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思ったより興味津々だった。/Novel by 藻屑

思ったより興味津々だった。

5,049 character(s)10 mins

初夜に鼻血出しちゃう司。
致す前後のみ、直接描写なし。

書きたいとこだけ書いてポイピクに投げてたもの+蛇足分。

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「えっ」

 ソファベッドの上に落ちた赤い液体が、じわりと滲み広がった。熱を持った鼻の奥から流れる血を見て、オレは慌てて両の手のひらで抑える。
 顔をあげれば月色の瞳が丸くなるのが見えた。ぽかんとあどけなく口を開く類のその姿に、オレの脳裏に過ぎったのは、失敗した、というなんでもない端的な感想だった。


 ■


 類と付き合ってから、およそ半年が経った頃。
 好きな人と想いが通じ合うだけでなく、さらに同じ夢を追いかけられるという贅沢をオレは日常的に噛み締めていた。
 ただ少し手を繋いだり、言葉を交わしてお互いの気持ちを確認したり、その程度。それだけでも不満はなかった。ただ、オレは人より遥かに強欲なので、それ以上が欲しくなっただけなのだ。
 外野から変人だのなんだの言われようと、こちらも健全な男子高校生なので、興味が全くないと言えば嘘になる。あの体温をもっと近くで感じてみたいと、そんな素直な欲を持て余していた。
 一人で悩んでいても仕方ない。思い切って類に恐る恐る相談したところ、なんとあっさり「じゃあしてみる?」なんて快諾を頂けたのだ。イメージ的に、類はそういうことに興味がなさそうだったから、もう少し戸惑われるかと思っていた。これは嬉しい拍子抜けだ。
 事前準備だとかどっちがどの役をするだとか、同性同士は色々最初に確認が必要なわけで、司くんはどっちがいい? とラムネ菓子の味を選ばせてくれるみたいなテンションで類に聞かれたのには驚いた。
 この提案をする以前は断固として「オレがリードしてやらねば」という意気込みだったのだが、普段の類のスマートで優しいところを見るとかっこよく思えたし、付き合うにつれてこの男にとことん甘やかされてみたいとも思った。だから、そりゃあもう、口に出すのも恥ずかしいことなのだが、それでも人とは言わねば伝わらぬものであるので。
「お、オレは、お前相手ならば、その、抱かれてみたい、かも……しれない……」
 こんなところですれ違いなぞ起きてたまるか、という一心でオレは希望を主張する。伝えるシミュレーションは頭の中では完璧だったのに、声はところどころ裏返る。羞恥で顔から火が出そうになりながら辿々しくそう伝えれば、聞き取りづらかったろうに類は最後まで遮らずに真面目に耳を傾けてくれた。そうして、柔らかく笑って「ならそうしよっか」とこれまたあっさり頷いてオレの頬を撫でる。二人きりになった途端とことん甘やかしてくれる類を知ってるのは、もしかしたらオレだけなのかもしれない。

 そうして、ちょうど類の両親が家を空けるというからお邪魔して、手間をかけさせないよう家で準備してきたと胸を張ったり、驚かれたりしつつ、ついに好きな人とそういうことをするのだとドキドキしたりして、してたところで。

「鼻血出ちゃったの?」

 冒頭に至る。
 まだソファベッドの上で、いつもと違うキスして、シャツの前ボタンを少し外しただけなのに。
 多分オレの脳はそれだけで沸騰したのだ。大好きなショーを彩る魔法のような指先が、そういう意味で、自分に触れるのだと意識したときから。

