230円で買った格ゲーに「常識」をへし折られ、無法技に適応した先で格闘ゲームの真髄に出会うまでの話。
「完全に理解(わか)った」という驕り
白状すると、私は最近まで格闘ゲームの「対人戦」から逃げ続けていた人間だった。 基本的にはCPU戦やトレーニングモードをいじって満足し、あとは大会の配信を見てコメント欄で盛り上がるだけ。いわゆる「動画勢」「カジュアル勢」という安全圏に居座っていたのだ。
そんな私を対人戦の沼へと引きずり込んだのが、『DNF DUEL』という作品だった。元々、原作であるネットゲーム『アラド戦記』が好きだった私は「懐かしいな~」ぐらいの軽い気持ちで手を出した。
気づけば私は、時間を忘れてこのゲームに没頭していた。ただプレイするだけに留まらず、大会に出場し、あろうことか交流用のDiscordサーバーを立ち上げ、イベントを主催するまでに至っていたのである。(この辺りの狂気的なハマり方については、また別の機会に語らせてほしい)
コミュニティに揉まれながら熱中するうち、私は格闘ゲーム特有の「共通言語」と「セオリー」を次々とインストールしていった。
「仕込み」「ファジー」「〇〇グラップ」「詐欺飛び(安全飛び)」——。
初心者には呪文にしか聞こえないこれらのテクニックを覚え始めたとき、私はある重大な事実に気がついた。
「あれ? これ、他の格闘ゲームにも応用できるぞ?」
格闘ゲームというジャンル自体の解像度が上がったことで、他の著名なタイトル(『GGST』や『GBVSR』など)を触っても、比較的すぐに一定の水準まで到達し、対人戦を楽しめるようになっていたのだ。
「完全に理解(わか)った。もう私に適応できない格闘ゲームなど存在しない」
数タイトル触って勝手が分かっただけで、世界のすべてを知った気になっていた、典型的な「調子に乗っている中級者」だった。
そして私は、ついに出会ってしまった。 私のこれまでの常識とセオリーをすべて過去のものにする、あの『ファントムブレイカー』という魔境に……。
230円の悪夢との出会い
知人から「これ、やってみない?」と一本のゲームを勧められた。 その名は『Phantom Breaker: Omnia(ファントムブレイカーオムニア)』。
……聞いたことがない。
格闘ゲームを嗜む者として、平成から続く大体のタイトルは把握しているつもりだった。だが、この名前は私の検索網に一度も引っかかってこなかった。いわゆるマイナーゲームの類なのか。 軽い気持ちで調べてみると、元はXboxの家庭用からスタートしたシリーズの第3作目で、最新作である本作は2022年発売とのこと。……いや、めちゃくちゃ最近じゃないか!
極めつけは、ストアの価格を見て腰を抜かした。 セール中だと、なんと230円。
ここで脳裏に不安がよぎる。「聞いたこともないタイトル」「あまりに安すぎる価格」。 しかし、私たちゲーマーには不文律がある。「価格でゲームの価値は測れない」。230円という金額は、晩酌のつまみ一袋分に過ぎない。失敗しても痛くも痒くもないのだ。
私は勢いそのままに購入し起動してみた。
キャラクター選択画面に並ぶのは、個性豊かな面々。どれも魅力的なビジュアルだが、見たところ「格闘ゲームとして成立している」雰囲気を感じる。
「まあ、見た感じは普通だし、操作感も近年の格ゲーと大差ないだろう。とりあえず一人選んでみるか」と、私は見た目で気に入った『神崎刻夜』というキャラクターを選択した。
トレーニングモードに潜り、基本的なシステムを数分触る。ダッシュがあり、ジャンプがあり、必殺技はコマンド不要でレバー入れのみ(所謂モダン)。格ゲーとしての基本構造はしっかりしているようだ。30分もあれば、基本的なコンボも覚えた。
「なるほど、これならいける」
私は確信していた。少なくとも、普段遊んでいる格闘ゲームのセオリーがそのまま通用する。230円の格安ゲーム相手に、これ以上の練習は必要ないだろう。 私は自信満々に、このゲームを勧めてきた友人(ファントムブレイカー歴3か月)にDiscordで声をかけた。
「おーい、準備できたぞ。対戦しようぜ」
これが、私の格闘ゲーム人生において「格ゲーの常識」という鎧をすべて剥ぎ取られ、泥沼に叩き込まれる始まりだったとは、この時の私は露ほども知らなかったのだ。
破壊される常識——「格ゲーの文法」が通じない世界
試合開始のゴングが鳴った。……しかし、そこから私の頭の中は「?」で埋め尽くされることになる。
