「ミニ独立国」200国興亡 イノブータンは風前の灯火

イノブータン大王とキララ王妃が結婚した建国2周年祭=昭和63年、和歌山県すさみ町(町商工会提供)

人口4千人足らずの和歌山県すさみ町に「イノブータン王国」というパロディー国家がある。町の名物でイノシシと豚をかけ合わせたイノブタによるまちおこしを目指し、昭和61年に建国したが、最近は「開店休業」に近い。50~60年代には同様に地域活性化のため全国に続々とユニークな国が生まれ、「ミニ独立国」と呼ばれた。多くが消滅し忘れられたが、復活に向けた動きも出ており、アイデアは現代でも十分通用とするとの見方もある。

さまざまな国と交流

イノブータン王国は建国前の61年3月4日、関係者が当時の中曽根康弘首相に建国宣言書を手渡し、翌日には渡辺美智雄通商産業相と通商友好条約を締結。こうしたパフォーマンスで注目を集め、5月4日に建国を宣言した。

イノブタは父親がイノシシ、母親が豚の交配種で、町内の県畜産試験場が誕生させた。肉質が柔らかくてクセがなく、町商工会青年部が中心となり競馬のように走らせて1、2着をあてる「イノブタダービー」を56年に初開催し、年一度のイベントとして定着。続いて王国を建国し、ダービーとともに開く建国祭が恒例行事となった。

イノブータン大王(左)とキララ王妃(中央)が結婚した建国2周年祭=昭和63年、和歌山県すさみ町(町商工会提供)
「イノブータン駅」の看板がかけられた国鉄周参見駅=昭和61年、和歌山県すさみ町(町商工会提供)

王国には「イノブータン大王」と「キララ王妃」という架空のキャラクターがおり、首相はすさみ町長、国会議長は町議会議長が務めている。

王国が生まれた当時、全国各地に「ミニ独立国」があり、さまざまな国と交流するとともに、活発にイベントを行った。

町商工会によると、建国した61年には、東京都八王子市の銀杏(ぎんなん)国で開催された「ミニ独立国オリンピック」や、島根県出雲市の「いずもオロチ王国」でのサミットに参加。町内ではこの年、国鉄周参見(すさみ)駅に「イノブータン駅」の看板がかけられ、翌62年の建国1周年祭には各国の女王・王妃が集結。63年の2周年祭では大王と王妃が結婚した。

平成8年には町内の国道42号沿いに「道の駅イノブータンランド・すさみ」がオープン。とんがり屋根の建物は「イノブータン城」と称して大王と王妃の人形が置かれてグッズを販売し、人気を集めた。

客減るイノブータン城

だが、建国10年を過ぎる頃から関連イベントが少なくなってくる。

平成27年に開かれたイノブタダービーの光景。3年連続中止になっている=和歌山県すさみ町
客足が遠のいた「道の駅イノブータンランド・すさみ」。「イノブータン城」と呼ばれるとんがり屋根の建物は日曜以外は閉まっている=和歌山県すさみ町
「道の駅すさみ」に移設されたイノブータン大王(左)とキララ王妃の人形=和歌山県すさみ町

町商工会経営支援員の津村光さん(46)は「バブル崩壊後で、お金がかかるイベントに影響したのではないか」と推測。さらに「アイデアマンだった町商工会職員の故有田文彦さんが平成20年に定年退職したことが大きい」という。

町内は27年に高速道路の紀勢自動車道が開通し、すさみ南インターチェンジそばに「道の駅すさみ」がオープン。イノブータン城は客足が遠のき、現在はほぼ物販がなく日曜以外は閉まっている。大王と王妃の人形は道の駅すさみに移設した。

また5月に開催する恒例のダービーと建国祭は新型コロナウイルス禍によって今年まで3年連続、中止を余儀なくされている。

町は王国を前面に出したPRはしておらず、岩田勉町長は「王国が主体的にやれば行政も支援する。アイデアを出してほしい」と王国の主体である町商工会に注文する。

国々は消滅と存続

王国が交流した銀杏国やいずもオロチ王国は今や存在しない。

東北の架空の国を描いた井上ひさしの小説「吉里吉里人(きりきりじん)」が人気を集め、同じ地名がある岩手県大槌町で「吉里吉里国」が昭和57年に独立。小説人気を背景にこの頃「ミニ独立国」ブームが起きたとされるが、吉里吉里国は地元でも忘れ去られている。

一方、蛇に似た未確認動物「ツチノコ」をテーマに平成元年に建国した奈良県下北山村の「ツチノコ共和国」は存続し、平成30年には記念シンポジウムを開催した。当初から関わる元村議会議長の野崎和生さん(76)はミニ独立国の消滅について「市町村合併や後継者の不在、資金難が原因」と指摘する。

ただ復活の動きもあり、平成18年に「日本国と統合した」とする福島県二本松市の「ニコニコ共和国」は、今年7月に1日だけだが16年ぶりに国の名称を使ったイベントが開かれた。

平成初期に全国で200を超えたとされるミニ独立国。東京工業大環境・社会理工学院修士課程で観光計画を専攻した不動産会社員の足立大育さんらが昨年発表した論文は、一昨年8月時点で存在したミニ独立国を調べ、キララ共和国(北海道蘭越町)や新邪馬台国(大分県宇佐市)など40カ国を確認したとしている。

足立さんは「ここ10年ほどの間にできた国はミニ独立国ブームを知らないところもあった。アイデア自体は古くなく、今も十分通用する。ネットやSNSを使って発信もできる」と可能性を見いだす。(張英壽)

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