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メイクユーブライト/Novel by 九千

メイクユーブライト

24,644 character(s)49 mins

類くんの恋(仮)を応援する司くんと、何もかも隠せていない類くんの話です。


ちょっと前に習作?的に書いたものですが供養します。
謎に長めです……大体ふたりがわちゃわちゃしてます。

※独自解釈や設定があります
※サイスト全部は回収できてません
※類くんも司くんもひたすら元気

細かいことが気にならない方向けです。
ふわっと読んで頂けたら嬉しいです。
あとおまけで初夜編も書いたんですが長くなったので分けました→novel/18903525


12/17追記
たくさん読んで頂きありがとうございます!
ランキングにもお邪魔したようでびっくりですが嬉しいです……

(以下余談です)
リリース日からプレイしてましたが惜別で急に類司に足を取られた者なので、自分の中の解釈を固めたいな~と思って書いた話でした。
また何か書けたら書きたいです。読んでくださった方々、コメントやタグをくださった方々、本当にありがとうございました!

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 なんだか変わったな、と思う。それは直感的な気付きで、明確な根拠があるわけではなかった。しかし、ふとした瞬間に交わる視線が、響く声が、以前とは違うと漠然と感じる。どう違うかと問われても正しく説明できる気はしないが、とにかく彼の変化を本能で感じ取っていた。
「類、お前、最近変じゃないか?」
「え? 何がだい?」
「いや……何というか、何か、違和感があるような」
 屋上に並んで過ごす昼休みの時間。我ながら不躾で唐突な問いになってしまったが、類は気を悪くした様子もなく首を傾げる。自分の中でまとまっていないうちに口に出したのは失敗だろう。だが、ひとり悶々としていても答えが出ないことも明白だった。言葉が見つからない代わりに手をうろうろと動かしていると、瞬きをした類があっさりと言う。
「ああ、確かに少し変かもしれないね。自覚はあるよ」
「あるのか!? というか、具体的に何が変なんだ?」
「うーん……僕の中で、心境の変化があったことが大きいんだろうけど」
「ほう」
「そうだな……どう言おうか迷うね」
 驚いたことに類は肯定した。本人から正解が聞けるのなら話が早いと、思案するようなその横顔を見つめて待つ。穏やかに吹き抜ける風が彼の髪を揺らした。睫毛が長いな、と改めて感心する。ゆっくりとこちらを見る瞳の美しさにも知らず見とれていたが、やはりその色が以前と違うように思うのだ。やがて類は口を開き、予想外の短い答えを寄越す。
「ごめんね、秘密」
「えっ」
「反応に困らせると思うしね。ああ、ネガティブな内容ではないから心配には及ばないよ。むしろ僕は今、とても前向きな気持ちでいる。ショーにも影響は出さないから気にしないでほしい」
「いや、そう言われても気になるが……オレには言えないことなのか?」
