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【ワンダショ】救世主たち/Novel by 雛鳥

【ワンダショ】救世主たち

11,604 character(s)23 mins

何者かに誘拐されてしまった司くんを、ワンダショのメンバーが救出するお話。
司きゅんがヒロインプリンセスになりすぎたし可哀想になりすぎてしまった。
メインはワンダショですがちょっぴり類司描写があるのと、過度な表現はないですが司がモブレされかける描写があるので、地雷な方は自衛お願いします。
司くん、真っ直ぐで悪を知らなそうだから、知らない人にホイホイついて行っちゃいそう〜〜〜
妹とか他の人には「知らない人にはついていっちゃダメだぞ!」とか言ってそうだし、なんなら怪しい人に対しても「知らない人についてっちゃダメだって言われてるんだ!」とは言いそうなんだけど、「でも今知り合ったよね?だからもう知ってる人だよ」とか言われたら「たしかに…」って納得してついていっちゃいそう〜〜〜〜
類とえむは司セコムであってほしいし、寧々もなんだかんだ司を心配しちゃうんだあ〜いい子だからぁ〜!!
私は類寧々を恋愛として見ることは出来ないのですが、2人の分かりあっている友人、と言った関係がすごく好きです。
司と類が相棒なら、類と寧々はお互いにとっての助言者なんだろうと思います。
えむと類は空気清浄機。
そして私は当然ながら類司が好きですが、えむ司も好きです。
司えむじゃなくてえむ司です。
普段テンションわんだほーい!な小さくて明るくて可愛いフェアリーな女の子が、イケ女お嬢様ムーブをかましてくると、軽率に恋に落ちます。
女の子攻め好きなのでいつか書きたいです。
ご令嬢の玉の輿になる司きゅん……動悸がした。うっ。
ゴマオレという造語にに笑いました。
暇つぶしに絵も描く人なのでTwitter開設しようか迷ってます。
あーあ…類司PUガチャ終わっちまった……………………(燃え尽きたポーズ)

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「やあえむくん、お疲れ様」
「えむ、早いね」
「あっ、寧々ちゃん、類くん!お疲れ様!あれれ、司くんは一緒じゃないの?」

類と寧々がワンダーステージに到着すると、ステージの上で両足を広げて上半身を伸ばすストレッチをしていたえむが立ち上がって2人に近づき、そう聞いた。

「司くんなら、今日は学級委員会の集まりがあって遅れると言っていたよ。だから僕達で先に練習を進めていようか」
「そっかぁ!司くんって学級委員なんだね!」

えむは納得するとまたストレッチを再開し、寧々と類も動きやすい服に着替えにステージ裏の更衣室へ向かい、またいつも通りの練習がスタートした。
この時はまだ、3人は今日もいつも通りだと思っていたのだ。



「なんか司遅くない?」

初めに指摘したのは寧々だった。
午後16時45分、類と寧々がワンダーステージに到着し、練習を始めてから1時間が経過した。
だが、まだ司は現れない。

「うーん、学級委員会って普通どのくらいの時間集まるものなのかな?」

類が聞くと、えむがからりとした様子で答える。

「宮益坂では、委員会活動は大体1時間くらいで終わるよ!だから司くんもそろそろ片付けをしてる頃なんじゃないかなぁ?」
「…ま、集まりなんて1時間くらいが妥当だよね。ちょっと焦りすぎたかも。ごめん」
「ううん!あたしも司くんが来ないと心配になっちゃうから、その気持ちわかるよー!」

だが、10分、20分と経っても、司は一向に現れない。

「…さすがに、まずくない?」
「うん…少し心配だね」
「で、でもでも、もしかしたら委員会がぐぐーんって伸びちゃってるのかも…!」
「そうだといいんだけれど…僕、連絡してみるよ」