いつものように相手の起き上がりに技を重ね、有利な状況を作ったはずだった。 ところが、相手はそれをガードするでもなく、無造作にハイジャンプで空中に逃げていく。
「は? 今の技、どう見ても当たってなかったか?」
思わずそう口に出すと、友人はこともなげに言い放った。
「あ、このゲーム、ハイジャンプに無敵があるよ」
……ハ、ハイジャンプに、無敵? 私は言葉を失った。確認のため自分も真似してみると、確かに相手の技をすり抜けて、空へと舞い上がっていく刻夜。この瞬間、私の知っている「地上の読み合い」という格闘ゲームの根幹が崩壊した。
地上戦が封じられ、画面は空中戦の様相を呈し始める。それはまるで『メルティブラッド』のような高速の空中戦と、『スマブラ』のような自由度の高い乱戦が融合したような光景だった。
まだ終わらない。 なんとか相手を捕まえて、通常技でガードを固めさせている時、さらなる悪夢が襲う。 画面の向こうのガード状態の相手キャラから「ディソード!」という叫び声と共に、所謂昇竜拳が飛んできた。
「あ、このゲーム、(オムニアスタイルだと)ガードキャンセル必殺技がノーゲージで出せるんだよね」※スタイルは3つ選べる
……リソースも使わずに、ガードキャンセル必殺技だと? 「ガードしている相手を固めてはいけない」なんて、格ゲーにおいて全否定されるべき戦法だ。それをノーリスクで、しかも毎試合のように押し付けられる。
私の格闘ゲーム人生で積み上げてきた「有利フレーム」「固め」「起き攻め」といったすべての知識が、まるで無意味な呪文のように空中に消えていく。プレイすればするほど、ストレスという名の泥沼に足を取られていく感覚。
極めつけは、相手キャラの超必殺技だった。 とんでもない速度で画面を横切り、空中ガード不能で突進してくる。
「おい! お前のキャラ強すぎるだろ! 何なんだよこれ!」
そう文句を言う私に対し、友人は神妙な顔でアドバイスをくれた。
「そいつの超必殺技なら 0F発生保証・空ガ不可・追撃可能だから、それで落とせるよ」
こうして、私は対戦相手というよりも「ファントムブレイカー」という存在そのものに完膚なきまでに翻弄され、初日のセッションは終了した。 ……だが、終わった直後、私の心にあったのは、「悔しさ」や「拒絶」だけではなかった。
「一体、どうやればこの理不尽なシステムを攻略できるのか?」という、格ゲーマーとしての業(ごう)にも似た、歪んだ好奇心が胸の奥で燻り始めていたのである。
ヒマラヤの奥地で真理を知る
勝つ。絶対に勝つ。
勝つ為にはまずは情報収集だ、ネット上の情報を探してはみたが、現実は甘くない。名前も知らなかったこのゲーム、検索しても情報が驚くほど落ちていないのだ。いわゆる「秘境」である。 対する友人は3ヶ月先に始めたというアドバンテージ。さらにこのゲームの古参勢から知識を注入されている。私と彼の間には、情報量と経験値という名の、埋めようのない深い溝があった。
生半可な攻略など、彼の前では紙屑同然だ。どうすればいい……?
そこで私は、禁断の扉を叩くことにした。現存している唯一のファントムブレイカーの先人達が集うとされる「コミュニティサーバー」への突入である。 もはや恥も外聞もない。格闘ゲームにおいて「負けたまま降りる」という選択肢など存在しないのだ。
まるで悪と立ち向かう力を手に入れるため、ヒマラヤの奥地で数千年の歴史を持つ影の同盟の扉を叩くバットマンのような心境だった。
恐る恐る足を踏み入れると、住人たちは驚くほどフレンドリーで、私の拙い質問にも丁寧に答えてくれた。 「村ゲー」あるあるなのだが、新規勢に対して住民はとても親切なのだ。 (美味しくなってから収穫される運命かもしれないが)
そこで彼らが授けてくれた新しい「二つの聖典」が、私のファントムブレイカー観を大きく変えることになった。
「避け(スリップシフト)」を使いこなせ
「投げ」の読み合いを回せ
「避け」行動は投げ以外の攻撃をすべて無効化し、かつ隙がない強力な防御システム。あんなに理干尽だった判定や発生の技も、これで無力化できる。 そして「投げ」は上記の避けに対する明確な回答。 更にこのゲームの投げは補正が緩く、最大ダメージの始動技になる。
つまり、こういうことだ。
相手の攻撃を「避け」でいなす。
「避け」をしようとしている相手を「投げ」る。
「投げ」ようと近付いてくる相手を「置き技」や「ハイジャンプ攻撃」で潰す。
ん……? これは……読み合い……?
