弁護士加藤 喬
加藤ゼミナール代表
今月26日、日本の国旗を傷つける行為を法律で禁じる国旗損壊処罰法案が、衆院内閣委員会で賛成多数で可決されました。
国旗損壊処罰法が成立し、施行された場合には、敢えて国旗損壊行為に及んで刑事裁判で同法の憲法違反を主張する人が現れることが予想されます。
では、仮に刑事裁判で国旗損壊処罰法の憲法違反が主張された場合に、裁判所は法令違憲判決を下すのでしょうか?
私は、少なくとも最高裁において法令違憲判決が下されることはまずないと考えています。
最高裁は、国旗損壊処罰法のように規制範囲が曖昧かつ広範な法令については、憲法適合的解釈又は合憲限定解釈により規制範囲を狭めることで、法令違憲判決を避ける傾向にあります。
実際に、国家公務員法による公務員の政治活動禁止が争われた堀越事件では憲法適合的解釈が、地方条例による集会規制が争われた泉佐野市民会館事件では合憲限定解釈が用いられており、法令自体の違憲性は認められていません。
” 本法102条1項の文言、趣旨、目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、同項にいう「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そして、その委任に基づいて定められた本規則も、このような同項の委任の範囲内において、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為の類型を規定したものと解すべきである。上記のような本法の委任の趣旨及び本規則の性格に照らすと、本件罰則規定に係る本規則6項7号については、同号が定める行為類型に文言上該当する行為であって、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを同号の禁止の対象となる政治的行為と規定したものと解するのが相当である。
(中略)
まず、本件罰則規定の目的は、前記のとおり、公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することにあるところ、これは、議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは、国民全体の上記利益の保護のためであって、その規制の目的は合理的であり正当なものといえる。他方、本件罰則規定により禁止されるのは、民主主義社会において重要な意義を有する表現の自由としての政治活動の自由ではあるものの、前記…のとおり、禁止の対象とされるものは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ、このようなおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為が禁止されるものではないから、その制限は必要やむを得ない限度にとどまり、前記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである。そして、上記の解釈の下における本件罰則規定は、不明確なものとも、過度に広汎な規制であるともいえないと解される。また、既にみたとおり、本法102条1項が人事院規則に委任しているのは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから、同項が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって、憲法上禁止される白紙委任に当たらないことは明らかである。なお、このような禁止行為に対しては、服務規律違反を理由とする懲戒処分のみではなく、刑罰を科すことをも制度として予定されているが、これは常に刑罰を科すという趣旨ではなく、国民全体の上記利益を損なう影響の重大性等に鑑みて禁止行為の内容、態様等が懲戒処分等では対応しきれない場合も想定されるためであり、あり得べき対応というべきであって、刑罰を含む規制であることをもって直ちに必要かつ合理的なものであることが否定されるものではない。
以上の諸点に鑑みれば、本件罰則規定は憲法21条1項、15条、19条、31条、41条、73条6号に違反するものではないというべきであ…る。”(堀越事件(最二小平成24年12月7日)
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” 本件条例7条1号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、前記各大法廷判決の趣旨によれば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である…。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法21条に違反するものではなく、また、地方自治法244条に違反するものでもないというべきである。そして、右事由の存在を肯認することができるのは、そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならないことはいうまでもない。”(泉佐野市民会館事件・最三小判平成7年3月7日)
他方で、過去に法令違憲判決が下された事件は、いずれも法令の規制範囲(等)が明確であり、憲法適合的解釈や合憲限定解釈により規制範囲(等)を狭めることで当事者(原告、被告人)を救済することが困難なケースに関するものです。
薬事法事件(憲法22条1項違反)、森林法事件(憲法29条違反)、尊属殺重罰規定事件(憲法14条違反)、女子再婚禁止期間事件(憲法14条等違反)、在外国民選挙権制限訴訟(憲法15条等違反)、在外日本国民審査権制限訴訟(憲法15条等違反)がその典型です。
国籍法違憲訴訟(憲法14条違反)、非嫡出子相続分規定事件(憲法14条違反)、議員定数不均衡訴訟(憲法14条違反)、郵便法違憲訴訟(憲法17条違反)は、権利・自由に対する規制が争われている事案ではありませんが、憲法適合的解釈や合憲限定解釈による当事者救済が困難という点においては、上記の6つの判例と同様です。
このような最高裁の傾向が続く限りは、国旗損壊処罰法について法令違憲判決が下されることはまずないと考えます。
この意味において、国旗損壊処罰法が成立し、施行された場合、少なくとも最高裁の法令違憲判決を通じて同法が改廃される可能性は非常に低いと考えられます。