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2026年度の都立高校入試の全体の実質倍率は1.26倍と前年度から0.01ポイント下がり、現行の入試制度開始の1994年度以降、過去最低となった。しかし、学校ごとの志願状況を見ると、「二極化」が際立つ。
無償化の影響が出る前の24年度と直近の26年度の一般入試実質倍率を比較すると、日比谷や西などの偏差値60台後半の進学指導重点校7校の平均が1.45倍→1.41倍、新宿や駒場などの偏差値60台前半の特別推進校7校の平均が1.51倍→1.50倍と、減ってはいるが底堅く、人気の堅調さ感じる。
「私立志向」増の一方で「都立志向」揺り戻しも?
一方、中堅から下位、専門学科では志願者減が目立つ。私立高校の「授業料の実質無償化」の定着により、私立を志向する受験生が増えた結果だろう。実際、東京都教委による中学3年生を対象とした進路希望調査でも、都立高校を第1志望とする割合が70%を割り込むなど過去最低水準を記録しており、通信制高校や私立単願へと流れる受験生が増えている。
ところが、最近の学校現場の声を聞いていると、「都立志向」への揺り戻しの兆しも見られる。いったい何が起きているのか。足元の高校の実態や、東京都が次々と打ち出す新たな都立高施策から、今後の都立高入試の動向や対策ポイントについて考えたい。
私立高校の現場から聞こえてくる「悲痛な実態」
「生徒が多すぎる。都立にしておけばよかった」
今春23区内の私立高校に入学した新入生の言葉だ。その高校では入学者数が定員を約200人も上回った。入部希望者が殺到したため、部活動によっては急きょオーディションが実施された。希望する部に入れない生徒も少なくなかったという。
別の私立高校でも、定員を大幅に超える入学者を受け入れた。学校側からは、指定校推薦枠の確保が難しくなる可能性が示され、保護者の間では不安や戸惑いの声が広がっているという。
今春、都内の私立高校では推定40校が定員超過となったとされる。学校側にとっては特需ともいえる状況だが、生徒や保護者が抱いていた期待との間には少なからぬ齟齬が生じている。
入学者が増えた私立高校に勤務する知人によると、少人数授業を取りやめ、特別教室を普通教室に転用し、非常勤講師を臨時で採用して対応しているという。「教育の質への影響は甚大では」と尋ねると、「最上位コースは何とか維持したいが、それ以外の生徒には……」と率直な答えが返ってきた。
筆者が教えている塾での保護者面談では、「上の子は私立に進学させたが、下の子はやはり都立に行ってほしい」という声も聞かれる。私立高校は依然として費用負担が大きく、補助金が出るまでに用意しておく準備資金も少なくない。さらに、「塾に通わなくても大丈夫」と説明していた学校でも、実際には多くの生徒が塾や予備校を利用しているのが実情だ。
現場で聞こえてくる声を総合すると、全国に先駆けて高校授業料の実質無償化が進んだことで高まった私立人気は、そろそろ落ち着きを見せ始める兆しもうかがえる。その反動として、再び都立志向へと回帰する動きが広がる可能性もありそうだ。
ここに来て、都立高校改革のギアが加速していることも、都立志向への揺り戻しを予感させる。
東京都の進学指導重点校では、22年度に立川高校(立川市)が創造理数科を設置して以来、大きく躍進している。同校の科学系部活動に所属する生徒は、「予算が潤沢で、活動には手厚い補助が出る」と話す。高度な研究機材がそろい、フィールドワークも充実。部員数は7年前の約2倍に増加したという。
2年生の希望者を対象としたアメリカ研修やタイとの交換留学など、世界を体感する機会も豊富だ。今春は東京科学大の総合型選抜で3人が合格したほか、東北大や国公立医学部などへの学校推薦型・総合型選抜による国公立大合格者数も過去最多を記録した。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。
ライバル校の国立高校(国立市)もグローバルな視点から新たな取り組みに動き出している。25年春には、創立以来初となるアメリカ・ボストンでの海外研修(1~2年生の希望者対象)を実施。放課後に開催した「海外大学等進学講座」には40人の生徒が集まったという。
入試や学び、「多様な生徒」に対応して進化
同じ多摩エリアには昨年度、まったく異なるタイプの学校も開校した。立川緑高校(立川市)は、主に不登校経験者を受け入れるチャレンジスクールだ。昼からも通学できる3部制で、個性を重視し、多彩な選択科目から自由に時間割を組めることが特徴である。
昨年、1期生の保護者に話を聞いた。新しい校舎の下、生徒たちは「自分たちで学校をつくる」という気概にあふれているという。
多様な生徒に対応するため、入試制度も変わりつつある。深沢高校(世田谷区)は26年度入試にて、画期的な選抜制度を導入した。学力検査の得点と調査書点(内申点)の比率を、従来の7対3に加え、調査書点を含まない10対0でも算出し、高い方を採用して選抜するというものだ。
この方法であれば、内申点が極端に低くても、当日の学力検査で得点を獲得できれば合格を目指せる。残念ながら今春の深沢高校は定員割れとなり、制度の効果を十分に検証するには至らなかった。しかし、この仕組みがほかの都立高校にも広がれば、不登校や特性上の理由で内申点を得にくかった受験生に新たな道が開かれる。今後の広がりに期待したい。
都立高校の改革は「不登校へのセーフティネット」を広げる一方で、「尖った才能の受け皿」としても進化を遂げている。
都内の通信制・定時制高校の最高峰と目される新宿山吹高校(新宿区)は、従来の通信制・定時制では受け止めきれなかった高学力層に支持されている。御三家私立や都立進学校からの転学も多く、東大合格者も輩出している。
