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2024年5月の記事

2024年5月31日 (金)

機関車工学:中巻(その294)汽缶の付属品:汽 笛

【 汽 笛(Whistle) 】

 「ホイッスル」は合図または線路付近の通行者を警告するために使用せらるるものにして、英国にては通常第 1509及び 1510図に示せる形式を採用せり。

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 「レバー」6を下に引き「バルブ」4が「ロッド」5によって下方に押し下げらるるときは、蒸気は孔道 h を通じて円板3の周囲より噴出し「ベル」2に衝突し、「ベル」の震動はすなわち吾人の常に耳中に記憶せる一種の音聲を発するものなり。しかしてその音聲の大小は「ホイッスル」の大小によって異なるものにして、英国にては通常2個を備へ、小なるものは合図に用ひ、大なるものは警告に用ふと言えども、普通は1個の「ホイッスル」によりその鳴数と鳴聲の長短とをもって区別せり。

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 第 1511図は米国において多く用ひらるる「チャイム・ホイッスル」と称する形式にして、その構造の異様なる点は「ベル」の内部が垂直の方向に3個の障壁において3部に区分せらるるにあり。しかしてその各区分せられたる部分は、また各水平の方向に障壁ありて、その第1は頂部に、第2は中間に、第3は下部にこれを有するをもって三種の震動を生じ、三種の音聲相調和して一種の興味ある曲音を奏す。米国にては従来1個の「ホイッスル」を使用し、警告用には別に小き鐘を備ふ。

 英国機関車における「ホイッスル」は「ファイア・ボックス・セル」の頂部、「キャブ」の手近にある「ホイッスル・スタンド」に装置せらるるもの多しと言えども、また「パイプ」によって蒸気を引き「キャブ」の屋上に置くものあり。米国にてはこれを「ドーム・カバー」の上に置くもの多し。

 

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2024年5月30日 (木)

機関車工学:中巻(その293)汽缶の付属品:安全弁

【 安全弁(Safety Valve) 】

 「セーフティ・バルブ」は缶内蒸気の圧力が過度に上騰するを予防するために備へられたるものにして、蒸気の圧力が常用圧力以上に上騰したるときは自然に「セーフティ・バルブ」より蒸気を噴出し、もって機関手を警戒するものとす。もちろん圧力が幾ポンド上騰せしやは常に験圧計(pressure gauge)によって指示せらるるものなれども、機関手が始終「ゲージ」に眼を放つの暇なきのみならず、「ゲージ」が不具合なるときはこれのみに依頼するははなはだ危険なるを免れず。

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 第 1503ないし 1504図に示すは「ラムズボトム」氏の始めて採用したる形式なるをもって、「ラムズボトム・セーフティ・バルブ」と称せられ英国にて広く用ひらる。

 2個の真鍮または鋳鉄製「コラム」は「ファイア・ボックス・セル」の上部に安置せられ、頂部に2個の真鍮製「バルブ」を有す。「バルブ」は弾機によって「レバー」を通じて圧迫せられ、弾機の下端を支持する丁形の鉄片はその下部に「ワッシャ」を有し、「ワッシャ」の厚薄によって弾機の緊張を加減し自在にこれが強弱を定むることを得るものとす。「レバー」の一端はこれを延長し「キャブ」内に導き、機関手が時々これを軽打し「バルブ」の開閉を試み、もってその完全なるや否やを試験するに便ならしむ。

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 第 1505及び 1506図に示すはドイツにおいて広く用ひらるるものの一例とす。

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 第 1507図に示せるは「ジョージ・W・リチャードソン」氏の始めて採用したる「ポップ・セーフティー・バルブ」と称するものにして、米国にて広く使用せらるる形式なり。「バルブ」は「スプリング」及び円板によって圧迫せられ、「スプリング」は2個の「ボルト」によってその強弱を加減せらる。図のごとく「バルブ」の上部はその径を拡大し、且つその下部及び「バルブ・シート」の周囲に溝を備ふ。

 けだし「セーフティ・バルブ」は蒸気の圧力によって押し開かるるに従ひ、「スプリング」の抵抗次第に増加し充分に開放する事あたわざるものなれば、「バルブ」の上部の面積を増大し置くときは「バルブ」が開放せられたる後、蒸気の噴出力によってその増大したる面を圧する事となり、且つ溝を有するときは噴出したる蒸気がその溝中に包含せらるる傾向あるをもって、ますますその圧力を助け充分に「バルブ」を押し開くことを得べし。故に「ポップ・セーフティ・バルブ」は、「ラムズボトム」式に比すれば「バルブ」の開き方はるかに鋭敏にしてその効力著大なるものとす。

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 第 1508図に示すは米国「コンソリデーテッド」安全弁製造会社における特有の形式にして、「バルブ」の構造やや異なる所ありと言えどもその作用は前陳のものと同一なり。その他類似の形式種々あれどもここにこれを省略すべし。

 

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2024年5月28日 (火)

機関車工学:中巻(その292)汽缶の付属品:グレシャムインジェクター

【 「グレシャム・インジェクター」(Gresham Injector) 】

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 第 1501及び 1502図は英国「グレシャム」及び「クレイブン」会社の製造に係る「インジェクター」にして、「コンビネーション・インジェクター」(Combination Injector)の称あり。けだし合併「インジェクター」の義にして、給水用に必要なる総ての「コック」「バルブ」等を同一体内に兼備するをもってなり。

