恋の応援1・2・3!
好きな相手である類に「君の恋を応援している」と言われてしまった司の話。
ギャグです。暴走する司とそれに振り回される類の構図が好きで…。
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「好きな人がいる」
から、すまない。気持ちは嬉しかった、ありがとう。
そう、きっちりはっきり伝えると、目の前の緊張しきっていた少女は力が抜けたように肩を落とした。きっと……いや、十中八九悲しませてしまっただろう。
そう思って、いつの間にか俯いていた顔を上げて彼女の表情を伺うと、予想と違う、思いの外すっきりとした顔をしていた。
「天馬くん、真剣に聴いてくれてありがとう。天馬くんが好きな人とうまくいくように、応援してるね」
少し目を潤ませて、でも花が綻ぶようなきれいな笑みを浮かべて。
――応援してる、か。
少女の言葉に胸の奥がじんわりと温かくなる。告白を断られて悲しいだろうに、相手を思いやる言葉をくれた。優しい子なんだな。
ひゅうと爽やかな風が屋上に吹きつける。空は綺麗な真っ青で、雲一つない。
それじゃあ、と別れを告げて去って行く少女。ぼんやりと見送るオレ。そんな告白劇を図らずも目撃した人物がいたのだった。
☆
「……司くん、好きな人がいるの」
ワンダーステージでの練習後、更衣室で二人きりになったタイミングで類が口を開いた。目を伏せて、こちらに顔も向けず、ワイシャツのボタンを留めながら。
はて?
今の今までショーの話ばかりしていて、ちょっと沈黙があったと思った矢先の話題がこれ。
予想だにしていなかった質問にオレが固まっていると、隣にいた類はバツの悪そうな顔で謝った。
「いや、ごめん。聞く気はなかったんだけど、昼休みの、偶然聞いてしまって」
ごめん、ともう一度謝って黙々とボタンを閉めていく。と思いきや、かけ間違えてもう一度やり直している。
――類の言う昼休みの、というのは大いに心当たりがある。今朝登校した際、下駄箱の靴の上にちょこんと乗っかっていた手紙。すわ、ファンレターか! と勢い込んで読んだものの、実際は昼休みの屋上への招待状だった。そして、告白。まあ大きなくくりで言えばラブレターもファンレターの一種だろう。好意であれば嬉しいことに変わりはない。
しかし類に見られていたとは思わなかった。そういえばいつも屋上で一緒にランチを取っていたのに、今日は来なかったな。一人ランチの気分だったんだろう、と単純に思ったのだが、そうか。
それよりも今の類だ。ようやくボタンを留め終えて今度はのろのろとネクタイを締めている。何度もノットを整える動き。お前、いつもはもっと適当だろうが。というかいい加減オレの目を見て話せ。
「別に聞かれても問題ない。告白はされたし、好きな人がいると言って断った」
「…………そう」
無言。締められたネクタイを指先でずっといじっている。
自分から話を切り出したから恋バナでもしたかったのかと思いきや、どうやら違うらしい。複雑な類心というやつだ。背中も丸まって、どこかしょぼくれている。
さてどうしたものか、と横顔を見つめていると、ぐっと唇を引き結んだ類がゆるゆると顔を上げ、オレの方を向いた。いつもより色の薄い瞳が、てらりと照明を反射している。
「……応援してるよ」
「うん?」
「司くんが、好きな子と、上手くいくように」
にこっと笑って細まる目。下がり気味の眉。スッと背筋を伸ばせばいつも通りだ。さっきまでの動揺は何だったのか。
……とは言えオレの気分は高揚していく。何せ、何せだ。
「ふっふっふ……。もちろんオレは恋にも全力を尽くす男だから、想い人と結ばれるよう努力するのは当たり前だ。それはそうと類の応援があれば百人力! ハーッハッハッハッハ!」
「うん……頑張ってね」
「もちろんだ、ありがとう!」
「うん……うん……」
壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す類と高笑いを続けるオレ。更衣室から出てこないオレ達を心配して様子を見に来た寧々は、至極面倒そうな顔をしながらえむの手を引いて出て行った。
☆
――そう、オレ、天馬司の好きな子とはズバリ、神代類である! ライクも大いにあるが、ここで言うのはラブの方だ。
そんなオレの恋を恋する相手に応援された。しかもオレの恋の成就を願っている。
これって――もはや、恋人になる未来が確約されているじゃないか!