さすがに本格的に心配し始めたメンバーを代表して、類が司に電話をかけた。
ただ、呼出音が続くばかりで、全く司は出ない。

「……出ないな」
「携帯、忘れちゃったのかな?」
「いや、昼には持っていた気がする」

類はもう一度かけ直す。
だが、無機質な機械音が、「発信音の後に、伝言をどうぞ」と言うだけで、望んでいる声は聞こえない。

「な、何か、事故に巻き込まれたりしてるんじゃ…」
「えっ、司くんが危険なの!?」

寧々は癖のように両手の指をすり合わせ、不安げに呟いた。
普段は司を冷たくあしらっているが、嫌っている訳では無いのだ。
真っ先に異変に気づいたのも彼女だったように、寧々はワンダーランズショウタイムのメンバーをよく見ているし、大切に思っているので心配している。
そしてそれはえむも同じだった。
寧々と同じくらい仲間が大切で、明るく振舞ってはいるが、心の奥底ではいつまでも現れない司をとても心配しているのである。
類はそんな健気な年下の幼馴染と仲間を安心させるように声をかけた。

「大丈夫、大丈夫だよ、きっと。もう一度、かけてみよう」

類がそう言って着信に手をかけようとすると、えむの付き人の着ぐるみが猛スピードで駆けてきた。

「えむお嬢様、皆様!大変です!」
「え、何かあったの?」
「それが…」

えむが聞くと、着ぐるみは息を整える暇もなく、一息でこう告げた。

「先程、我々に連絡が来たのです。フェニックスワンダーランドショーキャストの天馬司を誘拐した。返して欲しくば、明日の18時までに2億円を用意しろ、と…!」
「に、におく…!?」

全員が、頭から氷水を浴びせられたような気分だった。
頭が真っ白になり、冷や汗が滲む。

「誘拐って…そんなの、犯罪じゃ、」
「明日までに2億円なんて、そんなの…!ど、どうしよう、司くんが、司くんが…!」

明らかに動揺している寧々とえむの横で、類は未だに言葉が発せずにいた。
ーーー司くんが誘拐された?
動揺、焦り、怒り。
あらゆる感情がごちゃ混ぜになり、どうにかなってしまいそうなのを押さえ込み、冷静な頭でようやく口を開いた。

「…司くんは、無事なんですか?どこにいるのかなどは…」
「それが…」

着ぐるみが答えようとすると、プルルル、と着信音が鳴り響く。
類のスマホだった。
そして発信者を見て驚愕する。
自分で設定し直した「司くん」と言う文字が書かれている。

「……!司くん!」
「えっ!?」

えむと寧々が類のスマホに顔を近づける。
着ぐるみは大きさ的に近づけないが、わかりやすく気にしている。
類は猛スピードで緑色の応答ボタンを押すと、全員に聞こえるように音をスピーカーに変更した。

「司くん!司くん!無事かい!?今どこにいるんだ!?」
『………け、……い………、だ』

ノイズが混じっていて、司の声がよく聞こえない。

「聞こえないよ、司くん!」

えむがそう叫ぶと、今度はもっと明瞭に司の声が聞こえるようになった。だが、普段のような元気さは見えない。

『…落ち着け、オレは大丈夫だ、ここは…』

司が居場所を伝えようとした途端、ガンッ!と壁を勢いよく蹴りつけるような音と、早口とノイズで聞き取れない罵声、それからひっ、と小さく司が怯える声が聞こえた。
司は実は無事なんじゃないか、という希望が打ち砕かれた瞬間であった。

『……ぅ、悪、い、ここがどこかは言えない、…っ、だが、オレは無事だから、…』
「司くん…?司くん、司くん!!」
「司!!司!」

消え入るような司の声は、そのまま止まった。類と寧々が必死に呼ぶが、もう声は聞こえない。その代わり、今度はボイスチェンジャーを使っているのであろう、極端に低い声が響いた。

『と、まあこの通り、天馬司はこちらが預かってるから。生きてるのは確認できた?でももし明日までにお金、届けてくれなかったら、どうなっちゃうのかな…想像できるよね、ショーキャストの皆さんなら』
「…………っ!!!」

