VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/07/18(金) 22:00:11.87 ID:l402pkcK0
誠子「よし。片付けておけよ、机の上。後、換気もしっかりとな。お前が酒臭かったら真実味に大いに欠ける」

純「こんな事でごちゃごちゃ言うようなら、何かする前に俺が轢殺してやる」

誠子「わざわざ馬持ってくんのか、まぁ、言うだけはタダだ。……睨むな睨むな、行ってくる」

去っていく背に、純はうるせぇと声を投げた。微かに誠子が笑った気配だけが残っている。ただ道は決まったのだ。

軍属としての立場があって、だけれど、咎の無い人間を殺す事はできない。

純と誠子が出した、これが答えだった。

それから誠子が言った通り。半刻して10人程兵を連れて戻ってきた。

純は先刻、上官より命じられた内容をそのままに話した。

淡々と事務的に言うだけ。城下で名の通っている町医者に謀反の疑いが有り、と。

上官からのお達しで捕縛する旨、抵抗したらその場で処断する事も厭わない事。

そして、そこからは誠子が続けて決行日を告げた。

明日の日没、集合する場所と時間だけを純と同じく事務的に淡々と述べる。

それを聞きながら、やってきた兵たちの表情を見ると、一様に強張っていた。

こんな世の中だ。彼らとて町医者の評判は聞き知っている。

これが、なんの咎の無い人間一人を謀殺する任務なのだと理解したようだった。

その中で一番若くて素直そうな、軍に配属されてまだ慣れてない感じの若造が、

意見を言うために唇を開くのが見えた。が、その前に純の後ろに立つ誠子が制する。

以上だ、明日の集合場所に遅れるな、と。

そして解散とだけ言い放って……部屋からの退去を無言で命じた。

去っていく中で、若造の表情は全く納得していなかった。

そんな表情を浮かべている兵が4、5人はいた。これならばきっと大丈夫だろう。

全ての兵が去っていってから誠子は「これでいいか?」と尋ねてきた。

純は「…これしかねぇだろう」と呟いただけだった。

157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/07/18(金) 22:04:24.62 ID:l402pkcK0
次の日の早朝。

昨日の夜と朝とでは気温の温度差があったようで、宿舎から出ると周囲は久しぶりの霧に覆われる光景があった。

全く大した機会だと思う。

早朝のため自然と出てくる欠伸を噛み殺しながら。人目に付きにくい宿舎の影に腰を降ろす。

欠伸をもう一つした所で、誠子がやってきた。

誠子「4人だな」

言われ、純は頷く。

身を隠す純の隣に誠子も腰を降ろして暫くの後。早朝の宿舎より、霧に紛れて出ていく4人の人影があった。

その中の一人は、昨日任務を告げてから一番我慢できないという顔付きをしていた若造だ。

その決意に染まった顔を見て、純はそれでいいと思った。自分が昔に忘れてしまった熱だと思う。

有り得ない事だとは分かっているが、もし王が玉座に座り庶民の意見が僅かでも届く国になっていれば

自分もあんな顔付きになれただろうか。

少しだけ羨ましいと思いながら、去っていく4人の背中を誠子と共に純は見送った。

珍しい事に、その日の霧は、昼過ぎまで晴れる事はなかった。


その日の日没に決行されるはずだった任務は空振りに終わった。

標的である町医者はもはや逃げてしまった後で、無人の家屋だけが残されていた。

怒り心頭の上官より言われ、追っ手も放ったが捕縛したという報は届いていない。

後日聞こえてきた噂によると、4人の若者に付き添われ隣国に逃げ切ったという。

158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/07/18(金) 22:11:24.84 ID:l402pkcK0
その話が城下に流れた時は庶民の中では痛快劇として話題になったが、上官の怒りは留まる事を知らなかった。

きっと奴も裏では宮中の権力のある官史より言い付かっているのだろう。

誰かが責任を取る事になる。もちろん上官が取るはずはない。そのために純に命を下したのだろうから。

ただ、純にしてみれば……この時まで本当に我慢していたのだ。

色々と、……慣れない長をやったり、柄にもなく周囲に気を使ったりしていて。

本当に我慢の限界だったのだ。

だから眼前のいかにも高そうな机を容赦なく叩くと、自分から全ての責任と取ると啖呵を切ってやった。

出鼻を挫かれた上官は目を白黒させていたが、その動揺が濃い姿に更に言ってやる。

今回の件は全て自分だけの責任で、両長副官及び部下一兵卒に至るまで責任は無いと。

そう、宮中におわす官吏殿にいってやれ、と啖呵を切ってやったのだ。


気が付くと、純は牢に繋がれる身になっていた。

ただ数日後、隣の牢に誠子が入ってきた事は素直に呆れた。

純「てめぇな…」

俺の苦労を無にしやがって…と恨み言をいってやると、もはや一蓮托生だと言い返されてしまった。

本当に自分も馬鹿だと思うが誠子も大概だと思う。

ただ苛立つ思考の中で、こうした道連れは誠子だけに留める事ができたのはきっと幸いだったのだろうなと思った。

罪状はなんだったのか。任務失敗か、それとも上官に対する反抗か、

気付かぬ内に何かの罪を被せられたのかもしれない。


牢に入れられたままに数日が過ぎた。

そんな中、食事を持ってきた牢番が教えてくれた。

牢番「あんたらいい時期に牢に入ったな」

純「牢にぶち込まれる事がいいことかよ、あんた、頭大丈夫か?なんなら代わってくれよ」

牢番「いや、そういう事じゃなくてよ。今にあんたらには恩赦が出るかもしれねぇって事だよ」

純「……恩赦?」

159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/07/18(金) 22:17:05.71 ID:l402pkcK0
何か目出度い事があって、罪が軽減される事だと思ったが。今のこの国で何か目出度い事など望めるのだろうか?

