倒を肩代わりできること。相手の立場から見て価値があるものは、すべて手札になります。
ここで大事なのは、相手の側から手札を眺めることです。自分にとって価値があるかではなく、相手にとって価値があるか。同じカードでも、相手の状況によって価値は変わります。相手が今いちばん欲しがっているものを差し出せれば、小さなカードでも大きく効きます。
手札を把握していないと、本当は持っている切り札に気づかず、安売りしてしまいます。逆に把握できていれば、どのカードをいつ切るかを設計できます。ゴールと手札。盤面を読む前に、この2つを自分の中で整理しておきます。
デフォルトとは「放っておいたら進む流れ」のこと
すべての交渉には、デフォルトの流れがあります。
契約更新の場面を考えてみます。今の契約が自動更新になっているなら、何もしなければ契約は続きます。逆に期限が来たら自動で切れる契約なら、何もしなければ関係は終わります。同じ「交渉」でも、放っておいたときに進む方向は正反対です。
この方向を見極めることが、交渉の出発点になります。なぜなら、デフォルトの流れを変える必要があるのは誰か、が決まるからです。
デフォルトが自分に有利なら、動かす必要があるのは相手です
デフォルトが自分に不利なら、動かす必要があるのは自分です
交渉のうまい人は、自分がどちらの側にいるのかを最初に確認します。下手な人は、どちら側かを確認せずに「とにかく良い条件を引き出そう」と頑張ってしまいます。
相手が動かす必要があるなら、こちらは動かなくていい
デフォルトが自分に有利なとき、つまり相手が盤面を動かす必要があるとき。
このとき一番やってはいけないのは、不用意に自分から動くことです。相手が動かさないと困る状況なのに、こちらが先に手を打ってしまうと、せっかくの有利な立場を自分から手放すことになります。
ここから先は
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはおいしいご飯を食べるのに使わせていただきます。



購入者のコメント