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2025年1月の記事

2025年1月31日 (金)

機関車工学:下巻(その150)給 油:油の皮膜

【 油の皮膜(Film) 】

 摩擦面の間に油を注入するは、そこに油の皮膜(film)を作りて両金属が直接に相接触するを防ぎ、もって摩擦を減ずるを目的とするものにして、適宜に注油せられたる摩擦面の摩擦はもはや金属と金属との間に生ずべき大なる摩擦にあらずして、油層と油層との間に生ずる小なる摩擦となるの理なり。もし摩擦面の間に油なきときは、金属と金属とはその粘着性により互に相密着し、互に他を剥離するの結果を呈するものなり。

 

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2025年1月29日 (水)

機関車工学:下巻(その149)給 油:摩擦の増減

【 摩擦の増減 】

 注油の完不完により如何に摩擦の増減を来すかは、「グッドマン」氏が一つの車軸頸(journal)の下部を油の内に浸したる場合、すなわち油浴(oil bath)にしたる場合と、充分に油を含ませたる「パッド」にて給油したる場合と、不足がちに油を含みたる「パッド」にて給油したる場合の摩擦を実験したる第 105表により、その大体を察知することを得べし。

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 すなわちこの例にては摩擦は油浴の場合に最も少なく、第2の場合は約2倍に当り、第3の場合は約3倍に当る。

 

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2025年1月28日 (火)

機関車工学:下巻(その148)給 油:油仕様書

【 油仕様書 】

 目下鉄道院において、車軸油、器械油、及び気筒油を購入するには左の仕様書によれり。

 1.
 減磨油は石油属より製したるものにして、他の鉱油(タール類、褐炭油)、動物油、植物油、樹脂類を混入すべからず。

 2.
 減磨油はほとんど無臭にして、水、酸、「アルカリ」、塩、及び「パラフィン」をも含有すべからず。

 3.
 減磨油は長く空気中に放置するとき、渣滓または沈殿物を生ずべからず。

 4.
 減磨油はいかなる温度においても泡を生じ、または発砲的発煙を生ずべからず。

 5.
 減磨油の塗布されたる面は、ゴム質または乾燥性の皮膜を生ずべからず。

 著者いわくこれ油の粘度を増加するの目的をもって、ゴム油または亜麻仁油を混ずるものあるを検するなり。

 6.
 減磨油を比重 1.45の硫酸の等量と混和するときは、初温摂氏 10度において 15度以上の上昇を許さず。

 著者いわくこれ機械油の精錬せられたるや否やの試験にして、同時に第5項の試験ともなる。褐炭、木材、樹脂等の蒸留液と混合せられたる場合には、摂氏 20度ないし 50度の温度上昇を示すべし。

 7.
 減磨油は比重 1.25の苛性カリ液と煮沸後、溶液に着色を与へ、または油分の減量あるべからず。

 著者いわくこれ清浄法の良否を試験するものなり。硫酸の残量あれば黒色となり、「スルホン」酸 HSO₃ が油と化合しいれば、その化合物は苛性カリ液に溶解するをもって油分の減量を来たす。

 8.
 減磨油は石油「ベンジン」(比重 0.67ないし 0.70)に完全に溶解するを要し、容量において3倍の「ベンジン」を用ひ溶解せしめ、数日間放置するも沈澱を来すべからず。

 著者いくわこれ主として砿油の酸化物たる「アスファルト」の存在の有無を験するものなり。「アスファルト」分量は 10万分の3 位まではこれを許すを普通とす。

 9.
 減磨油は以上各項の外、なお左表に適合するを要す。

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2025年1月27日 (月)

機関車工学:下巻(その147)給 油:器械油製造方法

【 器械油製造方法 】

 石油属より製したる器械油及び気筒油はいわゆる原油より精製したるものなり。原油は地中より地上に噴出するものあり。または井より汲出だすものあり。原油にも種々の種類ありて非常に流動性に富むものあり。または非常に濃厚なるものあり。その色のごときも淡黄色のものより暗緑または褐黒色のものに至り一定せず。

 同一の原油を蒸留して、揮発油、灯油、軽油、器械油、気筒油、「パラフィン」及び「ワセリン」等を得べし。しかれども石油の種類により揮発油及び灯油に富むものあり。器械油あるいは「パラフィン」に富むものあり。前者は稀薄にして後者は濃厚なり。多くの原油は主として灯油を得るに適し灯油を採集したる後の僅少なる残滓、すなわち重油を蒸留してさらに器械油及び気筒油を得れども、器械油及び気筒油は特にそれらの性分に富める原油を撰みてそれより直に製することあり。

 揮発油は石油「エーテル」、または石油「ベンジン」、あるいは「ナフサ」等の名称をもって世に知らるることあり。しかれどもさらに揮発の順序により細分して左の数種に分類せらるることあり。

             沸騰点(摂氏)   比 重

 (1)石油「エーテル」 40 ないし 70度  0.65 ないし 0.667
 (2)「ガソリン」     70 ないし 80度  0.65 ないし 0.667
 (3)石油「ナフサ」 または
    石油「ベンジン」  80 ないし 150度  0.667 ないし 0.737

 揮発油は一般に揮発及び発火し易くしてもちろん器械油に適せず。しかして灯油(ケロシン)は揮発油よりも発火点高く且つ比重大なるものにして、器械油としてはなお稀薄且つ揮発し易きものなり。この灯油は原油を蒸留して、揮発油を取り終りたる時より重油の留出し始むるまでの間に留取せらるるものにして、沸騰点及び比重の範囲割合に大なり。灯油を取り終りたる残滓はすなわち重油にして、それらの沸騰点及び比重等は左のごとし。

