居るなら居ると言ってくれ!
気づかなかった司くんも大概だと思うよ
恋バナで同級生とわちゃわちゃ盛り上がる司くんを書きたかったのですが死ぬほどノリが軽いモブがめちゃくちゃ喋る話になってしまいました楽しかったです
なんでも大丈夫な人は是非是非
類くん誕生日おめでとうございますこれからもたのしい毎日でありますように
- 805
- 1,106
- 14,124
グラウンドから聞こえてくる野球部の声。掃除の後からずっと机に突っ伏して寝こけている男子生徒。勉強道具を抱えて教室を後にする勉強熱心な女子生徒。
放課後の過ごし方は様々で、遠くから聞こえてくる吹奏楽部の音出しで無意識に机を指が叩いた。帰ったら久々にピアノを少し弾こうかと司が考えていると、廊下で笑い声が弾けた。何人かの女子生徒が一人を中心にして楽しそうに話している。
(あぁ。例のあの……)
中心で照れ臭そうに前髪を触っている女生徒には司も見覚えがある。昼にどっと上がった歓声の中心にいた二人のうち一人が、確かその生徒だった。神校において、廊下の端から端までざわつく原因を作っているのは最近もっぱらあの男だったから、珍しさに司も教室から眺めていたのだ。
どうやら今日告白が成功して付き合い始めたカップルらしい。かなり長い間両片想いだったようで、今日一日、二年生はその話題ばかりだった。
教室に残っている友人達も例に漏れずその話をしているようで、時折賑やかな声が聞こえてくる。
「いいよなぁ。俺も恋人欲しい……!」
「わかったから窓辺に座るな。空を見上げるな」
「お迎えを待ってるんだ俺……」
「待つなよ。お前がいけよ」
「なぁーお腹すいたんだけどなんか持ってないー」
「制汗剤ならある」
「味は?」
「味……?多分ミント」
男子高校生らしい中身も何もないような会話が飛び交っているのを、聞くとはなしに聞きながら帰り支度をする。ふと一人の視線が司に向いた。
こいこいと手で呼ばれ、窓際で駄弁っている三人に混ざる。制汗剤の成分表示を食い入るように眺めている友人の瞳に熊のような食欲を感じて、そっと取り上げた。このまま持たせていると飲みかねない。
「天馬!おい返せよ!」
「駄目だ。これをやるから大人しくしていろ」
「のど飴!」
「司、これからフェニラン?」
「いや今日は休みなんだ。このまま帰る」
飴を噛み砕いている音が少々やかましい。プリンセスごっこは飽きたのか、ちゃおと同じくらいキラキラした目で空を見上げていた友人の目も元に戻っている。
「神代ならまだ教室にいたぞ」
「別に、類と一緒に帰る約束はしていないが」
「遊び行ったりしないのか?休みなのに」
「類と二人だけで出かけることはそんなにないぞ。四人ならよくあるが」
やっぱりセットで扱われているのかと苦笑しながら司がそう返すと、三人はおやおや、と顔を見合わせた。その表情は単に珍しさからくるものではなさそうで、司も首を傾げる。一瞬合わせた視線で彼らが何を思ったのかは流石にわからなかった。
「なるほどなぁ。じゃ今日は時間あるんだ」
「まぁ、そうだな」
「用事ないならちょっと話そうぜ」
な、と人懐こそうに笑われては司も断れない。せっかく誘ってくれたのだし、と一つ頷いた。
「別に構わんぞ」
「よかったよかった。椅子こっち座れよ。チョコ食う?」
「ありがとう。あ、まて。手を拭いてくる」
「さっき俺に制汗剤勧めたくせにチョコ持ってたのか。一個くれ」
「お前食べるってより飲むから怖いんだよ……」
掃除機のような音を立ててチョコを吸い込んだ友人の背中がばんばん叩かれている音を聞きながら司はウェットティッシュを取り出す。
戻る頃にはもう三つチョコを吸い込んだらしく激しい睨み合いが発生していた。
「いやー、しかし今日は賑やかだったな」
「ん。昼のあれの話か」
「そうそう。俺あいつらと同中だから色々知ってたけど、おめでたいおめでたい」
「お前はだれ目線なの?」
やはりどこもこの話ばかりなのだなと思いつつ、司の脳裏に浮かぶのは片想い中の男の後ろ姿。あいつが誰かと付き合うなんてことになったらこの校舎は無事で済むのだろうかと怖い想像をしてしまって慌てて打ち消した。