好きな相手である類が協力してくれれば叶ったも同然。類はオレの恋が実ってハッピー、オレは類と恋人になれてハッピー。なかなか素晴らしい方程式だ。
思い立ったら即実行、がオレの長所でもある。早速ロッカーに左手をあずけてかっこいいポーズを取り、一番決まった角度で類を見たというのに。
やっぱり……何か、落ち込んでいる。
類はまたもや肩を丸めて閉じたばかりのロッカーを睨んでいる。具合でも悪いのだろうか。
「類、気分が優れないのか?」
「いや……うん、そうかも……」
「何!? ならば早く家に帰るぞ!」
先ほどえむ(と着ぐるみ)が寧々を車で送ってくれたのだが、一緒に頼めばよかったか。というかこいつ、自分の不調を隠すのはやめろと散々言っているのに。
急いで荷物をまとめてパッと類の手首を掴む。「司くん?」なんて戸惑った声が聞こえたが一切無視して更衣室を出た。類が道中で倒れたりしないよう、丁寧にエスコートせねばならない。
握られた手をぼんやりとした目で見ていた類は、むにゃむにゃわからないことを言っていたが……よほど具合が悪かったのだろう。無茶をする奴め。
☆
さて、昨日は類を送るのに必死で機を逃してしまったが、恋人になるにはやはり告白である。
ここでミソなのが、類はオレのことをまだ好きじゃないってことだ。そういう意味で。もちろんワンダーランズ×ショウタイムの座長と演出家として信頼し合っている自信はある。一番仲がいい友人だという自負もある。でもこればっかりは――恋愛は違うだろう。
今の状態で告白したとしても混乱するのは必至だ。そう考えると昨日は勢い余って告白しなくてよかったのかもしれない……具合を悪くした類には悪いけどな。
要はすんなりとオッケーを言えるような雰囲気作りが大事である。よし、ドキドキさせまくってやろう。
昼休みのチャイムが鳴ると同時、隣のクラスに突撃すると、類は自分の席に座ったままぼんやりと前を向いていた。機械をいじってないのは偉いが、教科書も出していないじゃないか。
「類、ランチに行くぞ!」
「……司くん? あれ、もう昼休み?」
「寝ぼけているのか? ……はっ。もしやまだ具合が悪いんじゃ……」
「いや、大丈夫だよ。少し寝不足なだけだから、早く行こう」
ぼんやりしていたのが嘘のように機敏に立ち上がると、机の脇に掛けていたビニール袋を手に取ってオレの背中を押す。と思いきや、すぐに手を離して「ごめん」なんて言う。一体どうしたんだ。
挙動不審な動きをした類は、「何でもないよ」と言いながらスタスタと前を歩いていった。やはりまだ調子が良くないのかもしれない。
類の体調にすぐ気づけるよう、よくよく観察しておこう、と思いながらオレも類の後を追いかけて屋上を目指した。
神山高校の屋上は基本的に立入自由で誰でも利用できる。が、ここの所オレと類が入り浸っているせいか、他の生徒の影は見えない。元より変人かカップルくらいにしか使用されていなかった空間だが、今やオレ達の貸し切り状態である。
いつも通りの定位置に座ってひとまずランチだ。隣からガサガサと袋を漁る音がする。菓子パンか……ゼリー飲料よりマシだな。野菜を食べるのは端から期待していない。
もそもそとパンを口に運ぶ様子は、やはり元気が無さそうだ。ちまっと齧りついてはごくり。寧々の一口より小さいじゃないか、食欲が無いのか?
