(インタビュー)攻撃される米軍基地 国際政治学者・川名晋史さん

 世界中の米軍基地を調べる――そんな研究をしている国際政治学者がいる。大東文化大学教授の川名晋史さんだ。米国とイスラエルがイランに先制攻撃して約4カ月。この間、国内に米軍基地がある湾岸諸国は巻き込まれ、イランから攻撃を受けた。在日米軍基地を抱える日本。この戦争の教訓は何だろう。

 ――フェンスの外から初めて米軍横田基地(東京都)を見た際、印象に残ったのはその広大さでした。どこかにあるはずの滑走路がどの辺にあるのか、見当をつけることもできず……。

 「横田基地は空軍の基地です。軍用機の離着陸には最低でも2500メートルの滑走路が必要とされます。ほかにも格納庫や駐機場などの施設、兵員や家族の住居施設や学校、商店などもあるため、広大になるのです」

 ――基地内への立ち入りを禁じた看板に、日本語で「当該施設は軍用犬により巡回されている」と書かれていましたね。日本の領土内であるはずなのに、という疎外感を抱きました。

 「米軍基地は世界各地にありますが、日本にある米軍基地の特徴の一つは、米国側が排他的な基地管理権を強く握っていることです。1950年代の朝鮮戦争の状況下で、日本の防衛力がまだ貧弱だった時代に在日米軍基地の基本構造がつくられたという事情が、背景にあります。いわば米国の既得権です」

 ――横田基地のすぐ脇には住宅や商店や主要道路がありました。万一、台湾有事で米国が中国と軍事衝突する事態になったら、在日米軍基地の周辺地域にも中国からのミサイル攻撃による被害が及ぶのでしょうか。

 「その質問に答える前に、まず現状を確認させてください。米国と中国がもし軍事衝突したら日本にどれくらいの犠牲が出るかを試算したシミュレーションは、確かに複数公表されています。しかし、中国は台湾に侵攻しないだろうとする観測も他方にはあります。台湾有事が勃発間近だという前提に立つことには、慎重であるべきです」

 「その上で言えば、仮に米国と中国が軍事衝突する流れになれば、在日米軍基地がミサイル攻撃の対象にされる可能性はもちろんあります。米国と戦う国から見れば、米軍基地や自衛隊基地は真っ先に無力化させたい拠点だからです。残念ながらその際には、ミサイル攻撃の被害は基地の外にも及ぶでしょう」

 「敵のミサイルを迎撃するシステムはもちろん存在しますが、もしこちらの防御能力を超える『飽和攻撃』をミサイルで仕掛けられたら、すべての攻撃を防ぐことは不可能です」

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 ――今年2月、米国がイスラエルとともにイランへの軍事攻撃を始めましたね。報道を見て気になったのは、湾岸諸国に置かれた米軍基地がイランからの攻撃を受けている事実でした。

 「ええ。カタールやクウェート、バーレーンなど各国にある米軍の空軍基地や海軍基地などが、イランによる報復攻撃を受けました。被害は基地そのものだけではなく、基地内で働く現地の労働者や周辺のインフラと住民たちにも及んでいます」

 ――米国が始めた戦争に巻き込まれた形ですね。国内に米軍基地があると米国の戦争に巻き込まれるとの懸念は、日本でも以前から語られてきました。

 「従来型の『巻き込まれるか/巻き込まれないか』は、いまや論点にならなくなっています。もし米国の戦争が始まれば、米軍基地のある周辺国がそれに巻き込まれてしまうことは自明なのです。今回の軍事衝突もその現実を示しています」

 「現在の戦争では、高性能な長距離ミサイルや遠隔操作のドローンが戦闘の主役になっています。近隣国の中にある敵基地を攻撃することが、技術的に以前より容易になったのです」

 ――巻き込まれるかどうかが論点でなくなったとしたら、今回の米国によるイラン攻撃は、どのような新しい選択を日本に突きつけているのでしょう。

 「バーレーンやカタール、クウェートなどの湾岸諸国が『戦争に巻き込まれたあと』に何が起きたか。そこに注目すべきです。今回それらの国々は『これは私たちの戦争ではない』とする態度をとっています。自国内の米軍基地が攻撃され、自国民の死傷者まで出ていながらも、反撃してイランとの交戦状態に入る行為を自制したのです」