声を変えていてもわかる、こちらを嘲笑うかのような声色。
初めから金が目的ではないのかもしれない、と類は瞬時に悟った。
自分たちが動揺し、犯人たちの掌の上で転がされるような様子に楽しさを覚えているのだ。
それがわかった途端、行き場のない怒りが腹の中で燻り、爆発寸前なのが自分でもわかった。
ただ、ここで感情に任せてはいけない。
類はあくまで落ち着いた様子を繕い、返事をした。

「…金の件は聞いたよ。明日の時間も。ただ、どこで取引をするかは聞いていない」
『話がわかる人がいて助かるよ。まあ、大方あの背の高い男の人なんだろうけど。まあいいや。取引だけど、素性を知られるわけには行かないからね。振込にしてもらうよ』
「待て、それでは司くんの身元が確認できない。対面の取引でなくては対等じゃないだろう」
『天馬司は返すよ。金が確認出来ればの話だけど。まあ、それだけだから。天馬司の安全も確認できたんだし、これ以上のサービスはいらないよね?それじゃあ。せいぜい金を用意して、見世物の練習、頑張ってよ』

犯人はそう言うと、類の返事も聞かずに着信を切った。
類、寧々、えむは暫く呆然と立っていた。
あまりに非現実的な話だが、明らかに現実なのだ。
司はここにおらず、何者かに拐われて軟禁されている。相手の素性も場所もわからない。
お手上げ状態だ。
……………普通の人達ならば。

「…ねえ、× ×」

えむは、着ぐるみの中の人の名前なのであろう名を呼んだ。えむからは想像できない、静かで落ち着いた声であった。
えむは着ぐるみに近づくと、ひそひそと何かを話してから、体を離した。

「………お願い」
「了解致しました。お嬢様のお申し付けならば、なんなりと」

着ぐるみはそう言うと、えむ達の前から走って去っていった。

「えむ、今、何を話してたの…?まさか、お金の話じゃ…」

えむの家は鳳財閥。
飛び上がるほどの大富豪である。
その為、寧々は彼女が大金を用意したのではないかと焦っているのだった。
だが、それは杞憂であったらしい。

「ううん、お金の話はしてないよ。お願いをしたんだ。司くんがどこにいるのか調べて欲しいなー、って」
「調べるって…でも、司のスマホ、GPS切られてたんだよ」
「大丈夫、着ぐるみさん達なら、すぐになんとかしてくれるよ」

えむは寧々の両手を優しく握りしめて、しっかりと目を見てそう言った。
それからちらりと横目で類を見て、えむはまふゆを前にしたような、背筋が寒くなるような感覚にびくりと震えた。
ただ、すぐに類の気持ちを理解して、寧々の手を離してから俯いた。

(類くん、すっごく怒ってるみたい…そうだよね、あたしだって、司くんがこんなに酷い目にあってて、すごく苦しくて、悲しいもん…)

寧々も全く同じことを考えていた。
その日、えむ達は練習を中断して、そのまま解散した。否…せざるを得なかった。


「………ぅ…っ」

ぐわんと痛む頭に鞭打つように、司は目を覚ました。
何故自分はこんな所にいるのか。
司は、未だに覚醒しきれぬ頭で、つい先程までの記憶を整理してみることにした。

(委員会が終わって、学校を出て…そうだ、倒れているご老人が居るから助けるのを手伝って欲しい、と手を引かれて……でもそこにご老人なんていなくて、それから…)

そこまで思い出してから、司は体の節々や顔、腹部に走る痛みに顔を歪めた。
そこで紛れもなく、自分は誘拐されたのだと確信した。
力の抜けた両手は、頭の上で手首を合わせて手錠で固定され、両足を伸ばして柱に寄りかかっている司は、殴られ蹴られ、ぐったりとしていた。
拐われた際に嗅がされたのであろう薬品によって、未だ少し頭もふわふわしている。
だがここはどこなのだろうと、司は必死に脳を働かせた。
見た感じはどこかの倉庫のようだが、自然の音などが何も聞こえず、不安が募っていく。
つかの間、ガラガラと倉庫の扉が開き、眩しい外の夕日が司の目を眩ませた。
黒いシルエットのように扉から司の方へ歩いてくる複数人の男たちは、紛れもなく司を拐かした犯人達だった。