「……司くん、見られると食べにくいんだけど」
「お前が食べないからだろうが!」
「ええ……そんな理不尽なことある?」
「食が進んでいないから、具合が悪いのかと思ってだな。本当に無理していないのか?」
「ああ……そっか、ごめんね」
そう言って、また深くため息。謝ってほしいわけではないし、体調が悪いせいでもないなら、何か悩み事でもあるのだろうか。オレに解決できることなら、どーんと相談してほしい。相談してほしいから、些細な事も見逃さないようにまじまじと見つめる。
類はあーとかうーとか唸った後、観念したように声を絞り出した。
「ええと、司くんの恋模様は順調かい?」
「お、おお!? 絶賛アタック中だぞ! 何だ、オレのことが気になっていたのか」
「気になる……まあ、ある意味」
「ふむ」
類はオレの恋を応援してくれると言っていたし、余程気になっていたのだろう。意外に恋バナが好きなんだな。
だがこれはオレにとっても大チャンス。この恋バナのビッグウェーブに乗って類の情報を聞き出すのだ!
「ちなみに類はどんな人がタイプなんだ?」
「……いや、僕のことは別に」
「いいから話してみろ!」
「はあ……」
しばらく躊躇った後、諦めたように口を開く。
「……笑顔がかわいくて、いつでも真っ直ぐで、心に強い芯の通った、ショーの大好きな人」
一言一言、オレの目をじっと見ながら、言葉を紡ぐ。少し低めの、甘い声で。
カーッと体の中が熱くなる。だって、だってだ。
――オレじゃないか!
類の好み、イズ、オレ!! 参ったな、オレが完璧すぎる。努力せずとも理想の恋人像に合致してしまった。笑いを堪えるのが難しい。
「むふふ……」
「……ご機嫌だねえ。何となく正しく伝わっていないのはわかるよ」
おっと、にやつきが漏れてしまった。頬をきゅっと指で押さえて角度調整をする。類の前ではいつでもかっこいいオレでいたいからな。
それにしても……類は好きなタイプを言うだけであんなに情熱的な声を出すのか。あれ、ちょっと良くないというか、その気の無い相手だって意識してしまうんじゃないか? その気のあるオレが相手で良かったものの。
オレがふむふむと頷いていると、類は少し目を細めて、にっこりと笑顔を浮かべた。
「ちなみに司くんの好きなタイプはどんな人なんだい?」
「オレか! オレのタイプは、笑顔がかわいくて、自分の好きなものには一直線で、ショーが大好きな人だ!」
類に話を振られて思わずしゃべってしまったが、本人を前にして好きなところを並べるというのは、流石に恥ずかしいな。照れくさくて体がもぞもぞしてしまう。
しかし今日はいい収穫が得られた。これからは類の好みを全プッシュした天馬司でアピールを仕掛けよう。ドキドキさせまくった暁には、オレの華麗なる告白にも二つ返事で了承するはず……ふふふ。
などと輝かしい未来を想像していたオレは、横で類が難しい顔をしていたことなど、さっぱり気づいていなかったのだった。
☆
翌日の登校時。道行く友たちと挨拶を交わしながら昇降口へ向かうと、背中を丸め、上履きに履き替えている長身が目に入った。類だ。
「おはよう、類!」
ショーで培われたよく通る声で朝の挨拶をすると、顔を上げた類とばっちり目が合う。どうだ、お前の好きなかわいい笑顔だぞ! おまけにウインクだっ。
パチコンっとスターウインクを飛ばすと、類は眉を寄せつつ口元を緩ませるという何とも形容し難い顔をした。これは……いいのか悪いのか評価がしづらいな。
「おはよう司くん」
返ってきた声にも覇気がない。流石にまだオレのことは好きにならないか。でも元気になってもいいと思うぞ、この天馬司だぞ?