同校の通信制では25年度から、自由選択制で探究、DX、グローバル人材育成の各コースを開設。大学入試につながる高度な探究活動の支援や、外部講師によるプログラミング講座などを実施している。意欲ある生徒の才能を伸ばす新宿山吹らしい取り組みだ。今後も、特別な才能を持つ生徒の一定数が、進学校ではなく同校を選ぶ傾向は続くだろう。
進学塾では新宿山吹のような学校の存在が十分に紹介されないことも多い。進路指導は保守的で、伝統的な進学ルートを勧めがちだからだ。塾任せにせず、自ら情報収集する姿勢も大切である。
「イノベーター育成」「国際バカロレア」掲げる高校も
今後、新たな旋風となりそうな学校も控えている。
まず注目されるのが、29年に港区白金で開校予定の新しい進学校だ。イノベーター人材の育成を掲げ、国内外の難関大学への進学を目指す。最大の特徴は、通学期と非通学期を交互に設けるクオーター型カリキュラムである。非通学期には地方や海外にいながらでも高校の単位を取得でき、通信制と全日制の長所を融合した新しい学びの形を打ち出す。進学校志望の受験生の学校選択にも大きな影響を与えそうだ。
もう1つの注目が、第一商業高校(渋谷区)の改編である。28年度から全日制普通科へ生まれ変わり、海外大学進学を目指す「国際バカロレア(IB)コース」と、国際金融を学ぶ「グローバル・ファイナンスコース」を設置する。
IBは世界共通の教育プログラムで、海外大学への進学資格を得られる。先駆校である国際高校(目黒区)は高い実績を上げており、そのノウハウが投入される新コースへの期待は大きい。
東京都は5月、都立高校生を対象とした海外大学進学向け給付型奨学金制度の創設を発表した。海外の名門大学に進学する生徒に最大800万円を支給するもので、国際高校や改編後の第一商業高校の生徒には大きな追い風となるだろう。
第一商業高校は、一昨年に初めて校長室を訪れたが、「もったいない学校だ」という印象を持った。渋谷駅徒歩圏という立地に加え、これまでの教育や進路支援も國學院大との連携や豊富な指定校推薦枠、同窓会支援によるイギリス研修など申し分ない。今回の改編をきっかけに、その魅力が広く知られることになるかもしれない。
近年の都立高校のトレンドは、外国語コースや国際学科に限らず、希望者を対象とした独自の海外研修を実施する動きが広がっている点だ。
上野高校(台東区)は26年度からニュージーランド交流体験旅行を導入する。竹早高校(文京区)は24年度からイギリスのプリマス・カレッジと連携し、ネイティブ講師との事前レッスンを重ねたうえで現地研修に臨む。中堅校でも、墨田川高校(墨田区)が24年にシンガポール研修を導入し、成瀬高校(町田市)もオーストラリア研修を実施するなど広がりを見せる。
このほか、都立高校を知り尽くした私がイチオシの2校も紹介したい。
八王子桑志高校(八王子市)は、日本初の産業科高校として、システム情報やビジネス情報などの専門分野で資格取得と理系大学進学を両立させる。理系大学への指定校推薦枠も多く、中堅層の理系志向と相性がよい。25年からは希望者対象のシンガポール研修も始まっている。
杉並工科高校(杉並区)は、24年度から「IT・環境科」を設置し、理工系大学進学を前提とした進学型工科高校へと改編された。今春は目黒高校(目黒区)、狛江高校(狛江市)、南平高校(日野市)などとともに東京都の「進学指導等の充実事業推進校」に指定されるなど、東京都が進学校に育てるために並々ならぬ力と資金と投入している学校だ。
1学年140人規模で、通常規模校の半分という少人数体制を生かし、都立高校で唯一の「総合型選抜受験クラス」を設置し、一人ひとりの希望進路に合わせて受験をコーディネートする。法政大学理工学部との高大連携も進むなど、手厚さとプログラムの充実が光る。
夏には希望者対象のマレーシア研修も実施され、現地の工科大学での授業参加や学生寮での交流も行う。
模試会社の分析によれば、定員が割れたにもかかわらず、入学者の学力レベルが上昇しているという。約180校ある都立高校の中でも、「最も穴場の高校はどこか」と聞かれれば、まず名前が挙がるのが杉並工科だ。理系寄りの中堅層で、少人数できめ細かな指導を望む生徒には、ぜひ一度見ておきたい学校である。
私立に進んだと思えば「海外研修」は実質タダ?
ところで、これらの都立高校の独自の海外研修費用は決して安くはない。例えば北園高校(板橋区)の14日間のオーストラリア語学研修は約60万円だ。
もっとも、この費用は「私立に行っていればかかった分で相殺できる」との見方もできる。つまり、都立高校では海外研修が“実質的に付いてくる”という発想だ。こうした視点で見ると、都立高校の経済面での優位性は今なお高い。
そのほかにも、約80万円で約1年間留学できる都立高校生限定の長期留学支援制度「次世代リーダー育成道場」や、都立高校生限定の短期留学プログラム「Global Challenge」など、海外経験の機会は広がっている。
重要なのは、こうしたプログラムへの挑戦を「高校入学前から」見据えて動くことだ。
海外研修が目的なら中学生のうちに英検上位級の取得や英会話力を伸ばし、理数系なら高校数学の先取りや理数科目の重点学習に励む。そうした高校進学後のカリキュラムを見据えた主体的なアプローチが、合格後の伸び代を大きく左右する。
全員が同じ受験勉強に終始する時代は終わった。都立高校の個性化が進んだ今、その価値を100%引き出すには、逆算して中学時代の学びをデザインする視点が欠かせない。
激変する東京の高校受験前線において、私はそうした未来を見据えながら、日々目の前の生徒たちの指導にあたっている。