防衛省、自衛隊の指揮統制に米パランティアのAI「Maven Smart System」検討
イラン・ウクライナで実績、軍事AI「Maven Smart System」とは?
Maven Smart Systemは衛星画像、ドローン映像、レーダー、センサー情報、兵站などの独立したデータソースをリアルタイムで単一のインターフェースに統合する機能を持つ。従来は多数の分析官が半日以上を要していた標的特定や戦況分析の作業を1分未満に短縮し、指揮官の意思決定プロセスを根本から効率化する設計である。最終的な行動判断は人間が下し、AIは選択肢の提示と情報整理を担う仕組みで、すべてのプロセスがログとして記録される。 2017年4月に米国防総省が創設したプロジェクトを起源とし、グーグル社の撤退後にパランティア社がソフトウェア統合を引き継いで開発を主導した。実験段階を経て2026年3月に公式調達枠組みである「プログラム・オブ・レコード」へと正式に格上げされ、恒久的な予算が付与される軍の中核システムとなった。管轄は最高デジタル・AI室へ移管され、契約は陸軍が管理する。現在は陸海空、宇宙、海兵隊の全軍に標準装備として展開され、全領域指揮統制推進の核心インフラに位置づけられている。 実戦では中東の米中央軍作戦で広範に運用されており、イランに対する空爆作戦「オペレーション・エピック・フューリー」では、38日間にわたる1万3000回の空爆計画と調整に活用され、利用者は1日あたり200億トークンを消費した。データを単一画面に統合し、標的特定までの時間を劇的に短縮したほか、2026年1月のベネズエラでの精密拘束作戦にも利用された。米国以外では紛争下のウクライナにおいて軍事能力を支える目的で運用されている。 ウクライナ軍は同システムを利用し、ドローンや衛星からの大量の戦場データをAIで処理して標的識別や攻撃準備を迅速化させており、実際の戦場が技術の洗練と検証の場となっている。さらに北大西洋条約機構(NATO)も2025年3月に「MSS NATO」として調達を完了した。全32加盟国の連合軍作戦で導入され、加盟国が持つセンサーや第三者製システムをオープンアーキテクチャで接続する多国間ネットワーク化が進んでいる。 一方、防衛の中枢を海外企業に依存することに対しては情報主権の維持という観点から課題も存在する。防衛省および防衛装備庁は2026年3月に国内AI企業のSakana AIと委託研究契約を締結し、国産基盤技術の開発に着手した。現状では電波妨害やサイバー攻撃への耐性が実証されている米国のシステムを初期の基盤インフラとして導入し、そこに国産の特化型AIモデルを統合していくハイブリッド型の運用形態が現実的なシステム設計として検討されている。