「今日もあまり元気が無さそうだな」
「……ちょっと寝不足でね」
「またか。前々から言っているが、体調管理は大切だぞ」
「うん……」
類は素直に返事をするものの、肩を竦めている。以前寝つきが悪くて眠りも浅いのだと零していたし、本人の意思ではどうにもならない所もあるのだろう。
だがこのまま見過ごすこともできない。何かオレにできることはないだろうか……。
「そうだ、今度寝落ち通話をしてみるか!」
「寝落ち通話?」
「咲希達がよくやっているらしい。友人と通話しながら寝るんだ。安心できてぐっすり爽快だと言っていたぞ」
「うーん……遠慮しておくよ」
「そ、そうか」
ぬぐぐ……甘い声でおやすみ大作戦は失敗か。いや、こういう下心が滲み出てしまったのかもしれない。反省しよう。
がっくりと肩を落としたオレを見かねたのか、類が頭をかきながら唸る。
「ええと……そう、司くんと通話したら眠気が吹き飛んでしまうよ。きっと僕ら、ショーの話ばかりしてしまうからね」
「む。そう言われると否定できないな……」
「フフ、それも楽しそうだけどね」
類はそう言って徐に腕を上げ――慰めようとでも思ったのか、自然な仕草でオレの髪を耳にかける。ひんやりした指先が皮膚の上をくすぐって、思わず首を竦めてしまった。そんなオレを見ている類の、柔らかな視線。
(う、うう~~っ)
この、この男の、こういうところが良くない、と思う。何てことない顔で触れてくるから、不意打ちを受ける方はたまったもんじゃない。
類は懐かない猫みたいな男かと思いきや、けっこう距離が近いし、スキンシップも躊躇わない。昨日の発言然り、勘違いする奴がいたらどうするつもりなんだ。顔もスタイルもいいから、将来は絶対に女性を泣かせまくるだろう。そうならないよう、未来のスターが手綱を握る必要があるのではないだろうか!
今決めた正当な理論に則り、頭なでなでに移行していた類の右手を両手で捕まえる。そのまま己の頬へと手を滑らせて、えーと……そう、か、かわいい笑顔をくらえ!
「つ、司くん?」
ニコッと笑ったつもりだったが、照れが混じって変な顔になってしまったかもしれない。天馬司、不覚である。頬がじわじわと熱を持っていくのが自分でもわかって、八つ当たりの様に類の手の平を押し当てた。低い体温が火照った頬にちょうどいい。オレよりも少し大きくて、かさついた指先。
ドキドキしながら見上げると、頬を赤く染めた類が。
(お、おお……?)
もしかして――もしかしなくとも、効果覿面なのではないだろうか。ま、まあ未来のスターの笑顔だしな、当然だよな?
などと思いつつも、類の赤面がうつったようにオレの体温もますます上昇していく。バクバクと鳴る心臓を抱えながら、見つめ合ってしばし。
「ワンツー邪魔~」
「公衆の場で不健全なことしないでくださーい」
「どわーーー!?」
どやどやと割り込んできたクラスメイト達にびっくりして、比喩じゃなく跳び上がってしまった。そんなオレを笑いながら「おはよー」と交わされる挨拶へ反射的に返す。皆がバタバタと靴を履き替える様子を見て、ようやくここが昇降口だったことを思い出した。
「き、ききき、教室へ向かわねばな!」
「えっと、うん、そうだね」
「ハッハッハ! 今日も素晴らしい朝だなー!」
誤魔化すように声を張り上げ、さっさと自分も靴を履き替える。俯きながら頬をぺちぺち叩いて温度を確認。よし、少しは赤さがマシになってるはず。
類の方はといえば、いつも通りの柔和な表情に戻ってしまっていた。さっきまで動揺していたのが嘘みたいだ。照れ顔なんて珍しいから、ちゃんと目に焼き付けておくべきだったかもしれない。
二人連れ立って教室へと向かうオレの脳内を占めるのは、いかに類をドキドキさせるかという難題だ。さっきは惜しかった。オレの方はこいつの無自覚な接触にいつもドキドキさせられているのだが……恋愛の駆け引きと言うのは難しい。
とりあえず効果のあった“かわいい笑顔”で隣を歩く類を見上げると、何故か大げさなため息をついた後、頬をむにっと掴まれてしまった。
ほい、いひゃいからやめろ。
☆
その日の練習終わり、更衣室で着替えていた時のことである。
「司くんは、その、好きな子に告白はしないのかい?」
「こ……!」