 この形式においては「セラース・インジェクター」のごとく別に「リフティング・ノズル」を有せず、その特点とするところは「コンバイニング・チューブ」を上下二個2及び3に分割し、上半部は遊離して自由に上下に運動を許すことなり。蒸気と水と充分に合体して「コンバイニング・チューブ」に突進するときは、この「チューブ」の上半部2と下半部3とは合して一体となり、水は「デリバリー・チューブ」4を通じ「チェック・バルブ」1を押し開けて、「バルブ」E を通じて矢の示すがごとく「デリバリー」に出づるものとす。

 けだし「チューブ」の上半部は、「オーバーフロー」C より通ずる大気の圧力にて下方に押し付けらるるものなり。もし水管内において一時故障を生じ水の供給杜絶したるときは、蒸気は「コンバイニング・チューブ」の上半部を上方に押し付け、その上半部と下半部との間の空隙より自在に「オーバーフロー」C に噴出し、水管内に絶えず真空を誘導するをもって水管内の故障除去したるときは自然に再び給水を始むることを得べし。故にこれを「リスターティング・インジェクター」と言ふ。「リスターティング」とは再び「インジェクター」を掛け始むると言ふ義なり(ただし「セラース・インジェクター」も「リスターティング」なり)。

 この「インジェクター」は普通「バック・プレート」に取付けられ検査修理に便利にして、運転中と言えども上下の「バルブ」A 及び E を閉塞し、上部の蓋を取るときは「チェック・バルブ」「ノズル」等を検査することを得べし。

 「タンク」内に蒸気を逆流せしめんとするときは「オーバーフロー・コック」を閉ぢ、「ウォーター・コック」及び「スチーム・コック」を開くこと「セラース・インジェクター」の場合と同じ。

 「グレシャム」及び「クレイブン」会社の示す所によれば、この「インジェクター」の1時間の給水量は第 71表のごとし。

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2024年5月27日 (月)

機関車工学:中巻(その291)汽缶の付属品:モニターインジェクター

【 「モニター・インジェクター」(Monitor Injector) 】

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 第 1500図は「モニター・インジェクター」にして、その体は1及び2の二個より成り、15は水の入口、16は蒸気の入口、17は給水の出口とす。3は「リフティング・バルブ」にして把柄 20にて開閉せらる。5は「スチーム・バルブ」にして螺旋把柄 19によって開閉せらる。また 14は「ウォーター・バルブ」にして把柄 21によって開閉せらる。

 この「インジェクター」を使用せんには、まず「ウォーター・バルブ」14を開放し、16に蒸気を通じ「リフティング・バルブ」3を開くべし。斯くするときは蒸気は「ノズル」4を出で 18を経て大気中に放出せらる。その結果は水室 15に一部の真空を生じ「タンク」より此所に水を吸上げ、直ちに「コンバイニング・チューブ」7に入り「コンデンシング・チューブ」に設けたる孔を通じ、「オーバーフロー」通路 22を経て「オーバーフロー・ノズル」18に溢出すべし。水が 18に出づるや否や「リフティング・バルブ」3を閉ぢ「スチーム・バルブ」5を開くべし。しかして「ノズル」6より出づる蒸気は「ノズル」7における水に逢遇し、これに充分の速度を放与して「チェック・バルブ」10を押開き、「デリバリー・パイプ」を経て缶中に進入せしむ。その給水の量は「ウォーター・バルブ」14によって加減せらるべし。

 

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2024年5月26日 (日)

機関車工学:中巻(その290)汽缶の付属品:セラースインジェクター

【 「セラース・インジェクター」(Sellers Injector) 】

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 第 1498図は米国製「セラース」式「インジェクター」を示す。図中1は「ケース」、2は蒸気の入口、3は水の入口、4は水の出口、5は「オーバーフロー」の出口、6は蒸気を加減する「レバー」、7は水を加減する把柄、24は蒸気を「タンク」内に逆流せしむるとき「オーバーフロー・バルブ」8を閉塞するための「エキセントリック・レバー」なり。

 この「インジェクター」を使用せんとするときは、まず「ウォーター・バルブ」9を開き水をして水室 10に入るの途を開き、次に蒸気室2に蒸気を導き「レバー」6を前方に引きて「バルブ」11を開き、蒸気をして12なる小孔より「リフティング・ノズル」13に進ましむべし。しかるときは蒸気の一部は直ちに輪形「コンバイニング・チューブ」14に入りて、「オーバーフロー」15より一部は「コンバイニング・チューブ」20における他の「オーバーフロー」16及び17より逃れ出でて、「オーバーフロー・チャンバー」18に入りさらに「オーバーフロー・バルブ」8を押上げ外部に逃出すべし。

 しかして水室 10内に強き真空を生ずるをもって、水はこれを充さんがために「タンク」内より進入し来り蒸気と合して速度を得、さらに「コンバイニング・チューブ」20に放射すべし。然るときにさらに「レバー」6を前方に引きて、「スチーム・バルブ」11をして「スチーム・ノズル」19と全く離れしむるときは多量の蒸気は19に入り、19の周囲より注射しつつある水流と触接し多量の蒸気と多量の水量と好位置に合体し、「デリバリー・チューブ」21及び「チェック・バルブ」22を容易に通過して缶内に入るべし。

