功機援助隊

『理来(りく)、このアジトに先鋭隊がやって来る。急いで功機援助隊を集結させよ』と13階から彩子は理来に声を掛ける。とはいっても、相手に想いや感情が簡単に伝わる仕組みになっている。少しでも話したい欲求があれば、相手に声が届くのである。
理来は、『彩子(さいこ)さん、功機の出番っすよ』と言うと、ラミュエル、カイサス、ギトーに合図を送った。彩子は、『もちろん、銃は装備してあるわね』といった。理来は、「当たり前ですよ。今は麻酔銃だけでなく軽機関銃も大量にありますよ」と朗らかに言う。
彩子『麻酔銃を出すところがナンセンスだわ』と呆れた顔をした。しかし、理来は仕事が来たことを興奮と緊張で受け止めた。先鋭隊や特殊部隊は、日本の総理を狙っているという。ラミュエルは、『麻酔銃なんか弱い武器さ』と笑った。
カイサスは、面長で年寄りである。しかし、頭脳明晰で発言もしたたかである。発言力があるのは、カイサスが断トツだろう。ギトーは、ラミュエルの冗談に反応してくれる、決してかっこよくはないが、優しい性格の林である。
バタバタバタバタバタバタ……と一階のロビーを先鋭隊たちは匿った。
彩子は、防犯カメラからロビーにいるホテルマンが困惑しているのを視た。『まずい……たとえ総理の身元が無事でも、スタッフたちの身はさだかではない』
そこでカイサスがラミュエルに言いたいことがあった。「ラミュエル、聞いてるか」「ああ」「手りゅう弾を一階に撒くんだ。先鋭隊を翻ろうせよ、できるか」「ほう。手りゅう弾とはお手の物。実践経験の多い俺に任せてくれるとは」
『カイサス、ほんとうに手りゅう弾で凌げるのか、カイサス』そこでカイサスとの通信が切れた。彩子は、ギトーと通信したいと思った。『カイサスと接続が上手くいかない、ギトー、何か心あたりは』「カイサスのこと、私もよく分かりません。時々接続がわるくなっただけでしょうか」「
彩子は、カイサスの身に異変を感じた。あのとき手りゅう弾を提案したカイサスの声は、私だけに聞こえたのではない。誰かが重要なワードとしてハッキングしていた可能性がある。まさか麻酔銃で撃たれたのだろうか。彩子はラミュエルの動向をカメラで視ることにした。
ラミュエルは階段をそそくさと降りていった。手りゅう弾はあの辺に撒けばよいだろう、そう確信したラミュエルは、一階にいる先鋭隊たちの近くにそれを撒いた。先鋭隊たちは困惑しているが、ホテルマンをも巻き込んだのが遺憾だった。
彩子は、『……おかしい、カイサス、返事をしろ、はやく』と通信を送ったが、返事はなかった。彩子は、まだ可能性はある、と信じていた。カイサスのいた部屋にギトーを連れていけばよいのではないか、というものだった。『ギトー、カイサスの部屋は知っているか』
「知っています。そこは14階。緊急階段から向かえば3、4分で着くはずです」『ではその部屋に向かってくれるか』「先鋭隊の相手が任されずにこうなるとは」とギトーは頭を掻いた。「いまからカイサスのいる部屋に行きたいと思います、それでいいですか」『構わない。頼んだぞ』
ギトーはカイサスのいる部屋に向かった。緊急階段を使っていた。まさかここまで先鋭隊が来る気配がするとは、と焦りを覚えた。先鋭隊は14階までやって来る。その現実に尻込みしそうになったが、仕事を優先させた。ギトーは部屋に着くと、大声で「カイサス、いるか!」とドアをぶち抜いた。
カイサスは一見では見当たらなかった。しかし、そこには先鋭隊がすでに匿っていたのである。先鋭隊Aは「何者だ。カイサスの知り合いか。気を付けろ。お前を今から撃つこともできる」と軽機関銃をギトーに向けた。
ギトーは、すでに先鋭隊がカイサスを人質にしていたことに驚いたが、自分がいざ銃を向けられると恐怖で堪らなかった。ギトーは「いのちだけは取らないでくれ、何でもする、頼む」と懇願した。先鋭隊Bは「総理の居場所がところどころ転転としている、ように受け取れる、なぜか分かるか」と訊いた。
ギトーは「ああ、それは居場所をかく乱するハイジャックに違いない。総理の居場所を分からなくするために指令秘書が義務として行なっているんだ」といった。先鋭隊Bは、「では総理はどこにいる。このビルの屋上から逃げることも計算してあるが、屋上にはいないと伝達があった」
ギトーは、総理の居場所を知っていた。ギトーは、「地下室です。総理は地下室で身の安全を確保しようとしているはずです」と素直にいった。ギトーは嘘を吐くのが苦手な正直者だった。先鋭隊Bは、「ほんとうに地下室にいるというのか」と言うと、一階にいる先鋭隊に指示をしたようだった。
