【独自】「3日で10万円」小遣い稼ぎのはずが 親族の名前まで悪用 携帯業界を食い物にする組織的「キャリアホッピング」追跡取材
「小遣い稼ぎで、大阪に行かないか」 ある男性のもとに掛かってきた、知人からの1本の電話。携帯電話の契約手続きをするだけで、数万円を得られるという。 【画像で見る】トランクに大量の家電量販店の袋、協力者の男性を直撃すると… 半信半疑で向かった大阪で、車に乗せられ向かった先は、携帯ショップ。1店舗、2店舗、3店舗――。 契約手続きを終えるたび、男の車は次の店へと向かった。 男性が組み込まれていたのは、「キャリアホッピング」と呼ばれる手法を使った、組織的スキームだった。逃げられない車内で、男性がその是非を尋ねると、運転手は表情を変えずに言い放った。 「別に、合法なんで」 ◆組織的に「キャリアホッピング」?ブローカーらの影 先月、記者の元にある情報が寄せられた。 「グレーな手法で、組織的に大金を得ているブローカーグループがいる」 その手法とは、「キャリアホッピング」。 携帯キャリアの乗り換えで得られる数万円単位のポイント還元やキャッシュバックなどの特典を目当てに、短期間で回線契約と解約を繰り返す行為だ。 現状、法規制はされておらず、短期解約時の違約金も上限1千円にとどまる。こうした「ペナルティより特典額の方が大きい」状況に目をつけ、全国から組織的に協力者を集めて、特典分を吸い上げているグループが存在するという。 ◆「簡単に稼げる」を信じ、参加した男性は・・・ 取材を進めると、「過去に協力したことがある」という男性にたどり着いた。 男性は、知人から「大阪で簡単に稼げる仕事がある」と誘われたという。 携帯電話の契約を繰り返すだけで、報酬は3日間で10万円程度。交通費も宿泊費も出る。 「合法だ」という説明を信じ、参加を決めた。 LINEグループに入れられると、本名や住所の提示、携帯回線10回線分、戸籍謄本の準備などを求められた。 ◆ポイントで家電購入「転売しグループの収益に」 数日後、大阪入りすると、駅のロータリーに1台の車が待っていた。 運転手は、ブローカーグループのメンバーだという若い男。後部座席には、自身と同じような“協力者”が数人座っていた。 車が向かった先は、家電量販店だった。 若い男は携帯電話カウンターで店員に挨拶し、男性ら協力者に対して、携帯回線の乗り換え手続きをするよう指示。「ショップとは話が付いている」と繰り返した。 手続き後、回線乗り換えの特典として付与されたポイント数万円分で、高級イヤホンを購入するよう指示された。商品はその場で回収され、「転売してグループの収益になる」と説明を受けた。 ◆戸籍謄本の不正使用も 得た収益は40万円分以上 男性らは3日間で、大阪や京都の携帯ショップなど7〜8店を回り、約15回の回線乗り換えを実施。得た特典は計約40万円分にのぼったという。 複数回線の契約を怪しまれた際には、戸籍謄本を示すとともに、「家族が使う」と偽るよう指示された。時には“息子のフリ”をしたブローカーに電話し、店員を信じさせる工作も行った。 ◆「組織的な怖さ感じた」男性の後悔 利用した回線契約は、直後にほぼ解約したが、一部回線は今もグループに管理されたままだ。「仮に特殊詐欺などに悪用されたら、自分の責任も問われてしまうのでは」 一緒に行動した協力者は全国各地から集まっていた。「組織的な怖さを感じた。小金ほしさに関わるべきでなかった」と悔やむ。 そんなリスクの見返りに約束された報酬の一部は、今も支払われないままだという。 ◆ブローカーらの車ナンバー入手し張り込み、3日後・・・ さらに取材を重ねると、記者は、このブローカーグループが使用しているという車のナンバーを入手。先月、拠点だというJR新大阪駅で張り込みを始めた。 取材を始めて3日目の朝、該当する車が現れた。 運転するのは30代ほどの男。トランクには、大量の家電量販店の袋が積んであった。 約20分後、協力者とみられる60代ほどの年配男性が、不安げに辺りを見渡しつつ、後部座席に乗り込んだ。 ◆携帯ショップなどを転々した後、ゲーム機購入 車が向かった先は、大阪市内の家電量販店だった。 携帯電話のカウンターでしばらく手続きをした後、今度は大阪府東部の携帯ショップへ。この店でも、先ほどの年配男性が契約手続きをし、その様子を運転手の男が監視していた。一般客が次々と手続きを終えていく中、男らは約3時間もその場に留まり続けた。 店を出ると、車は再び大阪市中心部へと引き返し、先程とは別の家電量販店へ。 その場でも2時間近く手続きをした後、今度はゲーム売り場に向かった。年配男性は何か指示を受けているのか、しきりにスマホを操作しながら、「PlayStation5」を購入していた。車に戻ると、しばらく走った先の路肩で停車。ゲーム機は、そこで待っていた別の車へと手際よく積み替えられていった。 ◆翌日も追跡 翌朝も、年配男性は同じように家電量販店に向かった。約2時間の手続きを終え、一旦店を出たものの、夕方に再び同じ窓口で手続きする様子が確認できた。 午後7時ごろ、前日とは別の若い男と合流し、再びゲーム売り場へ。