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リトルスターは夢をみる ⅲ/Novel by らいち

リトルスターは夢をみる ⅲ

19,016 character(s)38 mins

死んだ筈だったオレは、また天馬司として生まれ変わってしまった?!
そんな転生パロディ物語の3話目(完結)です。

前回の後からすぐ話が続いていますので、ⅱから見た方がわかりやすいかもしれません!
思った以上の反応と、感想コメントが嬉しかったです。私自身書いていてすごく楽しい物語でした。
コメントのほうで類くん視点で見たい、というコメや楽しみに待ってるという暖かいコメントがすごく励みになりました!期待に応えられたかは分かりませんが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです🥰
イチャイチャが書けなかったのは心残りですが…またいずれに。
今回は類くん視点が多い+視点交互のところがあるので注意してください。
完結できてとりあえず安心してます。

そしてそして、私ごときではございますがTwitterとましゅまろを開きましたー!何かありましたら。
Twitterのほうでもちょこちょこ動こうかなと思いますのでよろしくお願いいたします。

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@raichidesu__

マシュマロ

https://marshmallow-qa.com/raichidesu__?utm_medium=url_text&utm_source=promotion

今までの作品に沢山のいいね、フォロー、コメントありがとうございます!タグ付けも嬉しかったです☺️
ちゃんとコメント読んでいます!そしてすごく励みになっています!ありがとうございます(⑉• •⑉)❤︎

今回も素敵な表紙をお借りしました✨
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これからもらいちをどうぞよろしくお願いいたします🌷

後半司くんと類くんのお互いの年齢差が訳わかんなくなってごちゃごちゃになって自分でも訳分からなくなっているのは内緒

【追記1】

デイリーランキング 39位(2022/04/26)
女子人気ランキング 36位(2022/04/26)

にお邪魔しました〜!ありがとうございます✨

【追記2】

デイリーランキング 19位(2022/04/27)
女子人気ランキング 65位(2022/04/27)

にお邪魔しました。ありがとうございました😊

【追記3】

後日談お楽しみに

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いやぁ、それにしてもお似合いのカップルですね。巷では有名なおふた方、幼馴染であり高校の時はあの有名なフェニックスワンダーランドの宣伝大使として活躍していたんですよ!今はおふたりのこの騒動についてコメントは何もないですが、夜中に互いの家に行ったり来たりしている辺り、もうそんな仲だと思ってもおかしくはないですよね〜!
2人のファンの人たちも前からそんな話をしてネットで騒いでいたようですし、早くコメントがくるといいですね!

それでは次のニュースです。





芸能ニュースから天気予報ニュースに画面は切り替わる。それと同時に父が帰宅し母がご飯をよそう音が聞こえてきた。ただいま、という父の声よりも司の頭にはニュースキャスターの声だけ今も聞こえてくる。おかえりと言わないといけないのに。

「…お似合いのカップル、か。」

確かにな、とぼんやりと思ってしまったのはどうしてだろう。








【リトルスターは夢をみる ⅲ】





今日は雲ひとつない空は快晴で、まるで司の心とは真逆だった。
それしても何故、今自分は失恋しているのにも関わらず空の真下にいるのだろうか。
気分はこないだのニュースを見て優れていないというのに。


「よし、天馬!今日は思う存分楽しもうな!俺のためにも!!」
「…アア、ソウダナ。」

自分の名前が呼ばれ、愛想笑いでそう返す。
懐かしのパレードの音楽が耳に入り、ところどころにはカラフルなフェニーくんの看板や可愛らしい耳をつけた子供たちがはしゃいでいるのが見えた。

そう、ここはあの場所だ。

忘れもしない、司にとっての思い出が詰まったこの場所…フェニックスワンダーランドに山下と共に来ていた。しかも男ふたりで。頭に耳をつけて。
はぁ、と重いため息が出そうになったが隣にいる山下は司とは真逆でルンルンとした様子で笑ってはしゃいでいる。

ああ、本当にどうしてここにいるんだが。


事の発端は、数日前に戻る。




類と寧々の熱愛報道が速報で流れたあの日の夜、オレは味のしない夕飯をさっさと食べてそのまま部屋で寝込んだ。スマホはもう真っ暗になっていて、送ろうと思っていたメッセージは全部消した。

全て全て、消え去った。

涙は流れて、頭の中では高校の時の寧々と類の仲良さげな2人の光景が今になって鮮明に過ぎる。あの時はそんなに気にしてなかったのに、今になると納得いくほどお似合いだった。

自分だけ、思い描いていたこのセカイ。

カフェで類は小さな天馬司を見つけてくれた。
…オレを、見つけてくれた。
でもそれを拒んだオレは、類のことが好きだったからその類の好意を諦めてほしくてそうしたのに。それはただの杞憂に過ぎなかったのだ。
きっとあの日、オレに会いたいと言ったのは、その報告なのだろう。
寧々と、付き合う事になったというそんな報告。

そうだよな、だってもう既にオレは1回死んでいる身だ。きっと辛い思いをして生きてきた類の隣にいたのがオレではなく、寧々だったのだろう。類を優しく抱きしめて、そう暖かく包みこんだのが、寧々という存在。その存在が類にとって大きくなって、そんな関係になるのも時間の問題だ。
その時オレはのうのうと小さい体で生きて、そんな類のことを知らずに今だ類は自分のことを好きだと思っていて、それについて無駄に悩んで、そしてその結果、カフェで類の言っていることを否定した。
オレばかり、先走って類を傷つけたのだ。思わず、笑ってしまった。