      沸騰点(摂氏)    比 重

 灯 油 150 ないし 300度  0.78 ないし 0.86
 重 油    300度以上        0.86 ないし 0.96

 重油は暗緑色ないし暗褐色を有する濃厚なる液にして、その内に、器械油、気筒油、「パラフィン」、「ワセリン」等を含有し、器械油の性分に富むものあり。「パラフィン」の性分に富むものあり。原油の性質に応じて一定せず。

 重油中には数多の「タール」物、その他の不純物を含有す。これより器械油及び気筒油を採集するには、重油を蒸留釜に入れ摂氏 150度ないし 300度の温度を有する過熱蒸気を重油中に吹き入れてこれを熱し、それより出づる水蒸気と油蒸気とを冷却器に導きて凝結せしむるなり。普通これらの蒸気を空気及び水により二重に冷却し、油の比重に応じ冷却器の諸方より別々に比重の異なりたる油を採集するものとす。

 このごとくして蒸留し得たる油はさらに精製を要するものにして、まずさらに蒸気管にて温め油中の水分を蒸発せしむるを要す。しかる後ち油を硫酸槽に送りて硫酸(油の 100分の4 ないし 12)を加へ、充分に撹乱して硫酸をして「タール」その他の不純物と化合せしめそれらの化合物を沈澱せしめ、しかして澄みたる油を取りてさらにソーダ槽に移し、苛性ソーダ(油の 100分の2 ないし 4)と混じ残存せる硫酸と化合せしめ、且つ油中に含有する有機物と化合せしむ。このソーダ洗を適宜にすることは最も熟練なる作業を要するものと認めらる。

 ソーダ洗により生じたる沈殿物はこれを排除し、油にはさらに十倍以上の温水を加へてこれを洗浄し、もって一切のソーダ性分を吸収せしむべし。しかる後ち油を浅き皿に移し、蒸気管にてこれを熱し一切の水分を蒸発せしむ。これにて一通りの加工を終りたるものなれども、場合によりなお骨炭、鋸屑等にて濾過することあり。

 残滓より蒸留法により器械油を採集するの順序、ならびに蒸留温度及び各種類の油の分量、比重等の一例は第 104表に示すがごとし。これはロシアコーカサス地方において算出する油の例なり。

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 機械油の性分に富める原油より直ちに機械油を製造するの方法に二種あり。原油を沈澱して水及び土砂の類を別ち、単に木炭を通じて濾過し、「タール」その他の不純物を取除きもって機械油となすものあり。かくして得たる油を自然油(natural oil)と称す。ただしこの種の原油はその算出はなはだ少なし。次は蒸気を利用し、または真空を利用して原油を蒸留して、その揮発性分をのみ蒸留しもって残留せる暗黒色の油を利用するものにして、その油は原油よりも著しく分量を減じ且つ粘度を増加するにより減量油(reduced oil)の称あり。 

 揮発性分を蒸発せしむるには前法の外に日光を利用することあり。すなわち浅き水槽中に蒸気管を導き置きて水を温め置き、その上に原油を入れ日光に曝すときは、揮発し易き油は自然に蒸発し去り諸種の不純物は水中に沈澱するに至るべし。

 減量法により気筒油を製するには特にこれに適すべき原油を選択するの必要あり。減量法によりて揮発性分を除去し、骨炭を通じてしばしば濾過し、全く「タール」その他の不純物を除去するものなり。しかして濾過中は常にこれを温め油をして流動し易からしむ。

 一般に器械油及び気筒油を得るがために原油または重油を蒸留するに、蒸気管にて温むるにはかなり温度を一定し、温度をして過度ならしめざる様に努むるがためにして、もし直接炭火をもって蒸発缶を温むるときは鉱油の一部は激しく熱せらるるがために分解し、その結果は器械油として来るべき油の分量を減じ石油属の分量を増加する事となる。故にかなり多量に器械油を得んとせば、かなり低温度にて蒸留するを必要とし、蒸留缶内を常に相当の方法をもって真空に保たしむるときは、いっそう低温度にて器械油を蒸発し得るの利あり。

 

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2025年1月24日 (金)

機関車工学:下巻(その146)給 油:レッドウッド粘度計

【 「レッドウッド」粘度計 】

 この器械の主要部分は1個の銅製の油筒にして、内径1インチ 8分の7、深さ3インチ半なり。この油筒の内部はメッキせられ底部はやや凹形をなし、底の中央に小なるメノウ石を嵌め込みありてそのメノウに小孔を穿てり。その口径は約 1.7「ミリメートル」にして、その長さは 12「ミリメートル」程のものなり。

 この油筒はさらに銅製の箱にて取囲まるるものにして、油筒の外部に熱き水または油を容れてもって油筒内の油を温むるの用に供す。かくして一定の温度に油筒内の油を温めメノウの小孔より油を滴出せしむるものにして、油の分量は常に 50立方「センチメートル」をもって標準とし、50立方「センチメートル」を流出せしむるに要する秒数を計る。

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 左に示せる第 103表は「レッドウッド」粘度計により、諸種の油の粘度を摂氏 20度ないし 125度の温度にて比較したるものなり。各油とも温度の上昇に伴ひ粘度稀薄となり早時間に流出し去るに至ると言えども、その変化は種油最も少なく混合油これに次ぐ。しかして和製鉱油は外国製鉱油に劣るは争ふべからざる事実にしてその原油の性質上止むを得ざるに出づ。

 

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2025年1月23日 (木)

機関車工学:下巻(その145)給 油:油の粘度

【 油の粘度 】

 油の粘度を最も簡単に比較する方法は一つのガラス箱に油を容れこれを振蕩し、油の内に混入したる気泡の上昇する速度を見ることなり。ある一定の大きさの気泡の上昇する速度が緩なれば緩なるほど油の粘度は大なるものなり。またやや精確なる方法は一定の細きガラス管を取り、その2個処に標記を付し一定の温度の油を容れ、これを直立の位置に保ちて底より油を流出せしめ、油が上の標記より下の標記まで下り来るまでの時間を計りその秒数を記して比較することなり。