「今はね。君が信頼できないというわけじゃなくて、僕の個人的な理由だから」
「個人的?」
「うん。僕も人並みには人間だからね。まあ、そのうち話せるようになったら話すよ」
 類はどこか楽しげにそう言った。元々変わった奴ではあるが、人並みに複雑な心を持っていると言われれば当然そうだ。簡単に打ち明けたくない事情があるのだろう。そのうち話してくれると言うなら今深追いすべきではないと、ひとつ息をついて引き下がった。
「……わかった。まあ、悩んでいるわけじゃないならいい。だが何かあればすぐ言うんだぞ。お前はひとりで考え込みすぎるからな」
「フフ、ありがとう。本当に大したことではないんだけれどね。でも、嬉しかったな」
「ん? 何が」
「司くんが気付いてくれて。表に出しているつもりはなかったんだけど、それほど僕のことを気にかけてくれたんだろう? ありがとう」
 会話の流れでぱちりと視線が交わる。司を映した瞳は柔らかな色を湛え、微睡むように蕩けて見えた。そんな瞳も、喜色の滲んだ声音もなんだか違う。これまで彼が司に向けてきたそれとは微かに、しかし決定的に違うと確信を抱いた。
 類自身が言ったように、前向きな変化であるならそれでいいのだ。その態度からも嘘ではないとわかるし、司の杞憂だと受け入れればそこまでだった。実際、日常生活や仲間たちとのショーにも何ら影響は出ていないのだから問題ない。だが、それでも妙な落ち着かなさは残る。類の何が変わったのか、何が類を変えたのか。疑問は消せないままに表情を動かし、いつものように笑ってみせた。
「フッ、当然だ。オレはワンダーランズ×ショウタイムの座長であり、お前という最高の演出家の期待に応え続ける未来のスターであり、神代類の無二の友なのだから!」
「うんうん、そうだねえ」
「おい、なんか流そうとしてないか?」
「そんなことはないよ。僕にとって、まさしく君はそういう存在だ。……だからこそ、気が緩んでしまったのかな」
「む? 何か言ったか?」
 胸に手を当て、高らかに放った口上への反応は軽い。しかし類は変わらず楽しげで、上機嫌だな、とはっきりわかるくらいには表情も明るかった。やはり心配の必要はないのだろうか。彼が最後に小声で呟いた言葉は聞き取れなかったが、聞き返しても微笑で誤魔化されてしまう。
「いいや、何でもないよ。さて、そろそろ昼休みが終わってしまうね。君のクラスは移動教室じゃなかったかい?」
「はっ、そうだった! 早めに戻らねばな」
「また放課後、迎えに行くよ。それじゃあ行こうか」
 もうそんな時間かと腰を上げかけると、一足早く立ち上がった類が手を差し出してきた。そんな動作にも若干の戸惑いを覚えたが、友に手を貸すのは当然のことかと深く考えず受け入れる。温かな類の手を握って立った。彼はにこりと微笑んだが、その笑みもどこか違うと思う。それは、類にとって喜ばしい変化なのかもしれない。しかし司の胸中は複雑だった。自分の知らないところで類が変わった、その理由を知れないことをなぜか悔しいと思ってしまう。これは一種の淋しさなのだろうか。司を信頼できないわけではないと類も言ってくれたのに。言語化できないもどかしさを抱えながら笑い返せば、類はそっと司の手を離し歩き出した。