「あ、目覚ました?早かったね」
「……お、前達は誰だ、なんでこんなこと、」

司が恐怖で震える声でそう言うと、主犯格なのであろう男が、司の前でしゃがみこみ、司の顎を掴んで顔を上げさせ、舐め回すように司の顔を見た。

「………ひっ、何、を」
「やっぱかわいー顔してるよね、天馬司クン。遠巻きから見て女の子のキャストに交じってても違和感ないと思ってたけど、こんな近くで見てもこんな整ってるとはね。肌も真っ白ですべすべだし。若いっていいねぇ」
「…っ、さわ、るな」

必死に抵抗するが、体が痛むのでどうも大きく動けない。
男は司から離れると、無造作にスマホを取り出して放り投げた。
司のスマホだ。

「ちょっとだけなら電話してもいいよ。仲間のみんなに」
「……え」

司は直ぐにスマホを取って電話したかったが、何せ両手は拘束されている。
男はそれに気づくと、また司のスマホを取上げ、パスワード画面を司に突きつけた。

「パスワードは?」
「他人に教える訳には、」
「なら仲間と話さなくていいんだね」
「ぁッ、待ってくれ、言う、言うから!……509517…だ」
「どんな意味かは分からないけど、ふーん。…ハイ、なんか履歴的に仲間っぽいからこいつにかけてあげたよ」

スピーカーにして渡されたスマホからは、1コール以内に類の声がした。
その声だけで安心し、司は泣きそうになったのを必死に堪えた。

『司くん!司くん!無事かい!?今どこにいるんだ!?』
「類…っ!…オレは、…大丈…」
『聞こえないよ、司くん!』

えむの泣きそうな声と、小さく司の名を呼び続ける寧々の声も聞こえる。
今度はハッキリと、正確に言葉を紡いだ。

「…落ち着け、オレは大丈夫だ、ここは…」

せめてこの倉庫のことを伝えられないものか、と司が言葉を考えあぐねる隙も与えないように、立っていた男が司の顔の真横を思い切り蹴りつけた。

「…ひっ…!」

音が反響する倉庫の中に、壁を蹴った衝撃と驚くほど大きな音が鳴り響く。

(ここのこと、言える立場だと思ってる?)

主犯格の男に耳元でそう囁かれ、司はごくりと生唾を飲んだ。
…自分は殺されてしまうのではないか。
あまりの恐怖に、意識を失ってしまいそうだった。

「……ぅ、悪、い、ここがどこかは言えない、…っ、だが、オレは無事だから、…」

絞り出した声で精一杯話すと、男は時間切れ、と言ってスマホを取り上げてしまった。
類達と何か話しているようだが、恐怖に支配された司には、話している内容は認識できなかった。
男は類との電話を終えると、司のスマホを司の方へまた放り投げた。
画面は割れていないようだが、親から貰った大事なスマホをこんなに雑に扱われると、司も気が気でない。

「さて、彼らはどう動くんだろうね。面白いなあ、このままワンダーステージでは永遠にショーが出来なくなったりして…?」
「………っ!」

それだけは絶対に駄目だ、と司は叫びたかった。
だが、言葉は空気に溶け、発することはできなかった。司は、自分はこんなにも恐怖に弱かったのか、と自分自身を殴りたくなる。

「まあ、せいぜい仲間を信じてみなよ。なーんて、夢物語だと思うけどね?」



家に帰る途中も、家に帰ってからも、類は怒りを通り越して虚無感に襲われていた。
自分は何をすべきか。
司を無事に救出するには、どうするのが得策か。
ひたすら、そればかりを考えていた。
夕飯の時も入浴の時も虚ろで、両親から心配されたことすら気づかず、ふらふらと自室として宛てがわれているガレージへ向かった。
ふと、玄関先に寧々が立っているのが見えた。