 ただし精密なる試験にはいわゆる粘度計なるものを使用するを常とす。粘度計に数種ありて、英国にては「レッドウッド」氏粘度計を採用し、欧州大陸にては「エングラー」氏粘度計を採用し、米国にては「セイボルト」氏粘度計を採用せり。しかれどもその原理は皆同一にして、一定量の油を一つの容器に容れ、一定の温度に保ちて容器の底部にある極めて小なる孔より滴々流出せしめこれに要する秒数を計るに過ぎず、我国においては主として「レッドウッド」氏粘度計を採用せり。

 


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2025年1月21日 (火)

機関車工学:下巻(その144)給 油:引火点

【 引火点 】

 油の引火点とは油が熱せられて蒸発し、その蒸気に火を与ふるとき蒸気が燃へ付き得るときの油の温度を言ふ。しかして油自身が熱せられて燃ゆるに至るときの温度は発火点と称し引火点と区別せり。通常鉱油の場合には発火点は引火点よりも華氏 40度ないし 50度高しとす。

 機械油としては華氏 302度(摂氏 150度)以下の引火点を有するものは使用せざるを常とす。また気筒油としてはかなり高温度の引火点を有するものを選ぶべしと言えども、華氏 600度以上のものを製造することは困難にして華氏 550度を超ふるものは稀れなり。

 過熱蒸気の場合には蒸気の温度華氏 662度(摂氏 350度)に達し、それに相当すべき気筒油を得ること困難にして、600度以下のものを使用すれども別に支障なき理由は、けだし気筒内においては気筒壁その他より熱の伝導著しきと、蒸気中には空気混合せざるとをもって引火せざる故なるべし。

 

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2025年1月20日 (月)

機関車工学:下巻(その143)給 油:油の性質

【 油の性質 】

 油の性質を鑑定する必要なる条件は種々ありて、多くは化学者の精巧なる試験の結果をもって判断すべきものなりと言えども、就中必要なる条件は油の引火点と油の粘度と油の固有の滑性なりとす。粘度なるものは油の粘力の程度を示し、油の油気(あぶらけ)すなわち「スベスベ」する性質を言ふ。

 種油は元来滑性に富み温度の上昇に伴ひ粘度の変化を来たすこと少なく、引火点また華氏 509度(摂氏 265度)に及びこの点に関してはほとんど理想的の油なりと言えども、その欠点とするところは寒気強き地方においては凍りて固形の状態をなすこと、及び空気中に曝露せらるるときは酸化作用を受け、その結果「ゴム」または「バニッシュ」の状態となること。また気筒油としては気筒内に滓渣を残すがために不適当なること等なり。

 鉱油は種油に反して滑性に乏しく且つ熱を受くるときは著しく稀薄となる。しかれどもその利益とするところは所要の程度に粘度を調製し得ること、空気に遇ふて容易く酸化せざること、価格の廉なること等にして、気筒油としては気筒内を常に清潔に保ち得るをもって最も便利とす。

 数多の種類の鉱油は、市場に販売せらる機関車用として大別すれば気筒油及び器械油の二種にして、器械油に冬候用、中候用、及び夏候用の三種あり。

 

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2025年1月17日 (金)

機関車工学:下巻(その142)給 油:給油の目的

第4章 給 油

【 給油の目的 】

 摩擦面に給油する目的は摩擦面の発熱を防ぎ、また熱焦の結果として器械部の破損を防ぐに止まらず、諸部の摩擦に帰因する力の損失をかなり軽減せんとするにあり。機関車においてはややもすれば油の使用法を誤まり油を浪費する事なきにあらざれども、消耗品節約の結果油の目的を誤解して、単に摩擦面の発熱を妨げば足れりとする者あるはまた誤れるのはなはだしきものなり。機関車は進行に伴ひ冷空気に触接するをもって摩擦各部も比較的冷却し易し。しかれども発熱せざるがために油を節約すること、その度に過ぐれば各部の摩擦を増加せしめて金属の磨耗を速かならしめ、器械の正確を害し且つ石炭及び水の消費高を増加するの原因をなす。

 

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2025年1月16日 (木)

機関車工学:下巻(その141)機械部取扱:片シリンダーにて運転

片「シリンダー」にて運転/片「シリンダー」にて運転

【 片「シリンダー」にて運転 】

 「バルブ・ギア」一部の破損は、その側に属する「バルブ」の運動を支配する事あたわざるをもって、一方の「シリンダー」を不用に属せしむべし。また「シリンダー」、「ピストン」、「ピストン・ロッド」、「コネクティング・ロッド」、「クロス・ヘッド」、「スライド・バー」、「クランク・ピン」等の破損も、その側に属する原動力を不能に帰せしむべし。しかれどもこれらの場合においては、多くは相当の方法を講ずるときは一方の「シリンダー」のみを利用して運転を継続することを得べし。ただし片「シリンダー」にて運転するときはその牽引力は半減するの外、「ロッド」を取外したる側の車輪に属する平均量の大部は無用に属するをもって、機関車は平均を失して動揺するを免れざるべし。

 しかして急遽の際、破損部分の手当等も不完全なる事なきにあらざれば、よくその場合における状況を斟酌し場合によりては機関車単行するか、または軽少の車両を牽引しなるべく速度を減じて運転するを要す。