この日は「ニンテンドースイッチ2」のコントローラを購入していた。 ◆報酬で現金手渡し、取材班が直撃 その後、車が向かった先は、JR新大阪駅前のコンビニだった。 運転席の若い男がATMで現金を下ろすと、車内で、そのまま年配男性に手渡した。 取材班は直後に、二人を直撃した。 年配男性は「合法な行為しかしていない」などとだけ言い残し、足早に駅へと去って行った。 ◆ブローカー「違法ではないが『グレー』」 一方、運転席の男は取材に応じた。 自身がブローカーグループの“運転手役”であると話し、「東京や沖縄など各地から協力者を呼び寄せ、キャリアホッピングで稼いでいる」と説明。「違法ではないがグレーな手法」と認めた。 協力者は、SNS上で募るほか、全国に散らばるリクルーターが集めてくるという。取材班が追跡した年配男性も、都内から参加した一人。2日間で20万円分の特典を稼ぎ、グループから、交通費に加え報酬5万円を支払ったという。 購入したゲーム機は、いずれも買取専門店で売却するという。 ◆携帯ショップと“癒着”か? こうした手法は、「携帯ショップとの“癒着”がないとできない」とも明かした。 一般的に、携帯ショップは、携帯キャリアと代理店契約を結んだ企業が運営しており、契約数に応じて、携帯キャリアからインセンティブが支払われる。 グループの中には、ショップとの交渉役が存在するといい、「ノルマを達成したいショップ側と癒着することで、契約に便宜を働いてもらっている」という。 ◆戸籍謄本を不正に使用か 一方、一度に大量の回線を契約すると、携帯キャリアの審査ではねられることがある。 その際には、協力者が持参した戸籍謄本から親族の名前を抜き出し、親族に無断で「利用者欄」などに記入して審査を通過させるという。こうした記入を黙認したり、自ら行ったりする携帯ショップも存在するという。 違法性の認識について問うと、「契約手続きは、あくまで協力者本人の責任」とした上で、「私たちは合法的に、協力者と携帯ショップをつなげているだけ」と淡々と語った。 ◆携帯ショップ「ノーコメント」 男は、グループと関係がある店として、大阪と京都のショップ数店を挙げた。 本当に両者は結託しているのか。ショップを訪れると、責任者はいずれも「答える立場にない」などと説明。運営企業の社長も「ノーコメント」として取材に答えなかった。 ◆携帯キャリア各社「通信業界全体の課題」 各携帯キャリアはキャリアホッピングについて、どう考えているのか。各社に質問状を送付すると、いずれも「通信業界全体の課題」との認識を示した。 その上で本人確認の厳格化や契約回線数の制限、特典内容の見直しなど、「対策を進めている」と説明。ショップによる不適切な契約手続きについては、「確認された場合に厳正に対処する」などとした。中には、ショップに対して覆面調査を実施しているという社もあった。 一方、「自主的な対策には限界がある」として、国に制度改正を求める声が多かった。 ◆対策を検討する総務省 そうした声を受け、国も対応に動き始めている。 総務省の有識者会議が先月取りまとめた報告書案では、最長1年間での特典の分割付与を認める方針が示された。途中解約した場合に特典の付与を止めることが想定されており、キャリアホッピングを一定程度防止する効果が期待される。 総務省は取材に対し、「短期解約の中には、利益還元の獲得のみを目的とする解約かどうかを特定することは困難」と指摘しつつも、「携帯電話事業者による利益提供の設計に一定の柔軟性を認める規制の見直しを行うことにより、間接的に短期解約の抑制を図る」とコメントした。 ◆「乗り換えやすさ」が生んだ副作用 一方、そもそもなぜキャリアホッピングが広がったのか、その背景を問う声もある。 携帯市場に詳しい携帯電話ライターの佐野正弘さんは「総務省の政策がキャリアホッピングを助長させてきた側面がある」と指摘する。 かつて各キャリアは、端末を「1円」など大幅に値引きする一方、一定期間の通信契約を前提に収益を確保していた。 こうした販売手法が「通信料金の高止まりにつながっている」と批判され、2018年、菅義偉官房長官(当時)による「4割下げる余地がある」といった発言をきっかけに、規制が加速。総務省が端末値引きに制限が設けたほか、短期解約の違約金を上限1千円と定めるなどした結果、利用者がキャリアを乗り換えやすくなった。 その一方で、ポイント還元などの特典は過熱。佐野さんは、こうした環境がキャリアホッピングを成立させる土壌になったとみる。 「行政による市場への過度な干渉が、競争の形をゆがめているのではないか。今の規制のあり方全体を考え直す時期だ」 ◆死角に先手打てるか 簡単に稼げる仕事がある――。 そんな甘い呼び水で始まる組織的キャリアホッピングは、利用者の選択肢を広げるための政策が、ブローカーに“インフラ”を提供してしまった結果、生まれた「死角」ともいえる。 そうしたグレーゾーンで利益を得る行為に対し、先手を打つことはできないのか。場当たり的な規制にとどまらず、将来を見据えた制度設計が求められている。(松岡紳顕)
松岡 紳顕,フジテレビ