コラム・寄稿

壮大な1年の目標、達成するには 細かいステップに「報酬」を置こう

臨床心理士・中島美鈴
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 今年も残り数日ですね。私はここ5年ほど、年始に「年間計画を立てる会」というオンラインイベントを実施しています。1年分の目標を書いて、計画を立てるというものです。

 そこで多く挙げられる目標は、ダイエット、運動、資格試験の合格、英会話です。

 そして掲げた方々は、口々にこう言います。「やせたいけど、食事に気をつけるのは嫌」「マッチョになりたいけど、トレーニングは嫌」「資格をとりたいけど、勉強するのは嫌」「英語がペラペラになりたいけど、勉強するのは嫌」

 わかります。わかります!

 大人が掲げる目標の多くは、「そのゴールは欲しいけど、プロセスは長く苦しいもの」が多いのです。だからこそ、先延ばししがちですし、挫折しがちなのです。今回は、プロセスが苦しい目標をどうしたら達成できるかを考えてみましょう。

 この「プロセスの長く苦しいところ」がみんな嫌いなのです。みんながこのプロセスを嫌う理由は、脳の仕組みを知ることで理解できます。

長く苦しいプロセスが嫌い

 脳は、努力によって「報酬が得られる可能性が高まった」と判断したり、実際に報酬を得たりすると、脳の伝達物質であるドーパミンが放出される報酬系が活動し、達成感や喜び、動機づけが高まります。また、人間には「報酬遅延勾配」と呼ばれる性質があり、報酬までの時間が長くなるほど、価値を低く見積もる傾向があります。

 そのため、報酬がすぐに得られない課題では、脳の報酬系が十分に活性化しにくく、やる気や集中力の維持が難しくなることがあります。

 こうしてみてくると、冒頭に挙げた目標はみな、報酬が遅延するものばかりだと思いませんか? サラダを食べただけでその日のうちにスリムになれるわけでもなく、英語の勉強をこんなにしてきたのに全く話せないからです。社会的に価値のあるものは、到達しにくいもので、希少価値が高いものなのでしょう。

 では、私たちは報酬が遅延する課題にいかに取り組むべきなのでしょうか。

細かいステップに刻む、ちょっとしたコツ

 原則は「報酬を遅延させなければいい」のです。壮大なゴールを細かいステップに刻み、そのステップごとに報酬を配置します。ちょっと努力して、すぐになんらかの報酬が得られるという仕組みを繰り返します。

 課題をどのようにして細かくするかについては、ちょっとコツが必要ですね。「個数で」「時間で」「場所で」区切ってみましょう。

 食事法の改善なら、「食事の時に30回かむ」とか、「食事に15分はかける」「食べるのはダイニングテーブルにいるときだけ」というかんじです。英会話の勉強なら、「1日5単語覚える」や「英語アプリを5分間」「ひとまず中学3年までの単語だけ」といった具合です。

 そして達成したら、そのすぐ後にコーヒーや見たかった映画、香りのいいアイマスク、親しい人への連絡などの「報酬」にありつけるようにするのです。

取り組み支えるアプリやゲームも

 このように自力で計画をしてもいいですが、既にこの仕組みを使ったサービスを多く見つけたので、ご紹介します。

 ①語学アプリ

・課題は1~3分で終了し、正解すると音や光、経験値の即時フィードバック

・連続して学習した日数(ストリーク)を表示して、報酬を「見える化

→語学という長期プロジェクトを、一瞬の達成の連続に変換している

 ②ゲームで運動

・1セットが短く、達成がすぐに表示

アバターの成長、レベルアップなど「視覚的報酬」

・ゲーミフィケーション(ゲームの要素をゲーム以外の分野に応用)が「超短期報酬」を提供

→運動という最も遅延の大きい課題が続きやすくなる

 ③家事の分割とリアルタイムのモニタリングサービス

・掃除という大きな塊ではなく、「床のものを10個拾う」などスモールステップに分割

→終わったらすぐ相手に報告(即時承認=報酬)できる構造で、始めやすい

 ④読書アプリの「●●パーセント達成」

・ページをめくるごとに進捗(しんちょく)バーが動き、読み終わるとバッジが付く設計

→達成の視覚化で、ドーパミンが出やすいと言われる

 ⑤予備校の「1動画5分構造」

・5分で「完了」が得られるように設計

→動画を見終わるたびに、小さな達成が学習の持続に向いた報酬構造

 ⑥パーソナルトレーニング

・トレーナーが個別でメニューを組んでくれて、逃げられない構造

→努力すればすぐに確実に、トレーナーに褒めてもらえる

 こうしてみると、勉強系や運動系はサービスが充実していますね。

人生の価値を思い出して、気持ち新たに

 しかし、長い1年をひとつの方法だけで続けられる人は一握り。飽きます。私はこういうときにお勧めするのが、「人生の価値」への気づきです。

 あなたはこの人生で何を大切に生きていきたいですか? 明日地球が終わるとしたら、何をしたいですか? あなたは何のために、何をするために生まれてきたのでしょう。

 壮大な話になっていますが、私たちは、自分の目標がこの「価値」につながっていることを忘れがちなのです。なので、それを見失いがちになるたびに「そうだ。私がダイエットに取り組むのは、人生で大切にしている『美』という価値をかなえるためなんだ」とか「確かに英語の勉強は苦しいけれど、私はいつかイギリスのあの番組に出演して、日本のお笑いを世界に届けるんじゃないか」などと原点を見つめ直してみましょう。

 この北極星のような価値を時々思い出すことで、気持ちを新たにできるといいですね。

    ◇

 今回のコラムでご紹介した年間計画の立て方についてもっとお知りになりたい方は、「ディズニープリンセス 夢を叶(かな)える時間術」(中島美鈴著、講談社)もどうぞ。

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臨床心理士・中島美鈴〉

 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

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