 片「シリンダー」運転に就ての必要条件は、破損部分及びこれに関連する諸部分を適宜に始末し、蒸気をしてその側に属する「ピストン」を動かさしめざる様手配することなり。

 今一例として「エキセントリック」熱焦のために、「ストラップ」及び「エキセントリック・ロッド」破損したる場合を挙げんとす。「ストラップ」及び「エキセントリック・ロッド」の破損したるときは、その破損したる側における前進及び後進の「ストラップ」及び「ロッド」を、ことごとく皆取り外すをもって安全なりとす。

 後進「エキセントリック」の「ストラップ」及び「ロッド」の破損したる場合には、前進「エキセントリック」に属する分はそのままにして、「リーバーシング・レバー」を前部の極端に落して運転を継続し得べしと言えども、時として危険を醸すことあり。

 「ストラップ」及び「ロッド」を取り外したる後には「リバーシング・シャフト」より「リンク・ハンガー」を取外し、「バルブ・ロッド」と「バルブ・スピンドル」との接手を絶ち、「リンク」及び「バルブ・ロッド」をして運転中他に接触せしめざる様よく相当の個所に縛り付くるか、または全くこれを取り外し置くべし。しかる後「スライド・バルブ」を「バルブ・シート」の中央に置き、前後の「スチーム・ポート」を全く隠蔽し、「バルブ・スピンドル」に属する「グランド」の一方の「ナット」を強く締め付け、やや「グランド」を斜めにして「バルブ・スピンドル」を噛ましめ、もって「スライド・バルブ」の移動することを防ぐべし。

 「メタリック・パッキン」の場合には、「スピンドル」を「ランニング・ボード」または「ハンド・レール」等相当の個処に厳重に吊り上げ、「スピンドル」をやや曲げる傾きにして、これを「スタッフィング・ボックス」の一方に押し付けその位置を保たしむべく、あるいは幅1インチ厚さ4分の1インチくらいの薄き鉄板を取り、その長さを「スピンドル」と「スタッフィング・ボックス・スタッド」との間に容るべき程度に切り、「スタッド・ナット」にてこれを締め付け、もって「スピンドル」を「スタッフィング・ボックス」の一方に押ふべし。

 または兼て機関車の構造に応じ適宜「スピンドル」を止むるの手段を講じ置くべし。すなわち「スタッフィング・ボックス」の一部に「セット・スクリュー」を取付け置き、それにより「スピンドル」を押ふるの類なり。

 斯くして「スピンドル」の運動を防ぎたる後「コネクティング・ロッド」を取外し、「クロス・ヘッド」を「スライド・バー」の後部の極端に置き、堅牢なる木片を「クロス・ヘッド」と「シリンダー・カバー」の間に挿入し、縄にて厳重にこれを「スライド・バー」に縛り付け、もって「クロス・ヘッド」及び「ピストン」の移動することを防ぐべし。

 次になお安全を期するがために、その側に属する「シリンダー・コック・ギヤ」を取外して前後「シリンダー・コック」を開放し置くを要す。しかる後普通の順序により一方の「シリンダー」のみを利用して進行し得べし。

 「スライド・バルブ」を「バルブ・シート」の中央に据え付くるには、「バルブ・スピンドル」を動かし「バルブ」を前部及び後部の極端に押し付け、もって「スピンドル」をその中央の点に置くべし。または「スチーム・チェスト」に僅少なる蒸気を入れ「シリンダー・コック」を開き、蒸気の噴出する方向に徐々に「バルブ」を動かし、蒸気の噴出せざる点より約 2分の1 インチないし 4分の3 インチだけ進め置くべし。この際手用制動機は充分緊締し置くを必要とし手をもって「バルブ・スピンドル」を動かすに、これを後方より前方に推進するをもって作業上便利なりとす。

 何故に通常「クロス・ヘッド」は「スライド・バー」の後部に持ち来すやと言ふに、あるいは「スライド・バルブ」の移動により、あるいは木片の薄弱、または墜落等によりて蒸気が「ピストン」を動かすに至るときは、その結果として必ず「シリンダー・カバー」に損害を来すべく。しかして同じく破損を与ふるものとせば、前部の「シリンダー・カバー」を破損せしむること得策なればなり。けだし後部「シリンダー・カバー」は構造複雑し、且つ「スライド・バー」その他機関の重要部に関連すること多きをもってなり。
 
 6輪連結機関車において動輪の「クランク・ピン」の「ビッグエンド・ジャーナル」と、「カップリング・ロッド・ジャーナル」の間に「カラー」を有せざるものあり。この種の機関車において「コネクティング・ロッド」を取外すときは「カップリング・ロッド」は外側に脱出せんとすべし。故にこの場合においては「ビッグエンド・ブラス」を「ビッグエンド・ジャーナル」に厳重に縛付け置き、「カップリング・ロッド」の脱出を防ぐべし。ただし充分の手当をなす事あたわざるときは「カップリング・ロッド」を取外すべき事もちろんなり。

 総て「ピストン」以下「カップリング・ロッド」、「クランク・ピン」等に至る諸「モーション」破損したるも、別に「バルブ・ギア」に故障を来たさざる場合に片「シリンダー」にて運転せんとするときは、「バルブ・ギア」においては「バルブ・ロッド」のみを取外すをもって便利なりとす。

 「カップリング・ロッド」は別に故障なき限りは常にこれを取外すの必要なしと言えども、もし一側の「カップリング・ロッド」を取外すときは、必ずこれに対する他側の「カップリング・ロッド」を取外すことを要するを忘るべからず。一本の「カップリング・ロッド」のみを使用するときは多くはこれを屈曲折損せしむ。

 片「シリンダー」にて運転せる場合に機関車を停止せんとするときは、「クランク」はよく死点に至りて止まるの傾向あり。為めに引出の際大いに困難を感ずべし。故にこの場合においては停止するに至るまでいく分の蒸気を用ひ、「クランク」の位置に注意して停止するを要すべし。

 