 「レバー」6はこれを二段に前方に引くべきものなれども、蒸気の速度は迅速なるをもってこれを引くに別に一時中止するに及ばず。漸次にこれを動かせば足れりとす。

 「エキセントリック・レバー」24により「オーバーフロー・バルブ」8を閉ぢ、「バイパス・バルブ」23及び「スチーム・バルブ」11を開くときは、蒸気は直ちに水管3より「タンク」内に逆流すべし。この作用は水管または「タンク」内の凍結を防ぐため、または「ストレーナー」の障碍物を除去するとき、もしくは水管の漏洩を検査するときに応用す。

 「セラース」会社の実験する所によれば、この「インジェクター」の1時間の給水量その他は第 70表に示すがごとし。

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 第 1499図は「セラース」会社が 10¹/₂ 形「インジェクター」によって、その最大及び最小給水量を試験せる結果を説明せる指示図にして、各蒸気の圧力及び各給水温度に対し、「インジェクター」が給水し得る最大及び最小水量の範囲を示すものなり。

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 例へば給水の温度華氏 65度にして蒸気の圧力 200ポンドなる場合には、給水し得べき最大水量は1時間に付き 4068「ガロン」(米「ガロン」以下同じ)にして、最小水量は 1846「ガロン」なり。すなわち加減し得べき給水水量の範囲は 2222「ガロン」なる事を知る。しかして最大水量の線と最小水量の線と交叉する点は、当該温度の水に対し当該圧力によって「インジェクター」を掛け得る終点にして、それ以上の圧力にては水が「オーバーフロー」に逸出する事を意味するものなり。

 例へば 175ポンドの蒸気にて掛け得る水の最高温度は華氏 110度にして、275ポンドの蒸気にて掛け得る水の最高温度は 80度なるがごとし。これを換言すれば蒸気の圧力高ければ給水温度低きを要すべく、給水温度高ければ蒸気の圧力は低きを要するものなり。実験によれば 40ポンドの蒸気は華氏 140度の水を揚ぐべしと言えども、150ポンド以上の蒸気は 110度以上の水を揚ぐること困難なり。図に示す〇印は試験によって得たる点にして、この指示図はこれを頼りて適当なる曲線を作りたるものとす。

 

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2024年5月23日 (木)

機関車工学:中巻(その289)汽缶の付属品:インジェクターの作用

【 「インジェクター」の作用 】

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 第 1497図は簡単に「インジェクター」の構造及び作用を説明せんがために造りたる略図にして、A は「インジェクター」、B は汽缶、C は「タンク」、D は蒸気管にして、汽缶と「インジェクター」とを連絡す E は吸水管(suction pipe)、F は給水管(delivery pipe)、G は汽缶の「チェック・バルブ」にして缶水の「インジェクター」に逆流するを防ぐ。S は「スチーム・バルブ」、O は「オーバーフロー・バルブ」にして x なる出口に通ず。

 この図に示せるは「リフティング・インジェクター」と称する形式にして2個の作用をなすものとす。その1は C なる「タンク」より「インジェクター」まで水を引上ぐること。その2は汽缶に水を送入する事これなり。「ノン・リフティング・インジェクター」と称するは、「インジェクター」より単に汽缶に水を送入するのみの作用をなすものにして、通常「タンク」の水面以下に置かるるものとす。

 「インジェクター」を使用せんとするときは、まず「スチーム・バルブ」S を開くときは蒸気は a なる円錐管を通じて b に出で、それより「オーバー・フロー・バルブ」O を通じて x に流出すべし。同時に b の周囲に一部の真空を作るをもって、水は直ちに C より E 管内を上昇して b に出づべく、ここに蒸気は水に非常の速度を与へて水を F 管内に進入せしむべし。

 この速度を有する水はよく缶内の圧力に打勝ちて「チェック・バルブ」G を押開くべし。すなわち「インジェクター」の原理は蒸気の放射力を利用しその勢(energy)を水に与へて、汽缶の内部より「チェック・バルブ」を圧せる缶水の圧力に打勝たさしむるにあり。けだし一般に速度を有する物質は、力学上

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なる運動「エネルギー」を有するものにして、質量 M または速度 V が大なれば大なる程この「エネルギー」の大なるはもちろん、速度の自乗に比例するをもって蒸気が水に与ふる速度大なればこの「エネルギー」の増加は特に著しきものなり。

 「インジェクター」各部の構造は、この目的を達せしむるに便なる様各種の円錐管を備へて蒸気及び水に速度を与ふる様設計せられたるものなり。もし水の供給が蒸気に比して過大なるときは蒸気は水に充分なる速度を与ふる事あたわざるべく、過少なるときは蒸気の凝結少なく水が片々に分たるるをもって、共に「インジェクター」の作用を完ふする事あたわざるべし。