「でさー、俺司に聞いてみたかったんだけど」
「なんだ?」
「好きな人とかいるの?」
思いがけない話題にグッと唇を噛む。直前まで考えていたことが考えていたことだっただけに動揺が顔に出そう、というか出てしまっていた。
「お?その反応は……?」
「……いなくはないが」
「おおー」
「拍手をやめてくれ」
こういう話題に慣れていない司は、流石に照れ臭くて横を向いた。大事な妹や可愛い後輩、かけがえのない仲間についてならいくらでも澱みなく話せるが、好きな人のことはどうにもむず痒い思いで言葉に詰まってしまうことがあるのだと、司は恋をして初めて知った。
らしくない自覚があるだけに、そんな自分を嬉しそうに眺めてくる友人たちの視線が落ち着かない。
「司が好きになるやつならいいやつなんだろうなーどんなやつか知りたいなー俺」
「俺も知りた〜い」
「俺も〜」
「なんなんだ急に揃いも揃って……。聞いてどうするというんだ」
そんなこと言わないで、とばかりに見つめてくる三つの顔にたじろぐ。気色が悪いぞと言うとひどい!と騒ぎ出してもっと面倒臭いことになった。
「……仕方ないな。そこまで言うならオレの好きな人について語って聞かせてやろうではないか!」
「待ちに待ってた」
「あ。なぁ週末課題何でてる?」
「は?何それ。知らんけど俺。最低。そういう話しないでくんない?」
「きれんなよ馬鹿。勉強しろ」
「お前ら話題を持ちかけた側なら聞く姿勢を見せろ!」
「課題やだなー」
一体どこから出したのか渋い顔で啜っているジュースのパックはみるみるうちに萎んでいく。ペコリとつぶれた表面に印刷されたオレンジのキャラクターが可哀想だ。
連絡事項が記入された黒板の隅の方に歩いていった一人がそばにあったカレンダーを見て声を上げる。
「うわ月曜二十日じゃん。俺あてられる」
「出席番号四十番台の誇り」
「今日一桁のところであてられてただろ四十七番!」
「過去のことは振り返らない」
「寝てて覚えてないだけだろ」
友人達がぎゃーぎゃーと戯れあっているのを見ながら、司は首を傾げる。天馬の苗字は出席番号だと早い方でもないが遅い方でもない。三十一番よりは後ろだから日付で当てられることは少ないはずなのに今日も三回はあてられた。
「オレはなぜか日付関係なくよくあてられるな」
「お前は賑やかだから目につくんだろ」
「授業中は静かにしているぞ!」
「黙ってても聞こえてくるんだよ」
目を瞑って耳を澄ますようなジェスチャーをしている友人を軽く小突くふりをして、司も週末の課題を思い浮かべて苦い顔をした。学生の身分で勉学からは逃れられない。
「月曜の数学……あてられんことを祈るか……」
「まぁほら、お前はか……好きな人に教えてもらえよ。今やってる範囲なんか簡単だろうし」
「どうしてそこで好きな人なんだ」
「あー、頭いいのかなと思って」
「確かにあいつは頭がいいが……よくわかったな」
「ん、勘だよ勘」
二人の会話を聞いて、ストローをがじがじやりながらSNSでコンビニの唐揚げやらジュースやらが当たるよう必死で応募していた友人があ、とでも言いたげに顔を上げた。
「天馬、そういえば好きな人の話いいの?」
「そうだった!というかお前達が話を聞かないからだろうが」
「悪い悪い」
「ごめんごめん」
「すまんすまん」
「全く……」
お詫びの三点倒立をしようとしている友人は無視して考える。
類の好きなところ、と思い浮かべると、なんだかわくわくするようなドキドキするような気持ちで胸がいっぱいになった。
あれもこれもとたくさん出てくるが、一番はやはりこれだろうと笑みが浮かぶ。
「そうだな……やっぱりまずは演出だ!類はいつもオレたちが一番輝けるような、それでいて観客を笑顔にする演出をつけてくれるからな!」
「おぉ、もう名前言ったな」
「しっ。黙って聞いてろ」
先日も素晴らしかったと、演じている時の高揚を思い出して胸が熱くなる。衝動のまま教壇の上でカッコいいポーズをとりはじめる司を三人は写真を撮ったり動画を撮ったりしながら眺めた。
