機関車工学:下巻(その7)列車運行の系統
第1章 列車運行の系統
【 列車運行の系統 】
列車運行の系統とは、一地点より目的地に旅客貨物を運搬する列車の筋道及び相互の連絡を言ふものにして、その系統は隣接停車場間の交通に始まり、汽船を介して日本と清国、もしくは日本と欧米とのごとき遠距離の連絡問題に終る。
列車運行の系統を正すとは、各種列車の任務を明かにすること、相当の間隔に各種の列車を分配すること、主要停車場において列車の発着及び継承時刻をして適宜ならしむること、線路の分岐点において本線及び枝線に属する列車の接続をして便利ならしむること、ならびに港湾において列車と船舶との連絡時間を適当に保つこと等にして、これを遂行するには列車を適宜に編成して所定の時刻表により定時にこれを運転するにあり。
世人は列車運行の系統を見てその旅行の順序を定め、または貨物の輸送を托すものなり。一地点を発したる旅客は、何日何時に目的地に達すべきやを予定して列車に乗込むものなり。その旅程長きものは種々の接続列車に乗換を要するが故に、列車の数分の遅延はややもすればその接続列車を逸し、目的地に到着するに数時間もしくば数日の遅延を来たすことあり。
貨物の輸送もまたしかり。一地点における一刻の差は到着地において1日の差となり、貨物の腐敗を来たし商品たることを得ざらしむることあり。価格の変動により、もしくは需要時期を逸し商品を不要に帰せしむることあり。商品納入の約を失せしめて商家の信用を損ぜしむることあり。資金の流通を阻碍して商家の資本を害することあり。
列車の車数を減じ運転速度を緩め各駅停車時間を長くするときは、運転上故障起ること少なくして列車は定時を保ち得べしと言えども、斯くては列車は文明機関たるの用をなさず、列車接続に要する時間を長くするときは連絡を失ふこと稀なりと言えども、斯くては旅客に貴重の時間を空費せしめ貨物の到達を遅延せしむべし。
速度を早くし接続時間を短縮し昼夜便利の時刻に列車の発着を計り、旅客貨物の集散状態に応じてよくこれを運搬するをもって交通機関の第一義とせば、ここに列車運行の系統を正すことは簡易なる問題にあらざるを知らん。しかしてこれを調理するには計画者及び実行者に多大の熟練と協同一致の動作とを要することは疑を容れず。
鉄道沿線各地方に特有の事情あり。居住者、通勤者、通学者、漫遊者、ならびに商店、市場、工場等、各その目的により列車に求むる所はなはだ多し。故に列車を分配するには各地方の需要を見てこれに応ぜざるべからず。またある場合には地方を開発するがため地方の要求に先だたざるべからず。
旅客の員数貨物の数量は地方によりまた季節によりて差違あれども、年来の統計によりまたその他の状報により各地方において運搬すべき最小限及び最大限を予想することを得べし。この予想に基づきて列車の増減を行ひ旅客貨物を流通せしめて停滞する事なからしむるは、また列車運行系統の大なる問題にして運転計画者ならびに実行者が解決すべきものなり。
旅客貨物の運搬数量は、首府もしくば大都会に近づくに従ひ漸次増加するは自然の趨勢にして、あたかも河川が漸次付近の網流を併呑して水量を増加しもって海に入るがごとし。列車運転と大河の流とは種々の点においてその原理を同ふするものにして、大河の沿岸数十里の地は灌漑舟楫の恵を受くると同じく鉄道沿線数十里の民はまたその便を得べし。従って大河の系統及びこれを支配する自然の法則を研究するときは、列車運転上、資するところ少なしとせず、本線は大河に例ふべく、枝線は支流に比すべく、湖水沼沢は都会または工業地の存在するに似たり。
大雨到りて水量のにわかに増加するは、いわゆる出荷季に際し貨物の移動するに均しく、干ばつ至りて水量の減少するは、不景気に際し旅客貨物の欠乏するに類せり。ただそれ河川にありては天の恵に頼るもの多く、その水は常に低きに就きて終に大海に注がれ、しかる後雲となり雨となりて自然に水源地に復帰すれども、吾人の鉄道は常に往復の二流を有し人為的器械的に車両を押し流さざるべからず。故にその運転業務は天然の水流に比してはるかに困難なれども妙味またここに存す。
列車の運行系統を正し、旅客貨物の輸送を安全且つ敏捷に遂行するに就いて数多の手段あるべし。就中経費のいかんに頓着なく列車を濫発し、これを実行せんとするは比較的容易の業に属すべし。しかれども鉄道事業は一つの公共事業たると共に、一面には営利事業たることは争ふべからざるものなれば、これを不経済に経営することは鉄道そのものの基礎を危くするに至るべし。故に総ての方面にわたりて収入支出の関係を審かにし最も経済的方法を講ぜざるべからず。しかしてこれ常に運転当事者の最も苦心するところにして、以下論述する事項がこの運搬の便利と経済との調和の研究に関すること多きを見るべし。
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