 「インジェクター」を掛け始むるときは通常過分の水量が「インジェクター」内に進入するものとす。しかしてもし「インジェクター」内部と大気との通路自在なるにあらざれば、この際蒸気は水を押し戻して「タンク」内に逆流すべし。故に溢出口(overflow)を設け余分の水はこれより外方に逃出せしめ、水と蒸気との加減よろしきを得て充分の水勢をもって「チェック・バルブ」を押上げしむ。

 「インジェクター」内の円錐管は実験によりて適当の形状を定だむるものにして、その大さは「デリバリー・チューブ」の最少部分の直径をもって標準とす。6または7「ミリメートル」と言ふがごとし。

 「インジェクター」には数多の種類ありと言えども、今その最も広く用ひらるるものの2~3を説明せんとす。

 

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2024年5月20日 (月)

機関車工学:中巻(その288)汽缶の付属品:インジェクター

第11章 汽缶の付属品

【 「インジェクター」(Injector) 】

 「インジェクター」は 1858年フランス人「アンリー・ジファール」氏の発明に係る一種の給水器にして、その作用は蒸気が缶内より出でて種々縮小せる通路を経、且つ数個の「バルブ」を過ぎて他より水を誘引し、凝結して水と混和し共に再び同一の缶内に復帰するに至るものとす。その理論ははなはだ簡単にして蒸気が熱を水に放与する作用は、あたかも蒸気が「ピストン」に働く機械的作用に等しきものなり。

 けだし蒸気が非常なる高速度をもって流出するや、その速度の大部は水に放与せらるるをもって、その隋力に帰因する圧力は蒸気の圧力よりもなお一層高きものにして、同一缶内の圧力に打勝って缶中に進入し得るはもちろん、なお一層高き圧力を有する缶内にも給水することを得るものなり。

 汽缶に給水するには往時は「ポンプ」を使用せりと言えども近来は全く「インジェクター」によれり。けだしその利害左のごとく顕著なるをもってなり。

 1.
 使用中故障の度数は「インジェクター」に少なくして「ポンプ」に多し。

 2.
 故障を生じたるとき「インジェクター」は「ポンプ」に比すればその検査修理容易なり。

 3.
 「インジェクター」は「ポンプ」に比すれば水の凍結する憂少なし。

 4.
 「インジェクター」は一時に多量の給水をなすことを得べしと言えども、「ポンプ」はその機能を有せざるが故に缶水欠乏に際し急に送水することを得ず。

 5.
 「インジェクター」は停車中と言えども送水することを得べし。「ポンプ」は運転中にあらざれば送水することを得ず。

 6.
 「ポンプ」の装置は概ね外部にあるをもって機関車運転中障碍物に触るるか、あるいは機関車転覆の際にはその一部もしくは全部を破損せしむること多く、またたとえ破損を免るるとも斯かる場合にはなはだ必要なる送水をなすことを得ず。

 7.
 「インジェクター」は「ポンプ」に比すればその水量を加減するに容易なり。

 8.
 濁水を使用するに「インジェクター」は「ポンプ」に比すればその害を受くること少なし。

 9.
 「インジェクター」は熱湯を缶内に送入し得るに反して「ポンプ」は冷水を送入す。汽缶保存上この点において「インジェクター」は「ポンプ」に比すれば最も勝れり。

 

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2024年5月17日 (金)

機関車工学:中巻(その287)ドーム・レギュレーター及び蒸気管:蒸気管

【 蒸気管(Steam Pipe) 】

 「レギュレーター・スタンド・パイプ」は、その底部において屈曲して汽缶内の「スチーム・パイプ」に連接せらる。この管は汽缶内にあるをもって管内を通過する蒸気は缶内蒸気の温度によってその乾燥を維持することを得べし。故にこれを「ドライ・パイプ」と称す。けだし乾燥管の義なり。

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 通常薄き銅管を用ふ「レギュレーター・パイプ」と「ドライ・パイプ」との継手は、普通第 1493及び 1494図に示すがごとく円錐形の触面を有し2本の「ボルト」をもって締付らる。「ドライ・パイプ」の前端は「スモーク・ボックス・チューブ・プレート」に取付られ、これより「スモーク・ボックス」内の「スチーム・パイプ」に通ずるものとす。

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 「ドライ・パイプ」内の蒸気は第 1495及び1497図に示すがごとく、T (Tee)「ピース」を通じ二途に分れて「スモーク・ボックス」内の「スチーム・パイプ」に通ずるものとす。この管は欧州各国においては薄き銅管を用ふるもの多しと言えども、米国にては鋳鉄管を使用するもの多し。管内の蒸気は「スモーク・ボックス」内の温度によって常に熱せられ、ここに過熱せられて「シリンダー」内に送らるるものとす。

 「スチーム・パイプ」の両端は、いずれも「ボール・ジョイント」によって T (Tee)「ピース」及び「シリンダー」に取付けらるるもの多し。「ボール・ジョイント」は図に示すがごとく球面を有する「ライナー」にして、「スモーク・ボックス」内において「パイプ」が温度の変化に伴ひ膨張または収縮するに当り、幾分か自由を許容するに便利なる継手なり。

 煙室内における「スチーム・パイプ」の大きさに就ては既に第7編第1章に述べたるがごとし。「レギュレーター・パイプ」及び「ドライ・パイプ」の大きさはこれより2割ばかり大なるべく、また「レギュレーター・バルブ」における「ポート」の面積はなおこれより2割ばかり大なるを良とす。