***


「類が変?」
「変というか、以前と様子が違うというか……」
 屋上での類とのやりとりから数日。フェニックスワンダーランドでの練習後、片付けの時間に寧々に話しかけた。ちょうど二手に分かれて作業しており、類とえむは倉庫のほうまで行っている。こちらの会話が届くことはないだろうと思いつつ、陰口のような後ろめたさから声を潜めて問いかけた。
「その……慈愛? だろうか」
「慈愛」
「なんだか、やけに何かを慈しんでいるような顔をしないか? ショーを前に高揚している感じとも違う。もっと落ち着いた感情というか、しっとりしているというか」
「しっとり……」
「類にははぐらかされてしまったんだが、どうにも気になってな」
 直接問うたとき、類は秘密だと答えた。その理由も理解して引き下がろうと思ったのに、結局悶々とした思いは消えず今日に至る。類は相変わらずマイペースだが、やはり司の目に映る彼の姿は以前とは違っていた。数日観察して、それが慈しみという感情に近いものだとは突き止めている。しかしそれが何に起因するものかはわからず、つい類を注視しすぎては苦笑されることが続いていた。
 あの類の感情をそこまで動かすものは、ショー以外に何があるのだろう。花壇の植物を愛でるときや、寧々やえむを見守るときの顔とも違うと思うのだ。類には悪いとは思ったが、彼がずっとそんな調子である限り司の疑問は消えない。少しでも情報があればと、類をよく知りその機微にも敏い幼馴染みを頼った。寧々は司の言葉にしばし考え込んでくれる。やがて顔を上げた寧々は、「もしかしたら、なんだけど」と口を開いた。
「類、恋してるのかもしれない」
「ッ恋!!?」
「うるさ」
「す、すまん……、あいつが恋……!? 本当なのか?」
 衝撃的な一言に激しく動揺する。思わず大声を出してしまったと焦るが、さすがに倉庫までは聞こえていないはずだ。それにしても恋。あの神代類が。寝食よりもショーの優先順位が高い生粋の演出家が、恋愛に関心を抱くことがあるとは夢にも思っていなかった。しかし、と類の言葉を思い出す。彼だって健全な男子高校生だし、恋のひとつやふたつ落ちることがあっても不思議ではない。それなら司に話したがらなかった理由にも納得がいくが、青天の霹靂のような話に驚きを止められなかった。
「たぶん、そうかもって思うことがいくつかあった。類、最近は比較的身嗜みに気を遣うようになったし」
「何!?」
「デートスポット特集とか書いてある雑誌読んでたし」
「デート!!?」
「それに、最近スマホ眺めてること多いし……誰かと連絡取ってるのか、やたら幸せそうににやけてて」
「な……っ」
「ため息つきながら『好きだなあ』って独り言も言ってたから」
「それはもう恋だな!?」
 次々と飛び出す寧々の証言にたまげる。類のそんな変化は学校では見られなかった。さすが幼馴染み、と情報の強さによろめきつつ、類が恋をしているという実感をじわじわと味わう。そうか、そうだったのか。恋が類を変えたのか。司には恋愛経験がないから、類の感じる恋の喜びのすべてを理解することはできない。だが、きっとそれは祝福すべき幸いだ。親友の恋を応援したい気持ちやめでたいとうれしくなる気持ちに混じって、ほんの少し胸を刺す淋しさは余計なものだと蓋をした。
「本当にそうなのかは本人に聞かないとわかんないけど。でも、わたしは類から言ってくるまで首突っ込まないつもりだから。司も変なことは言わないでよね」
「ああ、もちろんだ! そんな野暮なことはしない! 教えてくれてありがとう、寧々」
「別に。まあ、類は恋とかに浮かれてショーに手を抜くような性格してないし。心配する必要はないでしょ」
 司を気遣って話してくれた寧々に感謝する。類の秘密を勝手に知ってしまったことは申し訳ないが、代わり己の持てる力すべてでその恋を応援したいと思った。さりげなく類の恋路をサポートできればいいし、彼が幸せを掴んだ暁には祝福のショーを贈るのもいい。類が笑ってくれるならそれ以上のことはないと、それだけは自らの心に偽りなく言える。
「寧々、司くん。こっちは終わったよ」
「おまたせ〜! 結構暗くなっちゃったね! 何かお手伝いすることあるー?」
「ううん、こっちも終わってる。着替えて帰ろっか」
 ちょうど類とえむが戻ってきた。夕日が沈みきった空は夜を帯び始め、吹く風も冷たくなっている。体を冷やさないうちに帰るのがいいだろう。四人で連れ立って更衣室へ向かい、帰り支度を速やかに進めた。
「司くん。少しだけいいかな」
「ん? どうした」
 着替え終わって男子更衣室を出る前、類が台本を片手に呼びかけてくる。今日の練習で気になるところがあったらしく、びっしりと文字が書き込まれたページを開いて類は演出を変更したいと話し出した。主役を務める司が長台詞を言うシーンだ。類の話に頷きつつ、意見は素直に述べ、より良い演出を追求していく。こんなやりとりも日常茶飯事だ。こうして演出の話をしているときの類は真剣そのもので、やはり恋に浮かれている様子など微塵もない。