はは、とんだ勘違いの最低野郎じゃないか。オレ。

涙は止まらなかった。あのニュースがやっぱり頭から離れない。でも過去の自分を考えれば考えるほど自分の勘違いと身勝手な行動に腹が立って、すごくそれと同時に辛かった。

だって、今オレは寧々に勝てるほど、何ももっていないから。

年齢という壁、そして男であり未成年で

ショーもしてなくて、かつての天馬司とはかけ離れた生活をしていたから。


そりゃ類はもう29になれば現実を見るだろう。

きっと高校の時みたいな、無邪気な恋愛はもうあいつは幕を下ろしたのだ。



セカイはもう終わったのだ。


類のことでわんわん泣いて、次の日。腫れた目をどうにか冷やしたりなんだりしていつも通りにし、気分は晴れぬまま学校へ向かった。教室へ行くといつも朝早い山下が1人いて、司は笑って挨拶をした。そして彼の近くに立って司は続けて笑う。
昨日の放課後、山下と話した後その日の夜早速連絡をしようと思ったが無理だった。とそう告げると彼は何も言わず「そっか」と言って何も言わなかった。
…それも彼なりの優しさだろう。

その日の授業は何も身に入らなかった。数学はもちろん、国語もだ。先生から当てられて初めて教科書を慌てて取り出したり、ノートをひっくり返して消しゴムがどっか行ったりした。(ちなみにまだ見つかってない。どこにいったんだ、オレの消しゴム。)
クラスメイトからは「天馬くん、今日元気いいね。」と笑って真逆の事を言われて尚更落ち込んだ。こんなにも、落ち込んでいつも通りのオレじゃないのに。
今日は木曜日、明日学校に行けば休みだ。だから明日、耐えればいい。土日はゆっくりして休んで、そして時間をかけて類のことを忘れて今度こそは本気で新しい道へ進もう。
そうしたら、いつもの天馬司になれる気がする。いや、むしろ違う天馬司にならなければ。

だってオレは生まれ変わった新しい天馬司なのだから。



「頼む!司!!」
「…一体何をオレに頼もうとしているんだ?」

放課後の掃除の時、いきなり山下から廊下で呼び出され司の顔を見た瞬間両手をパンと音を鳴らして合わせ頭を下げる。片手に箒を持って早く掃除を終わらせて帰りたい司にとっては最悪な呼び出しだ。今日明日は幸い部活もなく、自分の失恋祝いに1人で慰めようと思ったのに。ジト、と頭しか見えない山下に渋々用件を聞く。頭は下げたままいつもよりも小さな声が聞こえてきた。遠くから話し声や開いた窓からは部活の集合の号令と共に。

「司、明後日暇か?」
「明後日?土曜日か?」

…暇といえば、暇だが。正直土日はゆっくり過ごしたい。
きっと買い物の誘いか何かだろう。山下には申し訳ないが別の日がいい。適当に用事があると言って断ろうとした時ようやく顔を上げた山下は少し大きな声で司の肩を掴んだ。思わず驚いて持っていた箒を落としかける。

「お前、…お前しか頼る人がいないんだっ!」
「うおっ?!な、なんだ!突然!!」
「頼むよ、土曜日俺に付き合ってくれ…」
「だぁあ!肩を揺らすなぁああ!」

さすが野球部、司の肩を掴んで力強くグワングワンと揺らした。

「なんだ、一体なんなんだ、用件を言え、用件を!!!」

断ろうとする暇もなくそう言うとようやく司の肩を握りしめていた手の力は解かれた。

「前さ、篠山さんが好きだって言ったじゃん、俺。」
「ああ…」

山下の相談役になっている司はその言葉に頷く。それがどうした、と聞き返すと「実は…今度遊びに行くんだ。」と普段の話し声の数倍小さな声でそう呟く。それに対して大きな声で驚いた司の声は廊下に響いた。

「ほ、本当か!!!よかったじゃないか、山下ぁ!!!」
「ばっ…!うるせえよ!声でけぇわ!!」
「だってようやく進展したじゃないか!普段話しかける事すら出来てないのに一体どうしてそんな急展開になったんだ?」
「最初ディスってねぇか?…いや、俺ら親が知り合いでさ親からペアチケット貰ったんだよ。久しぶりに篠山さんと遊べって言われてさぁ、親同士が連絡取り合ってこうなった。」
「お前が誘ったんじゃないのか…。」
「いや、親が連絡した後ちゃんとメールしたからな?!嫌だったら断ってもいいからって!そしたら行くって言ってくれて来週出かけることになったんだよ!」
「おお…!ならよかったじゃないか!来週楽しみだな!」

小学生の頃からの片思いがようやく1歩前進しそうで司の心は嬉しくなる。きっと親同士が察して遠回しに仕組んだんだろうなぁなんてぼんやりとそう思いながらも、親公認の片思いならすぐにくっつきそうだなと安心もした。

「えっと、それでその、用件ってなんだ?」

話を戻すと、少し頬を赤らめていた山下はこほんとわざとらしい咳をひとつする。

「いや、事前の調査をしたいんだよ。」
「……は?」
「来週、行く所の事前調査をしたいんだよ!せっかく行くならカッコイイところ見せたいんだ。ここの食べ物は美味しいとかおすすめの写真スポット知ってたらカッコイイってなるだろ?」
「えーと、それってつまり来週行くお前たちのデートスポットにオレと山下で今週行って事前調査するってことか?」
「そうだ!お願いだ、お前しかいないんだ!!頼れるのは!お金は俺が負担するから着いてくるだけでもいいから着いてきてくれ!!」
「ぐぅ…!」
「お願いだ、司!ようやく1歩前進しそうなこの機会をカッコ悪い姿を見せて終わらせたくないんだよ!」

期待の眼差しで見られ、脳内にあった天秤が一気に別方向へ傾いた。


「…わかった、土曜日だな。」

折れた、オレが。
流石に断れるわけがない。だって今まで相談のっていて、すごく山下の片想いに応援していたのだ。早くくっつけ、と思うくらい応援しているのだ。
断れるわけが無い。
だからその山下の頼みに首を縦に動かしながら必死にすがりついてくる山下を離すと耳元で鼓膜が破れるくらいの声量で「ありがとうな!!司ぁああー!!!」と言われ気が飛びそうになった。「廊下で叫ぶな!」と注意したオレだが、かつてのオレもこんな感じで高校の時廊下で叫んでいたんだなぁと高校の時の自分と今の山下と姿が被った。
…はぁ、思い出したくないのに。

