機関車工学:上巻(その66)最近における機関車発達の概要:汽缶の発達
【 汽缶の発達 】
機関車の牽引力を増加する上において、「シリンダー」の大きさを増し車輪の配置を増加するは比較的容易なる事項に属すれども、汽缶の容積を増大するははなはだ困難なり。
大形なる汽缶はその直径大なると同時に、「ファイア・ボックス」及び「チューブ」長きを例とす。しかれども「ファイア・ボックス」の長きものは石炭を投入するに不便なり。「チューブ」の長きものは伝熱面積を増加すれども、その短きものに比すれば蒸気発生上の効率を減ずべし。これを実験に徴するに「ファイア・ボックス」の長さは 10フィート以下たるべく、「チューブ」の長さ 18フィートを超ゆるものは徒らに汽缶の死重を増すに似たり。
従来「ファイア・ボックス」は左右車輪の間に挟まり、「グレート」面積はなはだ狭小なるものなりしが、1881年米国の「ティー・エヌ・イーリー」氏は従輪を超えて、「ファイア・ボックス」を左右に拡大するの方法を案出し、初めて「ペンシルベニア」鉄道に採用せられたり。これを大幅「ファイア・ボックス」と称す。最初は多く粗悪なる石炭を使用するに適用せられたりしが、漸次発達して善良なる石炭を燃焼するものにも応用せられ、近来は米国における機関車の基本の汽缶と称せらるるに至りたり。第 60図に示すものはその一例なり。
欧州各国においても漸次この形式を採用するの傾向ありて、機関車の改良上に一紀元を描きたり。
けだし「グレート」面の大きさは伝熱面に対する割合もありて、徒らにこれを増大するは汽缶の効率を減殺するの虞れありと言えども、相当の程度にこれを増大し、多量の石炭を燃焼し、多量の蒸気を発生せしむるは、強大なる汽缶の設計上やむを得ざるの方法なり。
大幅「ファイア・ボックス」は車輪の上部に「グレート」を有し、「ファイア・ボックス」の深さはなはだ浅きをもって、伝熱上多少不利益たるを免れず。しかれどもその周囲の水室広きをもって、缶水の循環良好なるのみならず、比較的長き「ステー」を有するをもって、「ファイア・ボックス」の膨張及び収縮に伴なう「ステー」の折損を軽減し、「ファイア・ボックス」の保存上有利なる設計なり。
また近来米国にては、大形なる長き汽缶において「チューブ」の長さを短縮し、且つ「ファイア・ボックス」の伝熱面を増加するの方法として、第 61図に示せるごとく「ファイア・ボックス」の前部を「バレル」の内部に延長したるものあり。
この形式は「チューブ」の伝熱面を減じて「ファイア・ボックス」の伝熱面を増加すれども、増減相伴はざるをもって全伝熱面の減少するを免れず。しかれども「ファイア・ボックス」の伝熱面は「チューブ」の伝熱面に比し、蒸発率においてはるかに優れるものなれば、蒸気発生力においては損失する所なし。
その構造やや複雑なりと言えども、大形なる汽缶における「チューブ」の長さを減ずるに便利なる方法なるはもちろん、「ファイア・ボックス」内におけるガスの燃焼を増進するの利益あるものなり。
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