 

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2024年5月15日 (水)

機関車工学:中巻(その286)ドーム・レギュレーター及び蒸気管:レギュレーター

【 「レギュレーター」 】

 「レギュレーター」は「ドーム」の中に置かれ「シリンダー」に蒸気を送る第一の関門にして、その構造は「スチーム・パイプ」に送出する蒸気の分量を自在に加減し得るを要すべし。

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 第 1481ないし 1483図に示すは最も簡単なる形式にして、蒸気の入口すなわち「ポート」はあたかも「シリンダー」における「スチーム・ポート」に類し、その上には上下に滑動し得べき1なる「スライド・バルブ」ありて、図のごとく「ポート」と「バルブ」の穴とが食ひ違ひたるときは蒸気は閉鎖せられ、合対したるときは開放せらるべし。この「バルブ」は「バルブ・ロッド」4によって上下せらるべく、4は「レギュレーター・ロッド」5に取付けある「クランク」6の一部回転によって運動すべく、5は「キャブ」内に把柄を有し機関手によって一部回転するよう装置しあり。把柄の右端にあるときは「バルブ」を閉塞し、左端にあるときはこれを全開す。

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 第 1484ないし 1486図に示すは従来広く用ひらるる形式にして、「ポート」の上に上下に滑動すべき1及び2なる大小2個の「スライド・バルブ」あり。1は「ポート」に密接し、2はその背部にありて各大小二組の穴を有す。しかして機関手が「レギュレーター・ハンドル」を使用するときは「バルブ」2はまず滑動し、小き穴が相合対するに至れば少量の蒸気は「レギュレーター・パイプ」3の中に進入すべし。この時に至りて「バルブ」1はその滑動を始むるよう装置しありて1及び2の大なる穴が相合対するに至れば、「ポート」の穴とも相合対し始めて多量の蒸気が「レギュレーター」を通過するに至るものとす。

 「レギュレーター・バルブ」が閉鎖せられたるときは、その外面にのみ蒸気の圧力を受くるをもって、最初これを開かんとするときは摩擦の抵抗ありてかなり重きものなり。2枚の「バルブ」を使用したるはこれを軽減せんがためにして、「バルブ」2がまず開きて蒸気のいく分を「レギュレーター・パイプ」中に送入するときは、「バルブ」1はその内面にも多少の圧力を受くるをもって、外面の圧力をいく分平均し「バルブ」1を軽く開くことを得るなり。

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 また近来広く用ひらるるは「ラムスボトム」氏の発明に係る二重「バルブ」にして、第 1487ないし 1489図に示すがごとく1は真鍮製「レギュレーター・バルブ」にして上下に「バルブ」を有し、両「バルブ」は単一に鋳造しありて同時に開閉せらるるものとす。上部の「バルブ」は下部の「バルブ」に比し幾分か大にして、前者は上方より下に向て圧力を受け、下方より上に向て圧力を受くるをもって上下圧力の大部は相平均し、上下「バルブ」の面積の差によりて生ずる圧力の差はすなわち2個の「バルブ」を閉塞するに要する圧力にして、「バルブ」を開かんとするに当りてはこの圧力の差が抵抗となるのみなるをもって、極めて軽少の力をもって操縦し得るものとす。

 「レギュレーター・バルブ」は普通真鍮をもって製せられ、時として鋳鉄をもって製せらるることあり。真鍮製なるときは真鍮製「シート」を用ひ、鋳鉄製なるときは鋳鉄製「シート」を用ふるを良とす。けだし「バルブ」と「シート」とがその地金を異にするときは、汽缶内の温度によって生ずる膨張の差は「バルブ」と「シート」との密着を乱し蒸気の漏洩を免れざればなり。

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 以上述べたるは英国形「レギュレーター」にして、第 1490ないし 1492図に示すは米国形「レギュレーター」の一例とす。別に異なる点なきも「レギュレーター・ロッド」を前後に進退せしめ、「ベル・クランク」を通じて「バルブ・ロッド」を上下に運動せしむるよう装置するを一般の慣例とす。

 「レギュレーター・パイプ」は二部に分たれ、その直立せる部分を「スタンド・パイプ」と称し、頭部を「バルブ・ボックス」と称す。けだし「バルブ」及び「バルブ・シート」は時々摺合せをなすの必要あるをもって、これを「ドーム」より取出すに便なるを要すべし。「スタンド・パイプ」は通常鋳鉄をもって製せらる。

 

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2024年5月13日 (月)

機関車工学:中巻(その285)ドーム・レギュレーター及び蒸気管:ドーム

第10章 「ドーム」「レギュレーター」及び蒸気管(Dome,Regulator and Steam Pipe)

【 「ドーム」(Dome) 】

 「ドーム」は「バレル」の頂部に置かれたる蒸気貯蔵室にして、「シリンダー」、その他「エジェクター」等に送出する蒸気は総てこの室より供給せらるるものなり。その「バレル」の頂部に置かれたるは乾燥せる蒸気を得んがためにして、下部に細目の金網を置きもって熱湯の飛散して「ドーム」内蒸気の湿潤するを防御するを例とす。