「……うん、いいね。これでいってみよう。明日から変えていこうか」
「ああ! これならますます盛り上がるし、圧倒的なオレの輝きで観客を惹きつけられることだろう! さすがは類だ!」
「フフ、君が応えてくれるからこそ出せる案だよ。ああそうだ、もう一箇所気になった部分があって──」
 互いに納得できる結論が出るや否や、類が思い出したようにページを捲る。その瞬間ドアの外からえむの声がして、少し話し込みすぎてしまったことに気づいた。えむと寧々に先に帰ってもらうこともできるが、更衣室に長々と居座るわけにはいかない。出るぞ、と類に告げて鞄を持つと、彼も台本を鞄に仕舞った。
「司くん、あとで連絡してもいいかい? ここは今日中に詰めておきたくて」
「もちろんいいぞ。オレも気になるからな」
 練習が終わったあと、帰宅してからも電話やメッセージでやりとりするのもいつものことだ。だから迷わず頷いて更衣室を出る。えむと寧々に待たせたことを詫びつつ、賑やかに出口まで向かった。えむたちが並んで先を行くから、必然的に司は類と並んで歩くことになる。そこでようやく類の秘密のことを思い出した。他愛ない話をしながら類の様子を窺うと、彼は司の視線に気づいて首を傾げる。
「どうかしたかい?」
「あ、いや」
 少しだけどきりとした。司に向けられたその瞳が、またあの甘い喜びを湛えているように見えたから。いつの間にか演出家モードから恋する男子高校生に戻ったようだ。類がこれほど幸せそうに想う相手が誰なのか気になるが、それはもちろん彼の口から聞くまで詮索はしないようにする。
「類、髪が伸びたんじゃないか?」
「ああ、そうなんだよねえ。そろそろ切ろうかと思っていたんだけど」
「いっそもう少し伸ばせばヘアアレンジの幅が広がりそうだが。結ぶわけじゃないんだろう?」
「まあね。将来的には伸ばしてもいいけど……今回は、ちゃんとしたところで切ってもらおうと思っているよ」
 何の気なしに振った話題だったが、はにかんだような微笑にはっとした。ちゃんとしたところで髪を整える。それは意中の相手を思ってのことではないかと閃いたのだ。年頃の男子ならば、想い人の前では一番カッコいい己でいたいと思うのも当然だろう。そうかそうかと合点して頷くと、類は目を細めて聞いてきた。
「司くんは、僕が髪を伸ばしたらどう思う?」
「ん? 似合うと思うぞ。今の髪型もいいが、伸ばしたら伸ばしたで雰囲気が出るんじゃないか?」
「雰囲気ねえ。でも、手入れが大変そうだな」
「それはある程度必要だろうが……あ、もし伸ばすならオレがアレンジしてやるぞ。咲希が得意でな、オレも色々教わっているんだ。カッコよくしてやるから任せろ!」
 髪を伸ばした類を想像して素直に答える。ショーの役のために髪型を変えることは多々あるが、地毛を伸ばすとなるとまた別だろう。類はスタイルもいいし、顔も整っているから個性的なアレンジでも映えそうだ。司の答えに目を瞬かせた類は、心底嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そうかい。それじゃあ、その時はよろしく頼むよ」
「ああ! いつでもこのオレを頼るといい!」
 顔色を変えず頷いてみせるが、類の笑顔に内心での動揺は続く。瞳が、声が、そこに宿る情が甘くて熱い。なるほどこれは恋に違いないと思えるくらいのそれを滲ませて、類はまっすぐに司を見ていた。いや、恋をしているのはいいんだが。それはオレに向かって駄々漏れでもいいのか。第三者の司に対してでさえこうなら、いざ類が想い人と向き合ったときはどうなってしまうのだろう。さすがに態度でバレるぞ、と口には出せない忠告を押し殺し、わざと空気を変えるように類の背を軽く叩いた。
「さあ、今日の夕食は何だろうな! 楽しみだ!」
「司、うるさい」
「あたしもお腹ペコペコだよ! 夜ごはん何かな何かな〜♪」
「しっかり食べて精をつけねばな。類、お前も食事を抜いたりするんじゃないぞ。ショーへの情熱は大事だが、まずは健康第一だ!」
「フフ、わかっているよ。君にも散々怒られたからね」
 その声に滲む甘さは少し抜けたかもしれない。しかし相変わらず向けられる笑みは淡く、確かな慕情の存在を感じさせてくる。こいつ、お得意のポーカーフェイスはどうしたんだ。昨日までより露骨になった変化に戸惑い、一度は解消したはずの不安が再び湧き上がる。絶対これは相手にも筒抜けになるぞ。夜だからか? 帰ったら想い人と連絡が取れるから浮かれているのか? 余計なお世話だろうが友の恋路が心配になり、激励の意味も込めてもう一度背中を叩いておいた。


