第4話

―仙城高校 下駄箱―


「そういえば茜さんってどこ出身なんですか?」

「…港区の白金です」


 少し恥ずかしそうに茜は言う。


「へぇー、意外と近いですね。

 というか高級住宅街じゃないっすか。今は一人暮らしなんですか?」

「…い、今も実家暮らし…です」

「…良ければ駅まで送りましょうか?」

「そ、そんな…浩一君に悪い…です」


 申し訳なさそうにしている。

 だが、また今朝みたいなことがあってはいけない。


「大丈夫ですよ。

 僕の家ここから近いんで」

「…も、申し訳ない…です」


 そんな事を話していると、真後ろから聞き覚えのある声と共に、背中に何者かが飛びついてきた。


「先輩っ!」

「?!」


 急な衝撃に驚いて振り向いてみると、そこには金髪ツインテールの美少女がいた。


「はぁー………来てたのか、お前」


 長い金髪のツインテールに明るい印象を受ける橙色の眼。

 体型に関しては特筆すべきことはない。

 だが顔はかなり整っており、まさに一軍陽キャって感じだ。

 こいつは一色楓いっしきかえで

 俺の幼馴染で、中学時代の後輩だ。

 

「お前…なんでここに?」


 抱きついている楓を引き剥がし質問をする。


「アハハ。びっくりしました?先輩」


 いたずらっ子のような笑みでこちらに話しかけてくる。

 相変わらず人をおちょくるのが好きな奴だ。


「あぁ、驚いたよ。

 というかお前、もっと偏差値高いとこにいけたんじゃ……?」

「先輩のいない場所じゃ意味ないっすから!」


 満面の笑みで即答されてしまった。


「…そうか、お前はそういう奴だったな……」


 呆れるような、嬉しいような。

 そんな複雑な感情を抱いていると、茜が話しかけてきた。


「えと……そちらの方、は?」


 人見知りをしているのか、はたまた陽キャに苦手意識があるのか、少し不安の色が出ている。


「中学で同じ部活だった後輩です。

 幼馴染でもあります」


「一色っす!よろしくっす!」

「冴咲茜…です。お初にお目にかかります」


 軽いノリの楓に対し、茜は優雅に一礼した。

 楓も生まれは良いとこのはずなんだが、やはり対照的だな。


「……冴咲?もしかして、三大メガバンクの…?」


 どうやら気がついたようだ。


「そう…です」

「えぇ…先輩、とんでもないコネ作りましたね…」


 それを聞いたのか、茜は少し暗い顔になった。


「はぁー……」


 そう、こいつは明るく人当たりもいいものの、空気が読めないのだ。


「?」


 なお本人に自覚はなく、そのせいで陰口を叩かれやすくもある。

 また髪を染めており、カラーコンタクトもつけているため風紀委員に目をつけられてもいる。


「ちょっとは言い方考えろよ…」

「大丈夫です、ので…お気になさらず」


 軽く茜に謝っておいて、話を再開する。

 

「なんの話してたんすか?

 あたしも混ぜて欲しいっす!」

「あぁ、実は…」


 他愛もない話をしながら、俺達は茜を駅まで送っていった。


―仙城高校 体育館―


 次の日の放課後、俺達は部室の前…体育館で桜庭先輩と待ち合わせをしていた。


「それにしても…この学校のプールって屋内なんすね。

 流石貴族学校って感じ」

「まぁ、かなり珍しいよな。

 そのおかげで冬も部活ができるからありがたくはあるんだが」

「え。この部活オフシーズンもやってるんすか?

 もっと緩いのかと…」


 そんな感じで軽く話していると、遅れて桜庭先輩がやってきた。


「皆さんお揃いのようですね」


 長い白髪のストレートに白い肌。

 そしてひときわ目立つ赤眼。

 体型に関しては…絶壁というのがふさわしいだろう。

 もちろん顔はかなり整っており、全体的にどこか天使や神のような印象を抱く。


「おぉ…これが噂の女神ですか……」


 楓がそう言葉を漏らすと、桜庭先輩は顔を赤く染めた。


「その呼び方はやめてください…!

 恥ずかしいんです…」

「女神…?」


 茜がピンときていない様子で首を傾げている。


「私、頼まれたら断れないタイプで…それで色々引き受けてたら…いつの間にか…」

「女神やら聖母やら呼ばれるようになったわけだ」

「〜〜〜〜っ///!!!」


 顔を真っ赤に染めながら、声にならない声を漏らしてうずくまってしまった。

 しかし、相変わらず感情豊かな人だ。


「なんでそんなに恥ずかしがるんすか?

 良いことだと思うっすけど」


 とても不思議な様子で楓で質問をしてきた。

 まあそりゃそうだ。


「私、今まで気持ち悪がられる事のほうが多くて…褒められると恥ずかしさで死んでしまいます!」


 悲しいがまぁ納得のいく境遇だ。

 どうやら楓も納得したようで、同情の視線で見つめている。


 落ち着いた所を見計らって、先輩に声をかける。


「まぁまぁ、一旦自己紹介でもしましょう」


 まだ少し赤みの残る顔を上げて、桜庭は立ち上がった。


桜庭灯さくらばあかりと申します。水泳部部長を努めています。

 先ほどはお見苦しい所をお見せして申し訳ありません」

「さ、冴咲茜…です」

「一色楓っす!

 えーと、それ地毛っすか?」


 沈黙が流れる。

 途端に空気が冷える。

 

 やりやがったなこの野郎……


「察しろこのバカ!」


 即座に楓の後頭部を引っぱたく。

 どうやら楓もそれで察したようで、気まずそうな顔をしている。


「えーと……もしかして聞いちゃだめなことでした…?」

「…いえ、大丈夫です。慣れていますので」


 そうは言っているものの、先輩の顔を見てみると決して良くはない。

 触れられたくないのだろう。


 その場の重々しい雰囲気を打ち破るように、パンと手を叩く音がした。


「さて、皆さん軽く説明は受けていると思いますので、着替えて部活を始めてしまいましょうか」


 そんなこんなで、部活動が始まった。

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