仕方ない、土曜日は山下と遊んで気を紛らわそう。

そうして気分は晴れるわけもなく金曜日を過ごし、土曜日になった。




気分を晴らすために、迎えたという土曜日。
オレはこうして気が滅入っていた。


「おい、司!あのジェットコースター乗ってみようぜ!」
「…ああ、」


山下が来週篠山と行く場所がまさかフェニックスワンダーランドとは知らず、土曜日当日になって知らされたオレは一気に奈落の底に落とされた気分になった。
だけどもう断れる訳もなく、泣く泣くここに来たというわけだ。久しぶりに来たここは、昔いた時よりあまり変わっていなかった。所々設備が新しくなっていたり、知らないアトラクションが2個ほど増えたくらいでマスコットキャラクターであるフェニーくんは変わらず存在していた。
土曜日だからか、人も多い。家族連れや恋人同士で来ている者、友達と一緒にはしゃぐ若者がたくさん目の前にいる。

(やはり…ここはみんなから愛されているんだな。)

ここにいる人たちを笑顔に、そして世界にいるみんなを笑顔にするという目標をもっていたオレにとって今の光景がすごく素敵に思えた。高校の時、ワンダーランズショウタイムとして活躍していたから今のこの光景があるのではないか、とそんな風に自意識過剰かもしれないが思ってしまう。

やはり、笑顔はいいものだ。

気分が晴れなかった司だが、自然と周りのみんなを見ているとつられて笑顔になりそうだった。類も、寧々もえむもきっと今もこうして誰かを笑顔にしているのだろうな。そう思うと、司も笑顔になれそうだった。
あいつらのショーに対する愛を客観的に受け止めるなんてきっと高校の時の自分には出来なかった。だけど今この体でその愛を受け止められるのだ。

そう思うと、この体で新しく前に進めそうな気がした。

「…ってあれ、山下?!」

ぼんやりと前の光景を見ているといつの間にか隣にいたハズの山下の姿が見当たらない。後ろを見て前を見てもあいつがつけていたクマの耳はどこにもなかった。焦って司はスマホを取ろうとすると目の前から沢山の人達がわらわらと集まってきてスマホの操作が出来なかった。なんだ、と思ってその人達が向かう方を見てみるとどうやらここのマスコットキャラクターであるフェニーくんたちが風船を持って立っていてその様子をスマホで収めようとしているようだ。

「ただでさえ人が多いというのにあいつは一体どこに行ったんだ…!」

フェニーくんの人集りから離れ、スマホを操作して耳に当てる。…プルルル、と鳴るばかりで山下は司からの電話に出ない。アトラクションの音とかでどうやら気づいていないようだ。

「…どうすんだ、これ。」

頭につけていたウサギのカチューシャを取って、不在着信として残った山下の連絡先を見て司は盛大にため息をついた。
ここに用事がある当の本人がいなければ、何もすることがないじゃないか。
それにオレはあまり
ここに居たくないのに。




「はぁ…、疲れたな。」

どこかで休みながら山下からの連絡を待とう。
晴天広がる青空の下、懐かしいフェニックスワンダーランドを1人で歩く司はベンチを探す。しかし歩いて15分どこもかしこも人で埋め尽くされていて、とうとう行き場を失った司は少し悩んだ挙句とある場所を目指し始めた。
きっとあそこは誰もいないだろうし、今の自分にとってうってつけの場所でもある。もう二度と、来ることの無い場所であり司にとっての思い出のある場所。
類への恋心が芽生えた場所でもあるから、そこで類への恋心を埋める最適な場所だろう。

そう、

オレたちがショーをしていた、ワンダーステージだ。




「やはり…人はいないな。」

だけど使っている形跡があるステージ。どうやら今日はショーをしないようで懐かしいそのステージは人の気配ひとつもなかった。自分の足音だけ鳴って、ドガッと客席のベンチに座る。…一応今までは関係者だったから大丈夫だったが今の自分がここにいると不法侵入とかになるのだろうか。現にここに来るまでの間、人の目を盗んで関係者入り口のドアをくぐって来たわけだし…。

「更衣室に行くか。」

確か更衣室の窓、昔から鍵がかからなくて壊れていたままだ。もし今もそれが直っていないならそこで休憩しよう。誰からも見つからないし、1人で休める。一石二鳥だ。
更衣室に近づいて窓を見るとやはり壊れたままだった。少し高さのある窓に向かって助走をつけて飛び込むと簡単に更衣室の中へ潜り込むことに成功した。流石中学生の体だ。小柄なだけあってか、運動神経も高校の時よりも良い。窓から入って床に膝を強くぶつけたのは痛いがようやくゆっくりと休憩が出来ることにホッとした司は変わらぬベンチに座ってロッカーを眺めた。

少しだけ窓から聞こえてくるお客さんの声。

そして風とともにじんわりと残った汗の匂いが五感に響き渡る。
懐かしい思いがふわりと舞い上がってきて、今はかつての天馬司の素直な気持ちになれた。


「……さよなら、類。」

ここに来ることはもう二度とないだろう。
だから最後に言わせてくれ。オレの、気持ちをここで吐き捨てて前に進みたいから。

だから最後だけ。

今まで騙して嘘ついていたオレの本心を、残したかった。



「大好きだった、すごく。」


「叶うなら、ずっと一緒に居たかった…。」


ぽろりと涙が出た。

















「やっと、君の本心を聞けたよ。」







ー………


数週間前、類はとあるミュージカルを観るために劇場に1人足を運んでいた。





「ど、どうしよう、寧々!!寧々!!」
『なによ、そんな耳元で叫ばないで!』
「違うんだ、一大事だよ!驚かないで聞いてくれ、実はさっき僕が好きな演出家のミュージカルを観に1人で行ったらそこに司くんがいたんだ!!」

カツカツカツカツ、と履いていた靴を鳴らして急いで外を歩く。平然を装うとしてるけど、動揺が隠せない。ついさっき出た劇場に、彼、天馬司がいたのだ。同じ顔をした、だけど自分よりは小さな体で。好きな演出家のミュージカルを見るために張り切って前の席を取った類は上映する前にどのくらい人がいるかと確かめようと後ろを向いた時、あの金色の瞳と目が合った。
見慣れるほど、ずっと見ていたあの瞳の色。間違えるはずがない、僕の愛しの、もう二度と会うことはないと思っていたあの瞳を見たのだ。