「……寧々」
「あ、類。そろそろ来ると思ってた」

何やっているんだ、女の子がこんな夜ふけに危ないじゃないか…類はそう声を掛けてやりたかったが、寧々が己に向ける真剣な眼差しに、その言葉は飲み込むだけの形となった。

「ねえ、司のことなんだけど…」
「…うん」

類の返事を聞くや否や、寧々は小さな旧型のスマホを類の目元へ突き出した。

「見て」
「これは………掲示板かい?」
「帰ってきてからずっと調べてたら、見つけた。かなりパスとか面倒臭かったけど、色々いじったら通れたの。もちろん匿名で、これ昔使ってた携帯だから、安全は平気。…割と深い方のウェブにある裏掲示板なんだけど…これ、絶対に司のことだと思う」

寧々に見せられた掲示板には、こう書かれていた。

『057:名無しさん1
とある遊園地でショーやってる高校生くらいの男の子誘拐したんだけど、何かやって欲しいことある?』
『058:名無しさん2
前に話してた遊園地でしゃしゃってるガキ達の話?お前まじかよwww』
『059:名無しさん3
男って二人いたよな?背高い方と低い方どっち?』
『060:名無しさん1
そりゃあ低い方に決まってるだろ。童顔で可愛いし、こいつなら犯れるかもwww』
『061:名無しさん4
へー、それ俺も気になる。ヤるなら実況宜しく』

見るだけで吐き気を覚えるスレッドをスクロールしていく。

『074:名無しさん2
というか、誘拐したってどこにだよw今どき倉庫とか言わねーよな?www』
『075:名無しさん1
それが倉庫なんだよなwあ、なんならみんなも来る?ww殴んのもいいんだけどさ、輪姦しちまうのも楽しいかなーって』
『076:名無しさん3
マジ!?俺ホモじゃねーけどあのガキなら溜め込んでたの発散するくらいなら丁度いいわ。女だとめんどいしなw場所は?』
『077:名無しさん1
……市の…の辺りに……製造工場あるだろ?川沿いの。そこの空き倉庫にさ……』

殺してやりたい。
類は目の中に炎が点った気がした。

「もういいよ、寧々。ありがとう」

怒りに震える声を押さえ込み、寧々にスマホを返す。
それにしても、よくこんな掲示板を見つけたものだ。

「これのスクショをえむに送ったの。そうしたら、着ぐるみの人たちが、完璧に場所を特定したみたい。犯人は明日の取引の時間が一番油断するはずだから、そこで乗り込むって」
「…そっか」

類は、このまま司を着ぐるみの人達に任せたくなかった。
自分の手で、この忌々しい犯人を殺して…否、死より苦しい目に遭わせてやりたかった。
これだけヒントがあれば、自分でも司の監禁されている場所は特定出来る。
今すぐ乗り込んでやりたかった。
だが、その考えを見過ごす程、類の幼馴染は鈍感ではなかった。

「類」
「…ん、なんだい、寧々」
「何考えてるかだいたい想像つくから、当ててあげようか。今から行くつもりでしょ」
「……どうしてそう思ったのかな?僕はもう部屋着だし、それに…」
「目。類、突拍子もないことする前は、絶対にその目の色になるから」

怪しいロボットや発明品を作る時も。
ショーが始まる前の時間も。
ハロウィンショーを計画して、司が怪我をした時も。
類の金の目に炎が点ったように怪しく光る。
寧々はそれをよくわかっていた。
いや、きっとえむにも司にもわかっている。
だが、それを指摘してやれるのは、今は寧々しかいなかった。

「…それで、寧々は僕を止める?」
「……類はどう思う?」
「僕が知っている寧々は、きっと止めるだろうね」

寧々は一瞬小さく顔を顰めた。
だが類はすぐに言葉を重ねた。

「でも今の寧々は…違うだろう?」
「………どうしてそう思う?」

今日の寧々は、やけに質問をしてくるな…と類は思ったが、類は湧き上がっていた様々な感情が落ち着いていっていると感じていた。
熱く煮えたぎっていた感情に、ゆっくりと気持ちのいい冷水がかけられているような、そんな気分だった。