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2025年1月14日 (火)

機関車工学:下巻(その140)機械部取扱:機関車破損したる時の処理/木片の応用

【 木片の応用 】

 機関車故障の際には木片の応用はしばしば起るものにして、よくこれを利用せば迅速に応急手当をなすことを得べし。木片は弾力あるをもってよくこれを諸孔に打込み、または「パッキン」として圧迫するときは割合に脱出の恐れ少なきものとす。また「ゴム」もしくば「スプリング」の代用としてこれを使用し得べく、両金属の相接触して毀損するを防ぐためにその間にこれを挿入するにも便利なり。

 片「シリンダー」の運転の際に「クロス・ヘッド」を固定するために使用すべき木材、及び前記のクサビ形の木材を常に機関車に搭載し置くときは、これを材料として諸種の目的に使用し得べし。

 「ベアリング・スプリング」、「スプリング・ハンガー」、「イコライザー」等、「スプリング・ギヤ」の一部破損したるときは少しく機関車を扛起し、「アクスル・ボックス」と「フレーム」との間に堅牢なる木片を挿入すれば運転に堪ふべし。この故障はまま起ることあれば、兼てこの木片を適宜の寸法に作りて用意し置くを良しとす。

 車輪または「タイヤ」に故障ありて運転に堪へざるときは、その車輪に属する「スプリング・ギヤ」を取外し、重量は他車輪に負担せしめ車輪を押し上げ、その「アクスル・ボックス」と「ホーン・ブロック・ステー」との間に木片を挿入し、軌条と接触せざる様その車輪を浮ばして運転し得ることあり。

 

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2025年1月13日 (月)

機関車工学:下巻(その139)機械部取扱:機関車破損したる時の処理/応急修理

【 応急修理 】

 応急修理にも程度ありて長距離の運転に堪ふるものと、近距離の運転に堪ふるものと自ら差別あらざるべからず。多くの場合においては臨機の手当をもってして、ともかく最近停車場まで運転し停車場着の上さらに充分の手当を加ふるを常とす。

 破損の種類は数多あるのみならず、機関車の構造ならびに手当に使用する材料のいかんにより、手当の方法を異にすること多きをもって総て一定の律によることを得ず。破損部の構造とその関係諸部を理解し臨機応変の策を講ずべし。しかも胸中成算なく万一を僥倖して漫りに手を下すがごときははなはだ危険なり。けだし手当不充分のために却てさらに不測の損害を蒙ることあればなり。

 「ボルト」、「ナット」、「ピン」等を抜取り再びこれを使用するの必要あるときは、よく一定の場所に順序を定めて整理し置き、誤りなきよう再び元の位置に復せしむべし。同じ直径のものと言えどもこれを混用するときは、よく適合せざるため意外に手数を増すことあり。殊に「シリンダー・カバー」を取外すとき、その「ナット」は必ず以前取付けありし位置に復せしむるのみならず、「カバー」も元の位置と違はざるよう注意するを要す。

 「ナット」または「ピン」を抜かんとするも堅くして、容易に抜けざるときはこれを暖むべし。

 ある必要部分の「ナット」、「ボルト」、もしくば「ピン」落失折損し、これに代ふるの予備品なきときは、他の重要ならざる部分に属する分を求めてこれに代ふべし。殊に「チェック・ナット」はこの場合に代用品としてしばしば利用せらる。

 「トラバーシング・ジャッキ」は脱線のとき、及び「スプリング」関係の諸部破損したるとき等にしばしば使用せらるるものなれば、常にその清掃に注意し随時使用に堪へ得るよう用意すべし。また「ジャッキ」は使用中にまま破損もしくば転覆することあるものなれば、その際に直ちにこれに代りて機関車を支持するため、別に枕木の類を積み重ねて機関車の墜落を予防することを必要とす。

 機関車の一端もしくばある車輪のみを数インチだけ扛起するの必要あるときは、「ジャッキ」を使用する代りにクサビ形の木片を使用すれば便利なることあり。すなわちこれを軌条上に安置し、その上に機関車を自力もしくば他力にて徐々に載せ上ぐるの方法にして、その木材は樫を良しとし、幅は約4インチ長さは3フィートないし4フィートにて足るべく、一端を薄く尖らし漸次勾配を付し、他端の一部は水平に存して車輪を安置する所となすべし。

 

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2025年1月11日 (土)

機関車工学:下巻(その138)機械部取扱:機関車破損したる時の処理/救援機関車

機関車破損したる時の処理/救援機関車

【 救援機関車 】

 運転中機関車破損したるときは、機関手は沈着に破損個処を調べ応急修理を加へて運転を継続すべきか、または救援機関車を迎ふべきかを決せざるべからず。しかして他列車を妨害するの恐れある場合には、一刻も早く線路を開通せしむるをもって必要条件とするものなれば、応急修理を施し得る場合と言えどもむしろ救援機関車を迎ふること、時間の節約を得るの望あれば猶予なくその手配を講ずべし。

 破損の状況によりては救援機関車に牽引せられて運転し得らるる様、破損個所を処理する事さへはなはだ困難なることあり。時として取替品を必要とする事あれば、機関手は救援機関車を迎ふると同時にこれらの必需品を取寄することを忘るべからず。

 

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2025年1月10日 (金)

機関車工学:下巻(その137)機械部取扱:非常事故に際し急速に停車する手配/列車分離脱線

【 列車分離脱線 】

 平坦線または下り勾配線において列車分離または中間の車両脱線したるときは、静平敏捷によくその緩急を計りて停車の手配をなさざるべからず。分離したればとて急に機関車停止せば、分離されたる後部車両追及して衝突すべし。また列車中の若干車両脱線したるとき急にその前部車両を停止せば、後部車両の隋力により却って損害を大ならしむるがごとし。故にこれらの場合にはまず後部車掌に通知してその手用制動機を締結せしめ、しかる後機関車を停止せしむるを良しとす。

