【 蒸気を絞りて運転する場合 】
「レギュレーター・バルブ」を一部分だけ開き「カット・オフ」を遅くして運転すれば、「ピストン」上に加ふる圧力が終始やや均一となり機関車に激動を与ふること少なく、また「スチーム・チェスト」内の圧力低きをもって「スライド・バルブ」を動かすに要する力も少なし。故に蒸気を絞りて運転することは機関車各部を損傷せざること、ならびに列車を穏やかに運転し得るの点において得策たること疑を容れず。しかれどもこの方法をもってしては水及び石炭を不経済に使用し、これがため高速度の列車に対しては蒸気の供給に不足を来たすを免れず。
「レギュレーター・バルブ」にて蒸気を絞り、高圧力の蒸気を低圧力の蒸気に変ずるときは、自然そこに熱量の一部を遊離すべきにより、その熱量をもって低圧蒸気を過熱するか、もしくば蒸気中に携帯せる水分を蒸発し得べし。ただし人あるいはこの利益を過大に見積る者あれども、実際遊離すべき熱量は僅少なるをもって利益問題として期待する程の事なかるべし。
例へば今圧力 160ポンド(絶対圧力 175ポンド)の蒸気を、100ポンド(絶対圧力 115ポンド)のものに絞りたりとせん。蒸気の重量1ポンドの中に含有する熱量は圧力 160ポンドの場合には 1195英熱単位にして、100ポンドの場合には 1185英熱単位なり。故に 60ポンドだけ蒸気の圧力を殺減すれば差引 10英熱単位を遊離するの割合となる。故に今もし蒸気が充分に乾燥するものとせば、この遊離せる 10英熱単位は全く低圧蒸気を過熱するの用に供せらるべし。しかして重量1ポンドの蒸気の温度を華氏1度だけ上ぐるに要する熱量は 0.48英熱単位を要するをもって、遊離したる 10英熱単位は圧力 100ポンドの蒸気を
10 ÷ 0.48 = 21
すなわち 21度だけ過熱し得るの割合となる。すなわち圧力 100ポンドの蒸気の固有の温度は華氏 337度86 なるが、それが 21度だけ過熱せられて 358度86 となるの理論なり。
次にまた遊離せる 10英熱単位が全部蒸気中の水分(湿気)の蒸発に費やさるるものと仮定するに、圧力 100ポンドの水の蒸発の潜熱は 876.37英熱単位なるをもって、10英熱単位をもってしては
10 ÷ 876.37 = 0.0114
ポンドの水分を蒸発し得べく、すなわち単に1「パーセント」余の湿気を減じ得るの割合となる。しかしていずれの場合においても石炭の節約1「パーセント」、水の節約2「パーセント」を期することは難かるべく、結局蒸気を絞りて運転すれば「ワイヤー・ドローイング」を起して、それがために水及び石炭を損失すること大なるをもって、前述の僅かなる過熱もしくば湿気減少位にてはこれを償ふ事あたわざるものなり。
故に蒸気を絞りて運転することは経済上の問題としてこれを見ずして、むしろ治療的性質を帯びたる左の場合に応用すべし。
1.列車出発の際。
2.「ビッグ・エンド」及び「エキセントリック」等の発熱の気味ある場合。
3.「スチーム・チェスト・カバー」「シリンダー・カバー」「スタッフィング・ボックス」「スライド・バルブ」及び「ピストン・リング」等より蒸気漏洩の場合。
4.「プライミング」の場合。
5.撒砂器不完全にして空転の気味ある場合。
6.動揺多き機関車及び諸「ブラス」「ピン」等の磨耗多き機関車を運転する場合。
7.特別に最も穏和なる運転を要する場合。
8.蒸気使用中特に多量に「シリンダー」油を給せんとする場合。
けだし普通の「サイト・フィード・ルーブリケーター」にては、「レギュレーター・バルブ」を全開し「カット・オフ」を早くして運転する間は、油の供給はなはだ不充分にして油及び蒸留水が油管内に停滞すること多し。しかるに蒸気を閉塞するかもしくば蒸気を絞りて「カット・オフ」を遅くするときは、油管内に停滞せる油はたちまち「スチーム・チェスト」内に進入すべし。
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