気が気じゃなかった、早くこのミュージカルが終われと思ったくらい。120分の長い上映が終わって、すぐ立ち上がって彼がいた方に向かおうとすると僕から逃げるかのように急いで走って行った彼の後ろ姿を見つけた。

「あの子は、……司くん、なのかい。」

僕と目が合った時、微かに彼の口が動いたのを見逃さなかった。確かにその口は「るい、」と言っていた。口の動きからして、絶対にそうだ。そして上映が終わったと同時に僕から逃げるような行為まで取って……僕は確信した。
どうして彼が小さい体なのかはわからない。でも彼は僕の知っている、愛している天馬司だ。


彼は転生して、また生まれ変わったのだとそう確信した。



とにかく、もう一度司くんに会うためにどうしようかと劇場から出てそう悩んでいた時寧々から丁度仕事についての電話がかかってきて今に至る。信じてくれないかもしれないこの話、見間違いかもしれないと言われるかもしれないこの話を寧々にした。司にもう一度会えるかもしれないという興奮と喜びが勝って寧々がその話を疑うなんてそんなことを考える暇なんてなかった。

『…それって本当なの?』
「もちろん、だって司くんそのまんまだったんだよ。少し幼かったけど。しかも僕と目が合った時彼は酷く動揺していたし、上映が終わったあとそそくさと逃げるかのように走って行ったんだ。僕のことを知らないならそんなことしないだろう。」
『にしてはおとぎ話みたいだけど。』
「何を言っているんだい、寧々。彼はセカイを創ったひとでもあるんだ。魔法とか信じてなかったけどワンダーランドのセカイにいた僕たちだからおとぎ話とか魔法とか身近なものだっただろう?」
『まあ、そうだけど…。だからといってこれから類はどうするの?』

「決まってるじゃないか、もう一度彼と一緒に人生を共にするんだよ。」


そう冗談に聞こえない声を聞いて寧々は思った。
類は司が亡くなってから、ある時期すごく落ち込んで過ごしていた。愛する人が自分の隣で亡くなった衝撃は大きくて、精神科に通っていたこともあったのを寧々は知っている。29歳になった今でも、類は司の事が好きだった。女と関係なんて作らなかったし、そういった話も全くないくらい彼は一途に無き司を愛して12年間を過ごしていた。

類の言う通り、私たちは高校生の時身近に摩訶不思議なものを見て経験していた。ミクやカイトたちのバーチャルシンガーとともにセカイでショーをしていたくらいだ。今は大人になったからか、それともセカイの創設者である司がいなくなったからか、ワンダーランドのセカイには行けなくなってしまったけど、でもあのセカイで過ごした日々は現実では考えられないくらい不思議な思い出だ。

だから怖かった。
もし、その類が会ったという司が本人だったらいいけど、全くの別人だったら…?
同じ顔をして、13年間愛していた司から拒否られたら類はどうなってしまうのだろう、と。
ずっと司を失ってから辛い思いをしていた類を見ていたからこそ、寧々は心配だった。
震える声で、問う。

『…その司が、私たちのことを覚えている司だったらいいけど。もし覚えていなかったらどうするの?』

ショーの仲間として、そして幼馴染としての心配をぶつけた。
すると少しの間、類の足音だけ聞こえてきて寧々は心臓を揺らした。ぽつり、と独り言のような声が聞こえてきた。

「きっとね、司くんは記憶が残っていても僕のことを拒否ると思うんだ。」
『え?司が?』
「多分、年齢とか。そういうのを考えて彼は僕と一緒にいないように仕向けるだろうね。」
『…』
「記憶が残ってなかったら、それは諦めるよ。でも記憶が残っていたら話は別だ。」
『それって、』
「記憶が残っていると分かれば僕は彼から拒まれたとしても、逃げようとしていても、本心を聞くまで逃がさない。」

「…それに司くんの演技くらい、僕は見破れる自信がある。だって高校の時に思う存分隣で演出をつけて見てきたからね。」


「絶対に逃がすものか。」


そういえば、と寧々はふと思い出した。

彼が司が亡くなって滅入っている時大っ嫌いな野菜を自ら進んで食べていたことを。「野菜食べたら司くん…戻って来てくれるかなぁ。」なんて言って泣きながら生の人参を食べているのを見た時は怖くなって泣きながらえむと止めたのを思い出した。そのくらい、彼は司が好きだった。

だから寧々はもう願った。

類と会ったその司に似ている人が、当の本人であってくれと。

そして同時に祈った。

もう類から逃げられないことに対してご愁傷さま、と。


そこからの自分の行動は早かった。司の見た目からして中学生と予想し、再会した劇場から近い中学校を手当たり次第探して目星をつけた中学校をピックアップした。そして昼休み、登下校の時間にそこら辺付近を歩いて司くんを探すことにした。
そした、運良く、

僕は司くんを見つけた。

昼休みくらいの時間、1人でフラフラとして歩くあのサラサラとした金色の髪色、後ろから見ると耳が赤くなっていて肩はどこか上がっていた中学生がいた。もちろんそれは見間違えるはずもない司くんの姿で、僕は思わず心臓が飛び跳ねかけた。でもよくよく見ると様子がおかしい。
体調が悪いのかな、なんて見て思いながらどう話しかけようか迷っている時。…彼は道路に倒れ込みそうになった。
咄嗟に手を掴むと意識を無くしたのか、熱を帯びた体はぐったりとしていた。ああ、こんなにも無理していたのか。高校の時から変わらないな。と思いながら僕は小さな司くんを抱きしめて近くの公園に向かった。