 

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2025年1月 9日 (木)

機関車工学:下巻(その136)機械部取扱:非常事故に際し急速に停車する手配/非常汽笛

【 非常汽笛 】

 非常汽笛を吹鳴することは多くの場合において最も必要にしてまた有効なり。殊に補助機関車に警告し、または車掌に緩急車の手用制動機の締結を促す等の必要あるときは然りとす。汽笛を吹鳴して注意を与へ人馬をして待避せしめ、またはその付辺の人々をして障碍物を除去せしむる事、よくその効を奏せば列車を停止するに至らずして事故を免ることを得べきことあり。しかれども咄嗟の間に衝突脱線等の危険に遭遇せば、汽笛を吹鳴するよりもまず蒸気を閉塞し制動機を加ふるの手段を採ること緊要なり。

 

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2025年1月 8日 (水)

機関車工学:下巻(その135)機械部取扱:非常事故に際し急速に停車する手配/レバー反転

【 レバー反転 】

 「リバーシング・レバー」を反転するの結果は、列車の停止するに至るまで動輪の回転の方向は粘着力の多少に応じて三種の別あり。粘着力乏しきときは列車は実際前進するに拘わらず動輪の回転を止むるか、または後進の方向に動輪を回転すべく、粘着力大なるときは動輪はなお前進の方向に回転すべし。

 「リバーシング・レバー」を反転するも、動輪なお前進の方向に回転するの場合は制動力上大に効果ある場合にして、この場合には「シリンダー」内の蒸気もしくば空気の作用をして逆ならしめ、「レギュレーター・バルブ」開閉の如何に関せず「ブラスト・パイプ」より「シリンダー」内に空気を導き入れ、これを「スチーム・チェスト」に送るの作用をなすものなり。

 もし「レギュレーター・バルブ」閉塞せらるる場合には、その空気は「スチーム・パイプ」内にて漸次圧搾せらるるに至り、終には「レギュレーター・バルブ」を押開きて汽缶内に進入し汽缶内の圧力を増加すべし。しかして「レギュレーター・バルブ」固定せられて開く事あたわざるときは、終に「スチーム・パイプ」または「スチーム・チェスト」を破損せしむるに至るべし。

 「レギュレーター・バルブ」開放せらるる場合には、空気はたちまち蒸気と混じて直ちに汽缶内に進入すべし。故に普通の機関車にて「リバーシング・レバー」を反転するときは、同時に「レギュレーター・バルブ」も開放するを良しとす。しかるときはその蒸気は直ちに「ピストン」の後圧力として働き、たちまち「ブレーキ」の効果を奏するのみならず、「スチーム・パイプ」等の破損するの恐れなきものとす。

 しかして「レギュレーター・バルブ」の開閉いかんに関せず、「リバーシング・レバー」反転の結果は多くの場合において動輪の運転を止め動輪を滑走せしめ易し。これ動輪の粘着力乏しきとき、及び動輪に手用制動機を加へある場合に殊にしかりとす。故に「リバーシング・レバー」を反転するときは同時に砂を撒布し、且つ手用制動機を緩解することは最も必要にして、また同時に「シリンダー・コック」を開くことは蒸気及び圧搾空気をそこより逃出せしめ、「ピストン」上に加はる圧力をやや減殺緩和するをもって動輪の滑走を防ぐに効能あり。

 

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2025年1月 7日 (火)

機関車工学:下巻(その134)機械部取扱:非常事故に際し急速に停車する手配/急速停車の順序

【 急速停車の順序 】

 機関車停止の緩急は事故の性質に応じ判断すべきものなれども、一般に左の順序によるべし。

 1.
 「レギュレーター・バルブ」を閉塞すべし。

 2.
 列車に貫通制動機の装置あるときは、その最大力を利用し同時に撒砂すべし。且つ動輪の滑走せざる程度まで機関車の手用制動機を締結すべしと言えども、別に「リバーシング・レバー」を反転するの必要なし。これを反転すれば動輪を滑走せしむべし。

 3.
 列車に貫通制動機の装置なきときは、短急汽笛三声を連呼して「テンダー」及び緩急車の手用制動機を締結せしめ、「リバーシング・レバー」を反転し、「レギュレーター・バルブ」及び「シリンダー・コック」を開き且つ同時に撒砂すべし。しかしてさらに機関車に手用制動機を加ふることは、前の場合と同じく却って動輪を滑走せしむるの基をなすものなれば、これを締結するの必要なきのみならず、既に締結しあるものは「レバー」反転の後はこれを緩解するを良しとす。

 以上の方法を尽くすも終に危険避くべからざるを見るときは、その危険の個所に臨む少しく手前において「レギュレーター・バルブ」を閉塞すべし。否らざればいったん衝突または脱線したる後、「シリンダー」、「スチーム・パイプ」等破損してそれより蒸気噴出し、為めに損害をしてますます大ならしむることあり。

 

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2025年1月 6日 (月)

機関車工学:下巻(その133)機械部取扱:非常事故に際し急速に停車する手配/急速停車の必要

非常事故に際し急速に停車する手配/急速停車の必要

【 急速停車の必要 】

 機関手は前途に障碍物を発見したるときは即時に停車の手配をなすべし。1時間 30マイルの速度にて走行する列車は、1秒時間に 44フィートを通過すべきの理なれば、1秒時間の猶予もために非常の損害を招くべく実にこの場合には一瞬千金の価値あるものなり。

 貨物列車牽引の機関車にして蒸気の僅かなる節約を計るがため、運転中機関車の真空制動機の真空を作らざる者あり。これ誤れるのはなはだしきものにして、一朝事故に遭遇せば停車の時機を失して畏るべき結果を呈すべし。