唐突な一言にオレの体は硬直してしまった。こ、こ、告白。
脈絡の無い、急な発言である。そりゃあ驚きもする。
『こ』の形のまま固まってしまった口を指して、「ニワトリみたいだよ」と類が笑った。ええい、顎を撫でるな。
「す、するぞ! するが……タイミングというものがあるだろう。せっかくならロマンチックに決めたいからな」
「ふうん……ちなみに相手の子は司くんのことが好きなのかな」
「好き……かどうかはわからんが、友人として好意はあると思うぞ」
この友人としての“ライク”をどうやって“ラブ”に変えようか、というのが悩ましい所である。元々好みのタイプには合致しているようだし、ひたすらアタックするしかない。この間だっていい雰囲気になりかけたのだから、勝機はある。念波でオレのラブがうつったりしないだろうか。
目に力を込めて類を見つめていたのだが、当の本人は下を向いて気づく様子が無い。
「……きっと司くんならオーケーされるよ。僕が保証する」
「ほ、本当か!」
俯いたままぽつりと発された類の言葉に、リーンゴーンと脳内で鐘の音が鳴った。これ即ち、類と付き合えることを類が保証してくれるということ! ますます手応えを感じてきた。
むふーっと荒くなりそうな鼻息を抑えつつ、どうやって告白しようかを考える。類はどんな時にドキドキするんだろう。どうせならかっこよく決めて、記憶に残る最高の告白がいい。
「ちなみに類が告白されるならどんなシチュエーションがいいと思う?」
「僕……僕は好きな人だったらどんな状況でも嬉しいと思うけれど……。物語なら、デート後とかが鉄板だよね」
「なるほど」
デート、デートか……。いつもと違うシチュエーションと言うのはドキドキしやすいかもしれない。オレのかっこよさが大爆発して、類もメロメロになるだろう。それにこいつ、爆発好きだしな。
そうと決まれば綿密に計画を立てよう。さっさと着替えを済ませ、類達に別れを告げたオレは、脇目も振らず風の様に自宅へ帰った。
――その翌日。
「類! デートに行くぞ!」
「え?」
先日同様、昼を告げるチャイムと同時に隣のクラスへ飛び込むと、机に突っ伏していた類がびっくりした様子で顔を上げた。また授業を聞いていなかったな。
騒めいていたB組の教室内が一瞬静かになる。
「で、デート?」
「ハッ! その前にランチだったな。ランチに行こう!」
「ちょっと、ちょっと待って」
焦ったような声と共に二の腕を掴まれた――と思いきや、優しく放される。心なしか血色の良い類が「コホン」と咳払いをした。
「デ……そう、遊びにね、うん」
「デートに行こうと誘っているんだが」
「わかってるよ、君の言いたいことは。それで? どこか行きたいところでもあるのかい?」
「ふふふ……植物園だ!!」
「植物園?」
きょとん、と不思議そうな顔をする類。こうすると大人びた顔つきが一気に子供っぽく見える。ううむ……もしや外してしまっただろうか。
「お前、花とか好きじゃなかったか?」
「好きだけど……」
「よかった! せっかくなら類の喜ぶ場所に行きたかったんだ!」
「う゛」
「詳しい日時はランチを食べながら話そうじゃないか! ……類? るーい?」
右胸を押さえたまま硬直してしまった類をツンツンつつく。このままだとランチの時間が無くなってしまうんだが……と思っていると、ようやく類が顔を上げた。「わかってる、わかってるよ……」と呟きながら。この短時間で衝撃的な大発見でもあっただろうか。
「何を発見したのかはわからないが、デートに行くのは問題無いんだよな?」
「……もちろんだよ」
「ならばよし! さあ、優雅なランチタイムと洒落こもうじゃないか」
ハッハッハ、と笑い声を上げながら弁当箱を掲げる。デートの約束さえ取り付けてしまえば、最早こっちのものだろう。気の無い人間とデートするような不誠実な男じゃないからな、類は。あとは当日に備え、最強の天馬司をコーディネートせねばなるまい。絶対に告白を成功させてやるぞ!
浮かれ気分で教室を出る際、「神代くん頑張れ!」だの「勝機はあるぞ!」だの賑やかな声援が背後から聞こえてきた。何の意味かはわからないが……類もクラスに馴染んでいるようだ。二重に嬉しくなって、思わず鼻歌が漏れてしまった。