【 諸実験の結果 】
油の皮膜及びその摩擦に関する種々実験の結果を総合するに左の事実あるを認む。ただし摩擦面の圧力は平面の場合には1平方インチに付き 40ポンド、軸頸の場合には 100ポンド以上の場合を仮定す。けだしそれ以下の圧力の場合の摩擦は理論上の研究には面白しと言えども、高速度の場合の外は実際にその用なきをもってこれを省略したるものと知るべし。
1.
油の皮膜厚ければ厚きほど摩擦少なし。油の粘度多ければ多きほど摩擦大なり。
2.
摩擦面の速度大なれば油の皮膜を作ること容易なり。
3.
摩擦面の速度緩なれば油の皮膜を作ること困難なるのみならず、いったん形成したる皮膜も破損し易し。
4.
油の皮膜なるものは、十分に給油したる場合においても実際は非常に薄きもののごとし。完全なる測量は望むべからざるも、教授「グッドマン」氏はこれを1インチの 5000分の1、すなわち 0.0002インチなりと測定し、教授「レイノルズ」氏は 0.00077ないし 0.000375インチなりと測定せり。
5.
完全なる給油法は油浴(oil bath)なりとす。すなわち車軸頸の場合には車軸頸の下側を油に浸すことなり。この場合には1平方インチに付き約 600ポンドの重量を支ふることを得べし。
6.
油浴の場合においては重量の支持面積を適当にせば、1分時間 100フィートないし 200フィートの速度をもってして摩擦率を 0.001まで降下せしむるを得べし。
7.
油浴の場合には摩擦面の速度1分間約 10フィートに至るときは、よく油の皮膜を作り得て摩擦もその速度の場合をもって最低となすも、不完全なる「パッド」または他の給油法によるときは摩擦面の速度1分間約 100フィートなるに至り、始めて油の皮膜を作り得て摩擦もその点をもって最低となすべし。
8.
摩擦面の速度が前記の通り1分間 10フィートないし 100フィートに達し油の皮膜を作りてより、以上1分間 400フィートに至るまでは摩擦は速度の平方根に比例して増加するがごとし。例へば1分間 16フィートの速度の場合に摩擦率が 0.002なるときは、64フィートの場合には
となるがごとし。
9.
油は総て熱の不導体にしてその受けたる熱を容易く他に放散せず。しかして油の皮膜は極めて薄きをもって、摩擦のために生じたる熱はたちまち油の皮膜を熱すること大なり。教授「レイノルズ」氏の実験によれば、車軸頸の発熱僅少にして且つ摩擦率低き場合においても、油の皮膜の温度はその付辺の金属より華氏 15度だけ高かりしと言ふ。
10.
油の皮膜はこのごとく容易にその温度を上昇するをもって砿油はたちまち稀薄となる故に、実用上砿油は種油等に比して始めより粘度の高きものを使用するを必要とす。油が熱せられて稀薄となれば、その摩擦は従って減少せらるるものなり。
11.
油の粘度多きものは油の皮膜の摩擦多し。しかれども給油不足がちにして荷重大なる場合には粘度少なき油は相当の皮膜を作る事あたわず。殊に摩擦面の速度遅き場合はしかりとす。これに反して荷重少なく給油充分なるときは、粘度少なき油を使用するも充分の皮膜を作り得るをもって摩擦を減じ得るの利益あり。殊に高速度の場合においてしかりとす。
12.
摩擦面の速度緩にして荷重大なる場合には、油を外方へ圧出して油の皮膜を作ることを妨ぐるのみならず、摩擦面の凹凸部(いかなる表面にも多少の凹凸あるを免れず)互に食違ひて、さらに皮膜を破らんとするの傾あり。故にかかる個処には異種類の金属を用ひ、且つ滑性に富める種油、もしくは種油(あるいは獣脂)と鉱油との混合油を使用すべきものなり。もし鉱油のみによるときは「ホワイト・メタル」を使用すべし。「ホワイト・メタル」はその質柔軟なるをもって仮令摩擦面に凹凸あるも、または偏重を負ふも、あるいは少時給油不十分なるも、その面容易く剥離しまたは変形して無理を来たすことなく、為にはなはだしく発熱することなし。
13.
摩擦面平面なるときは、その摩擦は荷重の平方根に比例するがごとし。しかれども車軸頸のごとくその面円きときは、その速度が油の皮膜を作り得る限り摩擦は荷重のいかんに関係なきがごとし。
14.
摩擦面積大なれば大なるほど摩擦多く、摩擦は摩擦面積に正比例して増減す。故に摩擦面積はかなり小なるを貴ぶと言えども、1平方インチにおける荷重過大なるに至れば油の皮膜を作り得ず。機関車及び客貨車の場合において、この1平方インチ上の平均荷重の制限は大よそ左のごとし。けだし荷重変化する事と注油の難易は自然種々の結果を呈するものと知るべし。
動輪軸頸 250ポンド
(ただしなるべくは旅客機関車 190ポンド、貨物機関車 200ポンド、入換機関車 220ポンドとす。)
従輪及び「テンダー」車軸頸 300 同
客貨車車軸頸 300 同
「クランク・ピン」 1500 ないし 1700 同
「クロスヘッド・ピン」 4000 同
「クロスヘッド・シュー」 70 同
ただし油の供給不充分の恐れある個処、及び油が埃塵と混じ易き個処には摩擦面に相当の余裕を存ずるを要す。
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