【私の思い出の番組】合成・CG編:小池葉子さん(NHKアート デジタルデザインセンター)
20年余りで飛躍的に進歩
CGデジタル技術の歩みを振り返る
1980年代に登場し、システムの進歩とともに急成長したCGデジタル技術。いまやテレビ番組制作における重要なツールとなった技術の数々はNHKではどのように取り入れられ、進化してきたのか。その変遷をひもとく。
スタートはグラフや図形
いまやテレビ番組、映画などですっかりおなじみとなった3DCGの技術。その進化は目覚ましく映像はもはや実写との区別が難しいレベルにまで達している。しかし、CG技術が登場したばかりの1980年代当時は技術が未発達なだけでなく、ツールも乏しく、ノウハウも存在しなかった。しかも、機材は1台で数千万円もする上に規格が定まっておらず、新しい方式が生み出されては消えていくといった状態。技術者たちはこうした動きに翻弄されていた。
そんなCGデジタル技術の黎明期にNHK美術センター(現在のNHKアート)に入社した小池葉子さんは当時をこう振り返る。「大学でCGを学んでいたので、在学中から報道番組などのCG制作を手伝っていました。作っていたのは選挙のグラフなどの単純なグラフィックでしたが、当時は線を伸ばすにも色をつけるにもプログラムが必要だったんですよ」。
特殊撮影や※オプチカル合成などを駆使した番組制作が行われていた時代に登場したCGデジタル技術。ポテンシャルは未知数であり、本格実用に至るまでにはさまざまな試行錯誤と転換期を経る必要があった。
※元は映画の合成技術で、複数のフィルムを光学的に合成する方法
誰も見たことがない世界を表現
エポックメイキングとなったのは新しい表現を模索するべく制作されたNHK特集『21世紀は警告する』(1984年放送)。吉成真由美氏によるCGキャラクター「ホロン博士」によるMCを導入するなど、技術主導ながら番組づくりのフレームを変えていった。
こうした動きを経て1987年に制作を開始したのがNHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』。小池さんも制作スタッフとして携わった同番組では、国内外の最先端の技術者が参加し、外部プロダクションとの連携が試みられ、制作チームには現在日本のCG界を支えている人物が顔をそろえていた。
約2年をかけて制作された『驚異の小宇宙 人体』。3DCGによる表現を番組の主軸とし、これまで誰も見たことがなかった人体内部の世界を視覚化。数々の賞を受賞するとともに大きな反響を呼んだ。
制作スタイルの確立
『驚異の小宇宙 人体』を機にNHKエンタープライズにCG制作の部署が誕生。小池さんもそれまで携わっていた2DCG制作に加え、アートディレクションを担当するようになった。しかし当時はワークフローがなく、目指す映像をどのように実現するか手探りの状態。さらにイメージするシーンを仕上げるための制作期間すら予想することが困難だった。「監督とロケ地候補の下見から回ったこともあります。CGを使う方法が必ずしもベストだとは限りませんから、監督のイメージを聞いて、現場を見て、一番いいやり方を構築していく。今はプレビズといって仕上がりイメージを見せながら打ち合せができますが、当時はそういうものがなかったので、スケッチなどで見せ方の提案をしていました」。
1992年にはNHKスペシャル『生命 40億年はるかな旅』を制作。フルCGから発展し、実写とCG映像の合成が試みられた。「構成表のなかで“ここのシーンは皆で作りましょう”というものがあり、それに対して各分野がどんなアプローチをしていくのかを話し合うんです。でも、CG、デザイン、オプチカル合成など、分野ごとに違った専門用語があるので、意思疎通が大変。ぶつかることも少なくありませんでした。ただ、そうやって異業種の専門知識に触れることは新鮮でしたし、うまく技術を融合させて目指す映像を作り上げる作業は刺激的でもあったんです」。
こうした経験のなかで、現在のCG制作スタイルの基礎が確立された。また、OSの普及によるCGシステムの標準化によって一気に裾野が広がり、CGデジタルによる番組制作もメジャー化。制作手法が増え目的に応じたツールを選択できるようになった。
ドラマのCG
1990年代前半にはポピュラーな存在となっていたCGデジタル技術。しかし、NHKドラマで本格的にこの技術が生かされるようになったのは1997年放送の大河ドラマ『毛利元就』からだった。「科学番組では見たことのないものをCGで表現することが目的でした。でもドラマには世界観があるので違和感を抱かせないような形で効果的にCGを組み込まなくてはいけない。作り物に見えてしまっては興ざめですから、かなりのクオリティが求められました」。古くから完成された撮影のノウハウがあり、新しいCGデジタル技術をどのように取り入れていくのか、当初はとまどいもあったようだ。「いま見ると古く感じてしまいますが、当時としては群衆シミュレーションプログラムをはじめ、さまざまな画期的な試みをしたと思います。いまは全てが洗練され、大河ドラマをはじめスペシャルドラマ『坂の上の雲』などでも大がかりなCG映像が話題になるなど、欠くことの出来ない表現方法となっていますが、振り返ると約20年でここまで進歩を遂げたことに驚きますね。当時はこんな風になることを想像もしていませんでしたから」。
大河ドラマ『毛利元就』
ドラマに登場したCGの山城。左が広域の俯瞰図。ズームアップすると右のような画になる
CGが挑む新しい表現法
近年では東日本大震災を扱った番組で新たな試みをした。「NHKスペシャル『“いのちの記録”を未来へ~震災ビッグデータ~』という番組のなかで、被災地の方々や自治体、民間企業など、さまざまな人たちによって記録された震災時のデータを映像化し、震災時に人がどう動くかをお伝えしました。またNHKスペシャル『釜石の“奇跡”いのちを守る特別授業』ではアニメーションとのコラボを実現。アニメでないと表現できない世界と、CGでしか説明のできないデータをあわせ、見る人に訴えかけることのできる映像を目指しました。個人レベルでは得ることが難しいデータを視覚化することで、より多くの方々に貴重な情報をお伝えする。これからの放送局はこうした役割を担っていくことも重要だと思っています。今後もテレビに何ができるのか、チャレンジする機会がたくさんあると思います」。CGデジタルの分野は現在も進化中。番組ごとに的確な表現方法を模索しながらチャレンジを続けていく。
震災当時の推計人口分布をCG映像で表現
NHKスペシャル『釜石の“奇跡”いのちを守る特別授業』
地震によって引き起こされた津波をCGで再現NHKスペシャル『釜石の“奇跡”いのちを守る特別授業』
震災当日の様子をアニメーションで再現