「寧々は、ワンダーステージでショーをして、変わったよ。まだネネロボがいるとはいえ、人前で歌えるし、踊れるようになってきている。それに、とても日々楽しそうだ」
「…うん」
「寧々はえむくんのことも、司くんのことも大切なんだろう。それは僕も同じだよ。僕達は互いにどこか孤独だったのに、今は司くんとえむくんのおかげで、こんなに居心地のいい居場所を知ってしまった…もう、離れられそうにない」
「うん…」
「それは寧々も同じだろう。だから僕は、今の寧々は僕を止めないと思った。そして僕も言い返すとしたら、僕も寧々を止めないよ」

そう言い切って微笑むと、寧々は類を見て大き頷いた。その顔は心做しか自信に満ち溢れた笑顔で。

「そして私達は、えむを止められない。そうでしょ」
「ああ。その通りだ」

類と寧々は頷き合うと、一緒にフェニックスワンダーランドへ駆け出していた。
共に戦うお嬢様を迎えに。



「………、っ」
「おーい、もうトんじゃった?」

男はそう言いながら、ぺちぺち、と司の頬を叩く。
司は虚ろな瞳をしていた。
何なのか想像したくもない白濁液にまみれる自身のはだけた制服を見下ろして、買い換えなくてはな、と思う程には、精神が崩れ始めていた。
何人もの男達に蹂躙され、司はもう希望をなくしかけていた。

(ミク、カイト、悪い…そっちのセカイにも、きっと影響してる、よな…)

スマホがないためuntiledも押せず、セカイに逃げることも出来ない。
司は、薄い意識で、セカイの住人に謝った。

「さてと、んじゃそろそろ本番…」

嗚呼、一番来て欲しくない時間が来てしまった。男の声を聞いて、司はそう考えた。
男としての尊厳を無くしてしまいそうな、卑しく下劣な行為。
正にそれを体験しそうになっている司は、抵抗する気すら失っていた。
せめて1日だ。1日我慢すれば、きっと類達が助けに来てくれる。
その願いに縋らないと、司の精神の糸はプツリと切れてしまいそうだったのだ。

「はーい、司くん、良い子だから力抜いててね」

制服のスラックスのベルトに手をかけられたところで、ゴンゴン、と倉庫にノックの音が響いた。
酷く荒々しいノックである。
もしかして。
もしかして、類達なのか?
早く、助けに来てくれたのか?
司はそんなわずかな期待に縋りたかった。
芥川龍之介の蜘蛛の糸のように、少しでも力を入れればちぎれてしまいそうな糸を、司は掴む直前だった。

「…チッ、これからだってのに。誰だよ…。おいお前ら、開けてこい」

命令された男が数名、倉庫の扉を開けた。
夜でも、外の光はわかりやすく司の目に映る。
希望の光を掴もうと、司は心の中で呟いた。
待ってた、類、寧々、えむ……。


「おっ、やっぱりここで合ってた。いやー、まさかホントに拐ってるとは思わんよなぁ」
「すっげ。本物のガキじゃん」
「あっ、本当にスレ見て来たんすか?うわーまじか。これからちょうどやっちまおうと思ってたとこっすよ。タイミングいいっすね」



これ以上の絶望があるだろうか?
司の目が、暗く澱んでいく。


自我が壊れて、
壊れそうで、

類、??っ?、……??で…
寧々、???、えむ??た?…?、
???????????????????????


