知らない間にデモに版権グッズを持っていくフェーズに入っていた話

デモの現場に、政治とは全く関係のない版権グッズやアイドルのペンライトを持ち込む人々を観察していると、彼らがこぞって使いがちな魔法の言葉があることに気がついた。

「もうそんなフェーズじゃない」
「まだそんなこと言ってるの?」

この二つだ。

私は、この「フェーズ」という言葉の響きにひどく困惑した。フェーズ。段階。局面。
「まだ」と言われるからには、私が知らないうちに、公式側で何か重大な地殻変動でも起こったのだろうか。
例えば私の推している筋骨隆々とした男たちが宝を奪い合う漫画や、歴史を守護するために戦う男達のゲームなどのガイドラインが昨今の情勢を受けて密かに更新されたのではないか。
「手に手を取り合い、高市をぶっ飛ばしましょう!」という文言が、規約の第一条に力強く書き加えられたのではないか。

もしそうなら、規約を読み落としている私の方が圧倒的に悪い。
公式の意向を無視して呑気にエロ本を描いている不届き者は私だ。
そう思い、私は神妙な面持ちで各公式ページへと飛んだ。最新のガイドラインを隅から隅まで、穴が開くほど読み込んだ。

規約は1ミリも変わっていなかった。

ミステリーの幕開けである。
実写映画なら、ここで不穏で重厚なBGMが流れ出し画面中央にどんよりとしたフォントでタイトルロゴが浮かび上がるオープニングシーンだ。
公式のルールは何一つ変わっていない。
推したちも相変わらず山で殴り合っているし、戦場に赴いては歴史を守っている。
ならば、彼らの言う「フェーズ」とは、一体どこの宇宙の、どの次元の話なのだろうか。私は深く考え込んだ。

そしてひとつの結論に至った。

彼らが言う「フェーズ」とは現実の社会情勢でも公式の規約の段階でもない。
彼ら自身の脳内の『お気持ちゲージ』が限界突破したという、極めて個人的で内輪向けのフェーズのことなのだ。

いや、怖すぎるだろ。
自分の中で不安や義憤が閾値を超え、緊急事態モードに入ったからといって、なぜ無関係な版権ジャンルや実在するアイドルファンクラブのルールまでが、自分と同じ非常時モードに移行した前提で話を進められるんだ。
それはまるで自分が失恋して泣いているからといって「もう笑ってご飯を食べているフェーズじゃない!!!!!!!」と隣のテーブルで平和にハンバーグを食べている人間の皿をひっくり返すような横暴さだ。

彼らはよくこう言う。
「一個人の趣味と政治思想を同一視するな! そんなのは幼稚だ!」と。
けれど、政治という極めて現実的で重い問題を語るために、わざわざ無関係な推しのぬいやペンライトというファンタジーの小道具を盾にして行進する。
その振る舞いこそ、客観的に見て「普通に幼稚」なので賛同者は思うように増えないのだ。

自分の言葉だけで語る勇気がないから、公式のキャラクターが持つ人気や清廉なイメージを勝手に拝借して、自分の主張の彩りに使う。
もし、彼らの言うどこかのフェーズに行けば、この公式に泥を塗りかねないリスクが霧散して消えるのだとしたら、それは政治でもなんでもない。
ただの無敵になれる魔法だ。
そしてそんな魔法は、この現実世界のどこにも存在しない。

彼らが勝手に世界崩壊級のシリアス展開に酔いしれ、推しを政治の道具として消費するフェーズに移行したのだとしても、私はお断りだ。
公式の規約が変わらない限り、私のフェーズも変わらない。
私は明日も、昨日と同じように公式ガイドラインを遵守し、筋骨隆々な男たちの肉体の躍動に想いを馳せ、彼らが攻めの前でどんな表情を浮かべるのか、脳のヤバい部分をフル回転させて考え続ける。

「もうそんなフェーズじゃない」?
いいや、私にとっては、私の愛する世界を、誰かの政治闘争のダシにさせないという、この当たり前の矜持を守ることこそが、いついかなる時も変わることのない、最優先のフェーズなのだ。


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