***


 帰宅後、食事と入浴を済ませ自室へ引き上げる。ストレッチをしてからスマホを見ると、類から「電話で話したいから手が空いたら教えてほしい」とメッセージが届いていた。練習中の演目の台本を手元に用意し、「今から電話できるぞ」と返事を送る。程なくして類からの着信が画面に表示された。通話ボタンを押せば、先程まで聞いていた柔らかな声音が耳に流れ込む。
『やあ、司くん。夜分にすまないね』
「大丈夫だ。演出のことだろう? それで、お前が気になってるのはどこだ?」
 台本を開き、類の告げた場面のページを探す。司の台本にも大量の書き込みがあり、他人が見たら何が何だかわからないと思われるかもしれない。しかし自分が読めれば問題なかった。類からの指摘をそこに書き加え、またより良いショーを目指すべく議論は深まっていく。
『ここは寧々とえむくんにも意見を聞きたいから明日話すよ。司くんは、他に気になるところはあるかい?』
「そうだな……さっきのオレとえむが立ち位置を変えるシーン、ライトをどちらかに絞ったほうが印象的にならないか?」
『ふむ……そうだね、そこも改良の余地はあるか。ただ観客の視線を誘導するなら──』
 ぶつぶつと独り言のように言いながら、類は頭の中で効果的な演出を模索しているようだった。やはりショーの話をしているときの類の声に甘さはない。そこは徹底して切り替えているんだな、と感心しつつ、熱心な演出家からの言葉にこちらも同じだけの熱量で返していった。
 そうして一通り話し合いが終わった頃。ふと時計を見るとなかなかの時間が経っていて、ずいぶん長話になったなと苦笑する。もちろん司にとって苦になる時間ではない。むしろ類とショーの話に耽ることは刺激的で楽しい、と満ち足りた気持ちでいたが、ふと大事なことに思い至った。今夜、類は想い人と連絡を取らなくてよかったのだろうか。帰り道であれだけ浮かれていたのだから、きっと想い人と接する機会が近いうちにあるのだろうと思っていたのだ。寧々いわく、類がにやけて見えるくらい幸せそうにやりとりをする相手。司との電話でその時間もなくなってしまったのではないかと焦るが、司の口からそれに触れることはできない。
「ああ、もうこんな時間だな。大体の案はまとまったし、今夜はもう寝るか。遅くまで付き合ってくれて感謝する」
 なるべく自然な風を装って切り出す。類は今演出家モードだから、恋する相手との幸せな時間を後回しにしているのかもしれない。彼のショーへの献身は座長としてありがたいことではあるが、司は友として神代類自身の幸福も願っている。彼個人の時間をこれ以上奪うことはしたくないと、そう思い告げた言葉に静かな声が返った。
『こちらこそ、こんな時間まで付き合わせてすまないね。……司くん、これはショーとは関係のない話なんだけど』
「ん?」
『来週の日曜日、何か予定はあるかな。もし良ければ、君と一緒に行きたい場所があるんだ』
 突然の誘いに驚く。類と出掛けたことは何度もあるし、今さら新鮮に思うほどでもないのだが。類が恋をしていると知ったから、誘うべきは司ではなくその相手ではないかと思ったのだ。わざわざデートスポット特集の雑誌を読んでいたくらいなら、貴重な休日を有効活用して相手を口説けばいい。あんなに顔に出るくらい好きなんだろう、ともどかしいような気持ちになりながら、そうは言えないからまた平静を装う。
「特に予定はないが、どこへ行くんだ?」
『ショッピングモールだよ。靴を新調しようと思ってね。君に選ぶのを手伝ってほしいんだ』
「オレに?」
『うん。司くんのセンスを信頼しているからね。もちろん、付き合ってもらうお礼にお昼は奢るよ。どうかな?』
 類の言葉に今度も合点がいった。そうか、類はデートの下準備をしようとしているのか。身嗜みに気を遣い始めたと寧々も言っていた。来るべき決戦へ向け、髪を整え靴も新調して臨もうというのだろう。なるほど、それなら司を誘うのも納得だ。センスを信頼された自負から大きく頷き、類には見えなくとも胸に手を当てきっちりポーズを取る。
「いいだろう! この天馬司が、お前にぴったりの完璧な靴を見つけ出してやるぞ!」
『本当かい? ありがとう』
「礼には及ばん。友のため一肌脱ぐのは当然のことだ。では、また集合時間が決まったら知らせてくれ」
『ああ、わかったよ。それじゃあおやすみ、司くん』
 類はうれしそうに言って電話を切った。最後に聞こえたその声は、また甘い響きを帯びていた気がする。きっと、彼はデートの本番に思いを馳せているのだ。直接その恋をサポートできる機会が巡ってきたことをこちらも喜び、急激に襲い来る眠気には抗わずベッドへ潜り込んだ。


Comments

  • 柊優

    大好きです!!( 〃´꒳`〃人๑•̀ワ•́๑ ) この良作品に出会わせてくれてありがとうございます(土下座)

    June 25, 2025
  • 解釈一致すぎる素晴らしい類司をありがとうございます! だしょめんの関係性もうまく書かれててすごく好きです

    December 17, 2022
  • もう何度も読み返しています。あなたのあたたかくて優しい文章が大好きです。最高の類司をありがとうございます...!

    December 16, 2022
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