たすけて。





「うんうん、本当に最高のタイミングだね」


聞き間違えるはずなどなかった。
それは、紛れもなく、


「まさか…こんなにわかりやすくたむろってるなんて思わなかった」


大切で、離れたくなくて、


「あーっ!司くん、いた!!良かった、無事だよお!!」


愛している仲間たちの声だ。



「……る、……い、…っねね、、ぁ、え…む……」
「な、お前ら、どうして場所……っ!」

主犯の男は、明らかに動揺している。
その仲間も、掲示板に誘われて後からやってきた男たちも、みな同じ反応をしていた。

「ネットの使い方もわからないような奴らって、ネットやる資格ないよね」

寧々はそう言うと、持っていた旧式のスマホを男達へ投げ捨てた。
すぐさまそれを拾う主犯の男を、寧々は心底軽蔑するように見下ろしている。

「掲示板………!?おかしい、専用のソフトウェアと、大量のパスワードが必要なはず…!」

寧々は男の言葉など無視して、ため息をついただけだった。

「ねえねえ、とにかく早く、司くんを助けてあげようよ!痛そうだよ…!」

えむがそう叫ぶと、いつの間にか倉庫の外に潜伏していたSPのような黒服の群れが、一斉に倉庫へ拳銃を向けた。

「ひっ…銃…!?」
「ま、まずい、逃げ場が…!」

男達は逃げ場も無く、ただ固まっていた。
類が、靴音を鳴らして倉庫の中へ歩み寄る。

「さてと…司くんをこんな目に遭わせた奴らを、僕はどうしてやるべきなのかな」

男達は一斉に類を見る。
誰もが、ひゅっと息を飲み、尻込みした。
まるで、百獣の王を前にした小動物のような気分だ。
類の金色の目は、夜の倉庫の闇の中で、怒りに燃えて激しく光っていた。

「…ち、違う!俺はあくまで、ネット見て来ただけで、まだ何も…うぐぅっ!!」

必死に弁解しようとした男の脇腹に、類は無言で蹴りを入れた。鳩尾にヒットしたのか、苦しそうにのたうち回っている。

「……うるせぇよ、クズが。ここにいる時点で、お前も共犯なんだよ」

かなり小さな声で呟いた類の声は、誰の耳にも入っていなかったが、自身の纏う殺気を更に向上させたのは明らかだった。
SPが次々と主犯の仲間を取り押さえ、類は主犯の男と2人で対峙する事となった。

「…く、くく、高坊のガキ共が…舐めやがって…」
「…はぁ。僕はここまで馬鹿な男にはなりたくないかな。もう負けは決まってるのに」

類は主犯の男に近づくと、風のような速度で、容赦なく男の前髪を掴み、地面に押し倒した。グシャリといやな音が聞こえ、えむは小さく耳を塞いだが、類がそうしている間に寧々が司の元へ駆け寄ったのを見て、えむもすぐに走り寄った。

「司!しっかりして…!!」
「司くん!!司くん!!」
「寧々、え、む…ごめ、ん…な…」

司はそう呟くと、意識を手放してしまった。

「ホント…馬鹿…っ!なんであんたが謝るのよ…!」

複雑な仕組みの手錠は、えむのSPが力任せにこじあけた。
司の手首は赤く腫れ上がっていて、見ていて痛ましい。
他にも、ぐちゃぐちゃになった髪や服は、目も当てられない。
司をSPが持ってきた毛布に包み、寧々とえむは倉庫を後にした。
類がどこまでやるか、寧々にもえむにも想像はつかなかったが、もう止めようとは思わなかった。
きっと、彼は犯罪は侵さないと信じていたからである。

「…さてと。お姫様は無事救出させてもらったことだし、後はどうしようが僕の勝手だよね?」

類は、うつ伏せに倒した男の腕を背中側に無理やり捻じ曲げる。
男は腕の痛みに悶えているが、長身の類に乗り上げられているせいで、思ったように身動きがとれない。
そんな男の様子を他所に、類は耳元で囁いた。

「……俺の仲間に手を出したこと、死ぬまで後悔させてやるよ」

それから、男がどうなったのか。
それは、真っ赤に見えた空の満月と、類のみが知っている。

Comments

  • March 25, 2025
  • 焼きそば@永久スランプ中

    ( ^o^)<うわぁぁあ!面白かった、好きです!

    April 6, 2023
  • ぐぁあっ!好きすぎる…

    August 18, 2022
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