男の膝枕なんて決して居心地の良いものだとは言えないが司くんが寝やすいように膝枕をして日陰になっているベンチに座る。きっとあのままフラフラした足取りで自分の家に帰るつもりだったのだろうか。あまりにも危険すぎる。
ポケットの中に入っているスマホを取り出して僕はタクシーを頼んだ。僕が車を今持っていれば良かったのだが、歩いて来てしまったからそれも出来ず。せめてタクシーで帰ったほうが司にとっても安全だろうと思ったのだ。

タクシーを呼んだ後、司は起きて僕の顔を見て飛び跳ねて驚いた。ああ、そんなに大きな声を上げると体によくないのに。でも昔と変わらない彼のその反応に懐かしく思いながら僕は平然を装って話しかけた。


「やあ、起きたかい?」


それから僕は司くんにありきたりな話題をふってコツコツと情報を集めた。彼は中学生ということがわかったし、そして話している時の彼の癖や答え方も観察した。…癖というのは本人にはさほどわかるものでは無い。僕が高校の時に見てきた"司くん"の癖とそっくりに、小さな司くんにも現れていた。

確信した、彼は正真正銘天馬司だということを。

あとは記憶が残っているかどうかだった。でもそれについて知ることが今はまだ出来ない。知るにはもう少し時間が必要だった。だから僕はこのまま司くんとの接触を最後にしたくないから、タクシー代をわざと彼に渡した。
もちろん受け取れない、とそう言った司くんだったが無理やり渡す。そして僕は、そのお金のお釣りを返しに来てくれるかい、とそう提示した。
そうして僕は狙い通り司くんと次会う約束をすることが出来たし、なんなら連絡先までゲットすることが出来たという訳だ。


わざと思い出のあるカフェで次に会う約束をする。
そして彼の口からボロが出ることを待つ、これが僕の作戦だ。






『じゃあ司なんだ、』
「ああ、間違いないよ。話している時も司くんとまるっきり同じ癖があったし。」
『ふぅん、』
「きっと司くんは僕のことを知っている。記憶が残っていると思うんだ。だからあとは司くんの口から本心が出るのを待つだけさ。」
『それって難しくない?さっさと司に言えばいいじゃん。僕のこと覚えてるでしょ、って。』
「そうしたら司くんは絶対に知らないの一点張りだよ。僕のことを避けるように接してくるんだからそう言うに違いない。」
『なんか…あんた達高校の時もめんどくさかったけど今もめんどくさい。』
「ふふ、僕はむしろワクワクしているよ。恋の駆け引きをまた味わえるなんてね。」

そう電話越しに笑う類に寧々はため息をついた。
中学生と29歳の年齢差をこれっぽっちも気にせずに司だから愛するという類の執着。
ここまできたらこれは愛という名の鎖だろう。

(司…。)


でも類だけじゃない。わたしだって、それにえむだって司に会いたい。

早くボロを出してよね、わたしたちの唯一の座長。



カフェに行く日、その日は最悪な事に仕事が入ってしまった。演出家としてようやく売れてきたこの頃、いつもなら嬉しい仕事依頼が今日はすごく迷惑だと思った。早く、司くんに会いたいのに。急いで仕事を途中で終わして小走りでカフェへ向かう。カラン、と懐かしい鈴の音を聞いて店内に入ると奥の席でちょこんと座る司くんの姿が見えた。
…良かった、居た。

正直来るかすら怪しかったから、ひとまず彼の姿を見て安心してそして服装とかを適当に整えて司くんに近づいた。


「ごめんね、遅れて。」
「大丈夫ですよ。」

そう言われ机に置いてあった茶色の封筒を差し出される。きっとこれを出したらすぐ立ち去るつもりだろう。僕はそれを見ないように視線を移してメニュー表を開いた。
え、とそんな声が聞こえそうな顔をした司くんを見た。僕は笑って適当な理由をつける。

「遅刻しちゃったから、お礼。走ってきたから喉カラカラなんだ。ねえ、喉乾いてない?」
「いや…っだ、大丈夫です!」
「そんなこと言わずにさ。何がいい?」
「うっ…」

無理やりな気もするが、そう押し付けるように言うと司くんは渋々とした様子でクリームソーダを指さした。
すぐに注文して、クリームソーダが来た途端司くんはパクパクと慌てた様子で頬張る。どうやらさっさと去りたいらしい。ふふ、頬にクリームなんかつけて、可愛いな。そんな焦る司くんの様子を見てニヤけそうになった。


「連絡先の名前を見たんだけど君は天馬司くんって言うんだね。」
「っ!」
「歳は13、名前は天馬司…ね。」

ぴたり、とクリームソーダを食べる手が止まった。そんな司くんに僕はまたひとつ、彼を追い詰めるかのように質問した。だって目の前にいる彼は、僕の大好きな、会いたくて会いたくて会いたくて仕方がなかった天馬司なのだから。早く、早く彼の口から本当のことを言って、その体を抱きしめたかった。だから僕は単刀直入に聞いてしまった。本当は、ひとつひとつ聞き出してからにしようとしたのに、我慢できなかったんだ。


「君は"司くん"かい?」


うん、と頷けよ天馬司。
何も言わず困惑している表情を浮かべている小さな司くんに対してそう思った。



「何もかも君は司くんと同じなんだ。初めて劇場で会ったあの日、驚いた。小さな司くんがいたもんだから。」
「いっ…」

止まらない。僕の口からぽろぽろと言葉が溢れる。

「ねえ、答えて。君は誰なんだい。司くんじゃなかったら、君は彼の何?劇場で目が合った時、酷く怯えた目をしたよね。公演が終わった時、君は人混みを避けるように走って帰ったよね。…ああ、今だってそうだ、僕の目を見て何か言いたそうにしているくせに何も言わない顔をする。」