 「印象的だったのは、米軍基地を攻撃したイランが『我々の攻撃対象は米国であって周辺諸国ではない』とのメッセージを出したり、イランからの小規模な報復攻撃を迎撃したカタールが『我々はイランを対象とする軍事作戦には参加していない』と訴えて、単なる自衛行動だったとのメッセージを出したりしたことでした。地域内での対立拡大を防ごうとする姿勢です」

 ――万一、同様に在日米軍基地が他国から攻撃される事態が起きたら、どうなるでしょう。

 「日本は『米国とともに反撃しよう』という選択へ即座に走る可能性があります」

 「しかし湾岸諸国の選択が示すとおり、本来、被害国になったからといって自動的に交戦国になるわけではありません。『同盟国』である米国の基地が攻撃され、周辺の日本国民にも被害が及んでしまった場合に、それでも参戦を踏みとどまれるか。そんな重要で難しい選択がありうると分かったことが、日本にとっての今回の教訓です」

 ――そうした場合にもし参戦を自制できる可能性があるとしたら、そのカギは何でしょう。

 「最大のカギは、日本の政府と世論が『これは私たちの戦争ではない』という整理をつけられるかどうかです。仮に日本政府が有事に主体的な判断ができるとして、次に問われるのは、損害を受けながらも反撃をしたくなる衝動を抑えるという、居心地の悪い状態に耐えられるかどうかです。決断を急がず、不安な状態の中に踏みとどまれる能力。つまり、ネガティブ・ケイパビリティーが問われます」

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 ――世界中の米軍基地について研究することになったきっかけは、学生時代に「米軍基地は日本を守るためにある」という言説に疑問を抱いたことだったと、以前に語っていますね。

 「はい、それが理由の一つでした。実際、在日米軍基地は日本を守るためにあるわけではありません。あくまで、極東を中心にした地域での米国の利益を守るためにあるのです。歴史に注目するならば、朝鮮戦争下で韓国を防衛するために展開された基地だとの性格もあります」

 ――日本は米軍基地大国だという印象があるのですが。

 「それぞれの国内にある米軍基地の合算面積で見ると、日本は世界最大の基地提供国です」

 ――在日米軍基地を減らせる可能性はあると訴えてきましたね。今もそう思っていますか。

 「ええ。今すぐには無理ですが、長期的に見れば、在日米軍基地を減らせる現実的な可能性はあると考えています。ヒントになるのは、スペインにあった米軍のトレホン基地が1980年代にスペインに返還された事例です。部隊をイタリアのクロトーネ基地へ移転させるという方向で、実現しました」

 「ポイントは、その移転が米国にとって受け入れ可能なものだったことです。スペインもイタリアも米国との軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)の加盟国であり、米国から見れば欧州の南部地域という『面』のどこかにその部隊機能を置ければよかった。そんな状況を活用することで、スペインは米軍基地を減らせたのです」

 ――その方法は日本にとっても利用可能なのでしょうか。

 「国家同士のヨコのつながりを周辺諸国との間で構築できるかどうかがカギになります。たとえば、米軍基地を受け入れている周辺諸国に声をかけて、受け入れ国と米国が一つのテーブルにつく、ゆるやかな協議の枠組みを作ってはどうでしょう」

 「韓国やフィリピン、オーストラリア、米国ですがグアムなどが候補になりえます。その枠組みに米国も巻き込めば、国境を越えた『面』の中で基地機能を互いに融通していくチャンスを生みだせるかもしれません」

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 ――米軍基地に関して日本が主体的な外交を展開していくための足場とは、何でしょうか。

 「在日米軍基地の存在、それ自体です。在日米軍基地は米国にとって今もなお死活的に重要な既得権であり続けています。中国や北朝鮮という軍事大国の目前に位置する防人(さきもり)であり、この地域における米国の支配力を担保するものだからです」

 「それは在日米軍基地が日本にとってのバーゲニングパワー(交渉力)の基盤であることを意味します。私たちは平和のために今こそ、国内に外国の基地がある意味について改めて学び、在日米軍基地の再評価を進めていくべきだと思います」(聞き手 編集委員・塩倉裕)

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 かわなしんじ 1979年生まれ。大東文化大学教授。専門は米国基地政策。著書に「在日米軍基地」「基地はなぜ沖縄でなければいけないのか」「基地の消長」など。

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