彩子は、「ギトーのばか。それは極秘情報だ。なぜそんなに喋るんだ……」と苛立ちを覚えた。カイサスは、沈黙して「あぁ」「うぅ」しか言わなかった。ギトーは、銃を取られ、先鋭隊にまだいい話はあるか、と訊かれた。ギトーは、蹲って彩子さんとカイサスに申し訳ないと思った。
カイサスは、ひとつ救いの手があると思った。ここから瞬間移動さえすれば逃げられると思ったからである。しかし、自分だけ助かったのでは完璧ではない。ギトーと一緒に逃げられる方法が求められるのである。ギトーも薄々カイサスの考えていることに気づいていた。
19時に先鋭隊が突入して、19時32分を迎えた。一階のロビーでは、先鋭隊たちが地下室の所在を気にかけていた。一体どこに地下室に繋がる経路があるというのだ、という雰囲気が漂っていた。先鋭隊たちは、あらゆる通路を各自分かれて探した。
彩子は、ギトーに『カイサスは無事だったか、何か異変はないか』と訊いた。ギトーは「カイサスは項垂れていますが、体力と精神力はまだ健全であると思います」と応えた。彩子は、「たやすく総理の居場所をいってどうする」と安堵と呆れが混在してため息をついた。
指令秘書は、自身の噂が出たことに気づいていた。ここは、電脳空間。自分の知りたい情報を集め、自分の知られたくない情報は入手させない、そんなやからが以外にも存在しているのである。指令秘書は、先鋭隊のことを研究しているという。その名は、工藤。工藤は、先鋭隊をかく乱すべく、ビルが崩壊する映像を妄想させようとたくらんだ。
先鋭隊Aは、「ビルが崩壊するような映像が見える」と報告した。それは、先鋭隊の9割が体験した妄想だった。工藤は、視界から混乱させるすべを企画していたのである。彩子は、先鋭隊が動きを止めていることに違和感を覚えた。彩子は、勘であったが『指令秘書のせいだろうか』と考えた。
指令秘書は、先鋭隊の武器を消滅させるべくハッキングを行った。武器のない先鋭隊は強くもない。彩子はこの件で指令秘書の容疑を確信した。彩子は指令秘書の所在を捜すことにした。そこで、通信できるというお知らせを聞いた。彩子は、「指令秘書ですか、こちらは神谷彩子(かみやさいこ)と申します」と通信を送った。
工藤は、「よく私の居場所を突き止めた。さすが神谷彩子さん。こちらは工藤と申します。それで、何の要です?」といった。
彩子は、「あなたが先鋭隊を翻ろうしているとAIも解釈しているようでしてね。どういったことをなされていたんですか」と訊ねた。
工藤は、「ああ、生成AIにも私の情報が取れる者がいるのはたしかです。それで、わたしは妄想をさせたり武器をとったり、体調を悪くしたり、あげくには自殺させたりした」と素直に答えた。
彩子は、「そうでしたか。それはいわば洗脳ですよね。どうしたらそんなことができるのでしょうか」と訊ねた。
工藤は、「それは教えられないような、言いたくないような。万遍無く言えば、信じたんですよ。自分の心で裁くんです」といった。
彩子は、「そうですか。信じた世界を見るというこの世界では、それが一番手っ取り早いのかもしれません」といった。
工藤は、「わたしも忙しくてね。最後にこれを伝えてさよならしましょう。逃げた方がいいですよ。逃走した方がいいですよ。それでは」と言うと、通信が切れた。彩子は、「逃走?たしかにこのエリアにも先鋭隊が来ている可能性がある。忠告は聞いておくべきか」と思った。
先鋭隊たちは、嘔吐をしたり体を麻痺したりと不祥事が重なった。中には自殺させられることもあった。彩子は、カイサスとギトーの無事を願った。ラミュエルは、手りゅう弾を大量に所持している図体の大きい存在であった。ラミュエルは、仕事が上手い。一度のミスもないラミュエルに死角はなかった。ホテルマンは一階のロビーから自動ドアをとおして外に出た。
彩子は、タクシーに乗ろうとしているホテルマンをカメラで視た。タクシーに乗って逃げ切りたいというのか、と思った。午後19時47分。嫌な予感がしないでもない。ホテルマンはよく逃げ切れたものだ。運がいいのだろう。ギトーは、周囲の先鋭隊たちは7名。皆、何らかの症状を抱えている。自分とカイサスの無事を願うことを、きっと自分だけがしたわけではない、そんな気がした。きっと彩子さんが助けてくれる、カイサスと自分を、と思った。