同じ名前で同じ顔。声もそっくりだ。仕草も動作も僕が知っている天馬司と同じ。」

早く言ってくれ、

「彼の隣にいて、ずっと彼を見てきたからそのくらいわかるよ。長年の癖というものは中々抜けないものさ。」

お願いだから。
転生して生まれ変わった、とそう言ってくれ。

「僕のお星様だった司くん…いや、今は小さなお星様の司くん。君は、もしかしてー…」


そうだ、と。
かくれんぼ失敗してしまったなと笑って頷けよ。


ねえ、司くんー……


「ちがうっ!!!!」


「オレは、オレはお前の知っている天馬司じゃない…!!」




なんでそんな嘘をつくんだ、と言おうとした時。もう彼の姿はなかった。

僕はもう、わけわからなくなった。






「…それでその足でわたしの家に来たってわけね。」
「……ごめん、寧々。」
「別に、昔から突然の訪問とかしてたし今更慣れっこだけど夜に来るのはやめてよね。ご飯の支度とかあるから。」
「ああ、今日はえむくんと一緒にご飯だったのかい?」
「そう、もう解散したけど。ほら、上がって話聞かせてよ。」

カフェから時間が経って、夜の21時。司くんの事でもう頭が真っ白になってしまった僕は寧々の家に来ていた。
一人暮らしをしている寧々の家に入るのはもう慣れっこだった。招かれてリビングに座っているとコト、と目の前に来客用のコップが置かれる。飲んで、と言われ淹れたての珈琲を有難くいただきながら僕は日中、司くんと会ったこと、そして司くんから拒絶されたことを全て話した。

「もう、嫌われたのかな。あの子は本当に司くんなのに…。拒むってことは…。」
「…」
「歳とか、そういうの気にしているのかな…。」
「司も司で何か思っているんでしょ、類のことに対して。」
「…」
「まだわからないんだし、日を改めてまた連絡してみたら?」
「…そう、だね。それでもう何も来なかったら……考えるよ。」

僕の大好きな人。
生涯を一緒に生きると約束した最初で最後の人。
司くんが死んだ時、正直僕も死にたかった。何回も自殺して彼の元へ行こうと思ったけどその時いつも頭に司くんの声が過ぎったんだ。

「お前は最高の演出家だな、類!」

…そう言って、褒める司くんがいつも僕の自殺を邪魔するんだ。だから死ねなかった。だけど演出家になった。
僕にとって司くんしかいないのに、
歳とか、そんなもの、どうでもいいのに。

でも、司くんが僕といて幸せじゃないのなら……

諦めるしかないのかな。


寧々とその後別れて、僕は1人で家に帰った。誰もいない静かな住宅街。足音が響く中、ぼんやりと僕は自分の連絡先に登録している4人の写真を眺めた。何も変哲もない、ただの練習の時に撮った写真。幼い顔をした4人が仲良さげにピースしているそんな1枚。僕の隣にいる司くんは笑ってポーズをとっていて、それを見てじんわりと目から涙が落ちてきた。

司くん、ずっと、ずっと好きだよ。

そう呟いた心の声はすぐにかき消された。


生きた心地しなく、ぼんやりと過ごした日曜日が過ぎ、月曜日になって僕は職場へ向かった。本当は休みたかったけど仕事だから仕方ない。ズル休みはダメだぞ、と怒る高校生の司くんが目に浮かぶから気が乗らないまま準備をして家を出た。
職場に着くと、早速挨拶をして自分の席についた。いつもは大人しそうな顔をする同僚が今日は僕の顔を見て少し慌てていた。
…何かあったのかな。
すると近くにいた先輩が僕に話しかけてきた。

「ねえ、神代さんあの舞台女優の草薙さんと付き合ってるの?!」

「………はい?」


『ほんっっっっとうに迷惑!!!』
「ごめん…僕が考え無しに変装もせずに土曜日寧々の家に行ったから…。」
『朝からずっと質問攻めだったし、ニュースにもなっちゃったじゃん!上の人からはとぼとぼにね、って言われたし。』
「明日、事務所から否定のコメントが発表されるからそれを待とう…。まさかマスコミから張られていたなんて知らなかったよ…。」

電話越しにそうぷんすかと怒る寧々に謝罪する。
幸い、僕も寧々もお互い所属する事務所が恋愛NGではなかったから何も言われなく、関係性を否定するコメントを発表してくれる事になった。まあ、一応これでこの騒動は収まるだろうけど僕も寧々も変な疲労でやられていた。

『あ、ねえ、司は大丈夫なの?』
「え?」
『だって…今でさえ類と距離を置かれてるんだったら、この騒動見て尚更距離置くんじゃない?』
「あ……。」
『あいつ、前から変に自分に自信ないところとかあったし。』

どうしよう。司くんにメールでもしてデタラメな騒動だと言うことを伝えるべきだろうか。いや、…伝えたところで何になるんだ。僕からアクションを起こすとますます司くんは逃げるかもしれない。
はぁー、と嫌なことが重なって思わずため息が出た。

「さいっあくだ…。」



もう、司くんと会うこともないだろう。


あの騒動が起きて、数日後。事務所のほうで関係性を否定するコメントが発表されたが、いまだにファンの間では騒いでいた。僕には司くんしかいないのに…。
仕事のない土曜日、せっかくの休日なのにも関わらず僕は1人家でガチャガチャとロボットを作っていた。次の公演で使えそうな新作ロボットだ。好きなことをして気を紛らわそうとしてもため息しか出てこない。司くんからはメールすらこなくて、疎遠。僕から送ろうか迷っていたけど中々勇気が出ずにいた。

(未練……タラタラだな、僕。)

なんでそう思っている時、いきなりスマホから着信音が聞こえてきた。
えむくんだ、

「もしもし、どうしたんだいえむくん。」
『わ〜!類くーん!!久しぶりー!!』
「ふふ、久しぶりだねぇ。えむくんも元気そうでなによりだよ。」

今ではフェニックスワンダーランドのトップに君臨するえむくんは相変わらず元気いっぱいだ。くすりとそんなえむくんから元気を貰っていると早速えむくんは電話の要件を話し始めた。

『あのね、今会議を抜けてきたんだけど類くんに直接話さなきゃいけないことがあって。』
「え、会議って…大丈夫なのかい?今、電話して。」
『うん、少しだけだから!あのね、着ぐるみさんいるでしょ?その着ぐるみさんからね連絡が着て、フェニックスワンダーランドに今司くんにそっくりな子がいたんだって。』
「えっ、」
『少し身長は小さいんだけど見た目とか声とかそっくりで、風船配りしていた着ぐるみさんがびっくりしちゃってあたしに連絡してきたの、』

…まさか、司くんがフェニックスワンダーランドにいる…?