 

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2025年1月 5日 (日)

機関車工学:下巻(その132)機械部取扱:運転中の打音/打音の原因

運転中の打音/打音の原因

【 打音の原因 】

 機関車は運転中にある一部を鎚をもって打撃せらるるがごとき音響を発することあり。時としてはその原因を探求するにはなはだ困難なることあれども、しかもこれ機関車の一部不完全なる徴候なれば必ず速にその原因を発見し修理を加へざるべからず。この打音を生ずる主なる原因は左のごとし。

 1.
 「ピストン・ナット」弛緩して、その「ナット」と「ピストン・ヘッド」との間にいく分の間隙を生じたるとき。またはその「ナット」あるいは「ピストン・ヘッド」が「シリンダー・カバー」に接触するに至りたるとき。

 2.
 米国形の構成「ピストン」における「スパイダー・ボルト」弛緩脱出して「シリンダー・カバー」に接触するに至るとき。

 3.
 「シリンダー」修繕の際、ヤスリ、タガネ等を「シリンダー」内に遺留することあり。「スライド・バルブ」または「ピストン・リング」破損して、その破片「ピストン」と「シリンダー・カバー」の間に出づることあり。これらの障害物が「ピストン」に推されて「シリンダー・カバー」に接触するとき。

 4.
 「シリンダー」を「メイン・フレーム」に取付くる「ボルト」またはその「ナット」弛緩したるとき。

 5.
 「リード」または「コンプレッション」不足なるとき。けだし「リード」不足なる時は「ピストン」が「ストローク」の終端に達したるときその反発力を減じ、「コンプレッション」不足なる時はあたかも「スプリング」の弾性を失したると同じ結果を生ずべく、何れの場合においても「ピストン」その他往復部の隋力が「ストローク」の終りにおいて、一時にその反応を逞ふするをもって「ピストン」ないし「コネクティング・ロッド」の運動平滑を失し、諸継目に激動を与へその間に存する僅少なる間隙もよく打音を生ずるに至る。

 6.
 「クロス・ヘッド」の「コッター」、または「クロス・ヘッド・ピン」の「ナット」弛緩したるとき。及び「クロス・ヘッド・シュー」磨滅したるとき。

 7.
 「コネクティング・ロッド」の「スモール・エンド」、及び「ビッグ・エンド」の「コッター」弛緩したるとき。またはその「ブラス」磨滅したるとき。「コネクティング・ロッド」及び「カップリング・ロッド」の「ブラス」の磨滅を検査するとき、及びこれを締直すときは必ずこれを死点の位置においてするを要すべし。けだし「クランク・ピン」は常に楕円形に磨滅し、磨滅の程度は「クランク」の方向に少なく「クランク」に直角の部分に著しきをもって、「クランク」を水平に置かざれば「ブラス」の真の磨滅の程度を知る事あたわざればなり。且つ「ブラス」が打音を発するは常に死点を通過するときに起るものなればなり。
 
 8.
 「カップリング・ロッド」の「コッター」弛緩したるとき。またはその「ブラス」磨滅したるとき。けだし「カップリング・ロッド」の「ブラス」磨滅したるために生ずる打音は最も知り易くまた最も普通なるものにして、該「ブラス」と「クランク・ピン」の間には実際いく分か間隙を有せしむることを必要とせり。否らざれば曲線を走行するとき「カップリング・ロッド」に非常の無理を来すものなればなり。故に「カップリング・ロッド・ブラス」のために生ずる打音は多少免る事あたわず。また別に危険なきものにして、英国形「カップリング・ロッド・ブラス」には「コッター」を有せず単に「ブッシュ」を用ふるは、締め過ぎの結果「ロッド」及び「クランク・ピン」の折損を恐れ多少の打音を許容するに外ならず。

 9.
 「アクスル・ボックス」または「ホーン・ブロック」磨滅せるか、あるいはクサビ(wedge)が弛緩したるとき。

 10.
 制動機の使用急激なるがため車輪滑走し、為めに各連結車輪の外輪を一部削平したるとき。

 11.
 「エキスパンション・ブラケット」が著しく磨滅したるとき。

 この場合には運転中、汽缶の後部が「フレーム」の上に左右に動くをもって、「シリンダー」及び「スモーク・ボックス」取付の「ボルト」に影響し遂に蒸気管の継目より漏気せしむ。

 打音の原因を探求するの一方法として「クランク」を上部より 45度の位置に置き、制動機を堅く緊締し少量の蒸気を「シリンダー」に入れ、「リバーシング・レバー」を交互に前進または後進の位置に取りてこれを試むべし。しかるときは「クロス・ヘッド」はいく分か、あるいは引かれあるいは推さるるをもって、この際「ピストン」より「ホーン・ブロック」に至るまでの諸種の欠点の個処を発見することあるべし。

 「アクスル・ボックス」、「ホーン・ブロック」の加減も、動輪及び「ボックス」に手を触るればこれを察知することを得べし。もし動輪軸が「ボックス」内にて打音を生ずるものならば「ボックス」は動かずして車心動くべく、また「ウェッジ・ボルト」弛み「ウェッジ」下りたるときは「ボックス」動くべし。

 運転中「シリンダー」が不意に吼り出し、時としては「ピストン・リング」が粉砕せしにあらずやと疑はしむることあり。これ多くは給油の不足したる場合、もしくば「ピストン・リング」の隅が鋭く磨滅したる場合に起る現象にして、普通の打音とその趣を異にせり。 給油不足の場合には「エア・バルブ」より少量の「シリンダー」油、また黒鉛(graphite)を与ふれば直にこれを医し得るも、その原因「ピストン・リング」にあるものはこれを取外しその鋭角を削り取らざるべからず。