ふと、入り口に見えた人影を手招く。そろそろと入ってきた人物を座らせ、手にチョコを握らせる。
「……僕が聞いていていいのかな、これ」
「いいってことよ」
「本当にいいのかな……あ、チョコありがとう」
「気にすんな兄弟」
「兄弟?」
「天馬!他にはー?」
いつのまにか一人増えたことにも気づかずに、司はかっこいいポーズを次々繰り出しながら話し続ける。教壇はステージになってしまったようだ。
「あとは……声も好きだな。ショーの時のナレーションは素晴らしい。観客を物語に引き込む力がある。それだけじゃないぞ!フェニックスワンダーランドで迷子がたまに出るんだが、類が話しかけるとほっとした様な顔をするんだ。優しい話し方をするからだろうな」
「そうなの?……おぉ、照れてる」
「え見たい見たい。お前邪魔」
「邪魔ってなんだこら」
「見なくていいよ僕の顔なんか……」
「司つぎー」
わちゃわちゃと三人に顔を覗き込まれて真ん中の生徒が照れ臭そうにしている間も司はポーズを取ることをやめない。一体何種類あるのか計り知れない。
「笑っている顔も好きだぞ!ショーの後の満足そうな顔を見ると期待に応えられて良かったと思う。学校だと爆発で楽しくなって妙な笑い方をしているが……たまに屈託なく笑っていると珍しくてつい見てしまうな」
「……僕、そんなに笑っているかな」
「廊下走ってる時はだいたい」
「笑い声とサンダルのべたべたいう音聞こえるから誰かすぐわかる」
「うーん……すまないね?」
「謝んなよ。俺ら家族だろ」
「いや違うけど……」
鼻の下を擦りながらがっちり肩を組んでくる手を真ん中の生徒がそっと外したところで、ようやく司が動きを止めた。しかし黒板と向かい合っているせいでまだ観客の増員に気がついていない。
「まぁ、あげればきりがないな。類ならどんなところも好きだと思う。頑張りすぎて自分の健康に気がまわらなくなるところと爆発が多すぎるところはたまに傷だが……ショーのためにいつも全力な類が好きだからな」
ほー、だのへー、だの司のクラスメイトたちが適当な相槌を打つ中、後から遅れて入ってきたもう一人だけが顔を覆って俯いている。
「中身にぞっこんなのは十分わかったけど見た目は好きじゃないのか?今までの話に全然出てこなかったけど」
「ふむ。見た目か」
「顔立ちが好みとか、身長が高いところが好きとか、色々あるだろ」
「そうだな……整った顔立ちをしていると思うぞ!オレの次に!」
「だめだこりゃ」
最初の照れ臭そうな様子は何処へやら、司はいつものように肺活量を駆使した笑い声を上げ始めた。
クラスメイトたちはしばらく迷惑そうに耳栓をしていたが、耐え切れなくなったのか声を上げる。
「今ちゃんと見て一回よく考えてみろよ!ほら!」
「ん?」
ほらってなんだと、司はここで漸く三人に向き直る。そこで違和感に首を傾げた。
頭の数は一、二、三……四。
「え、と。……え?僕はどうすればいいんだい」
「売り込め、自分を。チャンスだぞ」
「えぇ……どうかな、司くん」
元は三人だったはずの観客の間に押し込まれる様にして座っていた類は、司を見上げて少し照れた様に首を傾げた。
なるほど見間違いか……と司は一瞬天井を見る。もう一度視線を元に戻すが、今度は恥ずかしさに少し困惑をまぜた表情の類が変わらず座っていた。
「なああああ!!!な、なぜ、いつから!」
「うーん。まずは演出だな、の辺りからだね」
「嘘だろ!?」
「結構話してたけどな」
「天馬ポーズばっかりとってるから……」
はーやれやれ、と言いたげに友人達は立ち上がる。くっつけていた机をガタガタと並べ直して帰宅モードだ。類と二人きりにされる気配を察知して司は引き止めようとするが、立ち上がって歩いてくる類が邪魔でそれもできない。
「結局課題わかんなかったな……」
「あ、俺帰りにドラッグストア寄りたいんだけど」
「はぁ?なんで」
「化粧水買う。ねーちゃんから連絡きてた」
「パシリね……」
解散解散と扉をくぐろうとする友人たちを見て、司はやっとのことで声を上げる。