『こないだ寧々ちゃんから司くんの話聞いてたからもしかしてって思って類くんに連絡したんだ!』
「…そっか、」

これが、最後のチャンスかもしれない。


もうこれでまた拒絶されたら諦めよう。僕と一緒にいて、司くんが幸せじゃないのなら、もう諦めるしかない。だって愛する人には、幸せになって欲しいから。だから、これが最後だ。


自分にそう約束をして、僕は急いで着替えてフェニックスワンダーランドに向かった。






「…人多いなぁ。」

久しぶりのフェニックスワンダーランド。
来てみたはいいものの、土曜日だからか人が多い。家族連れやカップル、友達同士の集団がたくさんいる。とりあえずこうしていても無駄だから司くんが居そうな場所を探すことにした。ジェットコースター、観覧車、コーヒーカップ…。
一通りアトラクションを見て周る。

まあ、そうはいっても簡単に見つかることはなく。
フェニックスワンダーランドは大きな遊園地だ、1人で1人の少年を見つけるなんて不可能に近く、また自分の体力も限界に近い。…でも時間は待ってくれない。こうしている間に司くんはもう帰ったかもしれないという焦りがだんだん募っていく。

「…少し、休もう。」

羽休めするベンチすら空いてなくて、僕は懐かしいあのワンダーステージへ向かった。

関係者ではないものの、顔を見せれば関係者入り口を通されてくれる(えむくんのおかげで)のですんなりと懐かしいステージに足を踏み入れた。今日はどうやらショーをしないようで、人気のないステージはどこかしんみりとした趣を出して僕を歓迎していた。
ふふ、懐かしい。
普段、仕事とかで中々来れなかったこの思い出の場所はいつ見ても自分が高校生の頃を思い出させてくれる。今は別のひとたちがこのステージを使ってお客さんを笑顔にしているが、やはりこの場所は僕達の起点となった所だ。
ひとつひとつ思い出を思い出しながら僕は歩く。そして更衣室の前に到着して、さっきここに来る途中に渡された鍵を使って開けようとした時だった。

ぼそぼそとした声が、微かに僕の耳に聞こえたのだ。


音を立てずに僕は更衣室の扉を開けた。




「……さよなら、類。」


「大好きだった、すごく。」


「叶うなら、ずっと一緒に居たかった…。」



……やっぱり、君は司くんじゃないか。


やっと君の、







「やっと、君の本心が聞けたよ。」






ー………



いきなり後ろから聞こえた類の声に驚いて司は振り返った。何故、ここにいるんだとそう言おうとする前にいつの間にか司の体は類によって抱きしめられていた。抱きしめられているからか、わからないが身体が動かなくて逃げられない。

「…っ」
「やっと、聞けた。司くん、僕のことを避けていたのは君なりの考えがあってそうしていたんだろう?」
「ちが、離せ…!」
「お願い、もう離れないで。僕は君がずっと好きなんだ。」

そう言って類は力強く司を抱きしめる。離せと言わんばかりに暴れていた司は最後に言った類の言葉を聞いてぴたりと大人しくなった。

「…寧々じゃないのか、」
「え?」
「お前は、もうオレじゃなく寧々のことが好きなんだろう…?!」

そう言われたと同時に司は類を押して距離を取る。目を丸々とした類は声を荒らげる司を見た。眉を釣りあげて司は類を見ずに地面を睨みつけて続ける。

「寧々との熱愛報道を聞いて、もうオレは諦めたんだ…!最初はお前の幸せを願ってずっと避けていたけど、でももういい…!お前もこんなオレよりも寧々の方が将来的にも、世間体にもいいだろう…?!」
「それ、本気で言ってるの…?」
「当たり…前だ、ろ。だって…記憶があったって…類のことが好きであったって…オレは、お前とは違って13歳の、小さな体だ。オレとお前は未成年と、大人だ。何をしてもオレはお前の足枷にしかならないだろう…?!そんなの、嫌なんだ、お前の、類の夢を邪魔したくない!!」

はぁと息が途絶える。
言ってやった、オレの本心を。
類とオレは、もう別世界だと。そう言ってやった。
だからもうこれ以上はお互いのことを忘れて、別々の道を歩こう、とそうはっきりと言おうとした。…言おうと、したんだけど。

何故か言葉が出てこない

その代わり頬に伝う暖かな雫が落ちた。


「司くん…何故泣いているんだい?」

「…ッふ、」

くそ、くそ、涙が止まらない。

「司くん、」

じゃり、と類の靴音が聞こえてきて司は顔を両手で隠しながら後ずさりをした。ドン、と背中にロッカーがくっついて行き場を無くす。

「やめろ…っ、くるな、」
「君はどうしてそうやっていつも離れようとするんだい?」
「うぅっ…ッ、ちが、」
「司くんがそうやって僕のことを思ってくれるってことは、僕のことが好きだからだよね?」
「…ッふっ、」
「なら、それでいいじゃないか。」

「え…?」

ぽろぽろと流れる涙がながれたまま、思わず司は類を見た。

「世間体とか、年齢差とか、たとえ世界が否定したとしても僕にとって司くんは最初で最後の人なんだよ。初めて僕達が会った日から司くんが僕のことを思って拒んでいたのも、実はわかっていたんだ。でも僕はそれでも君に会いたくて、ずっと口実を作っていた。」

「僕はね、司くんとの関係について世界がなんと言おうと、バッシングされようと痛くも痒くもないんだ。」

「だって君がいなかったあの13年間のほうが、辛いから。」

…あ、

放課後、山崎がオレに言った言葉が思い出した。
"その人の13年間を、天馬くんは何とも思わないの?"