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 「ドーム」の構造は簡単なる円筒にして、英国にては普通第 1479及び 1480図に示せる形式を用ゆ。この形式は「ドーム」の筒体1と「ドーム・シート」2とより成り、その合せ目は「フランジ」を有し「ボルト」及び「ナット」をもって締結せらる。けだし「ドーム」内には「レギュレーター」を有し、これを修繕または点検するに当り「ドーム」を取除くの必要あるものにして、この形式においては1を取除くときは「レギュレーター」の全部暴露せられて自由にこれを操縦し得るの便あり。

 「ドーム・シート」の底部は「フランジ」を有し「バレル」に取付けらるるものにして、「バレル」に穿ちたる穴は通常人体を許容するを程度として「ドーム」の直径より小くして、かなり「バレル」の強さを損減せざるを期すべし。しかして穴の周囲は内部より環状の板を打付け、もって穴のために損減したる「バレル」の強さを補足するを例とす。

 米国にて多く用ひらるる形式は「ドーム・シート」を有せず、底部は「フランジ」の代りに隅鉄を用ひ、頂部に「カバー」を有するを例とす。「カバー」は鋳鋼にて製せらる。

 「ドーム」の筒体における縦の継目は通常溶着するものなれども、時として「バット・ジョイント」にて継ぐことあり。

 

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2024年5月10日 (金)

機関車工学:中巻(その284)煙室・煙突及びブラストパイプ:ノズルの口径を変更し得る装置

【 「ノズル」の口径を変更し得る装置 】

 前条既に述べたるがごとく「ブラスト・パイプ」の「ノズル」の口径は通風上至大の関係あるものなれば、運転中これを自在に変更し得るときは時宜に応じて通風を加減するを得て、運転上はなはだ便利なるのみならず経済的に石炭を燃焼し、また「ピストン」の後圧力を軽減することを得るものなり。その設計種々あれども左に主要なるもの2~3を説明すべし。

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 第 1464ないし 1467図に示すは英国大東鉄道会社の「ディー・マカラン」氏の設計に係る一例を示すものにして、蝶交によって「ノズル」を開閉するの装置なり。「ノズル」の口径は普通「ブラスト・パイプ」に取付けあるものと同一にして、これを開放すれば「ブラスト・パイプ」の口径はおよそその4割を増大すべし。「ノズル」の開閉は機関手が「キャブ」の内にありて自在に操縦し得るよう装置しあり。

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 第 1468ないし 1474図に示すはスイスにおいて多く用ひらるる形式にして、「エキゾースト・パイプ」の上部に2個の弁を取付け蝶交によってこれを開閉するの装置とす。しかして弁の開閉はすなわち「ノズル」の口積を増減し通風の強弱を加減するものにして、図に示すは弁の閉鎖せられたる位置すなわち「ノズル」の口積最も小なる場合なり。この弁の開閉もまた「キャブ」の内において操縦せらる。

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 第 1475及び 1476図に示すは英国ロンドン及び南西鉄道の監督「アダムス」氏の発明に係る「ブラスト・パイプ」にして、その頂部二重の孔を有し外部の孔1は環状をなしこれより放出蒸気(exhaust steam)を噴出せしむ。その内部3は空筒にして下部2において外部に開通せり。しかして放出蒸気が1より逃出するに当り、「スモーク・ボックス」内のガスは普通の「ブラスト・パイプ」の場合と同じく上部においてその外部より誘出せらるるはもちろん、下部2よりも内部3を通じて誘出せらるるをもってガスは「チューブ」の上列及び下列を平等に流通すべし。

 故にこの「ブラスト・パイプ」は、「ペチコート・パイプ」または「デフレクティング・プレート」と同様の効能を有し、平穏なる通風を発生することを得るものなればその頂孔の面積を増大することを得べく、従って「ピストン」の後圧力を減少し且つ未燃の粉炭または「スパーク」の噴出を軽減するの利益あるものとす。

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 第 1477及び 1478図は「ジョン・ワイ・スミス」氏の発明したる「ブラスト・パイプ」にして、前記「アダムス」氏の設計と同一の理をもって設計せらる。1はガスの進入する個所にして、2は放出蒸気(exhaust steam)の通過する個所なり。ガス及び蒸気の通過する方向は矢の示すがごとく各々3個の管を通じて三段に分流するものにして、前記のものに比すればその効力さらに著大なりと言ふ。

 


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2024年5月 8日 (水)

機関車工学:中巻(その283)煙室・煙突及びブラストパイプ:ブラストパイプ

【 「ブラスト・パイプ」(Blast Pipe) 】

 「ブラスト・パイプ」は通常鋳鉄をもって製せらるものにして、時として銅製となすことあり。その頂部の内壁は煤粉付着して常に掃除を要するものなれば、頂部を離別して時々これを取外すに便ならしむ。これを「ブラスト・パイプ」の「ノズル」と称す。

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 第 1460及び 1461図は英国形外側式「シリンダー」に属する「ブラスト・パイプ」、及びその「ノズル」の形状を示すものにして、その底部両側における放出蒸気管(exhaust pipe)に連結せられ上部に至り、相合して一本となり頂部に「ノズル」2を有す。