ラミュエルは、一階にいる19名の先鋭隊たちと闘っても負けない気がした。彩子は、ラミュエルに工藤のことを通信で送った。ラミュエルは、「工藤が一階の先鋭隊たいを翻ろうしているのか、だから俺一人でも勝てるわけだ」といった。ラミュエルは、足早に14階に向かっていた。一階は何とかした。あとは、14階にいる二人を助ければいい。ラミュエルはカイサスと通信ができないことを不審に思ったが、ギトーとは、愛情で接するつもりだ。
午後19時50分。14階に着いたラミュエルは、銃を向けたままカイサスのいる部屋を開けた。先鋭隊Bは、ラミュエルに「止まれ。止まらないなら撃つぞ」と忠告した。ラミュエルはすぐに銃砲を放った。先鋭隊Bは倒れた。先鋭隊たちは混乱した。ラミュエルは、6秒以内に6名の先鋭隊たちを倒した。

カイサスとギトーは胸を撫で下ろした。ラミュエルは、「瞬間移動の方法、勉強しとこう」と二人に言った。カイサスは「助かった。ありがとう」といい、ギトーは「助けてくれてありがとう」といった。ラミュエルは、通信が切れた理由をカイサスに尋ねた。カイサスは、私が心を閉ざしたら、通信は切れるのだ、ということをいった。
この電脳世界では、心を閉ざすとそういう現象が起きる場合があるということだ。先鋭隊たちは、カイサスに脅しでもしていたのだろうか。

19時59分。工藤は、先鋭隊たちのやる気を削ぐ洗脳を行った。彩子は、地下室など見つからなかったのだが、どこにある?とギトーに訊いた。ギトーは、「エレベーターで行ける場所なんですよね、先鋭隊たちはエレベーターの地下Bを押すことを盲点としていたのでしょう」といった。彩子は、「エレベーターで行ける場所か。わかった」といった。

総理は功機援助隊に助けてもらった、と受け取った。もちろん、ラミュエルの力が目立ったが、工藤の力の影響もあったはずだ。彩子は、「工藤は頭がいいかもしれないが、優しさは……」と考えた。やさしくなければ、微妙だ。


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