 心配そうと言うよりは何が起きたのか現状を確認するような表情で、類は傍にあったティッシュを箱ごと差し出してきた。
 大丈夫? という相手からの問いかけは完全に親切から来るものだ。だからオレは、ありがとう、とか、問題ないぞ、とか、何か答えなければならない。そう思って慌てて口を開いて、無意識に止めていた息を吸い込んだら血まで吸い込んでしまって、その不快さに驚いて今度は噎せた。
 背中をさすられながら、口をゆすぐか聞かれたけれど、これ以上失態を見せたくなくて反射的に首を横に振る。
 最悪だ、かっこ悪すぎる。
 緊張してた。それはもうすごく、昨夜寝れないくらいには。考えれば考えるほど恥ずかしくなったけど、同じくらい期待もしてた。類が嬉しそうに、オレの我儘に頷いてくれたから、絶対失敗しないようにって色々調べて準備までしてたのに。それなのに、自分のせいで台無しにしている現状にパニックになっている。我ながら情けなさすぎて、今すぐここから逃げ出したい。
「わ、わるい、シミが、」
 受け取ったティッシュ箱から数枚を引っ張り出して、血の着いたソファを擦る。強く拭いては滲み広がるそれと一緒に、オレの意志とは関係なく涙で視界が揺れた。
 鼻血くらいで泣くとか、そんな、まさか。これ以上かっこ悪いところを重ねないで欲しいのに。慌てて腕で顔を隠すように目元を乱暴に拭えば、少し乾いて張り付いた鼻血も一緒にこすれた。多分今、人生で一番酷い顔をしている自信がある。
「う、うう~~~……」
 類の顔が見れない。というか見ないで欲しい。舞台の上ならこんなふうにならないのに。世界一かっこいいスターなのに。好きな奴の前では世界一かっこ悪い彼氏になってしまった。正直に言うと耐えられない。
「擦らないで。服汚れちゃうから、脱がしていい?」
 上から降ってきた淡々とした声が耳に刺さる。オレは思わずびくりと肩を揺らした。
 ソファに座ったまま俯いてしまったオレの正面で、類が顔を覗き込んでいる気配がする。多分、心配させてるんだろうなあ、どうしよう。
 萎えてしまったくらいなら、まだ耐えれるけど、もし呆れられてたら、ちょっと、心が折れたりはしないけど、再起に時間がかかると思う。だからあと少しだけ待って欲しい。いつものかっこいいオレに戻ってから仕切り直しをさせてくれ。
 返事をしないままぐるぐる考え込んでいたら、無言を肯定と受け取ったのか類は勝手にオレのシャツを器用に剥ぎ取り、汚れないようソファの肘掛の端に避けた。
 自分だけ脱いでいる謎の状況に、オレだけ意識してるみたいで、どうしたって置いて行かれた気持ちになって、自業自得なのにまた少しだけ涙が滲む。
 珍しくネガティブな思考に傾きかけた、そんな時だ。類はあろうことか上半身裸のオレのことをぎゅうっと抱きしめた。
 オレの肩と心臓は大袈裟なくらい飛び跳ねて、呼吸の仕方を忘れてしまったように息が詰まった。
「司くん、興奮しちゃったの?」
 あは、かわい。と類が耳元で小さく笑う。
 機械いじりで指先の皮が厚くなった手のひらが、オレの背中をやわやわと撫でた。体温が直に伝わって、撫でられた肌にぞくぞくする。石鹸の良い香りの奥に、いつもの類の匂いが混ざっていて、こいつもうシャワー浴びてたのか、なんて混乱しながらそんな感想が真っ先に浮かんでしまった。
 鼻の奥がまた熱くなった気がして両手で抑えようとしたけれど、類の腕に閉じ込められてて身動きが取れない。
「え、え? え?」
「ね。ちょっと休憩して、それから、どうしたい? 続き、できそう?」
 抱きしめられてるから、 顔は見えないけれど、類の声はこちらの脳が溶けてしまいそうなくらい甘くて柔らかい。てっきり「今日はやめとこうか?」なんて聞かれると思ったのに、何となく前向きな検討を求められてる気がする。多分、恐らく。現状じゃ願望と妄想が混ざったオレの都合の良い幻聴な可能性もあるから確信が持てないが。
 でも、普段人をむやみやたらに急かさない類が、何も答えないオレの首元に上機嫌にキスを落としたり、猫がねだるように忙しなく甘噛みしている。肌に当たる吐息とか、つるりとした歯の感触とか、多分現実で。
「え、っと、」
「うん」
「もう少ししたら、落ち着く、とおもう」
「うん」
「……つ、続き、してくれるのか?」
「えっ、そこから?」
 ぱっと顔を上げた類が、目を大きく見開いて瞬く。
 うーん、そっか。伝わってないのか。え、言うべきなのかなこれは。あー、でも、そうだなあ。とぶつぶつ呟いて類は何やら考え込み始める。
 それからゆっくりと、小さな子供に言い聞かせるようにオレの顔を覗き込む。
「えっとね、司くん。大前提として、僕も君のことを抱けるのずっと楽しみにしてたし、緊張してるんだよ。分かる?」
 いちおう、とオレは顔を赤くして頷く。最初はあっさりしすぎて、どちらかというと性欲よりも好奇心でこの提案に乗ってくれたのかと思ったけれど、類はそこまで不誠実なやつではない。
 緊張してるのは、ちょっと知らなかったが、長い付き合いだ。そういう奴だってことくらい、オレはちゃんと知っている。
「あと今の司くんにちょっと興奮してて」
「いやオレの知らん類出てきたな。タイムだタイム、ちょっと待て」
 前言撤回。すまん分からんどういう感情だそれ。こいつ鼻血出して泣いてる男に興奮するのか。いや例えそうだとして、恥じらいとか、もっとこう、躊躇いとかあるだろ。前々から思ってたが観客相手に語尾がニャンでもやれるこの男に羞恥心、もとい隙はあるんだろうか。
「んー、だってさあ。僕のこといっぱい考えて、ぐちゃぐちゃになっちゃったんだよね?」
 類のあけすけな言い方に、ごちゃごちゃ考えてたものが全部吹き飛んだ。
 オレの首元から顔を離した類と目が合う。
 身を固くしているオレに構わず類はふくふくと笑って、オレの口元をベロリと舐めた。もうすっかり乾いた血の跡に散々キスを落としてから、目の前の男は嬉しそうに目を細める。
「鼻血出して泣いちゃうくらい、期待してくれてたんでしょ」
 開いた口から、ぢう、と舌を吸われて、上顎を器用に舌先で擦られて、また訳が分からなくなる。はふはふと必死に息をしていれば、いつの間にかしっかりソファベッドに押し倒されていて、ぎらぎら色濃い類の瞳と目が合った。
「えっちでかわいいね、司くん」
 ハートマークがつきそうな甘ったるい声でそうささやかれて、えっちなのはお前だと声を大にして言いたかったが、そんなオレの悲鳴は呼吸ごと類に奪われてしまったのだった。

Comments

  • おああ
    April 28, 2025
  • 와후
    October 29, 2024
  • Yukai

    コネライネタ入ってて面白くてすごくキュンとしました🫰❤

    November 19, 2023
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