類は、ずっと13年間オレを思ってくれたんだ。
そんなの、オレだって、同じだ。
この体になってからふとした時、何気ない時、例えば虹を見た時初雪が降った時、そんな時にいつも思い浮かぶのは家族でもなんでもない類だった。
オレだって、ずっと類のことを思って生きていた。

だから涙と共にしゃくりを上げて司は言葉を落とした。


「オレだって…ッ」

「13年間辛かった…!!ずっと、13年間お前に会いたかった…!!」

「お前と一緒に、ずっと、ずっと一緒にいたい…!!」


叶うなら、この体で、これからは永遠と一緒にいたい。世間体にもいいねされず批判されても、類がいるならばそれでいい。
だって13年間、司だって辛かった。

ずっと類のことを思って、離れようとしたけどそんな類の思いを聞いたらもう止まらない。

泣きじゃくる司に、何も言わず類は優しく抱きしめた。





「…泣き止んだかい?」

背中をぽんぽんと撫でながらおっとりとした口調で聞いた言葉に首を縦に動かす。

「……ぁあ、すまない。それに、色々、今までの事も…お前にひどいことをして。」
「ううん、司くんが僕のこと思ってそうしてくれたんだろう?嬉しいよ。」

また、類は司を抱きしめた。自分よりも遥かに大きな体、高校の時よりも成長して胸板も暑くなったのか大人びた類の体つきに司は思わず恥ずかしくなる。
…こんなにも体格差があるなんて。
きゅ、と類の背中に手を回して黙って抱きしめているとカァカァと更衣室の窓からカラスの鳴き声が聞こえてきた。どうやらもう夕方だ。
そんな夕暮れを見ながら司はある事を思い出した。

「そういえば類、なんでここにいたんだ?」
「ああ。えむくんからね、司くんがここにいるという目撃情報を貰ったんだ。まあ、会えるかどうか一か八かで来てみたんだけどね。ふふ、来てよかったよ。」
「えむが…、」
「うん。彼女は今ここ、フェニックスワンダーランドのトップに君臨する立場にまで上り詰めてね毎日みんなを笑顔にすることを考えているよ。」

高校の時のえむは、ハチャメチャでいつも人のことを笑顔にして魔法の言葉という「わんだほい」を唱えていた。そんな彼女が、今ではここのフェニックスワンダーランドの上の立場。…28にもなれば、人は成長しているようだ。

「まあ、彼女は昔とさほど変わらないんだけどね。」

ガク、と思わず落胆する。そして、と類は続けた。

「寧々は今は舞台女優だよ。巷ではね、歌姫と呼ばれていて人々に綺麗な歌声を届けているよ。」
「あ…類、そういえば寧々との関係って…。」
「ああ。あの熱愛報道かな、あれは…。実は司くんのことを相談しに夜たまたま寧々の家に訪ねた時に目撃されたんだよ。」
「は、」
「その、カフェで君が僕のことを拒んだだろう?すごくショックを受けて…そのままその日の夜に寧々の家に行ったんだ。いつもなら変装とかしてたんだけどその日はそんなこと考えられなくて何もしないままに訪問したから…。だから運悪く見つかって撮られたんだ。」

まさか、あのニュースで撮られたのが自分のことでだったなんて。
そのニュースを見て目を腫らすまでわんわん泣いていたオレは一体なんだったんだ。なんか、嬉しいけど複雑な気持ちになる。

「…寧々に、今度久しぶりに会って挨拶と類が迷惑かけたと謝罪しに行かないとな。」
「えむくんも君に会いたがっていたからね。彼女とも今度会おう。」
「ああ、そうだな。というかあいつらオレが転生したということに対して信じているんだな。それもそれでびっくりなんだが…。」
「ふふ、司くんはセカイを創った人だからね。あんな摩訶不思議なセカイを体験した僕らからしたら有り得なくない話だろう?」
「む…そうだが……。」

「よし、そろそろいこうか。今度また、きちんとした場所でゆっくりお互いについて話そう。」

そう言って立ち上がる類は鍵を取り出して扉へ向かった。自分よりも大きな類の後ろ姿を見て、「類、」と司は呼び止めた。

「オレを、ずっと好きでいてくれてありがとう。類。」

「ふふ、僕の方こそ。また、僕の前に天馬司が現れたこと、そして僕をずっと好きでいてくれたことに、ありがとう。」


笑う類に、司はまた笑った。



司と類は更衣室を後にする。

出た後に地面に写った夕焼けの影2つは高校の時よりも凸凹な高低差だった。それを見て司はふ、と小さく微笑む

もう、大丈夫だ。未成年と大人という壁は、きっと分厚いだろうけどでもそれでも司は今こうして隣に類がいるだけでそれだけで幸せだった。




ずっと、ずっとずっと夢をみていた。

こうして類の隣で歩けることを

こうして類の隣で笑えることを

転生した司は、いや、リトルスターは夢をみていた。




そうして次はこんな夢をみる。




類とこれから一緒に幸せに暮らせる日常を送れますように、とそんな夢を。




これからも



ずっと、








リトルスターは夢をみる










【リトルスターは夢をみる おわり】





















『ミク、早く司くんに会いたいなぁ〜』


『ふふ、そうだね。彼たちがもう少し落ち着いたらまたセカイに招こうか。』

『うん!司くんいなくなってからセカイがいきなり誰も入ることが出来なくなったから多分今ならみーんなに会えるね!』

『そうだね、やっぱりこのワンダーランドのセカイは司くんで成り立っているからきっと今ならみんなと会えるんじゃないかな。』



『わ〜い、早くみんなとたっくさん、ショーがしたいなぁ〜!!』



キャッキャ、と笑うバーチャルシンガー達は笑ってそう語る。







4人のスマホに、「セカイはまだ始まってすらいない」がもう一度入るのはもう少しだけ先のお話のよう。


Comments

  • 見事にティッシュ箱ごと無くなりました。ありがとうございます。

    September 21, 2022
  • 読む度に号泣です。

    May 24, 2022
  • 番外編を望む作品ですね。 ありがとうございます。 初めてこの小説を読んだ時ほぁ?!?!!ってなりました。ド好みの小説を下さってありがとうございます。

    April 29, 2022
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