純が訝しげに牢番を見返すと、彼は言った。

牢番「とうとうこの国にも新王が立ったんだよ。それで近く恩赦が言い渡されるんじゃねぇかって話」

純「え……」

思わず返す純の言葉が掠れた。そのまま無言になってしまう。

その間にも食事を置く門番は何かを言っていたけれど耳に入っては来なかった。

ただ、静かな衝撃が心中にある。

聞き間違いではなかったのか?こんな薄暗く窓もない所に何日も置かれていたせいで幻聴でも聞いたのではないか。

だって…もはや何十年も不在だった玉座に、天命を受けた誰かが立ったのだと牢番は言う。

言葉を失った自分の代わりに隣の牢にいる誠子が声を上げる。

誠子「嘘じゃないのか?…ほら、宮中の馬鹿官吏が偽王でも持ち上げた、とか…」

純「それはねぇよ。だって、あの無愛想で有名な麒麟が選んだんだろ」

誠子「本当なのか…」

呟く誠子の声には驚きを突き抜けた感がある。純とて同じ気持ちだった。

純「…どんな」

無意識に訊いていた。

純「……主上は、この国の王はどんな人間なんだ?」

語尾に向かう程に純は顔を上げていた。だが、見上げる先の牢番はなぜか口を噤んだ。

先程まで は自慢げにぺらぺらと話していた癖に。

どうしたと言うのか。苛立ちを持って純が睨み上げると、牢番は焦ったように言った。

牢番「そ、そんなに睨むなよ!…噂通りこええなあ、あんた。俺も人伝に聞いただけだ」

牢番「俺もそこまでは知らねえんだ。……年頃の少女ではあるらしい」
 
そういい終えて去っていく牢番の背をどこか夢現の心地で見つめる。

……変わるのだろうか、この国は。

だが、しかし。現実で牢に繋がれている身で心配する事ではないな、と気付き。

純は誠子と共に苦く笑ったのだった。
  

160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/07/18(金) 22:23:12.16 ID:l402pkcK0
それから暫くして本当に恩赦が実施され、牢より出られる事になった。

と言っても軍にはもはや居場所はないだろう。

上官に逆らったようなものだし、純や誠子としても今の軍にはなんの希望も持っていなかった。

ただ、働き口を探さなければいけないだろう事は思案したが。

まぁこのご時勢だ、腕には覚えがあったからどこかの用心棒にでも付ければ御の字だと思った。

しかしながら恩赦が言い渡されて、牢より出され……あれよあれよという間に周囲の景色がどんどん変わっていく。

小汚なかった体もいつの間にか洗われそこそこの服を着せられた純と誠子はなぜか……王宮内に佇んでいた。

純「どうなってんだ??」

どこかは知らない、知るはずもない。…こんな所、場違いにも程がある。

けれど背後に立った官吏が更に先に進めと促してくる。

場違いな場所で勝手が分からないのもあるから、促されるままに見えてきた一室の中に足を踏み入れた。

王宮の中にあって、今まで目にしてきた華美さが無くなる。

想像していたよりも質素な室内を不思議に思った。

その部屋の奥に置かれた机の向こうに、入ってきた自分達を気にするでもなく黙々と作業を続ける官吏の姿がある。

考えなくても、この部屋の主だろう事は分かる。

案内してくれた官吏が深々と頭を下げた事からも、そこそこの立場にいる人なのではないだろうか。

官吏を部屋より下がらせると残された自分達を一瞥し、筆を持ち作業していた手を置く。そして徐に立ち上がった。

何か、言えばいいのだろうか。

だがどう考えてみてもここはかつて所属していた軍とは余りに勝手が違う。

礼儀作法など無いに等しい身としては、眼前の官吏にどう対応すればいいのか迷った。

塞「突然こんな所に連れて来られて戸惑っているでしょう?」

そう言いながら、柔和な笑みを官吏は浮かべる。

161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/07/18(金) 22:33:03.23 ID:l402pkcK0
聞こえた言葉にも敬語は無く、気安い態度に張っていた気が薄れていく。

そんな自分達へと楽にしていいから、と言い彼女は続けて話を聞いてくれないかと言ってきた。

穏やかな物腰。かつては軍属ではあったが、今まで牢に繋がれていた自分らに向ける態度でもないような気がした。

意味が分からず、取り合えず頷く。

それを見届けた彼女は、純達をここへと呼び寄せた理由を話し始めた。

塞「単刀直入に言えば、手を貸して欲しいの」

純「俺達が、……いえ、私達がです、か?」

塞「ええ。…それと無理に敬語は使わなくてもいいよ。私もその方が楽だから」

純「………」

純は混乱して、横に立つ誠子を伺うように見る。

彼女の心情も自分と同じようなものだろう、困惑が瞳に浮かんでいた。

けれどそんな顔を巡らせると誠子は尋ねる。

誠子「まず、なぜ…私達、なんですか?」

もっともな意見だと、官吏は頷き素直に答える。

塞「腕が立つ者が数人欲しかったの。…けれど信頼できる者でなければ駄目」

塞「腕が立っても金を積まれ裏切るのが目に見えている輩には到底任せられない。それは現役の軍人でも同じこと」

純「……」

彼女の言った事を信じるのな