【解説】「独身偽装」で2年交際…不妊治療経て妊娠も“既婚者”と発覚で460万円あまりの賠償命令 現状は“罰則なし”法整備の可能性は…
既婚者であるにもかかわらず、独身であると偽って異性と交際を続ける「独身偽装」。東京地裁は23日、妻子がいるにもかかわらず独身と偽って30代の女性と交際していた男性に対し、「女性の意思決定権(貞操権)を侵害した」などとして、460万円あまりの賠償を命じた。判決によると、男性は約2年にわたり女性と交際を続けたほか、不妊治療にまで同意し、女性は妊娠。その後、出産していた。当事者の人生に深刻な影響を与える「独身偽装」だが、現状では刑事罰もなく、被害者らの団体が法整備などを訴えている。
■「結婚すると決めている」婚姻届や不妊治療にもサイン
訴状などによると、2022年8月、まゆさん(仮名・30代)は、婚活中に知人の紹介で男性と出会った。交際前、知人経由で「結婚しているのでは」という話を聞いたため、LINEで「結婚しているの?」と聞いたところ、男性は「僕は離婚していてバツイチ」と回答した。 まゆさんは、その言葉を信じて交際。「まだ結婚していたときの家に住んでいるため」という理由で、家には呼ばれなかったものの、土日や年末年始なども頻繁に会い、まゆさんの家族と共に食事や旅行に行くなど、順調な交際を続けた。 男性は、「まゆさんと結婚すると決めている」などと度々結婚を匂わせるやりとりをしているほか、婚姻届にサインまでしている。ただ、住所欄には「東京都」までしか記入せず、「一緒に住み始めてから書く」と説明していたという。 さらに、男性は不妊治療にも同意。クリニックに提出した同意書には「事実婚関係にある」「出生した子について認知を行う」などの欄にもチェックが付いていた。まゆさんによると、体に負担のかかる顕微授精などの治療でも、男性はクリニックに同行するなど協力的で、ようやく妊娠がわかったときも2人で聞いたという。
■問い詰めると土下座…裁判所は「意思決定権を侵害」と指摘
しかし、子どもを授かっても一向に結婚の話は進まない。不審に思ったまゆさんは2024年10月、男性を自宅に呼び出し、友人を交えて問い詰めた。 友人が「全部知っているよ」と切り出すと、男性はついに観念し、「結婚していて、子どももいる。離婚もしていない」と、自分が既婚者であることを告白した。最後は玄関で土下座をしたという。 「妊娠できて嬉しかった半面、どうしていけばいいんだろうと。自分自身のショックというより、両親がすごい喜んでくれていたので、傷つけてしまうなという思いが強かった」 まゆさんはその後、無事に女の子を出産。現在はシングルマザーとして娘を育てているが、胸中は複雑だ。 「自分が大変かどうかよりも、娘が成長して他の家庭との違いに気づいたとき、悲しい思いや寂しい思いをさせないか。どう説明していけばいいのか、娘のことばかりがずっと気がかりです」 男性が既婚者であることが判明後、まゆさんと両親は男性に対し、あわせて1900万円あまりの損害賠償を求め提訴。 東京地裁は23日の判決で、まゆさんにとって「既婚者かどうかは被告と性的関係をもつかどうかの意思決定について決定的に重要な事実」だったとし、男性も十分に認識していたと指摘。性交渉を伴う交際継続だけでなく、不妊治療を行い妊娠・出産に至ったことは「女性の意思決定権(貞操権)を侵害した」と判断。 さらに、交際の経緯から2人の間に婚約が成立していたと認定。「婚姻意思はなかった」などとする男性の主張について、「身勝手な主張に終始し、婚約破棄後も誠意ある対応は全く見られない」と指摘した。その上で、「女性の精神的苦痛の大きさは計り知れない」として、男性に対して慰謝料など460万円あまりを女性に支払うよう命じた。