 内側式「シリンダー」においては 526図ないし 530図の(2)、または 546及び 547図に示せるごとく底部よりこれを一本となしたるものあり。


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 その高さは英国においては「ノズル」を「チューブ」の上列以上に置くを習慣とし、これを底下するの必要あるときは「チムニー」の底部を適宜下方に延長し、あたかも米国における「ペチコート・パイプ」に類する設計をなすことあり。

 米国においては一般に外側式「シリンダー」を採用すれども、放出蒸気(exhaust steam)は「サドル」内において左右相接近して一本の「ブラスト・パイプ」に導かる。しかして一般に「ペチコート・パイプ」を利用し極めて矮小なる「ブラスト・パイプ」を用ふるを例とす。第 1462及び 1463図は米国形「ブラスト・パイプ」の一例を示す。

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 「ブラスト・パイプ」より逸出する放出蒸気(exhaust steam)の噴出力は、その噴出する蒸気の圧力に関するはもちろんなりと言えども、また「ノズル」の孔径の大小に関するものにして、孔径の比較的小なるものはその噴出力強く通風もまた強大なるの利ありと言えども、放出蒸気(exhaust steam)の流出悪しく、従って「シリンダー」内「ピストン」の後圧力を増加し機関車の牽引力を損減するの不利あるものとす。これに反して孔径の比較的大なるものは「ピストン」の後圧力を減少するの利ありと言えども、放出蒸気(exhaust steam)の噴出力弱く、通風もまた薄弱にして蒸気の発生緩慢なるを免れざるべし。故に「ノズル」の面積は大に失すべからず。また小に失すべからざるものとす。

 しかしてその大きさは「シリンダー」の大ささに比例するはもちろんにして、また大いに燃料の善悪に関するものなり。故に計算上一般にこれを定むる事あたわずと言えども、通常その面積は「シリンダー」面積の 13分の1 ないし 16分の1 となすものにして、悪しき燃料を用ふるものは通風の強大なるを要するものなれば「ノズル」の口径は比較的小なるを要すべし。

 「ブラスト・パイプ」はかなり屈曲を避け、もって放出蒸気(exhaust steam)の流通を円滑ならしむるを要すべし。しかしてその屈曲を要する個所はかなり大なる曲線を付し決して急折すべからず。また「ノズル」の位置は「チムニー」と同一の中心にありて決して偏倚すべからず。否らざれば放出蒸気(exhaust steam)は「チムニー」の下部に衝突して通風の作用を害すべし。

 

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2024年5月 7日 (火)

機関車工学:中巻(その282)煙室・煙突及びブラストパイプ:火粉止

【 火粉止(Spark Arrester) 】

 「ファイア・ボックス」より「スモーク・ボックス」に進入するガスの中には半燃の火粉を有し、放出蒸気(exhaust steam)と共に「チムニー」に噴出せらるべし。この火粉の噴出を防止する装置を火粉止(spark arrester)と称す。

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 現今広く用ひらるるものは第 1452図に示すがごとき金網にして、「スモーク・ボックス」内「ブラスト・ノズル」の下に水平に張り詰めありて、上飛せんとする火粉(spark)をしてこの網に衝突して「スモーク・ボックス」の下底に落下せしむる装置なり。この形式は欧米共に広く用ひらる。

 また米国及び大陸において用ひらるる「ダイヤモンド・スタック」と称するものは、既に述べたるがごとく金網と「コーン」とを「チムニー」の上部に装置せり。本邦にて広く用ひらるるものは金網にして、その網目は石炭の種類によって異なれども 32分の5 インチないし 4 分の1 なり。

 元来火粉(spark)は放出蒸気の噴出力を利用してガスと共に排出せらるるものなれば、火粉を防止するの装置は自らガスの流通を阻害し為に通風(draught)を害するものなり。故に微細なる網目を用ひて火粉を防止せんとするがごときは、いたずらに通風(draught)を害するものにしていわゆる一利一害たるを免れざるものとす。

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 第 1453及び 1454図は、ロンドン及び南西鉄道の汽車監督たる「ディー・ドラモンド」氏の発明にかかる一種異形の火粉止(spark arrester)にして、その構造は図に示すがごとく「ブラスト・パイプ」の前後に A なる2枚の板ありて、左右上下に広く延長しその間に B なる数個の板を有せり。

 ガスが「チューブ」より流出するに当りて火粉はまず A に衝突すべく、また A の内部を通過するに当りて B に衝突して落下すべし。またこの装置は「ブラスト・パイプ」の「ノズル」が板と板との間に存在するをもって「ペチコート・パイプ」の作用をなし、あるいは「デフレクター」の作用をもなし、「スモーク・ボックス」内の真空を平等ならしめ平穏なる通風をなさしむるの効ありて、為に大いに火粉の噴出を減少することを得べし。A の一部は上部に跳ね上ぐる様装置しありて「チューブ」を掃除するに便ならしむ。

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 第 1455ないし 1458図は「ストーン」式火粉止と称し、英国南東及び「チャタム」鉄道の技師長たる「ウェインライト」氏の採用せるものにして、同鉄道における急行列車用機関車には皆この火粉止を設備せり。けだし同鉄道において慣用せる石炭は廉価なる粉炭なるをもって、火粉の噴出はなはだしきをもって特種の火粉止を必要とせり。