その瞬間、頭の中に電撃が走った。 ……そうか、これこそが、ファントムブレイカーの「答え」だったのか…。
私が今まで培ってきた読み合いは、どこか遠くの格ゲーにあると思っていた。でも違った。桜木町のホームを探しても見つからなかったあの熱い読み合いは、理不尽で、230円の「ファントムブレイカー」の中にも存在していたのだった。
霧が晴れるような感覚だった。 私はすぐさまトレーニングモードを起動した。深夜2時。画面の向こう側の友人をボコボコにする自分を妄想しながら、私は一心不乱に230円で購入したゲームの練習に打ち込んだ。
どの技を避ければ有利になるのか。 どこで投げを狙えばいいのか。 ハイジャンプを読んだ時、どう動くべきか。
脳が「ファントムブレイカー」というものを理解(わか)ってきたのだ。 勝てる。今なら、あの理不尽な友人に、私もこのゲームの本当の「読み合い」を叩き込める。
私は友人に再戦を申し込み、リターンマッチに臨んだ。
純然たる格闘ゲーム
始まったリターンマッチ。先人たちから教わった知識を、一つずつ丁寧に試していく。
もちろん最初から上手くいくはずもない。それでも、試合を重ねるごとにこのゲームと自分の読み合いが確かに噛み合っていく感覚があった。
相手の理不尽な技は避けでいなし、投げの読み合いで揺さぶりをかける。そして我慢しきれずに飛んだ相手に対して、こちらの空中ガード不能攻撃を叩き込む。
全てが噛み合ったその瞬間、「これだ」という確かなセオリーが自分の中で完成した。
そのまま初めて1セットをもぎ取ると、自分の上達ぶりに友人も驚きを隠せない様子だった。トータルではもちろん大きく負け越してはいたものの、勝ちを拾えたことは大きな収穫であり、非常に満足のいく内容だった。
そして対戦を通して、はっきりと分かってきたことがある。
最初はどう見ても「格闘ゲームじゃない何か」に感じたこのファントムブレイカー。でも、システムを理解してセオリーとメタを駆使していくと——
その先に確かにあったのだ。
純然たる格ゲーの読み合いが。 熱さが。 駆け引きが。
傍から見たら完全に「クソ〇〇列伝」案件の技が飛び交う画面の中に、ちゃんと成立したゲーム性が息をしていた。
強力な防御システムのお陰で、どんな理不尽技もちゃんと対策すれば「いなせる」。だからこそ各キャラはリミッターを1つや2つ外したぶっ飛んだ技を堂々と持っていて、それを動かす快感がある。
そして気づいた。
「このゲーム、めちゃくちゃ面白い」
気づけば私は、230円で買った聞いたこともないこのゲームに、完全に心を奪われていた。
今では毎日のようにこのゲームを対戦している、古参勢の方にも揉んで貰っていて、たまに勝てるとそれはもう嬉しい
ここまで読んでくれたあなたへ。
もし少しでも気になったなら、ぜひ購入してみてほしい。不安に思う必要はない、230円だぞ?
トレモを眺めているだけでも、もう十分元は取れる。
知人と酒を飲みながら浅パチャ対戦するだけでも、コマンド要らずで派手な技の応酬で間違いなく盛り上がれるはずだ。
ちなみに、今回紹介しきれなかった魅力もまだ山ほどある。
そして、最終パッチで追加された謎の「スパイシーモード」。 コンボを決めるたびにシステムボイスが「Spicy~!! ya-ya-ya~!! ボンバイェ-!!」と、正気を疑うようなハイテンションで耳元を叫び散らしてくる狂気の仕様だ。
格闘ゲームが好きなら、この『ファントムブレイカー』という劇薬に一度触れてみてほしい。
きっと君も、他の格ゲーでは絶対に味わえない「体験」に辿り着けるはずだから。
ファントムブレイカーオムニア
7月10日までセール中!
お世話になったディスコードサーバー
ファントムブレイカーオムニア対戦&コミュニケーションサーバー(ヒマラヤの奥地とか言ってごめんなさい…)
筆者がちょくちょく遊んでる(DNF・ファンブレ等)誰でも好きな格ゲーを遊べるサーバー
オンラインゲーセンMEGAMIX


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