「お、お前ら、ちょっとまっ」
「じゃあな、司。神代に課題教えてもらったら俺にも教えて」
「あ、俺も」
「絶対に教えてやらんぞ!」
「あっちの方がうまくいったらそれも教えてくれな〜」
「俺も〜」
「お前らに教えることなどない!」
こわやこわや南無三と逃げていく友人達の背中を睨みつけていると、いつのまにか目の前に立っていた類が司を見下ろした。
何か言いかけては口を閉じるのを繰り返しているのをみて、どんどん心拍数があがっていく。
「じゃあ、えーっと。……課題教えようか?」
「え?それは是非頼みたいところだが……」
先程の話に触れることなく、類は踵を返した。近くの椅子に腰を下ろす。
それを見て、もしかすると好きな人の話をしていたことには気づいていないのでは、と司の胸に希望が灯る。照れたように見えたのは知らない生徒の前で自分の長所を並べ立てられていたと思ったからだろう。そうに違いない。
変なところで鈍感なやつだなワハハ、と司はすっかり安心して鞄を開ける。
心の余裕を取り戻した司がスケジュール帳と筆記具片手に行儀よく座ったところで、類が突然すごい音を立てて机に突っ伏した。
「おい頭大丈夫か⁈」
「う、ん。それだと違う意味に聞こえるよね」
「両方の意味で言ったんだぞ!」
「あ、そうなんだ……」
たんこぶになっていないかと、司に前髪を思い切り後ろに流された類は微妙な顔で視線を逸らしている。
「オレに勉強教えられるか……?素数言えるか?」
「んー。五十七とか?」
「おい五十七は素数じゃないぞ!早く病院に行かねば!」
「待って待ってごめん。わかってるから大丈夫だよ」
そうすれば頭の中身も治せるとでも思っているのか類の頭をがっちり掴んで唸り出した司を宥める。
頭はもういいからそれより、と類は一つため息をついた。
「さっきの話だけど……あれって僕の、長所?でも挙げてくれてたのかな」
「そ、そうだ!あいつらにも教えてやろうと思ってな!」
「ふーん……そっか……」
やっぱりバレていない!と司は持ち直す。
あれしきのことで照れるなど可愛いやつだなと内心高笑いをしようとしたところで、何か考え込んでいた類が意を決したように再び口を開いた。
「ごめん……僕の勘違いだったらいいんだけど。司くん、好きな人の話をしてなかったかい」
今度は司が机に突っ伏しそうになるところだった。この短時間で何度上げて落とされたか。どうしたらいいかわからず顔を伏せたまま冷や汗を流していると、類がぽつりぽつりと話し出す。
「教室でドローンを調整していたんだけど……。その、司くんの声が聞こえて」
「ほぉ」
「オレの好きな人について教えてやるって言ってたからびっくりして……ついこっちまで来てしまったんだけど、そしたら君のクラスメイトが入らせてくれて」
「……そうか」
「でもよく聞いてみたら僕の話ばかりしているし」
「…………なるほど」
「好きな人って……ひょっとして、僕のことかな」
「………………」
はいともいいえとも言えないまま司が元気に暴れ回っている心臓を恨めしく思っていると、ぎゅうと手が握られて息が止まるほど驚いてしまう。酸素の供給が途絶えただろう残念だったなと現実逃避をしようとした思考すら、類の熱っぽい目に捉えられて停止する。
「司くん、教えて」
顔を真っ赤にして司の手を握ってくる類を見て察するところがない程司も鈍感ではなかった。
だとしたらここが正念場だと、司は大きく息を吸い込む。
そして、学校にいた生徒の十人が十人、爆発音か告白か迷った。告白寄りの爆発音だった。などと感想をこぼすレベルの爆音を放課後の校舎に響き渡らせた。
■
事態はなんとか収まるところに収まって、二人それぞれ初恋の成就という衝撃に耐え切れず机に伏せて沈黙していると、外から司と類を呼ぶ声が聞こえた。
顔を見合わせ、のろのろと窓の外を見てみると、先ほどまで教室にいた三人が手を振っている。
そして、おめでと〜と気の抜けるような声と共に、ちぎったノートにマジックで書いた"祝お付き合い"の文字を見せてくれたのだった。