 その構造は図に示すがごとく、「チムニー」の下部に二重の円錐(cone)あり。その下部は T なる輪に取付けらる。この円錐は幅 1と4分の1"、厚さ 4分の1" の10本の棒にて組立てられ、その周囲には歯を有しこれに径 4分の1" の針金を巻き付けあり。歯は下部において密にして上部に至るに従って漸々粗となる。

 また図に示すがごとく「ブラスト・パイプ」の周囲に多数の孔を切りたる真鍮製の輪を有し、これより「スモーク・ボックス」の下部におけるガスを吸上ぐべし。下部の円錐は A なる「ピン」を抜くときは P を中心として右または左に回転すべく、もって「チューブ」の掃除をなすに便ならしむ。この火粉止は多年使用せられて好結果を奏しつつあり。

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 また第 1459図に示すスダレ形の火粉止は欧州大陸において広く使用せらるる形式にして、その最も簡単にして有効なるをもって本邦においても多く使用せらる。図に示せるはスイスにおける一例にして同国において多く使用せらるる「ブラスト・パイプ」を備ふ。

 

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2024年5月 3日 (金)

機関車工学:中巻(その281)煙室・煙突及びブラストパイプ:ダイヤモンドスタック

【 「ダイヤモンド・スタック」(Diamond Stack) 】

 米国及び大陸においては「ダイヤモンド・スタック」と称する形式を用ふるものあり。その形式の特種なるは第 1445図に示すがごとく「チムニー」の上部を拡大しもってガスの噴出力を緩和するにあり。

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 またここに鋳鉄製「コーン」2及び網3を取付けあり。「コーン」は火粉(spark)に抵抗してその勢力を殺ぎ、これを落下せしむるの用に供せられ且つ網の損傷を軽減するの効用をなす。この種の「チムニー」は通常木材を燃料とするもの、または入替用機関車に採用せらる。その構造種々あり。第 1446及び 1447図に示すものは内外両筒より成り、その間隔は火粉(spark)の堆積する所にして a はこれを取り出す口とす。

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 第 1448ないし 1451図に示すものは欧州大陸において用ひらるるものの実例にして、何れも軽量なる石炭を燃焼する場合に応用せらる。

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 「チムニー」の筒体は通常 4分の1" または 16分の5" の鋼板をもって製せられ、その底部「スモーク・ボックス」に取付らるる部分はその縁端を広げガスの流通を容易ならしむるを良とす。

 米国においては往々筒体を二重となし、外部筒体の上下に小孔を穿ちて内外筒体の間に外気を流通せしむるものあり。その目的は火焔のために外部の熱焦を防ぎ塗料の剥脱を避くるにありと言えども、また「チムニー」内を通過する放出蒸気(exhaust steam)の凝結を減少し、いく分か通風(draught)の効力を増進するにあり。

 「チムニー」の直径は「ブラスト・パイプ」の直径と位置とに最も深き関係を有するものにして、その径の小なる部分の面積は「ブラスト・パイプ・ノズル」の面積の 12倍ないし 13倍となし、あるいは火床(grate)面積の 15分の1 ないし 17分の1 となすを例とす。

 

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2024年5月 2日 (木)

機関車工学:中巻(その280)煙室・煙突及びブラストパイプ:煙 突

【 煙 突(Chimney) 】

 機関車の「チムニー」は前に述べたるがごとく建設規定上制限あるをもって極めて矮小なるものなれば、これによって自然の通風(draught)を発生せしむる事あたわざるものなり。故にその目的は陸上の「チムニー」と全く異なるものにして、放出蒸気(exhaust steam)の噴出力を利用して「ブラスト・パイプ」と共に誘引通風(induced draught)を発せしむるにあるものとす。

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 「チムニー」は筒体の真直なるものと円錐なるものの二種ありと言えども通常後者を採用するもの多し。第 1442及び 1443図は円錐形「チムニー」の一例を示すものにして、底部の直径は 17と2分の1" にして頂部の直径は 18と8分の3" なり。その頂部の径を増大するはガスの流通を容易ならしむるにありて比較的良好なる通風を発生するの利あり。

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 また第 1444図に示すは真直なる「チムニー」の一例にして、頂部に円錐形の銅または真鍮の「キャップ」を付したるは、機関車の進行中円滑に風波を受け流し風力のために通風の妨げられざるを期するものとす。

 

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2024年5月 1日 (水)

機関車工学:中巻(その279)煙室・煙突及びブラストパイプ:デフレクティングプレート

【 「デフレクティング・プレート」(Deflecting Plate) 】

 「デフレクティング・プレート」は一名「ダイヤフラム」と称し、「チューブ」の上列より下列に向ひ斜めに取付けたる簡単なる板にして、「チューブ」より放出するガスを「スモーク・ボックス」の下方に流し、もって「チューブ」内ガスの流通を平等ならしむ事、あたかも「ペチコート・パイプ」と同一の効用をなさしむるものとす。

 その下端と「スモーク・ボックス」の底部または「チューブ・プレート」との間の面積は、「チューブ」の総切断面積と均しきかまたはやや大なるを要すべく、その下端と「スモーク・ボックス」の底部との間における面積は、通風を加減するがためその下端を上下して「プレート」を伸縮し得るよう装置したるもの多し。

 

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