 

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2025年1月 4日 (土)

機関車工学:下巻(その131)機械部取扱:空転及び撒砂/砂及びその用法

【 砂及びその用法 】

 砂は清浄にして混合物なく、乾燥し角立ちたるものを用ふべし。砂箱(sand box)の「バルブ」は最も工合よきことを確認すべし。しかして機関手は予て「サンド・レバー」を何程引けばその「バルブ」は何程開くやを確め置くを要す。総て停車場または途中において空転の恐れあるときは「サンド・バルブ」を僅に開きて砂を軌条上に疎に撒布すべし。撒砂は車輪及び軌条に僅に白き痕跡を生ずれば可なり。

 しかして空転を始めたる場合にても少しく多量の砂を落せば足れり。漫に多量の砂を撒きたりとてその効なく、却ってこれを散乱して「スライド・バー」その他器械部を熱焦毀損することあるべし。且つ多量の砂を撒布することは列車の抵抗力を増進する事となるべし。

 砂は軌条の一方にのみ撒布すべからず。常に同時に軌条の双方に加ふべきものなり。片側にのみ撒砂するときは動輪軸が強く捻ぢらるる事となり、その結果は「ロッド」または「ピン」を屈曲破損することあるべし。

 機関手は機関車検査の際、必ず砂管(sand pipe)の位置正当にしてよく車輪の下部に入りて軌条に接近し、砂はよく軌条の頂上に落下するや否や、その取り付け堅牢なるや、砂箱の蓋はよく箱に適合して外部より浸水の恐れなきや、また砂は充分に貯へらるるやを確認するを要す。砂の用意不充分なること、砂の内に糸屑混入して砂の落下を妨ぐること、砂の湿潤せること等はしばしば機関車の空転後において発見せらるる事実なり。

 

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2025年1月 3日 (金)

機関車工学:下巻(その130)機械部取扱:空転及び撒砂/空転防止

【 空転防止 】

 空転を防ぐに最も効力ある方法は砂を軌条上に撒布するにあり。空転の恐れある個所あるときはその個処に差掛る若干距離前において撒砂し、あらかじめ列車の牽引力を増加し、その隋力を借りて難関を無事に通過するは最も策の得たるものなり。しかして一度空転すれば迅速に撒砂し、蒸気を加へて早くその個所を通過することを計るべし。

 空転劇しときは火夫または線路工夫をして、付近の土砂を軌条上に薄く撒布せしむることは常に大に効果あり。上り勾配線においては空転のため、「レギュレーター・バルブ」を閉塞したるときはもちろん、空転中にも列車は逆行を始むることあるにより、その際は速度増加せざる内に制動機を使用し列車を停止すべく。しかして缶水及び炭火を充分に用意し、前途数本の軌条上に撒砂し置きもって再び運転を開始すべし。

 停止中はいく分の蒸気を「シリンダー」内に通じて制動の働きをなさしむべく、出発の際にはあらかじめ「シリンダー」内に蒸気力を増して、制動機を緩解したる瞬間に列車退行せざる様にすべし。機関車2台にて運転のときは努めて歩調を同一にすべし。

 以上の方法を尽すもなお空転を防止する事あたわざれば、いったん相当の個所まで退却し、さらに速度を増して再び進行を試むるか、もしくば次駅まで退行して減車するか、または列車を分割して前駅に運転する等の手段を取るべく、その付近に他の機関車あるときは救援を仰ぐもまた可なり。

 

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2025年1月 2日 (木)

機関車工学:下巻(その129)機械部取扱:空転及び撒砂/空転の結果

【 空転の結果 】

 機関車の空転はなはだしき時は一時に多量の蒸気を消費するものなるが故に、缶内の蒸気圧力はたちまち下降し缶水もまた減少すべし。同時に通風も乱調となるをもって炭火を乱すに至り蒸気発生上多大の困難を感ずべく、為めに時としては缶水不足して「レッド・プラグ」を熔解することあるべし。

 また空転の結果軌条を害すること著しく、同一の個所において数回転するがために軌条の一部を削り去るに至ることあり。また機関車2両にて運転し交互に空転するときは列車の動揺殊にはなはだしく、為に連結器を折損することあり。しかして上り急勾配線運転の場合、空転劇しきときは列車は自然進行を停止するのみならず逆行を始むべし。

 

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2025年1月 1日 (水)

2025年版ブログ掲載記事について

本年も本サイトをご訪問いただきましてありがとうございます。

令和も早や7年度になりました。老人の集まりに令和がなかなかなじまないのは何故なのでしょうか。さてご訪問の皆さまには無関係なお話ではありますが、昨年、本サイトの運営体制に大きな変更がございました。それ以外は基本的に昨年までと同じ方針にて公開してまいりますので、どうぞご安心下さいませ。

なお運用上のお願いといたしまして、ソフトを使った一時大量のコピー行為は、それ自体を禁じているわけではないのですが、そのアクセス中に他のご利用者様の閲覧に影響を生じてしまう現象を確認しております。数千件単位となる記事の一括コピーはご遠慮いただければ幸いです。また確認されている無断の電子出版は不法行為と見なし対応いたします。あくまでも個人の趣味利用や学術利用等での無償活用が公開主旨であり、どの様な理由付けであれ販売は商業行為です(部分転載も同様扱いです)。ブログ等への引用は本サイトが引用元である事を明記していただければ広告収入の有無等は問いません。

古典蒸機が老体に鞭打って働く姿を若い時分に感動をもって眺めておりましたが、今や全く自分たち自身が鞭打たれている日々に感動などありません。どうぞ皆様も健康にはお気をつけ充実した1年をお過ごしいただけばと思います。


令和7年正月
管理人:Zanelli

 

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